サトリ妖怪ちゃんは悟らない。これは恋ですか?いいえ、余計なお世話です。

AAKI

文字の大きさ
5 / 21

4話・『アズマ視点』・妖尊人卑2

しおりを挟む
 その日の1コマ目は、1年B組での授業は国語となる。

 今日も全員出席で、そうだと宿題の収集にも困らない上に後で評価の抜けを確認しなくても良いため嬉しかった。というのは秘密。

 いや、世の中は何事もうまくいくということはないのだ。集められた宿題のノートを並べながら提出状況を確かめていると、やはり足りないことがわかる。

「リンリン、またか……」

「へ、へへへ。いや、やったにはやったんだけどさ、家に忘れてきちまった」

 必ず1人か2人ぐらいは宿題を忘れてくる。大体は誰がやらかすのか常連くらいわかるので、抜けている出席番号を見つけるのは容易だった。指摘すると、リンリンは頭を掻いて後ろの方からのたまうのだった。

 笑って誤魔化そうとしているが、そうそう簡単ではない。俺が内心では呆れて言葉にならず黙って見つめているだけでも、それが静かな怒りだとリンリンが勘違いしてくれる。

「あ、えっと……その……ごめんなさい」

 ついぞ涙目になって謝ったリンリン。それでも反省はしないのだろう。

 とはいえ、固定ならば学期末の確認も楽である。しかし、ここでたまに出る例外が現れる。

「ごめんなさい。私も忘れてきちゃった」

 なんと、性格こそ破綻していても表向きは優等生なベルが申し出たのだ。

「珍しいな」

 出てきたのはそんな、無簡素とも言える声音と感想だった。

「私の妖力が、ね? 今日はカバンの中が一つ欠けちゃってた」

 どうせそれっぽい言い訳で上手く躱してくるため、深く突っ込んでも意味がなかった。

 彼女、ベルはイチタリナイ妖怪である。その名前から逸脱しない妖力を持ち合わせており、自他ともに何かが『一つ足りない』状況を作り出してしまう程度の能力がある。

「わかった。考慮しておく。じゃあ、教科書38ページを開け」

 真偽を確かめる術はないため、俺はそれだけ言うと授業に移ろうとした。が、不都合は重なるとき良く重なるというも。

 一分一秒も無駄にしたくないとは思いつつも、なにか申し入れがあれば聞かなければならない。お伺いしないと、今度は保護者のお言葉を拝聴するのに時間を食う。

「ねぇ、せんせー。暑いから空調強めて欲しいだわ」

 授業開始前ではなく、いまさらそう言い出したのは肌を健康的な褐色に染めて派手目の化粧を施した少女である。髪の毛は、老いによる白髪とは違う美しい純白で真っ直ぐに長く床へ向かって落ちている。

「アメは、あぁ、氷雪妖怪だからな」

 見た目に反してアメは雪女とでも言えば良い妖で、最近の日本の環境は厳しくなってきたらしい。十分に涼しい室内ではあるが、辛いというのであれば仕方がなかった。

 寒い地方を出身とする妖怪も、真夏の炎天下40度でもなければまず溶けて消えたりはしない。普通の人間よりも暑さに弱いという程度である。

 ちなみに、氷水でもかけて涼しくしておけばインスタント3分食品感覚くらいでよみがえる。

 そう、全く問題がない室温なのである。

「おいおい、これ以上下げられたら凍えちまうぜ」

 制止をかけたのは、やや不良生徒とでも言えそうな見た目の鰐瀬であった。アメの隣ということもあって、彼女から漏れ出る冷気も合わさってかなり寒いことだろう。

「こっちは暑くて溶けちゃうだわさ! 別に、男なんだから少しぐらい冷えても良いでしょうだわ!」

「落ち着け。とりあえず、後2度だけ下げるから、各自自由に厚着しろ」

 アメが鰐瀬に食いかかり、ケンカに発展しかねないので俺は急いで仲裁に入った。スズのおかげで他のクラスに比べて上着などの着用を認められているため、だいぶマシだ。

 こうした衝突は人と妖の間で稀によくあること。

 妖尊人卑ようそんじんひの流れはうっすらと表面化していて、あまり妖側に譲るべきではないのだろうが俺の心は弱い。

「またアヤカシファーストかよ……」

「……授業を始めるぞ」

 鰐瀬のボヤきを流して、俺は差し迫った時間を取り戻すために話を進めた。それ以後はなんとかハプニングもなく30分ほどで授業は終了したが、予定していた分が終わらなかったのは残念だ。

 チャイムの音を合図に俺は教科書を閉じる。

「40ページは宿題にして、終わりにしよう。また調整しなおしか」

 進行の度合いについて、言い残し最後は小さく呟いた。

「きりーつ、礼」

 誰も気にした様子はなく、締めの挨拶をして完全にお終いとなった。

 このまま立ち去っても良いのだが、様子がおかしかったスズだけ確認していく。

「スズ、朝調子が悪そうだったが」

「あ、いえ、ちょっと考え事をしていただけです。すみません」

「そう、か……」

 俺が訪ねようとするとスズはあっさりと、ただ言いよどむように答えた。まさか今朝のことを引きずっているのではと、俺は不安になった。

 そこへ茶々を入れてくるのはベルである。

「まったく、2人ともまどろっこしいなぁ」

「問題ないなら良い。では、次も遅れないように!」

 何やら事情をご存知のようだが、やぶ蛇になりそうだったため俺は話を切り上げるのだった。何のことだかわからないなー。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

【1話完結】あなたの恋人は毎夜わたしのベッドで寝てますよ。

ariya
ファンタジー
ソフィア・ラテットは、婚約者アレックスから疎まれていた。 彼の傍らには、いつも愛らしい恋人リリアンヌ。 婚約者の立場として注意しても、アレックスは聞く耳を持たない。 そして迎えた学園卒業パーティー。 ソフィアは公衆の面前で婚約破棄を言い渡される。 ガッツポーズを決めるリリアンヌ。 そのままアレックスに飛び込むかと思いきや―― 彼女が抱きついた先は、ソフィアだった。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

処理中です...