忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」

竜弥

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第2章:てんぱい異世界の足跡

第24話 天貴、料理する

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 マナトマスープをありがたくいただいて、ベッドでゴロンとしてたら気づけば二度寝。このままゴロゴロしていたら、三度寝しそうなので慌ててベッドから脱出。寝グセも直さずにそのままリビングに降りると、モーちゃんとメーちゃんの姿が。

「サンドイッチがいいモ!卵と野菜と、えーと、天貴のトマトサンドだモ!!」
「絶対オムスビだベ~!お出かけにはオムスビって決まってるんだベ~」

 モーちゃんとメーちゃんが、何やら白熱の言い合い中。あのニコイチ姉妹が喧嘩かよって一瞬焦ったけど、耳をすませばテーマは今日のお弁当。なるほど。ちっちゃな食いしん坊のランチバトルが勃発してたわけか。ちなみに俺と玄太の場合、だいたい俺が黙って玄太飯を食うって感じ。結果的にあいつの作るものはなんでもおいしいし、間違いなく最適ムーブ。そんなことを思い出しつつ、軽い気持ちでこの小さな争いの仲裁に乗り出してみる。

「じゃあ、どっちも作ればいいんじゃないか?」

 俺が軽く提案してみたら、モーちゃんとメーちゃんがぴたっと動きを止めて、同時に俺の方を振り向く。

「それはダメだモ!」
「二人一緒だべ~!」

(うわ、面倒くさそう…やっぱニコイチじゃん!)

 これ以上関わるのは悪手。

 そう思って「はいはい」っと、苦笑いしながら二人を通り過ぎてキッチンへ行こうとすると、二人そろって俺の服をつまんでひっぱって…。

(ちょ、離して?)

「天貴に決めてもらうモ!」
「それがいいベ~!ついでに作ってもらうベ!」

「えぇ!?俺に料理しろって!?無理無理無理!無理だって!」
(玄太じゃあるまいし!お弁当なんてマトモに作ったことないっつーの!)

 そう言うと、二人はぴたっと俺の服を離して、今度は揃ってプイッとそっぽを向いた。

「じゃあ、天貴は連れってってやんないモ~!」
「天貴はおいていくべ~!バイバイだべ~!」

「お、おい!なんだよ?どっか楽しいところ行くのか?」

 その興味をそそる言い方、この子らなかなかの策士。すると、モーちゃんはポケットから何かを取り出し、パタパタと紙を広げ始めた。

「こ、これは!この農場周辺の地図か!?すごいな!」
「モ~?こんなもの珍しくないモ?」

 まあ、この世界の住人にとっては地図なんてすごいものじゃないか。でも今の俺にはこの辺の地理を知る神アイテム!

「見せて見せて!」

 ガッと前のめりになってテンションMAXで食いつく俺に、サッと地図をしまいニヤリとするモーちゃん。

「おべんと~!」
「つくるベ~?」
(っく……!しまった!)

 獣の本能でバレたか。俺の弱みが一瞬で察知された!そうだ、世界共通のルール。弱みを見せたら狩られる。それが動物の世界。まさに弱肉強食!しかし目の前の神アイテムに正常な判断を失った俺は「分かった分かった!」と安易に闇取引に応じてしまう。その言葉を聞いたモーちゃんは、何事もなかったかのようにスンッと地図を広げ、指先でど真ん中にあるアルカノア農場をトンッと示す。

「今日は~この辺に放牧にいくモ!」

 そう言って、指をススス~と滑らせ、斜め上の山の方へと進める。

「アルカ山は美味しい草がいっぱいだベ~」
「そうだモ~!牛さんも羊さんも大喜びだモ!」

 なるほど、牛と羊を山に放牧に行くのか。それは確かに面白そうだぞ。それにしてもこの農場。右には森。下の方には海。上の方は山に囲まれていて、その隣をスーッと流れる川もあるし、かなりの神立地。範囲の狭い地図だけど、多少の地理は頭に入った。しかし、地理欲を満たした次の瞬間、そこには闇取引の代償が待っていた。

「天貴ぃ?」
「あ、そうだ。お弁当。約束したし、作りますか!」

「モ~~!!」
「ベ~~!!」

 テンションMAXの二人に両脇から挟まれ、観念してキッチンに向かう俺だった。

「さぁて…」

 とは言ったものの、このキッチン。勝手が分からないし、許可なく食材を使うのも気が引ける。とりあえず、アリスに相談するか、と階段を上りかけてふと気づく。俺、アリスの部屋っなんて知らない。

「なあ、アリスの部屋ってどこだ?」
「モ!ついてくるモ!」
「アリスは一階に住んでるべ!」

 なるほど、と二人の後をついていくと、そこは一階の奥まった部屋の突き当り。

 トントン!

「アリス!アリス!天貴が呼んでるモ!」

 ノックと同時に、返事を待たずに開かれた扉。

「……え?」

 バタン!

「えぇぇぇ!?ちょ、ちょっとぉぉぉぉぉ!?」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「モォォォォ~~~!?」
「ベ~~~~~~ッ!?」

 アリスが叫び、俺が叫び、なぜかモーちゃんとメーちゃんまで謎の絶叫。着替え中の女子にバッタリという、お約束もお約束すぎるド定番イベント発生。全速力でクルッとターンした瞬間、俺の後頭部にピンク色のクッションがクリーンヒット。ふわふわの見た目のくせに威力はなかなか。的確にヘッドショット決めてくるあたり、アリスってばコントロール抜群。

「いや、アリス!冷静にな?まず、完全に開けたのあの子たちだから!…って聞いてる?」

 背中でひたすら自己弁護する俺に、聞こえてくるのはモーちゃん&メーちゃんへの雷落としタイム。

「ノックしてから返事を待たなきゃ意味ないでしょぉぉぉ!」
「いたたたっ!これはモの責任じゃないモ~!」
「ベ~!ちゃんとノックしたべ~~!?」

 俺にも弁明の機会ありそう?そう思いながら、頭に当たったピンクのクッションを拾い上げる。っていうか、このクッション地味に重いんだけど。アリス、縫い目から鉛とか入れてないよな? 

 ガチャ――。

 こっぴどくやられたモーちゃんとメーちゃんを連れて、着替えを済ませたアリスがぷんぷんしながら出てくると、俺の横でピタッと止まる。

「ま、まぁ事故って事で!よろしく!」

 そう言ってピンクのクッションを回収し部屋の中にていっと投げつける。

「お、おう…」

 いや、ここに玄太がいなくてほんっとうに良かった。


『てんぱい!何見てんすか!きいいい!』

(なんて言われてさ……絶対クッションどころじゃ済まなかったな)

 落ち着いたアリスに、呼びに行った事情を説明する。

「楽しそうじゃない!じゃあ、一緒に作りましょう!」
「おぉ、助かる!」

 これで今日のお弁当、大事故は回避できそうだ。

「モ?アリスが作るモ?」
「今日は天貴ゴハン食べてみたいべ~」

(くっ!メニュー回避したと思ったのにしぶとい展開だ!)

「それもそうね!じゃあ、天貴が料理長で、私がお手伝いならどう?」
「モー!!アリス感謝だモ!」
「アリス、話が分かるべ~!」

 屈託のない女子三人の笑顔。これはもうやるしかなさそうだ。しかし弁当とは。俺、玄太に作ってもらった弁当の記憶しかない。仕方ないので、ここは記憶の中の本人げんたを呼ぶしかない。

「玄太!俺の中の玄太!異世界お弁当会議だ!」
(はーい、てんぱい! どしたっすか?)

「弁当を作らにゃならん! どうしたらいい!?」
(お弁当っすか? 俺だったら、てんぱいの好きな肉だんごと唐揚げと…)

「あ、いや、ありがと。でも実は…」
(なるほど!サンド派とおむすび派がいるんすね?だったらもう、アレ一択っすね)

「アレ?…アレか!……と、ちょっと待ってくれ!」

 ここで閃いても、後から再現できないと踏んだ俺は、すぐにアリスを呼んでキッチンへ!

「アリス!協力してくれ!」
「ええ、何でも言って!」

 まずは食材チェックから。

「卵に肉、ベーコンまである!かなり充実してるな」
「ええ!ご飯はいつでも炊いてあるし、パンも焼いてあるわ!」

 アルカノア・キッチン、最高か。

「ありがとう、アリス助手!さぁ、始めよう!」
「はいっ!天貴料理長!」

 再び始まる「異世界お弁当会議」。

「玄太!さっそく頼む!」
(任せてください、てんぱい!まず卵を溶いて、薄~く焼くっすよ!)

「アリス!まず卵を薄く焼くって!」
「は、はい!」

 フライパンをトントンと置き、手慣れた手つきで魔法道具に火をともすアリス。ガスがなくても火が出るのか。異世界って、地味に進んでる。

 その間に俺は卵を割って、トントンとボウルへ。

「よし!薄焼き卵、完成!」

(うぃっす!次はベーコンなどの具をトマケチャでソテーっす!)
「了解!ベーコンをケチャップでこんがり焼く!」
「あ、それなら天貴のトマトで作ったソースがあるから、それ使おっと!」

 よし!順調、順調。

(てんぱい、いいペースっす!次、ご飯をその卵にのっけて広げるっす!)
「オッケー!卵にご飯を広げる!」
「はいっ、こうね!」

 薄い卵の上に、丁寧にご飯を敷き詰める。アリスの手際が速すぎる。

「…アリス、作業早いな」

(次はご飯の上にレタス、ベーコン、トマト、マヨをにゅるっと!)
「任せろ玄太!レタス!ベーコン!トマト!マヨネーズ!」
「は、はいっ!!」

(料理長、誰かと会話してる…?げ、げんたって?)

(そろそろ仕上げっす!半分に折りたたんでサンドっす!)
「それ折りたたんで…って、アリス?」
「はい、サンドしました!」

 俺が一個作る間に、アリスは三個完成させていた。

「いや、俺マジで料理長失格…」

(最後に海苔で包んで、半分に切ったら完成っす!)
「はい!完成しました!」
「え、助手さん…仕事が早ぇ」

 そんなこんなで玄太弁当が完成!

「エッグクレープのにぎらんサンド!」

 玄太と二人で川に遊びに行ったとき、あいつが十個くらい作ってきてドン引きしたあの弁当。

「わぁ、ステキ!お料理も楽しかったし、ありがとね、料理長!」
「お、おう!」

(てんぱい、途中で俺のアドバイスいらなくなってたっすね…)

 大きなランチバスケットに、にぎらんサンドと水筒を詰めて、準備完了!

「モーちゃんとメーちゃんは、向こうでのお楽しみね!」
「楽しみだモー!!」
「べぇ~!!」

 楽しそうな三人を見て、作ってよかったと心から思う。ほとんどアリスのおかげだけど。でも、玄太との経験が俺のライフスキルを高めていることを実感したアルカノアキッチンだった。

「んじゃ、異世界初の農場エリア脱出、行ってみよう!」
(…ところで、何も起きないよな?おい、クータン)
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