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最初に待ち合わせをしたコンビニに到着する。
「着いたよ」
隣を見ずに声をかけると、
「んー」
「どうしたの、降りないの?」
「んー、もう少し一緒にいたいなって」
「もう少しって」
「あと少しだけ」
「ここコンビニの駐車場だけど、ここにずっといるの」
ちらっと隣に視線を送る。少し俯いて、シートに身を沈ませながら一点を見つめる青年がいた。窓から差し込む日差しが顔に影を作り、うっすらと生えた産毛が照らされて光っている。
「ちょっとだけ、ドライブでもする?」
長引かせてもいいことなんて何もないとわかっているつもりだけれど、目の前でそういう態度をとられたら強く突き放せない自分にうんざりした。男の子の顔にみるみる笑みが広がっていく。
「いいんですか」
「少しだけなら」
「嬉しいです」
「どこか行きたいところある?」
「どこでもいいです」
どこでもいい、という答えが一番困るのだけれど、と思いながら、
「じゃあ適当に車走らせるね」
「はい」
シフトレバーをパーキングからドライブに入れ替えてゆっくり車を走り出させる。
「何か音楽でも聴く?」
「お願いします」
「好きな歌手とかいれば流すけど」
「んー、そんなに好きっていう人はいないんですけど、洋楽が結構好きです」
「洋楽ね」
おれはiPhoneを取り出してApple Musicから洋楽のプレイリストを選曲した。Bluetoothで車と接続されているため、そのまま車のステレオから音楽が流れ出す。
「あ、テイラースウィフトの新曲ですね」
「これそうなの。おれいつも適当に聴いてるからどれが誰の曲なのかあんまり把握してないんだよね」
「これはテイラーの新曲で、最近発表されたやつです。ぼくもこれよく聴きます」
そういえば最近よく耳にする曲調だなと思いながら、隣で若い男の子が嬉しそうに喋っているのは悪い気はしないなと感じた。
「いつも大学に行くときとかに聴いてるの?」
「はい」
「大学まで結構通学時間かかるんだ」
「そうですね、家からだと一時間半くらいかかっちゃいます」
「結構大変だね」
「もう慣れました」
「今何年生だっけ」
「今年3年生になりました」
「あ、じゃあ今年で21歳か」
「そうです」
「成人式は楽しかった?」
「はい、みんなで写真撮ったりお酒飲んだりして楽しかったです」
「思い出の子とかはいなかったの?」
「思い出の子、ですか」
「うん、昔片想いしてた子とか」
彼は少し考える素振りをしてから、
「いましたよ、けど、昔はすごくかっこいいなと思っていたんですけど、今見たらそんなにときめかなかったんです。なんだかみんな子どもっぽいなと思ってしまいました」
「ふふふ、子どもっぽいか」
「そうなんです、お酒とかタバコとか、なんだか無理して大人ぶろうとしていて」
「そっか」
「ずっと好きだった人も、金髪でパーマしててなんか変な人みたいになっててちょっと残念でした」
「自分は髪染めたりしないの」
「大学生になった時に一度染めました。その時はブリーチして結構明るくなっちゃって、自分には似合わないんだなって悟りました」
彼は自分のスマホをいじり、これですこれ、と写真を見せてきた。小さな画面の中に写る、今より少しだけ幼い顔をした男の子がとても綺麗な髪色をしていた。
「そんなに変だとは思わないけどな」
「そうですか、周りからヤンキーみたいだって言われたんです」
「確かに田舎のヤンキーっぽいね」
「田舎の、は余計です」
「ごめんごめん、けど本当に変じゃないよ」
もともと肌の色が白いためか、ブリーチした髪色もとても似合っている。
「これが最初で最期のブリーチです。もう今年から就活も始まるんで、きっとこんな髪色にすることはないと思います」
結構頑固な性格なのかなと思いながら話を聞いていると、適当に走らせていた車はいつの間にか渋滞に捕まってしまった。
「この時間は混むのか」
「渋滞ですね」
「全然動かないね」
「すみません」
「ん、どうしたの」
「いや、ぼくがドライブに行きたいってわがまま言ったから」
「別にそんなこと思ってないよ」
カーナビでさり気なく時間を確認すると夕方の7時を少し回ったところだった。早く家に帰って風呂に入って眠りたい。
「着いたよ」
隣を見ずに声をかけると、
「んー」
「どうしたの、降りないの?」
「んー、もう少し一緒にいたいなって」
「もう少しって」
「あと少しだけ」
「ここコンビニの駐車場だけど、ここにずっといるの」
ちらっと隣に視線を送る。少し俯いて、シートに身を沈ませながら一点を見つめる青年がいた。窓から差し込む日差しが顔に影を作り、うっすらと生えた産毛が照らされて光っている。
「ちょっとだけ、ドライブでもする?」
長引かせてもいいことなんて何もないとわかっているつもりだけれど、目の前でそういう態度をとられたら強く突き放せない自分にうんざりした。男の子の顔にみるみる笑みが広がっていく。
「いいんですか」
「少しだけなら」
「嬉しいです」
「どこか行きたいところある?」
「どこでもいいです」
どこでもいい、という答えが一番困るのだけれど、と思いながら、
「じゃあ適当に車走らせるね」
「はい」
シフトレバーをパーキングからドライブに入れ替えてゆっくり車を走り出させる。
「何か音楽でも聴く?」
「お願いします」
「好きな歌手とかいれば流すけど」
「んー、そんなに好きっていう人はいないんですけど、洋楽が結構好きです」
「洋楽ね」
おれはiPhoneを取り出してApple Musicから洋楽のプレイリストを選曲した。Bluetoothで車と接続されているため、そのまま車のステレオから音楽が流れ出す。
「あ、テイラースウィフトの新曲ですね」
「これそうなの。おれいつも適当に聴いてるからどれが誰の曲なのかあんまり把握してないんだよね」
「これはテイラーの新曲で、最近発表されたやつです。ぼくもこれよく聴きます」
そういえば最近よく耳にする曲調だなと思いながら、隣で若い男の子が嬉しそうに喋っているのは悪い気はしないなと感じた。
「いつも大学に行くときとかに聴いてるの?」
「はい」
「大学まで結構通学時間かかるんだ」
「そうですね、家からだと一時間半くらいかかっちゃいます」
「結構大変だね」
「もう慣れました」
「今何年生だっけ」
「今年3年生になりました」
「あ、じゃあ今年で21歳か」
「そうです」
「成人式は楽しかった?」
「はい、みんなで写真撮ったりお酒飲んだりして楽しかったです」
「思い出の子とかはいなかったの?」
「思い出の子、ですか」
「うん、昔片想いしてた子とか」
彼は少し考える素振りをしてから、
「いましたよ、けど、昔はすごくかっこいいなと思っていたんですけど、今見たらそんなにときめかなかったんです。なんだかみんな子どもっぽいなと思ってしまいました」
「ふふふ、子どもっぽいか」
「そうなんです、お酒とかタバコとか、なんだか無理して大人ぶろうとしていて」
「そっか」
「ずっと好きだった人も、金髪でパーマしててなんか変な人みたいになっててちょっと残念でした」
「自分は髪染めたりしないの」
「大学生になった時に一度染めました。その時はブリーチして結構明るくなっちゃって、自分には似合わないんだなって悟りました」
彼は自分のスマホをいじり、これですこれ、と写真を見せてきた。小さな画面の中に写る、今より少しだけ幼い顔をした男の子がとても綺麗な髪色をしていた。
「そんなに変だとは思わないけどな」
「そうですか、周りからヤンキーみたいだって言われたんです」
「確かに田舎のヤンキーっぽいね」
「田舎の、は余計です」
「ごめんごめん、けど本当に変じゃないよ」
もともと肌の色が白いためか、ブリーチした髪色もとても似合っている。
「これが最初で最期のブリーチです。もう今年から就活も始まるんで、きっとこんな髪色にすることはないと思います」
結構頑固な性格なのかなと思いながら話を聞いていると、適当に走らせていた車はいつの間にか渋滞に捕まってしまった。
「この時間は混むのか」
「渋滞ですね」
「全然動かないね」
「すみません」
「ん、どうしたの」
「いや、ぼくがドライブに行きたいってわがまま言ったから」
「別にそんなこと思ってないよ」
カーナビでさり気なく時間を確認すると夕方の7時を少し回ったところだった。早く家に帰って風呂に入って眠りたい。
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