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1話 双子
しおりを挟むぐつぐつと沸騰する鍋の音。小鳥たちの囀り。木々を優しく撫でる風はニックとルスの部屋の小さな窓をカタカタと揺らしていた。
まるで二人の眠りを覚ましに来たみたいに―。
冬の日の朝、先に目を覚ましたのは弟のルスだった。ルスはベッドの中で部屋の寒さに渋ることもなく、素直にベッドから出ると大きく伸びをした。
隣のベッドに目をやると兄のニックはまだぐうぐうと小さなイビキをかきながら寝ている。
冬の朝の冷たい新鮮な空気がルスの肺に入ってくる。身体が芯から冷たくなるのを感じながらもルスの気分は晴れやかで気持ちがよかった。窓に視線を移すと外の森にはうっすらと白い霧がかかっていた。
兄を起こさないと。
ニックがルスより早くに目を覚ますことは稀でニックを起こすことはルスにとって、もはや日課になっていた。
「兄さん、起きて」
分厚くてふかふかした掛け布団の上からニックの体を優しく揺する。
それでも微かに「うー」と低い呻き声が聞こえるだけでニックは全く起きる気配がなかった。
「ほら、兄さん早く起きろ!」
次はさっきよりも乱暴にニックの体を何度も左右に揺する。
兄の真黒な髪が左右に乱れる姿がなんだか可笑しくてルスは笑いを堪え切れずに噴き出してしまった。
「……なあに、笑ってんだよおー」
寝ぼけ眼のニックがゆっくりと言うと、ルスの笑い声がさらに大きくなった。ニックは煩わしそうに枕に顔を押し付けベッドの中でもごもごとしている。
「ごめん、ごめん。兄さん早く起きてよ。朝ご飯の時間だよ」
「朝ご飯!」
ニックはそう叫ぶと勢いよく布団から飛び出し、ルスを置いてリビングに一目散に走っていってしまった。
「まったく、兄さんは調子いいなあ」
残されたルスは小さくため息を吐き、ゆっくりと自分たちの部屋を後にした。
「ルス!今日は学校まで競争しようぜ」
朝食を食べ終えたニックがニヤッと笑いながら言う。
「やだよ。兄さんと僕とじゃ運動神経が全然違うじゃないか。最初から負けると分かってる競争はしないよ」
「ふん。ならルスは頭を使えばいいじゃないか。俺より頭が何万倍も良いんだからさ」
「頭を使っても、かけっこは勝てないよ」
そんなニックとルスの言い争いを見て向かいに座る母のカーラが笑い声をあげる。透き通った品のある笑い声。心地よい母の笑い声だ。
「あなたたち、見た目はそっくりなのに性格は、ほんと対極的ね」
「たいきょくてき?」
ニックが首を傾げる。
「正反対だってことだよ。兄さん、もうちょっと勉強した方が良いじゃない?」
「っるさいなー。いいんだよ。俺は頭より体を使う方が好きなんだから」
「あっ、それと母さん」
「聞けよ!」と叫ぶニックの言葉をするっと聞き流し、ルスがカーラに向き直る。
「なあに?」
「対極的なのはここもだよ」
自分の頭に手を伸ばしたルスは、カーラに向かって髪を一房摘んでみせた。
「そうね。髪の色も貴方たちは対極だったわね」
ニックの頭は艶のある吸い込まれそうな黒髪。それと対極的にルスの頭は何でも弾き返してしまいそうなハリのある白髪だった。
幼い頃ルスはそれがまるで光と影のようで不思議に感じたことを思い出した。
「おーいルス、何笑ってんだよお」
にやけるルスを怪しむようにニックが睨みつける。棘のある声には親しみや優しさも含まれていてやはり家族だなとルスは思った。
そうして、さらににやけた顔が緩んでいく。
「なんだよー説明しろー」
ルスの考えていることが分からないニックは痺れを切らしてルスの髪をわしゃわしゃとかき混ぜる。
部屋には家族三人の笑い声が響き、幸せな時間が流れていく。ルスとニックは自分たちの目が少しだけ潤んでいることには気づかない。あるいは気づかない振りをした。
明日は父アランの命日だった。
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