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7睡目・ワガママで悩まさないで

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「まさか、鋼糸こうし?」

 何事かと観察していれば、走るファリッバの周囲を青白い光がキラキラ反射しているのが見えた。青鋼の糸を巧みに使って待ち伏せの村人も索敵し、両腕を拘束した上で彼女は難なくウィニングランを決める。

 息こそ上がっているものの悠々と旗を手に取って、飛び跳ねながらこちらへ手を振っている。

「はぁ、はぁ……どんなもんな、のジャ!」

「いやー、単なる紐代わりかと思ってたけど、こんな特技まで持ってたんだな。良くやってくれた」

 俺もハシゴを降りて行くと、感心と労いの言葉を掛けた。

「ふぅ~。なんてことのない技なのジャよッ」

 とか言いつつも鼻を鳴らして、柔らかそうな胸部の出っ張りを張ってみせるファリッバ。

 確かに、多少の戦闘技術がないと蚕達を守れないもんな。しかし、ゆえに小さな疑問が湧き上がる。

「ファリッバなら、あの最強五人組に勝てるかもな」

 俺は冗談めかして言ってみるが、ファリッバの反応はまさに「冗談じゃない」とばかりに首を横に振る。

「最初、ケェヌさんとシジットさんがこちらに殺気を向けてくるから、警戒はしていたのジャ。しかしの、なんど頭の中で予想を立てても、あの2人の初手を防御する見込みが立たんかったのジャ」

 つい先程まで巧みな戦闘技術を見せていた彼女が、神妙な表情で言うほどのことだ。事実なのだろうし、それだけあの2人は別格なのだろうと思う。

「そこまでか……。他の3人はどうなんだ? カホーあたりとは分が悪いとしても、シービンやフェイなら」

 直接の戦闘能力がない錬成術士と聖女ならば、ファリッバやハァビーでも勝ち目があるんじゃないかと考えた。もちろん、単純に実力を測る上での参考に訊いてい見ただけさ。

 しかし、ファリッバからは意外な返事が出てくる。

「五分か少しだけ我の方が有利、といったところジャな」

「えっ、それホントか?」

「本当なのジャ。自衛ぐらいはできる実力はあるのジャ」

 そう言われて、フェイが1人で挨拶のために村へきたのを思い出し、道理でと納得した。

 この世界の治安は、基底世界の中南米より少し悪いってぐらいだ。聖法国の中は中南米よりまだ安全かなってレベル。聞きかじった大雑把な基準でしかないが、照らし合わせると、最低限はそれだけの実力がないとダメってことか。

 そして、早速やってくるのは俺への試練である。

「2勝の喜びを分かち合っているところ申し訳ありませんが、最後の勝負内容が決まりました」

「おぉっと。何なんですか?」

 村長に言われてハッとなった。ついついまた聞き逃してしまった。

「『手合場』ですな」

 テアイビーバ? てあいば? なにそれ?

 賢者とか呼ばれてるからって、わからないことを知ったかぶりするほど俺はプライドの高い男じゃない。

「失礼ですが、どのような競技で?」

「“荒野の賢者”様は、このような野蛮な競技はやられませんか。わかりやすく言えば拳で殴り合うのです」

「なぐり……え?」

「ちなみに、素手では危険ですのでこのような保護具と防具を付けていただきます」

 俺がその喧嘩上等な内容に戸惑っていると、布に何かを詰めたであろう手袋、昔の飛行士が被っている感じの耳まで隠れる帽子を渡してくれた。村人達は円形のリングを地面に描いていた。

 要するに、これはボクシングだ。なんでこんな時に限ってこーゆう競技を持ってくるの!?

「俺、これ苦手かもしんない……」

 誰かの真似をしながら可愛子ぶったところで、俺以外に残ってはいなかった。

 殴り合いなんていう行為は危なっかしくてやりたくないけど、だからって逃げるのも格好悪い。別に、どうしても無理なら降参しても良いゲームだし?

「えーと、まぁ、うん。いざという時の練習に、やってみるか」

 俺は参加を決めた。

 対戦相手は、既に準備を終えて上半身裸になった30前後の男性だった。俺と同じぐらいだけど、スポーツマンの筋肉の付き方をしてる。

「村一番の選手だ。素人相手に悪いが、ほら、胸を借りるつもりで飛び込んできな」

「そういう趣味はないよ」

 ニヒルに笑う選手のファイティングポーズに、俺も様にならない構えで応えた。手袋と被り物がハァビーの手によってはめられた瞬間、銅鍋アンドお玉のゴングが鳴らされる。

 コーンッ!

 俺の闘志が沈静化しているか否かに関わらず始まった。助かるのは、相手さんがいきなり攻めてこないことだ。どうやら初心者の俺に花を持たせるため、最初の一発は賢者さんに打たせてやるよってことらしい。

 口には詰め物の布もあるし、顔に拳を入れてアドバンテージを取るか? 股間の急所や目を狙わない限り、基本どこを殴っても良いゲーム。殴り方にもルールはない。
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