6 / 6
Take5【論功行賞】
しおりを挟む
些細なことではあるが、このときにカメラとマイクは作動していた。慌てて置き去りにしたことと、めぐりがうっかり操作してしまったことが重なったのである。
時折ノイズが走りながらも、無造作に動くカメラは少しずつまこやめぐりの顔を写す。雨音に紛れ、マイクがささやかな二人のつぶやきを拾う。
「めぐ、大丈夫だから……」
「う、うん……」
まこはめぐりを励ましながら、滑る足をなんとか支えてゴツゴツとした道を下りた。邪魔になるカメラやマイクを手放さないのは、それが大事なものだとわかっているからだ。
二人が出会って今日に至るまでの思い出と同じぐらい大事なもの。
最初は東京住みということでお高く止まっているのかと思えば、存外話しやすい柔和な性格である。だからまこは、めぐりが好きになった。
なにやら言葉の節々に地方特有の排他的なものを感じたものの、実は素直でストレートで隠し事が苦手な女の子である。ゆえにめぐりは、まこを好きになった。
互いに想いを伝え合わずとも、一緒にいるだけで伝わるようになる。
「ちょっと高い段差だから」
後もう少しで中腹ぐらいにたどり着いた。そこで、捻挫した状態では難しそうな岩場に差し掛かりまこはめぐりより先に下り体を預けさせようとする。先に荷物を受け取り、ほとんど倒れるように下りてくるめぐりを抱きかかえた。
しかし、カメラとマイクとめぐりの重量を支えるのは難しかったらしい。
「あッ……」
足が宙を掴んだかのように思えた瞬間、グラリと体が傾いていくのがわかった。まこは、カメラやマイクを投げ出して、受け身を取るか否かを一瞬のウチで考える。
「ッ!」
めぐりも、まこに危機が迫っていることを察して思案した。なんとか動かせる方の足だけで体勢を変えて、まこが地面にぶつからないようにするかどうか。
二人共が駄目かと思った。が、思ったよりも衝撃はやってこない。
「?」
「あ……」
めぐりとまこが首をかしげそうになって、フッと視線を上げるとそこにはむつみ達3人の姿があった。見知らぬ男性は医者か誰かだろう。
「ふぅ。無事で良かった」
「待っていろと言ったのに……」
「機材も無事のようです」
男子3人が口々に言って、状況を確認した。悪化のはめぐりの容態ぐらいで、すぐさま医者が持ってきた折りたたみ式のストレッチャーに乗せる。
「……」
そんな様子をまこは呆然と見守るも、少しばかり感極まってしまったようだ。雨が顔を濡らしていた所為か、誰にも知られなかったかもしれないが。
こうして、仙台高校映画研究部の休日は終わりを告げるのだった。
もちろんめぐりは、数日の安静を言い渡された程度で済んだことを報告しておく。
――。
――――。
『評:峰騎士L先生』
『まず、登場人物が可愛いね。さらに同性愛を取り扱ってくる勇気は素晴らしいよ。仙台愛が溢れてるっていうかね――』
『佳作』
『題:愛する仙台娘』
仙台高校の面々が作った映画に与えられた評価はそれだった。
「うん」「まぁ」「良くも悪くも」「ないかしら」「って感じね」
5人がそれぞれ、口を揃えつつ言ったセリフ。
苦労の割には見合わない気もする。が、ノイズが多かった山のシーンでは百合百合しい回想をもってつないだだけで、分相応な評価のようにも思える。
「他の批評担当が見る目がなかったのよ」
さらに憎まれ口を追加したのはまこだ。言葉とは裏腹に、安心しているのは誰の目からも明らかだろう。
あのような百合百合しい画が大勢の人にさらされるのも嫌だし、めぐりとの友情――強いてはその先の気持ちまで覗かれるのは、たまらなく恥ずかしいというもの。
「しかし、これで文化祭の分には困らないな」
「は?」
「おっと」
「ぶちょー……」
安心したところで、むつみが爆弾を投下してきた。当然、まこも驚いた。
直ぐに、この撮影が先の伏線だと気づき慌てる。しまったとばかりに、もりやとみずやが批判しつつも足を外へ向けた。
「ま、待ちなさいッ。こらぁ!」
逃げようとするむつみ達を追うまこ。それを、足を痛めて走れないめぐりが、放っていかれながらも呼び止めようとする。
「まぁまぁ。その、私は別に、良いかなって……」
「……めぐがそう言うなら」
言われて、まこはピタリと足を止めた。
振り返るまこと、ゆっくりながらも歩み寄ってくるめぐり。二人の絆は、その間の距離に関わらないようである。
どのような絆があったのかは、あえてここでは語らない。
時折ノイズが走りながらも、無造作に動くカメラは少しずつまこやめぐりの顔を写す。雨音に紛れ、マイクがささやかな二人のつぶやきを拾う。
「めぐ、大丈夫だから……」
「う、うん……」
まこはめぐりを励ましながら、滑る足をなんとか支えてゴツゴツとした道を下りた。邪魔になるカメラやマイクを手放さないのは、それが大事なものだとわかっているからだ。
二人が出会って今日に至るまでの思い出と同じぐらい大事なもの。
最初は東京住みということでお高く止まっているのかと思えば、存外話しやすい柔和な性格である。だからまこは、めぐりが好きになった。
なにやら言葉の節々に地方特有の排他的なものを感じたものの、実は素直でストレートで隠し事が苦手な女の子である。ゆえにめぐりは、まこを好きになった。
互いに想いを伝え合わずとも、一緒にいるだけで伝わるようになる。
「ちょっと高い段差だから」
後もう少しで中腹ぐらいにたどり着いた。そこで、捻挫した状態では難しそうな岩場に差し掛かりまこはめぐりより先に下り体を預けさせようとする。先に荷物を受け取り、ほとんど倒れるように下りてくるめぐりを抱きかかえた。
しかし、カメラとマイクとめぐりの重量を支えるのは難しかったらしい。
「あッ……」
足が宙を掴んだかのように思えた瞬間、グラリと体が傾いていくのがわかった。まこは、カメラやマイクを投げ出して、受け身を取るか否かを一瞬のウチで考える。
「ッ!」
めぐりも、まこに危機が迫っていることを察して思案した。なんとか動かせる方の足だけで体勢を変えて、まこが地面にぶつからないようにするかどうか。
二人共が駄目かと思った。が、思ったよりも衝撃はやってこない。
「?」
「あ……」
めぐりとまこが首をかしげそうになって、フッと視線を上げるとそこにはむつみ達3人の姿があった。見知らぬ男性は医者か誰かだろう。
「ふぅ。無事で良かった」
「待っていろと言ったのに……」
「機材も無事のようです」
男子3人が口々に言って、状況を確認した。悪化のはめぐりの容態ぐらいで、すぐさま医者が持ってきた折りたたみ式のストレッチャーに乗せる。
「……」
そんな様子をまこは呆然と見守るも、少しばかり感極まってしまったようだ。雨が顔を濡らしていた所為か、誰にも知られなかったかもしれないが。
こうして、仙台高校映画研究部の休日は終わりを告げるのだった。
もちろんめぐりは、数日の安静を言い渡された程度で済んだことを報告しておく。
――。
――――。
『評:峰騎士L先生』
『まず、登場人物が可愛いね。さらに同性愛を取り扱ってくる勇気は素晴らしいよ。仙台愛が溢れてるっていうかね――』
『佳作』
『題:愛する仙台娘』
仙台高校の面々が作った映画に与えられた評価はそれだった。
「うん」「まぁ」「良くも悪くも」「ないかしら」「って感じね」
5人がそれぞれ、口を揃えつつ言ったセリフ。
苦労の割には見合わない気もする。が、ノイズが多かった山のシーンでは百合百合しい回想をもってつないだだけで、分相応な評価のようにも思える。
「他の批評担当が見る目がなかったのよ」
さらに憎まれ口を追加したのはまこだ。言葉とは裏腹に、安心しているのは誰の目からも明らかだろう。
あのような百合百合しい画が大勢の人にさらされるのも嫌だし、めぐりとの友情――強いてはその先の気持ちまで覗かれるのは、たまらなく恥ずかしいというもの。
「しかし、これで文化祭の分には困らないな」
「は?」
「おっと」
「ぶちょー……」
安心したところで、むつみが爆弾を投下してきた。当然、まこも驚いた。
直ぐに、この撮影が先の伏線だと気づき慌てる。しまったとばかりに、もりやとみずやが批判しつつも足を外へ向けた。
「ま、待ちなさいッ。こらぁ!」
逃げようとするむつみ達を追うまこ。それを、足を痛めて走れないめぐりが、放っていかれながらも呼び止めようとする。
「まぁまぁ。その、私は別に、良いかなって……」
「……めぐがそう言うなら」
言われて、まこはピタリと足を止めた。
振り返るまこと、ゆっくりながらも歩み寄ってくるめぐり。二人の絆は、その間の距離に関わらないようである。
どのような絆があったのかは、あえてここでは語らない。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
痩せたがりの姫言(ひめごと)
エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。
姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。
だから「姫言」と書いてひめごと。
別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。
語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる