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レイヤー2・薄っぺらいほど破れない2
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大きな顔に、季節に不釣り合いなほどの汗が吹き出るのがわかる。
「ちょっと良いですか?」
「ッ……な、何かな?」
「報酬、もう貰ったはずですよね? まさかあっ……全く」
どうやら指摘は図星だったらしく、片田さんは私が全てを言うより早く扉を閉じた。図体の割に逃げ足だけは早いわね。
「なんで引き受けちゃうのかしら? 龍生も、約束だったはずよね?」
矛先を龍生に向けた。
いくら仕事とは言え、彼だって20歳の学生なのよ? いくら彼にお金を稼ぐ技術があったとしても、学業を疎かにしてい良い理由にはならないわ!
「うん、まぁ、敏充さんってそういう人だろ。守銭奴じゃないけどお金大好きっていうか」
私の心情など知りもしないで、龍生は淡々と、もしくは気怠げに答えた。
「大学だって、もう一年くらい通いなおせるだけのお金は溜まったしさ」
「そういう問題じゃないでしょッ? あ……いえ、ご両親に申し訳ないと思わないの?」
咄嗟に出てしまった言葉にもっともらしい理由をつけて、私は義憤という形で憤慨してみせた。誤魔化せたかはさておき、対する龍生の言葉は簡素なものである。
「そうだね。まぁ、平謝りだな」
彼とは美術大学入学の頃から、私の祖母が管理するこのアパートで顔を合わせる仲なの。だからこの反応もらしいと言えばらしいのだけれど……。
イラストを描くということ以外、ほぼ興味がないのではないかしら。精魂尽き果てて寝ているのを、邪魔されると怒ったこともあったわね。
「その性格、直した方が良いわね。お婆ちゃんの頼みじゃなかったら、とうの昔に見捨ててたわ」
本来ならば散らかっているはずの部屋を見渡して、私は龍生を戒めるくらいに言った。
「俺の世話を焼くのが嫌なら、止めたら良いだろ。ウメさんは、神園が嫌がることを、無理やりやらせるような人じゃないはずだ」
「ッ……はぁ~」
普段はズボラなくせに、妙なところで鋭いことを指摘するのだ。確かに、お婆ちゃんに言われて始めたお節介だけれど……。
忙しい時は身だしなみにさえ気を使わない。家事も私任せ。アパートの住人である片田さんや二ノ宮さん、私達神園家の祖母と孫を除けば、ほぼ誰とも付き合いがない。
褒められるところなんて顔ぐらいのものだわ。
「……」
首を横に振って、龍生の顔についてはおいておくことにした。
それを呆れと取ったのか、ジッと私の方を見つめてくる。
「なんだよ? ふぅ……」
声音が少し低くなっているから、私には怒っているようにも聞こえた。それともただイラストが捗らないだけかのか、気分を変えようとシンク横のミニ冷蔵庫へと向かった。
その庫内でさえ、私がたまに確認していなかったらどれだけゾンビやミイラが出来上がることか。
「いいえ。お願いされた以上は、途中で投げ出せないから」
「そうかい。あー、牛乳ねぇじゃん」
こちらが真面目なことを話しているというのに、龍生の反応と言えば買い置きの問題ときた。チョココロネと一緒に飲み物も買ってきて上げれば良かったかしら?
どこまで世話を焼けば良いのかと呆れつつも、話の路線を元に戻す。
「……まぁ、受けてしまった依頼も今更どうすることもできないわ。ただ、今度こそこの仕事が終わったら」「わーってる」
譲歩が功を奏したことなど少ないけれど、念押しだけはしておくつもりだった。それなのに、龍生は私の言葉を遮った。
「ん」
彼が顎で差した先には、いくらかの資料の束が収まったクリアケース。多分、その中に今回の仕事に関する書類があるのね。
これまでやってきた仕事の度に見てきたクリアケースだから、一杯に膨らんでいる。こんなところも整理しなければいけないのかと、私は何度めかの呆れを感じるのだった。
「ちょっと良いですか?」
「ッ……な、何かな?」
「報酬、もう貰ったはずですよね? まさかあっ……全く」
どうやら指摘は図星だったらしく、片田さんは私が全てを言うより早く扉を閉じた。図体の割に逃げ足だけは早いわね。
「なんで引き受けちゃうのかしら? 龍生も、約束だったはずよね?」
矛先を龍生に向けた。
いくら仕事とは言え、彼だって20歳の学生なのよ? いくら彼にお金を稼ぐ技術があったとしても、学業を疎かにしてい良い理由にはならないわ!
「うん、まぁ、敏充さんってそういう人だろ。守銭奴じゃないけどお金大好きっていうか」
私の心情など知りもしないで、龍生は淡々と、もしくは気怠げに答えた。
「大学だって、もう一年くらい通いなおせるだけのお金は溜まったしさ」
「そういう問題じゃないでしょッ? あ……いえ、ご両親に申し訳ないと思わないの?」
咄嗟に出てしまった言葉にもっともらしい理由をつけて、私は義憤という形で憤慨してみせた。誤魔化せたかはさておき、対する龍生の言葉は簡素なものである。
「そうだね。まぁ、平謝りだな」
彼とは美術大学入学の頃から、私の祖母が管理するこのアパートで顔を合わせる仲なの。だからこの反応もらしいと言えばらしいのだけれど……。
イラストを描くということ以外、ほぼ興味がないのではないかしら。精魂尽き果てて寝ているのを、邪魔されると怒ったこともあったわね。
「その性格、直した方が良いわね。お婆ちゃんの頼みじゃなかったら、とうの昔に見捨ててたわ」
本来ならば散らかっているはずの部屋を見渡して、私は龍生を戒めるくらいに言った。
「俺の世話を焼くのが嫌なら、止めたら良いだろ。ウメさんは、神園が嫌がることを、無理やりやらせるような人じゃないはずだ」
「ッ……はぁ~」
普段はズボラなくせに、妙なところで鋭いことを指摘するのだ。確かに、お婆ちゃんに言われて始めたお節介だけれど……。
忙しい時は身だしなみにさえ気を使わない。家事も私任せ。アパートの住人である片田さんや二ノ宮さん、私達神園家の祖母と孫を除けば、ほぼ誰とも付き合いがない。
褒められるところなんて顔ぐらいのものだわ。
「……」
首を横に振って、龍生の顔についてはおいておくことにした。
それを呆れと取ったのか、ジッと私の方を見つめてくる。
「なんだよ? ふぅ……」
声音が少し低くなっているから、私には怒っているようにも聞こえた。それともただイラストが捗らないだけかのか、気分を変えようとシンク横のミニ冷蔵庫へと向かった。
その庫内でさえ、私がたまに確認していなかったらどれだけゾンビやミイラが出来上がることか。
「いいえ。お願いされた以上は、途中で投げ出せないから」
「そうかい。あー、牛乳ねぇじゃん」
こちらが真面目なことを話しているというのに、龍生の反応と言えば買い置きの問題ときた。チョココロネと一緒に飲み物も買ってきて上げれば良かったかしら?
どこまで世話を焼けば良いのかと呆れつつも、話の路線を元に戻す。
「……まぁ、受けてしまった依頼も今更どうすることもできないわ。ただ、今度こそこの仕事が終わったら」「わーってる」
譲歩が功を奏したことなど少ないけれど、念押しだけはしておくつもりだった。それなのに、龍生は私の言葉を遮った。
「ん」
彼が顎で差した先には、いくらかの資料の束が収まったクリアケース。多分、その中に今回の仕事に関する書類があるのね。
これまでやってきた仕事の度に見てきたクリアケースだから、一杯に膨らんでいる。こんなところも整理しなければいけないのかと、私は何度めかの呆れを感じるのだった。
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