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7睡目・ワガママで悩まさないで
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しおりを挟む聡明な彼女だが、長らく行脚をしていたためか読み書きなどの基本的な勉強をしてこなかったようだ。中途半端に独学で魔法理語を覚えている俺とは違い、親から譲られた範囲の国語しかわからないタイプ。
意気込んでからしばしやれそうなことがないだけに、彼女はしょんぼりと肩を落としてしまう。
「また今度、お勉強しましょう。では、ここは私が参ります」
代わりに名乗りを上げたのは、俺達のチームきっての才媛ハァビー。魔法のこと、勉強のことについては賢者と名乗るなら彼女こそ当てはまるというもの。
教え方が上手いので、いろいろと気になることを除けば素晴らしい勉強ができる。
「うむ、頑張るのジャ」
ファリッバは、自身を奮い立たせるためと応援の両方の意味を込めて応えた。
カリカリとペンを動かして解答している姿を見ていても仕方ないので、さっさと結果だけを出すとしよう。
「【第50問.錬成魔法における分離形状での停止を行なう理語を答えよ】は……」
正答の書いてあるものと、両選手の解答用紙を順番に眺めていった。
「Cdfatb yng he yib tdncab famelg(楔を手に分解されよ)」
村長の小さく呟く声を、俺はジッと聴いて覚えてみた。魔法理語は、ヘエヌジー語とは少し違う部分があるから、そこだけ意識すればなんとななる。
何とかなるというだけで、覚えらきれるかと言われると怪しい。
「勉強屋さんの、最後がFelgになっている。減点1で、99対100でハァビーさんの勝ちだ」
僅かな、ほんの少しのミスだった。この接戦に周囲が歓声で湧いた。これには村人チームのメガネおじさんも、負けを認めつつもハァビーの勝利を称えざるを得なかったようだ。
熱い握手が交わされた。
俺も、この首の皮1枚つながった勝ち筋に喜ぶ。
「途中は地味だったけど、良い戦いだった。一勝、ありがとう。ハァビー」
「そ、そんな。私は、私なりに全力を尽くしただけで……」
流石に頭を撫でたり肩を叩くなんていうのはセクハラなので、手を握って称賛の言葉を掛けてやった。他の皆も拍手などして褒めてくれるが、果たして彼女はどっちに顔を赤くしたのか。
「では、日も遅くなってまいりましたので、さっそく次へ」
「『色鬼』!」
おや? これも聞いたことがあるぞ。
とか思っていたら、説明を聞いて全然違うものだと知る。
「選手は、村の両端の開始地点から走り、櫓の前に置かれた旗を先に取った側の勝利です」
村長が説明していくが、もちろんのことただのビーチフラッグみたいな単純なゲームではないのはわかっていた。わかっていたさ!
「村人は、このように染色剤と筆を持たせています。選手に対して色を塗ろうとしますので、回避して旗を手に入れてください。3色以上、ないしは3ヶ所を塗られたらその時点で敗亡です」
逃げるのと目的地へ向かうのを同時に行なう辺りは、ケイドロとか呼ばれるあの遊びと似ている。なお、使われている染色剤は水で落としやすいから安心。飛沫などでの付着はノーカウントである。
足での勝負だが、俺でも何とかなるだろうか。
「ダイナ殿、ここは任せて欲しいのジャ」
俺が立候補しようとしたところ、先にファリッバが手を上げた。何度となく意気込んでいたけど、漸く彼女に合ったゲームが来たようだ。
「わかった。任せる」
「ありがとうなのジャ」
短く受け答えの後、彼女は村長の指示に従って村の端へと向かった。俺達は櫓に登らせて貰って観戦する。
集落の外側には畑のスペースがあるので、距離は結構なものになる。だいたい500メートルってところか。ところどころに立っている染色鬼役の村人を回避すると考えるなら、もう少し長い距離を走ることになる。
「それでは、一斉に開始!」
櫓の上で大きな旗が揚げられ、合図を受けてた両選手が走り出した。
村人チームの一番若そうな男性は、普通に畦を使って鬼を回避しながら櫓に向かってくる。
ファリッバはなっ……!?
こっちは普通に全力全開で大きな畦道を進行していた。その先には2人の鬼が見張っていて、更に家屋の影に2名が身を潜めて待ち受けている。
「……!」
ハァビーも驚きを顔に出すが、周囲の状況を選手に教えたりするのは反則だから黙っている。
なおもファリッバは先発の村人達へと近づいて行って、誰が見ても進路を変えようとしていないのがわかる。ペンキ塗りの刷毛を振りかぶる村人達に肉迫した彼女は、十本の指に息を吹きかけたかと思えばバンザイするように腕を広げた。
すると何かが村人の赤い刷毛を受け止め、ビョォンッと弾き返したのだ。
仰け反った村人の横を、体を捌いてすり抜けると続けて片腕を振るう。
次の村人が振り下ろした緑の刷毛は突如として方向を変え、前につんのめった男性を馬跳びに超える。
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【作者より、感謝を込めて】
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