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6睡目・のジャ貴女(きじょ)カーニバル
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「効けば良いってわけじゃないからな。即効性、遅効性、防除と手順を考えないと必要な虫まで駄目にしてしまう」
「なるほど。考えなしですみません」
「シービンさんだって、あの家のことを考えてくれたんですよね。ありがとうございます」
「お礼だなんてそんなっ」
この場は何事もなく収まったが、だからってのんびりしていられるわけじゃない。
「村に行って、薬を見てきましょう」
ハァビーが提案する通り、殺虫剤で必要なものを揃えることになった。幸い、薬と取引するための素材はケェヌが採ってきてくれたみたいだからな。
「騒がしかったが、何かあったのか?」
彼は、川の主とでも呼ぶような巨大魚を抱えて持ってきて、平然と言ってのけた。大人2人分はあるが、刀が頭部の付け根に刺さっていることを除けば、まだ体をビタンビタンと振り回して抵抗してみせている。
「これか? そこの川で採ってきたが、食えるか?」
嘘だろ。こんなのがいるとこで水浴びとかしてたのかよ……。
人食い魚ではないことを祈りつつ、俺達はイブ村へと向かう準備を始めた。ケェヌが食べる分は捌いて焼き、残りの半身はサムベアさんに貰った海豆味噌で漬け込んだ。味噌漬けの魚をお土産にして薬を貰う算段である。
「美味しそうだな」
「私達の分はまた釣り上げたときにでも作りますから、今はつまみ食いはメッですよ」
「わかってらぁい。でも、治療とかを立ち寄ったときにしてるんだろ?」
「それはそうですが。別についでぐらいにやっていることですから」
俺が無茶したからか、まるで子供扱いしてくるハァビー。
彼女が“隻翼の天使”の異名を得るに至った流れは、この辺りが主流なのだろう。決してディヴメア神様とやらの代替物として祭り上げられたわけじゃない。
ただ、彼女にとって治療などというのは単なる恩返しの1つにしか過ぎないのだ。多分、サムベアさんに対するものであり、その恩人が突っぱねてくるから別のところに送っているだけのこと。俺の推測でしかないのだが。
「あの? どうかしましたか?」
「うん? あぁ、いや、なんでもないよ」
黙って考え込んでいたのが気になったらしく、ハァビーは少しためらいがちに声をかけてきた。子供扱いしたのを怒っているとでも思ったのだろう。
俺はさっさと流して、運搬三輪車を取りに行くのに外へと出ていく。
荷物とハァビーとフェイを荷台に乗せて、いつものように漕ぎ漕ぎしてイブ村へと向かうのだ。しかし、今回は後ろから押してくれる人手が四人分もあり、シジットだけでも数人を牽引できるから凄い。
もうあいつだけで良いんじゃないかな?
『ボクとサムベア先生で作った三輪ですが、どうです? 使い心地とか、おかしなところはありませんか?』
道中、シービンから意外な話を振られた。
「へぇ、そうだったのか。ありがたく使わせて貰ってる。荷が重いこともあるから変速ギアが欲しいけど、まぁそこは諦めるよ」
『へんそくギア?』
ある程度は大荷物を運べるように歯車を噛ませてはあるものの、やはり漕ぐのが大変になることは確かだ。基底世界のそれなりの自転車にならついている変速機が恋しいものの、これ以上は余計な技術革新をもたらしてしまいそうなので止めた。
しかし、手遅れらしい。
『変速……ギア。ふーむ、なるほど、なるほど』
「ほ、ほら、もう村が見えてきたから……ね?」
なんとかその場は思考を逸らすことは出来たものの、放って置くのは危ない気がした。魔法の勉強と称して、彼らを監視しなければいけないだろうか?
そんな一抹の不安を覚えつつも、俺達は村で物々交換を始めるのだった。
まぁ予想はしていたことだが、この世界の農薬って奴はやっぱり科学的なアプローチはあまりされていない。錬成魔法により劇薬を作り、散布の後は毒素を治癒魔法で浄化するという手順を踏む。当然、魔地潜虫の害は増えるし、しっかりと浄化が出来ないと薬害が出る。さらには、それなりに魔法の技量が求められるため小さな村には行き届かないことも多い。
「では、こちらの木酢液と不要になった牛乳を頂いていきますね」
ゆえに、無農薬栽培になるわけだ。
基底世界でも昔は使われていた炭作りのときに採れる酸性液や、古くなったミルクを村長さん達に交渉して頂いていく。村の人達は日本語に対する理解がないから、ハァビーがいなかったら面倒だったろうな。
「それでは、またよろしくお願いします」
お礼を言って、交渉の間も村の畑について勉強していた5人と合流すると俺達は村を出ようとした。
「終わりましたのね」
「俺達はこのまま帰るぜ」
「勉強道具とかはまた明日で良いですから」
フェイも村人達の治療を終えてこちらにやってきた。カホーはろくに勉強をしていなかった気もするけど、ほとんど何もせず学園に帰るつもりらしい。
シービンは真面目な奴だと思ってたんだけど、置き勉って学校にするはずのものだよな? あれ? だからセーフなのか?
まぁ、家に泊める準備とかはないから助かる。それと、集めた情報を考えると明日は人手が欲しくなるだろうから来てくれるのも助かる。
「明日もきっと良い勉強になるぞ。しっかり励み給え、若人達よ」
俺は彼ら激励すると、運搬三輪車に乗り込んだ。
こうして村人達に見送られる中、事件は起こるのだ。
「なるほど。考えなしですみません」
「シービンさんだって、あの家のことを考えてくれたんですよね。ありがとうございます」
「お礼だなんてそんなっ」
この場は何事もなく収まったが、だからってのんびりしていられるわけじゃない。
「村に行って、薬を見てきましょう」
ハァビーが提案する通り、殺虫剤で必要なものを揃えることになった。幸い、薬と取引するための素材はケェヌが採ってきてくれたみたいだからな。
「騒がしかったが、何かあったのか?」
彼は、川の主とでも呼ぶような巨大魚を抱えて持ってきて、平然と言ってのけた。大人2人分はあるが、刀が頭部の付け根に刺さっていることを除けば、まだ体をビタンビタンと振り回して抵抗してみせている。
「これか? そこの川で採ってきたが、食えるか?」
嘘だろ。こんなのがいるとこで水浴びとかしてたのかよ……。
人食い魚ではないことを祈りつつ、俺達はイブ村へと向かう準備を始めた。ケェヌが食べる分は捌いて焼き、残りの半身はサムベアさんに貰った海豆味噌で漬け込んだ。味噌漬けの魚をお土産にして薬を貰う算段である。
「美味しそうだな」
「私達の分はまた釣り上げたときにでも作りますから、今はつまみ食いはメッですよ」
「わかってらぁい。でも、治療とかを立ち寄ったときにしてるんだろ?」
「それはそうですが。別についでぐらいにやっていることですから」
俺が無茶したからか、まるで子供扱いしてくるハァビー。
彼女が“隻翼の天使”の異名を得るに至った流れは、この辺りが主流なのだろう。決してディヴメア神様とやらの代替物として祭り上げられたわけじゃない。
ただ、彼女にとって治療などというのは単なる恩返しの1つにしか過ぎないのだ。多分、サムベアさんに対するものであり、その恩人が突っぱねてくるから別のところに送っているだけのこと。俺の推測でしかないのだが。
「あの? どうかしましたか?」
「うん? あぁ、いや、なんでもないよ」
黙って考え込んでいたのが気になったらしく、ハァビーは少しためらいがちに声をかけてきた。子供扱いしたのを怒っているとでも思ったのだろう。
俺はさっさと流して、運搬三輪車を取りに行くのに外へと出ていく。
荷物とハァビーとフェイを荷台に乗せて、いつものように漕ぎ漕ぎしてイブ村へと向かうのだ。しかし、今回は後ろから押してくれる人手が四人分もあり、シジットだけでも数人を牽引できるから凄い。
もうあいつだけで良いんじゃないかな?
『ボクとサムベア先生で作った三輪ですが、どうです? 使い心地とか、おかしなところはありませんか?』
道中、シービンから意外な話を振られた。
「へぇ、そうだったのか。ありがたく使わせて貰ってる。荷が重いこともあるから変速ギアが欲しいけど、まぁそこは諦めるよ」
『へんそくギア?』
ある程度は大荷物を運べるように歯車を噛ませてはあるものの、やはり漕ぐのが大変になることは確かだ。基底世界のそれなりの自転車にならついている変速機が恋しいものの、これ以上は余計な技術革新をもたらしてしまいそうなので止めた。
しかし、手遅れらしい。
『変速……ギア。ふーむ、なるほど、なるほど』
「ほ、ほら、もう村が見えてきたから……ね?」
なんとかその場は思考を逸らすことは出来たものの、放って置くのは危ない気がした。魔法の勉強と称して、彼らを監視しなければいけないだろうか?
そんな一抹の不安を覚えつつも、俺達は村で物々交換を始めるのだった。
まぁ予想はしていたことだが、この世界の農薬って奴はやっぱり科学的なアプローチはあまりされていない。錬成魔法により劇薬を作り、散布の後は毒素を治癒魔法で浄化するという手順を踏む。当然、魔地潜虫の害は増えるし、しっかりと浄化が出来ないと薬害が出る。さらには、それなりに魔法の技量が求められるため小さな村には行き届かないことも多い。
「では、こちらの木酢液と不要になった牛乳を頂いていきますね」
ゆえに、無農薬栽培になるわけだ。
基底世界でも昔は使われていた炭作りのときに採れる酸性液や、古くなったミルクを村長さん達に交渉して頂いていく。村の人達は日本語に対する理解がないから、ハァビーがいなかったら面倒だったろうな。
「それでは、またよろしくお願いします」
お礼を言って、交渉の間も村の畑について勉強していた5人と合流すると俺達は村を出ようとした。
「終わりましたのね」
「俺達はこのまま帰るぜ」
「勉強道具とかはまた明日で良いですから」
フェイも村人達の治療を終えてこちらにやってきた。カホーはろくに勉強をしていなかった気もするけど、ほとんど何もせず学園に帰るつもりらしい。
シービンは真面目な奴だと思ってたんだけど、置き勉って学校にするはずのものだよな? あれ? だからセーフなのか?
まぁ、家に泊める準備とかはないから助かる。それと、集めた情報を考えると明日は人手が欲しくなるだろうから来てくれるのも助かる。
「明日もきっと良い勉強になるぞ。しっかり励み給え、若人達よ」
俺は彼ら激励すると、運搬三輪車に乗り込んだ。
こうして村人達に見送られる中、事件は起こるのだ。
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