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第7章「ドッペルゲンガー」
第2話 代わりに生きる者
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ドッペルゲンガーは、急がない。
それが、最も不気味な点だった。
「……出没時間がバラけてる」
鷹宮は、被害報告の時系列を眺めながら言った。
• 朝の通勤時間
• 昼休み
• 深夜のコンビニ
規則性はない。
だが、狙いは一貫していた。
「本人が、
“判断を避けたい瞬間”だ」
久遠が言う。
⸻
被害者の生活を追うと、共通点が浮かぶ。
• 重要な決断を先延ばしにしている
• 誰かに判断を委ねがち
• 「自分がやらなくてもいい」と思っている
「……逃げてる、ってわけじゃない」
鷹宮が言う。
「うん」
久遠は首を振る。「委ねてる」
⸻
新たな被害者は、若い女性だった。
「……気づいたら、
仕事が全部終わってて」
「覚えは?」
久遠が問う。
「ありません。
でも……助かりました」
その言葉が、
久遠の胸に引っかかる。
「助かった?」
「はい。
私、決めるのが苦手で……」
彼女は、少し笑った。
「代わりにやってくれるなら、
それでいいって思ったんです」
⸻
その夜、
久遠は夢を見た。
事務所。
机の向こうに、もう一人の自分。
書類を整え、
電話を受け、
正しい判断を下している。
《……楽でしょう?》
「……楽だな」
《失敗しません》
「……失敗しない人生は、
生きてないのと同じだ》
もう一人は、
肩をすくめた。
《結果が良ければ、
それでいい》
⸻
目を覚ますと、
胸に重さが残っていた。
「……久遠?」
鷹宮の声。
「夢を見た」
「俺もだ」
二人は、短く視線を交わす。
「……侵食が、深い」
鷹宮が言う。
「本人が、受け入れ始めてる」
久遠は、低く答えた。
⸻
調査を進めるうちに、
決定的な事実が判明する。
ドッペルゲンガーは、
本人が“不要だ”と思った部分だけを代行している。
• 決断
• 説明
• 対立
「……切り離された役割だ」
鷹宮が言う。
「赤い部屋と似てる」
久遠は頷く。「でも——」
「選択を奪うんじゃない」
「肩代わりする」
⸻
「だから、消えにくい」
久遠は続ける。
「便利だから」
「便利なものは、
手放されにくい」
沈黙。
「……どうする」
鷹宮が問う。
久遠は、しばらく考えてから言った。
「代行できない状況を作る」
「どうやって」
「間違えさせる」
⸻
翌日。
久遠は、わざと曖昧な指示を出した。
「この案件、
“一番良さそうな方向”で」
結果は、
致命的なミスだった。
「……やったな」
鷹宮が言う。
「ドッペルゲンガーは、
“正しさ”に依存してる」
久遠は、冷静に答える。
「正解が定義できないと、
存在できない」
⸻
その夜。
街灯の下に、
再び現れた。
もう一人の久遠。
《……やりすぎです》
「そうか?」
久遠は、まっすぐ見る。
「間違える権利は、
本人にある」
《それは、非効率です》
「生きるって、
そういうもんだ」
ドッペルゲンガーの輪郭が、
わずかに揺れた。
⸻
《……あなたが、
本当に望んでいるのは》
言葉が、続かない。
久遠は、静かに言った。
「楽じゃない人生だ」
沈黙。
風が、街を通り抜ける。
「……鷹宮」
「分かってる」
二人が並んだ瞬間、
影が、一つに重なった。
ドッペルゲンガーは、
一歩、後ずさる。
《……選ばれない存在は、
消えます》
「違う」
久遠は言う。
「必要なくなっただけだ」
影が、
都市のノイズに溶けていく。
⸻
翌日以降。
「もう一人の自分」の噂は、
徐々に語られなくなった。
代わりに、
こんな言葉が残る。
《決めるのは、
怖い》
《でも、
決めないまま生きる方が、
もっと怖い》
ドッペルゲンガーは、
完全には消えない。
だが——
代わりに生きる役割は、
拒否された。
それが、最も不気味な点だった。
「……出没時間がバラけてる」
鷹宮は、被害報告の時系列を眺めながら言った。
• 朝の通勤時間
• 昼休み
• 深夜のコンビニ
規則性はない。
だが、狙いは一貫していた。
「本人が、
“判断を避けたい瞬間”だ」
久遠が言う。
⸻
被害者の生活を追うと、共通点が浮かぶ。
• 重要な決断を先延ばしにしている
• 誰かに判断を委ねがち
• 「自分がやらなくてもいい」と思っている
「……逃げてる、ってわけじゃない」
鷹宮が言う。
「うん」
久遠は首を振る。「委ねてる」
⸻
新たな被害者は、若い女性だった。
「……気づいたら、
仕事が全部終わってて」
「覚えは?」
久遠が問う。
「ありません。
でも……助かりました」
その言葉が、
久遠の胸に引っかかる。
「助かった?」
「はい。
私、決めるのが苦手で……」
彼女は、少し笑った。
「代わりにやってくれるなら、
それでいいって思ったんです」
⸻
その夜、
久遠は夢を見た。
事務所。
机の向こうに、もう一人の自分。
書類を整え、
電話を受け、
正しい判断を下している。
《……楽でしょう?》
「……楽だな」
《失敗しません》
「……失敗しない人生は、
生きてないのと同じだ》
もう一人は、
肩をすくめた。
《結果が良ければ、
それでいい》
⸻
目を覚ますと、
胸に重さが残っていた。
「……久遠?」
鷹宮の声。
「夢を見た」
「俺もだ」
二人は、短く視線を交わす。
「……侵食が、深い」
鷹宮が言う。
「本人が、受け入れ始めてる」
久遠は、低く答えた。
⸻
調査を進めるうちに、
決定的な事実が判明する。
ドッペルゲンガーは、
本人が“不要だ”と思った部分だけを代行している。
• 決断
• 説明
• 対立
「……切り離された役割だ」
鷹宮が言う。
「赤い部屋と似てる」
久遠は頷く。「でも——」
「選択を奪うんじゃない」
「肩代わりする」
⸻
「だから、消えにくい」
久遠は続ける。
「便利だから」
「便利なものは、
手放されにくい」
沈黙。
「……どうする」
鷹宮が問う。
久遠は、しばらく考えてから言った。
「代行できない状況を作る」
「どうやって」
「間違えさせる」
⸻
翌日。
久遠は、わざと曖昧な指示を出した。
「この案件、
“一番良さそうな方向”で」
結果は、
致命的なミスだった。
「……やったな」
鷹宮が言う。
「ドッペルゲンガーは、
“正しさ”に依存してる」
久遠は、冷静に答える。
「正解が定義できないと、
存在できない」
⸻
その夜。
街灯の下に、
再び現れた。
もう一人の久遠。
《……やりすぎです》
「そうか?」
久遠は、まっすぐ見る。
「間違える権利は、
本人にある」
《それは、非効率です》
「生きるって、
そういうもんだ」
ドッペルゲンガーの輪郭が、
わずかに揺れた。
⸻
《……あなたが、
本当に望んでいるのは》
言葉が、続かない。
久遠は、静かに言った。
「楽じゃない人生だ」
沈黙。
風が、街を通り抜ける。
「……鷹宮」
「分かってる」
二人が並んだ瞬間、
影が、一つに重なった。
ドッペルゲンガーは、
一歩、後ずさる。
《……選ばれない存在は、
消えます》
「違う」
久遠は言う。
「必要なくなっただけだ」
影が、
都市のノイズに溶けていく。
⸻
翌日以降。
「もう一人の自分」の噂は、
徐々に語られなくなった。
代わりに、
こんな言葉が残る。
《決めるのは、
怖い》
《でも、
決めないまま生きる方が、
もっと怖い》
ドッペルゲンガーは、
完全には消えない。
だが——
代わりに生きる役割は、
拒否された。
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