幽霊の復讐

ひみ

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始まり

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 救急車やパトカーが俺たちを通り過ぎていく。
 男は何事もなかったかのように歩き続ける。

 血まみれだった服も着替えて、顔や手の汚れも綺麗に洗い流し、もはやこいつが犯人だとは誰も思わないだろう。

 犯人ってのは、もっと人気のないところをコソコソと逃げるのだと思っていた。
 大通りを悠々と通り抜ける男をじっと見つめながら、俺はふわふわとついて行く。


「お前、これからどこ行くんだよ」

「………」

「防犯カメラにもバッチリ写ってるし、どうせ逃げらんねえよ」

「…………」


 男は返事をしない。
 手馴れた様子だが、こんなに堂々としていて大丈夫なのだろうか。
 俺を殺した本人のはずなのに、何故か心配の方が大きくなる。


「せめて捕まる前に、依頼人特定してくれよな」

「………」

「そのために憎きお前についてまわるんだから。お前のことだって呪い殺してやりてえんだぞ」

「………はー」


 恨みをぶつけていると、男はぴたりと立ち止まる。
 そのまま方向転換して、ついさっき通り過ぎた路地裏へ入っていく。


「おい!待て!!俺をまこうとしたって…」

「ねーうるさい。僕にしか見えてないんだから返事出来るわけないでしょー。家に帰ったらお話してあげるから待っててよ」

「…っ……」

「僕に捕まって欲しいんだろーけど、変に目立ちたくないからさー」


 男は呆れたようにため息をつく。
 俺は怒りでぐっと拳を握りしめるが、すぐに諦める。
 さっきから向かいからやってくる人の体をすり抜けてる俺だ、殴ろうとしてもどうせ当たらない。


「飲み込みが早いところは素晴らしいね」

「嬉しくねえよ」

「ま、もーすぐ着くから待ってて」


 男はふっと笑うと大通りの方へ戻っていく。

 しばらく沈黙が続いたあと、男の言う通り、彼はすぐ近くのマンションで立ち止まった。


 ポケットから鍵を取り出すと、オートロックを開けて中に入っていく。
 豪華なフロントに…いかにも高級マンションって雰囲気だ。

 エレベーターでフロアを移動し、部屋の前まで来ると、ご丁寧に俺が入るまで玄関のドアを開けておいてくれる。

 恐る恐る中に入ると、男がドアを閉める音がした。


「さ、着いたよー。やっと喋れるね」


 どさどさと荷物を投げ捨て、勢いよくソファに腰掛ける。
 髪の毛を気にしながら、俺の言葉を待つようにこちらを見つめている。
 きょろきょろと周囲を見渡し、俺は口を開く。


「……えっと、お前ん家広すぎねえ?」

「ぷっ、最初に言うのがそれ?」


 マンションの入口から、いかにも金持ちが住む家って感じだとは思っていた。
 が、部屋に入ってみると想像以上だった。


「お前何者なんだよ…まじで」

「んー………犯罪者?」

「犯罪で金稼ぎ…世も末だな」

「親が金持ちってだけで、僕は稼いでないけどね」


 男はもぞもぞと横になる。
 親が裕福で生活にも困ってねえ様なやつが、なんで犯罪なんか…
 いや、まあ…貧乏だから犯罪をするってわけでもねえだろうけど。


「そんなことが聞きたい訳じゃないでしょ?僕のことはどーでもいいじゃん」

「お前のことも知りたい」

「えー、あんまりベラベラ喋りたくないなー」

「名前とか、なんて呼べばいいのかわかんねえし」


 男は天井を眺めながら、うーんと考え込む。
 たしかに、犯罪者は個人情報なんて漏らしたくないか。
 気まずい空気に目をそらすと、男は寝転がったまま呟いた。


「…僕はサガミ。みんなそー呼んでる」

「え」

「呼び方はなんでもいーよ。殺人鬼ーって呼んでも誰にも聞こえないしね」

「………」


 目を瞑ったまま適当に言い捨てる。
 なんだろう、この感じ。

 俺を殺した憎い相手なはずなのに、なんだか不安な気持ちになる。
 全てを諦めているような、今にも消えてしまいそうな。

 正直……俺は死んでもいいと思っていた。
 こんな人生早く終わってしまえと思っていた。

 終わらせてくれたこいつに、恨みと同じくらい大きな、別の感情があるのかもしれない。


「…サガミって呼ぶ。俺は風見隼人だ」

「ふーん。風見くん、これからどれくらいの付き合いになるのか知らないけど、よろしくね」

「………おう」


 少し開かれた目にドキッとする。
 俺は俯きながら小さく返事をした。
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