ノイズの都市

久遠 司

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第4章「赤い部屋」

第3話 赤は、選択を覚えている

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赤い部屋は、消えなかった。

ただ——
沈黙する時間が、増えただけだった。

「発生件数は、確かに減ってる」
久遠は、最新のログを確認しながら言った。
「でも、ゼロじゃない。しかも……」

「質が変わったな」
鷹宮が、低く応じる。

以前は、
《やり直したいですか?》
《後悔していますか?》

今は違う。

《あなたは、
誰のせいだと思いますか?》

「……責任の転嫁か」
鷹宮は言った。

「ううん」
久遠は首を振る。「責任の分割だ」



新たな被害者は、学生だった。

複数人で進めていた研究グループ。
成果が出ず、空中分解した直後。

「……画面が赤くなって」
彼は言った。「質問が出ました」

「内容は?」

「……“この失敗は、誰の選択ですか?”」

選択肢は、四つ。
• 自分
• 仲間
• 指導者
• 環境

「……選んだ?」

彼は、頷いた。「環境です」

「その後は?」

「何も」
彼は答える。「でも——」

声が、震えた。

「誰も悪くないって思えなくなった」

久遠は、視線を落とした。

「……赤い部屋は、
“自責”から“分断”に移行してる」



事務所に戻ると、
久遠は、赤い部屋の変遷を時系列で並べた。
1. 選択を迫る
2. 後悔を固定する
3. 責任を植え付ける
4. 責任を分ける

「……進化、してるな」
鷹宮が言う。

「うん」
久遠は頷く。「“個人”が対策を覚えたから、
今度は集団を壊しに来てる」



その夜。
二人の端末が、同時に赤く染まった。

《あなたは、
この現象を止めたいですか?》

選択肢。

《はい》
《いいえ》

「……来たな」
鷹宮が言う。

「最終確認だ」
久遠は、静かに息を吸った。

《はい》を選べば、
「止められなかった理由」が生まれる。

《いいえ》を選べば、
「見捨てた」という物語が残る。

「……どっちも、
“選んだ自分”を固定する」
鷹宮は言った。

久遠は、画面を見つめたまま答える。

「だから——」

彼は、操作を始めた。

画面を録画する。
外部に同時配信。
事務所のモニターに、赤い画面が映る。

「……何をする」

「選択を、共有する」

《選んでください》

久遠は、カメラに向かって言った。

「これは、
誰か一人の選択じゃない」

鷹宮も、同じ方向を見た。

「観測された瞬間、
個人の責任は成立しない」

《……》

赤い画面が、揺れる。

《選択は、
個人のものです》

「違う」
久遠は、はっきり言った。
「選択は、物語だ」

その瞬間。

赤が、割れた。

ノイズが走り、
画面が砂嵐のように崩れる。

《……》

質問は、表示されなかった。



翌日。

赤い部屋の報告は、ほぼ途絶えた。

完全消滅ではない。
だが、
“選ばされた”という感覚だけが、残らなくなった。

人は、選択をする。
だが、それを一人で背負う必要はない。

噂は、力を失った。



事務所で、
久遠は椅子に深く座り込んだ。

「……今回は、疲れた」

「都市伝説にしては、
現代的すぎたな」
鷹宮は、静かに言う。

「ネットがある限り、
また形を変えて出てくる」

「だろうな」

久遠は、ふと笑った。

「でもさ」

「ん?」

「“選ばなかった”って選択も、
ちゃんと残った」

鷹宮は、窓の外を見た。

街は、いつも通りだ。
だが、その裏側で。

人々は今日も、
無数の選択をしている。

赤い部屋は、
もう問いかけない。

だが——
問いそのものは、消えない。

端末が、震えた。

新着通知。
差出人不明。

《次は、コトリバコ》

鷹宮は、短く息を吐いた。

「……重いのが来たな」

久遠は、静かに頷く。

「次は、“血縁”だ」

赤い部屋は終わった。
だが、
都市のノイズは、まだ続いている。

——第4章・了。
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