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レイド・ダンジョン編
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~2ヶ月前~
私は、まだ頭がクラクラとする中、なんとか目を開いた。
肌に鬱陶しい湿気が張り付き、摂氏35度は超えるであろう熱が体を覆う。背中には少し湿り気をもった草木や枯れ葉の感触がある。真上はシダ植物の他密林と思しき光景が見え、少し視線が下がると木々の先が吹き飛んで青空が覗いている。
「……一体、何が? え?」
私は、周囲の様子を見回して混乱した。
バラバラの消し炭になった正体不明の死骸と、死屍累々と倒れた仲間達の姿。そして、私の体を抱きかかえるようにして気絶しているであろうグレイザさんが視界に入り、もはや意味がわからなかった。
「えぇぇぇぇッ……!?」
驚きもあったが、それとは違う何かで私の胸は大きく跳ね上がった。だって、私の事を守るなりしてこういう状況になったわけでしょ?
こんな風に男性と添い寝……とは違うんでしょうけど、抱き込まれるような状態になるのも久しい。喜んで良いのかわからなくて、凄く嫌な予感もして、考えがまとまらないわ……。
それでも、ここが安全地帯ではないことは確かであり、なんとか状況を打開しなければならない。何が起こったのか定かでない以上、皆の無事を確認して離れるべきだろう。
「グレイザ……グレイザさん! 起きてください!」
私の筋力ではグレイザさんを完全に退けることができず、揺り動かして起こそうとした。
「んん……」
「ヒゥッ。なんで、こんなにリアルにしたのよ……」
微かな呻きを上げるも、目覚める様子はない。耳元で響くイケてるボイス――イケボと呼気に、体がピクリと震えてしまった。
重量にとどまらず、体温や吐息までなぜ感じられるようにしたのかとゲームシステムに文句を言った。
言っていても好転はしないため、できる限り顔同士を離して腕の隙間から抜け出そうとする。
「ぐぬ~~~んっ! はぁ、はぁ……」
無駄な抵抗だった。
漆喰の鎧と成人男性の体重はこれほど重いのだろうかと思案し、自分の現実的STR含め相当に劣っているのだと気づく。周囲を見渡しても光明も見えないため、息を整えながら思い出せるところまで思い出してみる。
「幸い気絶してるだけみたいだし、ふぅぅ……待つしかないわよね。えーと、何があったんだっけ?」
まず、今日、ゲームにログインする前へと記憶を遡った。
――。
――――。
確か仕事を終えて、アパートに借りた自分の自室という城に帰ってきたところである。
独身という寂しさを紛らわすために仕事とゲームにのめり込み、家族というしがらみから逃れ失恋の恥を胸に秘めていられる場所。それが、この1DKの小さな城だった。
「はぁ~~。つっかれたッ~!」
私は、部屋に入るなりだらしない声を上げた。スプリングコートをハンガーに掛け、風無商事の制服のジャケットを布団に投げ出し、我が身も少し煎餅化した寝具へと沈めた。
ここ3~4日21時を越えての帰宅だから、疲労が半端ない!
私は会社の新しい企画について、プレゼンの資料を集めなければならなくなった。好きなBUGUウサギの商品化という話に食いついたのまでは良いけど、入社一年目にして本来の仕事である経理作業も少しずつ難しくなったのよ。
「まぁ、とりあえず、資料集めと整理は出来たし……。もうちょっとすれば、今の仕事にも慣れるわ」
仰向けになって、電灯を眺めつつ呟いた。
好きなもののことだから資料なんて集められると思ったのに、必要な範囲を見極めて端的に良さを伝えるとなれば話は別。あれもこれもとデータや書籍を持っていったら、部長曰く――「このまま手渡されても何を説明するかわからんでしょうに」である。
最初から伝えておけと言いたいところだけど、それだと取捨選択しすぎて作品の良さを駄目にしてしまうのよね。
資料を整理して、重要なところを掻い摘んでいく作業は実に時間がかかる。他の作品との関連性とかも考えると、単に出版順に並べれば良いというわけでもなくなる。
それでも部長の助けを借りて、なんとかまとまり始めたというわけ。
「ご飯はコンビニのオニギリで済ませた。ならば、やることは一つよねー」
ニヤリと笑って、私は体を起こした。
お腹は満たされているし、後は別のもので心を満たすのみね。まぁ、だいたいいつもコンビニの弁当や惣菜だけれど。
さて置き、長い長い一週間が終わりまた週末の休みがこようとしている。ならば今夜は、存分にスフィファンを楽しもうではないか。なにせ、今日からまた新しい"ダンジョン"が実装されるのだから挑まねばゲームのファンというのが嘘になる。
私は椅子に座ると、携帯電話にもなる端末を机に置いて起動した。スフィア・ザ・ファンタジアへログインする。
いつもの見慣れた球体は椅子や机に沿って形を変え私を包み込む。画面が代わり映えのしない街並みに変わったところで、ベンチから立ち上がり歩き出す。
「えーと、昨日は新ダンジョン用にアイテムとかを整えてログアウトしたんだったわよね」
一応、改めて自分の状況を思い出しつつ目的地へ向かった。
私は、まだ頭がクラクラとする中、なんとか目を開いた。
肌に鬱陶しい湿気が張り付き、摂氏35度は超えるであろう熱が体を覆う。背中には少し湿り気をもった草木や枯れ葉の感触がある。真上はシダ植物の他密林と思しき光景が見え、少し視線が下がると木々の先が吹き飛んで青空が覗いている。
「……一体、何が? え?」
私は、周囲の様子を見回して混乱した。
バラバラの消し炭になった正体不明の死骸と、死屍累々と倒れた仲間達の姿。そして、私の体を抱きかかえるようにして気絶しているであろうグレイザさんが視界に入り、もはや意味がわからなかった。
「えぇぇぇぇッ……!?」
驚きもあったが、それとは違う何かで私の胸は大きく跳ね上がった。だって、私の事を守るなりしてこういう状況になったわけでしょ?
こんな風に男性と添い寝……とは違うんでしょうけど、抱き込まれるような状態になるのも久しい。喜んで良いのかわからなくて、凄く嫌な予感もして、考えがまとまらないわ……。
それでも、ここが安全地帯ではないことは確かであり、なんとか状況を打開しなければならない。何が起こったのか定かでない以上、皆の無事を確認して離れるべきだろう。
「グレイザ……グレイザさん! 起きてください!」
私の筋力ではグレイザさんを完全に退けることができず、揺り動かして起こそうとした。
「んん……」
「ヒゥッ。なんで、こんなにリアルにしたのよ……」
微かな呻きを上げるも、目覚める様子はない。耳元で響くイケてるボイス――イケボと呼気に、体がピクリと震えてしまった。
重量にとどまらず、体温や吐息までなぜ感じられるようにしたのかとゲームシステムに文句を言った。
言っていても好転はしないため、できる限り顔同士を離して腕の隙間から抜け出そうとする。
「ぐぬ~~~んっ! はぁ、はぁ……」
無駄な抵抗だった。
漆喰の鎧と成人男性の体重はこれほど重いのだろうかと思案し、自分の現実的STR含め相当に劣っているのだと気づく。周囲を見渡しても光明も見えないため、息を整えながら思い出せるところまで思い出してみる。
「幸い気絶してるだけみたいだし、ふぅぅ……待つしかないわよね。えーと、何があったんだっけ?」
まず、今日、ゲームにログインする前へと記憶を遡った。
――。
――――。
確か仕事を終えて、アパートに借りた自分の自室という城に帰ってきたところである。
独身という寂しさを紛らわすために仕事とゲームにのめり込み、家族というしがらみから逃れ失恋の恥を胸に秘めていられる場所。それが、この1DKの小さな城だった。
「はぁ~~。つっかれたッ~!」
私は、部屋に入るなりだらしない声を上げた。スプリングコートをハンガーに掛け、風無商事の制服のジャケットを布団に投げ出し、我が身も少し煎餅化した寝具へと沈めた。
ここ3~4日21時を越えての帰宅だから、疲労が半端ない!
私は会社の新しい企画について、プレゼンの資料を集めなければならなくなった。好きなBUGUウサギの商品化という話に食いついたのまでは良いけど、入社一年目にして本来の仕事である経理作業も少しずつ難しくなったのよ。
「まぁ、とりあえず、資料集めと整理は出来たし……。もうちょっとすれば、今の仕事にも慣れるわ」
仰向けになって、電灯を眺めつつ呟いた。
好きなもののことだから資料なんて集められると思ったのに、必要な範囲を見極めて端的に良さを伝えるとなれば話は別。あれもこれもとデータや書籍を持っていったら、部長曰く――「このまま手渡されても何を説明するかわからんでしょうに」である。
最初から伝えておけと言いたいところだけど、それだと取捨選択しすぎて作品の良さを駄目にしてしまうのよね。
資料を整理して、重要なところを掻い摘んでいく作業は実に時間がかかる。他の作品との関連性とかも考えると、単に出版順に並べれば良いというわけでもなくなる。
それでも部長の助けを借りて、なんとかまとまり始めたというわけ。
「ご飯はコンビニのオニギリで済ませた。ならば、やることは一つよねー」
ニヤリと笑って、私は体を起こした。
お腹は満たされているし、後は別のもので心を満たすのみね。まぁ、だいたいいつもコンビニの弁当や惣菜だけれど。
さて置き、長い長い一週間が終わりまた週末の休みがこようとしている。ならば今夜は、存分にスフィファンを楽しもうではないか。なにせ、今日からまた新しい"ダンジョン"が実装されるのだから挑まねばゲームのファンというのが嘘になる。
私は椅子に座ると、携帯電話にもなる端末を机に置いて起動した。スフィア・ザ・ファンタジアへログインする。
いつもの見慣れた球体は椅子や机に沿って形を変え私を包み込む。画面が代わり映えのしない街並みに変わったところで、ベンチから立ち上がり歩き出す。
「えーと、昨日は新ダンジョン用にアイテムとかを整えてログアウトしたんだったわよね」
一応、改めて自分の状況を思い出しつつ目的地へ向かった。
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