サトリ妖怪ちゃんは悟らない。これは恋ですか?いいえ、余計なお世話です。

AAKI

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3話・『アズマ視点』・妖尊人卑1

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 朝、早くから学校へとやってきて職員室で準備する。一日の授業スケジュールは前日にまとめてはいたため、後は漢字の小テストの採点などして時間を潰し、8時頃には連絡事項を朝の打ち合わせで聞きメモする。

 項目そのものは少ないわりに、教頭先生の心配性な話が冗長で時間がかかるのだ。妖の教員や保護者、生徒に配慮した言い回しを選ぶせいだろう。

「えー、ですから、人間の生徒への……可能な限りの、配慮を」

「……」

 教頭先生は、あせあせとバーコードの禿頭を撫でながらも説明していく。俺の隣で聞いていたウホーキン先生はいささか不服そうだ。

 なぜ妖が人間に気を使ってやらねばならないのかと言いたげだが、規範の妖怪たるショウケラなので簡単に騒いだりはしない。さておき、まだ話が続くことに俺は辟易しつつも顔には出さず聞き続ける。

「続きまして、『百朝ひゃくちょう新聞』の記事なのですが」

 これまでにも何度かあった通り、事件の中からニュースを引っ張り出してくる番だ。

 クオリティペーパー基本的に人間と妖の間に起こった出来事を取り扱うが、その名の通りゴシップ――正しくはフェイクニュースじみた話もたまにあるので注意である。今回はというと。

「妖の女性の見た目が若く、手を出す人間の男性が多いとのことです」「ブフッ!!」

 危うくすれば身に覚えがあるであろう内容に、俺は思わず咳き込んでしまった。

「西先生、どうかしたかな?」

「い、いいえ……むせただけです。失礼しました」

 教頭先生に尋ねられるも、なんとか冷静に繕って静聴の構えを取った。

 ウホーキン先生が憤慨して声を発しなければ、追及されてスズとの関係が明るみになっていたことだろう。

「何たる不純! 我々は人間の無節操さといったら言葉を尽くしがたい!」

 大声で耳がキーンっとくるが下手に反応して視線を集めたくないため、俺はメモ用ノートにポーカーフェイスを維持した。

 それにしても、まだ大した情報も出ていないのに人間側だけ責めるのはどうだろうか。妖側から誘ったという可能性もあるだろうし、若い幼い肉体に移り気になって何が悪いというのか。

 いや、まぁ、仕方のないこともあるって話だ。

「まったくもって度し難い!」

「あー、ウホーキン先生……その、そろそろ時間もありますので……」

「むむ」

 怒り続けるウホーキン先生を、教頭先生が恐る恐る止めた。流石にこれ以上の遅延は授業開始に響くとどちらもが考え、そこで朝の会議は終わることとなった。

 俺は他の先生方に話しかけられられないうちに受け持ちの教室、1年B組へと向かった。

「ふぅ~」

 扉を開く前に、中の喧騒でかき消される程度のため息をついた。

 時間もギリギリなのでベルにからかわれることはないだろうが、それでもスズと一緒に顔をあわせるのは億劫だ。それでも教職はせねばならず、怖気づいていてはまたスズに心配させてしまう。

 俺は覚悟を決めて扉を引くのだった。

「出席を取る」

 入室すると同時に生徒達が着席してくれて、面倒もなく必要な仕事に移れた。

「1番アカナ」「あい」

 いつもどおりだと自分に言い聞かせて名簿を読み上げていった。

「2番アメ」「あ、はーいだわ」

 順当に進む。

「13番スズ」

 が、ここでそこそこ調子の良かった流れが止まった。いつもなら控えめながらはっきりと返事をするスズが、なぜか反応を示さなかった。

 出席していないのかと、しかしスズらしからぬと思って、名簿から目を離して教室を見渡す。

 ちゃんと自分の席でまっすぐこちらを見つめているじゃないか。

「13番、スズッ?」

 声が聞こえなかった可能性もあったので、改めて声を張り上げて読み上げた。

 それでも反応を示さないあたり、本当に自分の世界に浸ってしまっているのだろう。俺の呼びかけで教室の視線が集まりだしたので、そのまま浸らせておくのも申し訳ない気がした。

 仕方なく、叱るぐらいのつもりでスズに近づいていく。

「スズッ」

「え、あ、はい?」

 流石に3メートルぐらいから大声で呼ばれたのなら、物思いにふけていても気づく。慌てて何事かと状況を確認したスズ。

 俺は小さくため息をついた後、名簿の黒い表紙をチラリと見せた。

「す、すみませんッ……」

 スズはすぐに謝って、顔を赤らめつつ机に目を伏せた。

 そんな反応をされると俺の方が悪いような気さえして、きっとこれ以上の指摘は後でベルあたりにからかわれるのだろう。そう考え、教壇へと戻った。

 こんな物静かで業務に忠実そうな態度を、クールだとかなんだとか言う生徒が多い。格好いいとか冷徹とか評価が賛否五分五分なのは別に悪くはないのだが、本当の俺を見てもらえていないのは悲しい。もしかしたら、スズという一人の存在にありのままを見てもらえていることに、俺は自分の知らないところで充足感を覚えているかもしれない。

 自己分析しつつ次の名前を読み上げていく中、何人かの生徒から不服そうな視線に気づいたのは一旦おいておく。

「31番鰐瀬わにぜ 光晴みつはる」「へいへい」

 最後の一人を確認したところで、全員が無事に登校していることに安堵して名簿の手帳を閉じた。
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