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初心者イベント編
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スカートは裾のほとんどが焼け焦げていた。氷雨によって破かれたポンチョも、辛うじて体の大事なところを覆っているだけで逆に危なっかしい。性別がわからないような範囲にとどめたのは、せめてものMJさんによる抵抗なんでしょうね。
そして、仮面も顔も砂埃で汚れてしまっている。
「……」
MJさんは何も言わずただ笑む。
微笑むというには広角は上がり、目尻は垂れていた。まるでオカメ面でも貼り付けたような百点満点の笑顔。
そんなものを浮かべて、ただひたすら沈黙を保って山賊リーダーへと歩み寄っていく。
「何をやってやがる! 撃てッ! 撃てぇ!」
無駄に余裕のある接近を怪しく思ったのか、次なる攻撃を周囲に命じた。
「私を守ってくださる薄氷よ 貴方を守ってくださる瑠璃硝子 天に届くことはないけれど――」
呪文の詠唱をして【高質防壁】の強度を増そうとするも、やはり相手も待ってはくれなかった。
「させるな!」
「【砂爆粉塵】!」「【火炎矢】!」「【氷結雨】!」
「――【高質防壁】!」
敵の魔法が展開されたところで、間に合わないと判断してこちらも力ある言葉を解き放った。ここでの相手にとっての判断ミスは、先に魔法を放ってしまったことだ。
私の防壁は対魔法に特化したものだから、物理攻撃をされると早く砕けてしまう。MRが高いせいでほとんどステータスがわからなかったんでしょうね。間抜けね。
「くっそがぁ!」
山賊リーダーが判断ミスに気づいたころには、完全に取り返しがつかなくなっていた。
魔法が弾かれ、矢とボルトが辛うじて守りを崩し飛来したとしても、全てをMJさんが切り飛ばす。同時に投擲用ナイフを数本放って、山賊神官を倒してみせる。
「何なんだてめぇは! いくらなんでも! こんなに簡単に倒れるかぁ!?」
山賊リーダーが喚いた。
MJさんのステータスを見た時は、単なる"盗賊"としか映っていなかっただろう。けど、違うのだ。
MJさんの職業は、以前から変えていなければ"鬼刃"である。
ユニーク・ジョブにして、ゲーム内のあらゆるジョブで対人戦闘に特化したもの。暗器の類を使うのは"暗殺者"というジョブに似ているものの、見つからない内が強いのと、見つかっていてもそこそこ強いの差かしら。後は、モンスターには不意打ちこそ通用するが、鬼刃の放つ不可解なほどの威圧感や駆け引きは意味をなさない。
「クソッ! クソッ! クソッ! こんなの聞いてねぇ!」
案の定リーダーは、怯えた様子で汚い言葉を吐き散らしながらアイテムを取り出そうとした。
帰還用アイテムか、それとも情報を伝えるためのチャット用アイテムか。どちらにせよ、判断が後一歩ほど遅い。
ゆったりと歩み寄ったMJさんは、人差し指と中指と親指にはめた刺突爪でリーダーの首を狙った。
「……」
私は恐ろしいと思った。冷や汗が出て、脈拍が1割増になるぐらいには恐れていた。
MJさんがポンチョを翻してこちらへ戻り始める頃には、敵の首魁は膝を崩して地面に倒れ伏す。
いくら実態のない拡張現実でつながった人間とは言え、躊躇いなく倒すことのできる精神が怖かった。
「首領が!」「や、ヤバい!」「見ていない今なら……」「ばッ、死亡フラグだぞ!」
山賊紛いのことをした『ゴールドラッシャー』の面々は、リーダーが倒れたのを見て我先へと散っていった。くも……いや、算木を乱すようとはこのことね。
「どうかなさいましたか? 周囲に敵の気配はもうなさそうですが、索敵と安全確保をしましょう」
「あぁ、っと、えっと……」
「どこかお怪我をなされているなら、私がしておきますが?」
MJさんに提案されるも、ちょっとばかしビビって反応が遅れてしまった。そこは察していないといった振りをしつつも、こうして気遣いはしてくれた。
「いえ、大丈夫です。向こうを見てきますので、あちらは」
「御意に」
私が最後まで言わずとも、MJさんは一礼した後に道を挟んだ荒野の半分を確認しに行った。
荷や馬車の確認は荷台の3人に任せる。
銃手は【弾傷弾】をMJさんに放って、さらに適当な衣服を手渡し肌を隠させた。その辺りは遠目に見ていただけだが、先の光景に恐れよりも畏敬を抱いている具合である。
「やっぱり敵の残党はいないようです。ここを抜けてしまえば、PKゾーンでなくなるので大丈夫でしょう」
「そのようですね。騒ぎでモンスターが寄ってきた様子もないですし、急ぎ出発と参りましょうか」
私達は馬車のところまで戻って、もう安全だと結論づけた。
その頃には、さっきまでと同じ笑顔ながらただ甘いマスクを思わせるものに変わっていた。戻っていたと言うべきか。
「ふぅ。よしッ」
私は気を取り直して、御者台に戻ると鞭を力強く入れた。
再出発してからは問題も起こらず、順調に進みお金を無事に届けることに成功した。それからも何度か資金輸送を行ったが、襲撃を受けたのはその一回だった。
グレイザさん達が、上手く釘を刺せたということなんでしょう。好きなゲームとイベントを守れたのは確かなら良いわ。
というわけで、これにて一件落着!
そして、仮面も顔も砂埃で汚れてしまっている。
「……」
MJさんは何も言わずただ笑む。
微笑むというには広角は上がり、目尻は垂れていた。まるでオカメ面でも貼り付けたような百点満点の笑顔。
そんなものを浮かべて、ただひたすら沈黙を保って山賊リーダーへと歩み寄っていく。
「何をやってやがる! 撃てッ! 撃てぇ!」
無駄に余裕のある接近を怪しく思ったのか、次なる攻撃を周囲に命じた。
「私を守ってくださる薄氷よ 貴方を守ってくださる瑠璃硝子 天に届くことはないけれど――」
呪文の詠唱をして【高質防壁】の強度を増そうとするも、やはり相手も待ってはくれなかった。
「させるな!」
「【砂爆粉塵】!」「【火炎矢】!」「【氷結雨】!」
「――【高質防壁】!」
敵の魔法が展開されたところで、間に合わないと判断してこちらも力ある言葉を解き放った。ここでの相手にとっての判断ミスは、先に魔法を放ってしまったことだ。
私の防壁は対魔法に特化したものだから、物理攻撃をされると早く砕けてしまう。MRが高いせいでほとんどステータスがわからなかったんでしょうね。間抜けね。
「くっそがぁ!」
山賊リーダーが判断ミスに気づいたころには、完全に取り返しがつかなくなっていた。
魔法が弾かれ、矢とボルトが辛うじて守りを崩し飛来したとしても、全てをMJさんが切り飛ばす。同時に投擲用ナイフを数本放って、山賊神官を倒してみせる。
「何なんだてめぇは! いくらなんでも! こんなに簡単に倒れるかぁ!?」
山賊リーダーが喚いた。
MJさんのステータスを見た時は、単なる"盗賊"としか映っていなかっただろう。けど、違うのだ。
MJさんの職業は、以前から変えていなければ"鬼刃"である。
ユニーク・ジョブにして、ゲーム内のあらゆるジョブで対人戦闘に特化したもの。暗器の類を使うのは"暗殺者"というジョブに似ているものの、見つからない内が強いのと、見つかっていてもそこそこ強いの差かしら。後は、モンスターには不意打ちこそ通用するが、鬼刃の放つ不可解なほどの威圧感や駆け引きは意味をなさない。
「クソッ! クソッ! クソッ! こんなの聞いてねぇ!」
案の定リーダーは、怯えた様子で汚い言葉を吐き散らしながらアイテムを取り出そうとした。
帰還用アイテムか、それとも情報を伝えるためのチャット用アイテムか。どちらにせよ、判断が後一歩ほど遅い。
ゆったりと歩み寄ったMJさんは、人差し指と中指と親指にはめた刺突爪でリーダーの首を狙った。
「……」
私は恐ろしいと思った。冷や汗が出て、脈拍が1割増になるぐらいには恐れていた。
MJさんがポンチョを翻してこちらへ戻り始める頃には、敵の首魁は膝を崩して地面に倒れ伏す。
いくら実態のない拡張現実でつながった人間とは言え、躊躇いなく倒すことのできる精神が怖かった。
「首領が!」「や、ヤバい!」「見ていない今なら……」「ばッ、死亡フラグだぞ!」
山賊紛いのことをした『ゴールドラッシャー』の面々は、リーダーが倒れたのを見て我先へと散っていった。くも……いや、算木を乱すようとはこのことね。
「どうかなさいましたか? 周囲に敵の気配はもうなさそうですが、索敵と安全確保をしましょう」
「あぁ、っと、えっと……」
「どこかお怪我をなされているなら、私がしておきますが?」
MJさんに提案されるも、ちょっとばかしビビって反応が遅れてしまった。そこは察していないといった振りをしつつも、こうして気遣いはしてくれた。
「いえ、大丈夫です。向こうを見てきますので、あちらは」
「御意に」
私が最後まで言わずとも、MJさんは一礼した後に道を挟んだ荒野の半分を確認しに行った。
荷や馬車の確認は荷台の3人に任せる。
銃手は【弾傷弾】をMJさんに放って、さらに適当な衣服を手渡し肌を隠させた。その辺りは遠目に見ていただけだが、先の光景に恐れよりも畏敬を抱いている具合である。
「やっぱり敵の残党はいないようです。ここを抜けてしまえば、PKゾーンでなくなるので大丈夫でしょう」
「そのようですね。騒ぎでモンスターが寄ってきた様子もないですし、急ぎ出発と参りましょうか」
私達は馬車のところまで戻って、もう安全だと結論づけた。
その頃には、さっきまでと同じ笑顔ながらただ甘いマスクを思わせるものに変わっていた。戻っていたと言うべきか。
「ふぅ。よしッ」
私は気を取り直して、御者台に戻ると鞭を力強く入れた。
再出発してからは問題も起こらず、順調に進みお金を無事に届けることに成功した。それからも何度か資金輸送を行ったが、襲撃を受けたのはその一回だった。
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