絶滅危惧種の子なら隣で寝てるけど? ~異世界で保護飼育は難しい~

AAKI

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9睡目・ビター・ゴングとシュガーストップ

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 涙目になりながら追いかけるハァビーと逃げる俺を見て、皆が呆れたように笑う。いつもの光景が戻ってきたような気がした。

『安心なさい。せめて、生きた状態では連れ帰ってあげるわ』

 最近、少しずつ通訳にも慣れてきたラフもハァビーをからかうのに便乗した。

「ラフさんまで! 待つだけの私やフェイさんの気持ちも考えてください!」

 流石にちょっと追い打ちが過ぎたらしく、ハァビーの心情が怒りに変わり始める。フェイに関しては、意外とラフを出かけさせることに対して余裕があるように見えるが。

 このまま逃げ切ると後々の文句が怖いので、バロメッツマントの上からポコポコと殴られるのに甘んじた。うん、痛くない。

 ラフの変身も終わったところで、俺もその背中に飛び乗った。他のグループも出発しだした。遠く離れていくハァビーとフェイが俺達に対して腕を仰いでくれているが、返礼ができる余裕がないのが残念だ。

 それから俺とラフは皆を大きく離して駆け抜ける。

 少し揺れに慣れたような気もするけど、やっぱり胃がスーパーボールしてた。バロメッツはというと、ひっくり返るようなものはないもののやはりダウンしている。

「……」

 こうして一夜目、もう明日の昼にはふもとの村に到着するからもう飯は食わなかった。

「そろそろ テレナ ビィビーエフダァジェー わ」

 慣れろってか……。相変わらずラフは辛辣だ。

 ほら、フェイが身だしなみを整えたのか、古びた服じゃなくなってる。それに、身支度のおかげで石けんの良い匂いまでするから、がっしりと掴まりづらいんだよ。あー、やめやめ!

 少しばかりヘエヌジー語も使えるようになったのは、やはりハァビーの教え方が良いからか。そう言えば、ファリッバとは彼女も忙しいこともあってあまり話せてないが、かなり読み書きができるようになっていた。

 それに比べて、俺は最近、なんというか伸び悩んでるな。

「レダァケーネ ない?」

「あ~、ちょっとな」

 胃腸のひねくれ具合を除けば、四半刻ぐらいの移動だから疲労は少ない。なのでちょっと棍の素振りでもしようと思って立ち上がった。

 ラフは、寝付けないことを訊ねてきた。別に心配してくれているわけではなく、彼女にとって見張りの邪魔になるからである。

「少し体を動かしたら寝るからさ」

「ビーアイビィシィダーエフジィー」

 好きにしろって言われたので、好きに素振りをすることにした。本当に基本的な動作で、振り、払い、薙ぎ、突きである。

 最初から振り回すと感覚にズレがあるため、準備運動に棒の持ち替えを行なう。手首の柔軟みたいなものだと思ってくれれば良い。棒と手の平を滑らせて重心を移動させたり、回転させて棍と体重移動の感覚を思い出したりする。

 いつもならサムベアさんに相手してもらうが、鍔迫り合いになった時の捌き方もある。ここはイメージで相手を生み出してトレースするしかない。

 まぁ、後は傍から見るとただ棒で遊んでいるようにしか見えない動きを何度か。

「……」

 風切り音の度に、周囲からの情報が分かり辛くなるからか、ラフの体がピクッピクッと動く。うーん、なんか距離も取ってるし、彼女は俺が攻撃をしかけてくるとでも思っているのだろうか。

 これから一緒に過ごすのだから、隣でとまでは言わないまでも屋内で寝てくれるぐらいにはなって欲しいなぁ。

 ストレスで体調を崩してもいけないので、俺は素振りをやめることにする。

「邪魔したな。ビィケェダーエフヤジー」

「えぇ……ビィケェダーエフヤジー」

 軽く挨拶をして、俺は就寝した。

 翌日も、相変わらず内臓は高速エレベーターでひっくり返りそうになった。それでも無事にふもとの村ダッケジーに到着したので良しとしよう。当然、元の名前はもっと長い。

「はぁ~。エレベーターダッシュした過去の自分を殴るべきだな……」

「?」

「いや、こっちの話だ。さてさて、まず村人に事情を聞くか」

 上下に奔走する内臓が危うく慣性で潰れそうな原因を、若かりし頃の過ちになすりつけつつ、俺はその日の調査を開始する。

 昇降機エレベーターについてはわかるにしても、ダッシュする理由をラフに説明しても仕方ないので捨て置く。ちなみに、親にはちゃんと叱られた。

「すみません。ちょっとよろしいですか?」

 第一遭遇村人さんに声を掛けて、山で何が起こっているのか訊いた。

 ほうほう、村でもたまにエアールの被害があるらしい。危ないから、村の猟師によって月イチで狩る予定になっていると。まぁ、本当に危ないから色々と悩みあぐねているみたいだ。

 山の異常に関しては、中腹ぐらいでは入ったことがあるものの特別なにも分からなかった。とのこと。

 それも、本当に一月ぐらい前にざっくりと入っただけだから見落としがあるかもってさ。

「どうもありがとうございました」

 俺はお礼を言った。先に山頂まで上ってみた方が良いかもしれないな。

 後、当然だが、俺が何者なのかを訊ねられた。ラフは村から少し離れたところで元の姿に戻ったから、単なる学校の教師ってことで誤魔化した。インターンだけど臨時講師みたいなものだから嘘じゃない。

 まぁ、言うほど怪しまれはしなかったが。
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