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11話 森
しおりを挟むルスが目を見開き当惑したようになる。
「なにが?」
ニックにはルスが何を言っているのか全く分からなかった。
「左の目の色が……」
話す間にもニックの左目は元々の茶色から黄色にどんどんと変色をし続けていく。
「左目?左目がどうしたんだよ」
「色が変わってるんだよ。黄色に……違和感とかないの?痛みとか」
心配そうな顔を向けるルスと打って変わって、ニックは自分の体に変化が起こっているなんて到底信じられないと言う風に落ち着いていた。
「いや?まったく」
ニックがきょとんとした顔を向ける。
「なんもないなら、いいんだけど……」
どんどんとニックの目が変色していくのを目の当たりにして、ルスは心配でいてもたってもいられなかった。いったい兄さんの体に何が起こってしまったのだろう。不安と恐怖が体を支配していく。もしこのまま兄さんが死んでしまったらどうしよう。考えたくもない想像がいくつも浮かび上がっては必死で掻き消す。
「とにかく今は逃げるぞ。いつあいつらが追ってくるか分かんねえから」
「あいつらって俺の事か?」
突然背後から声が飛び込む。
空気が一瞬にして凍り付き、首を締めあげられたように二人の息が止まった。
体が動かず後ろを見ることさえできない。
「手間かけさせんなよ……なあ?」
男のごつごつとした手がニックとルスの肩に触れる。
触れられた瞬間、全身の毛が逆立つような感覚が襲う。体がビクンと震え抵抗することすらできない。
ルスの肩から男の手が離れたかと思うと、同時に隣にいたニックが宙に浮かび上がった。
「兄さんっ!」
男はニックの首を両手で鷲掴みにし忠に持ち上げ睨みつけている。
「やめろっ!」
男に向かってルスが掴みかかる。しかし、男は軽くあしらうように足でルスを蹴り飛ばした。
男に蹴り飛ばされたルスの体が勢いよく木に打ち付けられる。瞬間、雷が落ちたような衝撃が体を駆け巡る。
口からは唾液が飛び出し、声を出そうにも空気だけがヒュウヒュウと漏れだすだけだった。
「いっそのこと今殺してやろうか?」
首を掴む男の手に力が入る。
ニックは脱力した様子で、意識があるのかすら怪しい状態に見えた。
「…………!」
「やめろっ」と叫んだつもりなのに、空気だけが虚しく宙に飽和する。
動け、動けよ。
力の抜けた体に何度も頭の中で叫び続ける。
目が潤んで涙が幾つも頬を伝っていった。自分の弱さが憎くてたまらない。ルスは唇をきつく噛み締める。
目から涙が溢れだし、口からは血が滴り落ちた。
目の前でニックが殺されそうになるのをただ見ていることしかできない。
「くぁっ……」
ニックの口から唾液が飛び出す。
「おいおい。俺の手を汚すなよ。本当に殺してやろうか?」
「●●●●、その辺にしときなさい」
カーラが横から割り込む。
意識が虚ろなせいで男の名前が上手く聞き取れなかった。
男は何か言いたそうだったが、カーラが続ける。
「ニックを殺すのはあの処刑場でって約束でしょ。今殺すのは貴方にとってもまずいんじゃない?」
「ふんっ。お前に心配されるとはな。まあ半殺しくらいで止めといてやるよ」
男がニックをさらに高く持ち上げたかと思うと、地面に向かって叩きつけるように投げ飛ばした。
低い音が冷たい森の中に鈍く響く。
さらに男は休むことなくニックの髪をひっつかみ乱暴に体を起こした。
ニックは意識がないようで、ぐったりとしている。息すらしているのかどうか怪しい状態だ。
早く兄を助け出さないと。気持ちだけがはやり、体は全く追いついてこないのが苛立たしかった。
男はなおもニックの髪を掴み、フードの奥で白い歯を出しニヤニヤと笑っている。
「なあ、弟。よく見ておけよ。お前の兄さんが殴られる所を」
次の瞬間、男がニックの顔めがけて拳を繰り出す。
ごっと鈍い音がルスの耳を突いた。見ていられなくなってルスはきゅっと目を瞑ってしまう。
その後も、鈍い後は何度も何度も繰り返され、次第にぐちゃと水気を含んだ音に変化していく。
その度に両目から涙が零れ、感情に反して体がどんどん硬直していく。
もうやめてくれ。
殴るなら僕を殴ってくれ。
発狂してしまいそうな心は今にも粉々に割れてしまいそうだった。
「んっ、なんだっ!」
男が明らかに驚いたような声を上げる。
そんな男の声を聞いてルスは閉じていた目をぱっと見開いた。
瞬間、兄の姿を見たルスが叫ぶ。
「兄さんっ!?」
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