【R18】特殊能力にかまけて学業をおろそかにするダメンズな隣人を挑発したら手篭めにされて【番外編閲覧注意】

AAKI

文字の大きさ
2 / 31

レイヤー2・薄っぺらいほど破れない2

しおりを挟む
 大きな顔に、季節に不釣り合いなほどの汗が吹き出るのがわかる。

「ちょっと良いですか?」

「ッ……な、何かな?」

「報酬、もう貰ったはずですよね? まさかあっ……全く」

 どうやら指摘は図星だったらしく、片田さんは私が全てを言うより早く扉を閉じた。図体の割に逃げ足だけは早いわね。

「なんで引き受けちゃうのかしら? 龍生も、約束だったはずよね?」

 矛先を龍生に向けた。

 いくら仕事とは言え、彼だって20歳の学生なのよ? いくら彼にお金を稼ぐ技術があったとしても、学業を疎かにしてい良い理由にはならないわ!

「うん、まぁ、敏充としみつさんってそういう人だろ。守銭奴じゃないけどお金大好きっていうか」
 
 私の心情など知りもしないで、龍生は淡々と、もしくは気怠げに答えた。

「大学だって、もう一年くらい通いなおせるだけのお金は溜まったしさ」

「そういう問題じゃないでしょッ? あ……いえ、ご両親に申し訳ないと思わないの?」

 咄嗟に出てしまった言葉にもっともらしい理由をつけて、私は義憤という形で憤慨してみせた。誤魔化せたかはさておき、対する龍生の言葉は簡素なものである。

「そうだね。まぁ、平謝りだな」

 彼とは美術大学入学の頃から、私の祖母が管理するこのアパートで顔を合わせる仲なの。だからこの反応もらしいと言えばらしいのだけれど……。

 イラストを描くということ以外、ほぼ興味がないのではないかしら。精魂尽き果てて寝ているのを、邪魔されると怒ったこともあったわね。

「その性格、直した方が良いわね。お婆ちゃんの頼みじゃなかったら、とうの昔に見捨ててたわ」

 本来ならば散らかっているはずの部屋を見渡して、私は龍生を戒めるくらいに言った。

「俺の世話を焼くのが嫌なら、止めたら良いだろ。ウメさんは、神園かみぞのが嫌がることを、無理やりやらせるような人じゃないはずだ」

「ッ……はぁ~」

 普段はズボラなくせに、妙なところで鋭いことを指摘するのだ。確かに、お婆ちゃんに言われて始めたお節介だけれど……。

 忙しい時は身だしなみにさえ気を使わない。家事も私任せ。アパートの住人である片田さんや二ノ宮さん、私達神園家の祖母と孫を除けば、ほぼ誰とも付き合いがない。

 褒められるところなんて顔ぐらいのものだわ。

「……」

 首を横に振って、龍生の顔についてはおいておくことにした。

 それを呆れと取ったのか、ジッと私の方を見つめてくる。

「なんだよ? ふぅ……」

 声音が少し低くなっているから、私には怒っているようにも聞こえた。それともただイラストが捗らないだけかのか、気分を変えようとシンク横のミニ冷蔵庫へと向かった。

 その庫内でさえ、私がたまに確認していなかったらどれだけゾンビやミイラが出来上がることか。

「いいえ。お願いされた以上は、途中で投げ出せないから」

「そうかい。あー、牛乳ねぇじゃん」

 こちらが真面目なことを話しているというのに、龍生の反応と言えば買い置きの問題ときた。チョココロネと一緒に飲み物も買ってきて上げれば良かったかしら?

 どこまで世話を焼けば良いのかと呆れつつも、話の路線を元に戻す。

「……まぁ、受けてしまった依頼も今更どうすることもできないわ。ただ、今度こそこの仕事が終わったら」「わーってる」

 譲歩が功を奏したことなど少ないけれど、念押しだけはしておくつもりだった。それなのに、龍生は私の言葉を遮った。

「ん」

 彼が顎で差した先には、いくらかの資料の束が収まったクリアケース。多分、その中に今回の仕事に関する書類があるのね。

 これまでやってきた仕事の度に見てきたクリアケースだから、一杯に膨らんでいる。こんなところも整理しなければいけないのかと、私は何度めかの呆れを感じるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

放課後の保健室

一条凛子
恋愛
はじめまして。 数ある中から、この保健室を見つけてくださって、本当にありがとうございます。 わたくし、ここの主(あるじ)であり、夜間専門のカウンセラー、**一条 凛子(いちじょう りんこ)**と申します。 ここは、昼間の喧騒から逃れてきた、頑張り屋の大人たちのためだけの秘密の聖域(サンクチュアリ)。 あなたが、ようやく重たい鎧を脱いで、ありのままの姿で羽を休めることができる——夜だけ開く、特別な保健室です。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

田舎に帰ったら従妹が驚くほど積極的になってた話

神谷 愛
恋愛
 久しぶりに帰った田舎には暫くあっていない従妹がいるはずだった。数年ぶりに帰るとそこにいたのは驚くほど可愛く、そして積極的に成長した従妹の姿だった。昔の従妹では考えられないほどの色気で迫ってくる従妹との数日の話。 二話毎六話完結。だいたい10時か22時更新、たぶん。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...