虫 ~派遣先に入って来た後輩が怖い~

銀色小鳩

文字の大きさ
49 / 53
焼きりんご

焼きりんご 第5話

しおりを挟む
 体を見られるよりも、目をみつめられるほうが恥ずかしい。心の中まで届いてしまうような目だ。思っていることを全部知られてしまっているんじゃないか、そんな錯覚に陥る。  
「う、うん……」  
 はるかは私のカットソーをめくりあげてそのまま脱がせた。そして自分も上を脱ごうとして服に手をかけたまま、動きを止めた。何か考え込むみたいにして、私の目を探るように見ながら、ゆっくりと脱いだ。    
「?」  
 カーテンの隙間から漏れる薄暗い光の中で、はるかの肌は艶めいていた。きれいな形のいい腕だな、と思う。私のただ細いだけの腕と違って、女性として美しい筋肉と張りがある。  
 はるかは自分のブラジャーも取ると、首を傾けたまま私を見ていた。なんだろう、この、こっちの気持ちを見極めようとしているような目は?  
「なに?」  
「…………」  
 彼女は私の手をとると、自分の胸に持っていって肌に触れさせた。触ってほしいということか? どんな顔をしていいのかちょっとわからない。 
 私の手が、柔らかい感触に埋まる。……いいのかな、触って。 
 前回はるかは脱がなかった。途中から暑くなったのか、トップスだけ脱いだ。でもキャミソールから下は脱がなかった。私だけ全部脱がされた。一方的に弄られた感じがして、恥ずかしくてならなかった。  
 触れるのもそれはそれで気恥ずかしい。戸惑いながら、ふにふにとつまんでみた。
「やわらかい……」
「児嶋さんって、柔軟ですよね」  
 はるかは心底感心したみたいにつぶやいた。  
 そのまま私に抱きついてきた。  
 私はその感触に慣れていない。  
 肌が素のままで触れ合って、はるかの呼吸に包まれて、とろんとした夢の中にいるみたいだ。  
 はるかが私の耳を舐め、かすかに吸い付いた。  
「あぅっ」  
 自分の声にびっくりして、唇をかむ。思わぬ大きな声が出てしまうと、さすがに恥ずかしい。  
「かわいい」  
 はるかは調子に乗って、耳に口付けた。髪を撫でながら首筋をついばんだ。自分の髪が耳元でさわさわと揺れて、それまでもが、くすぐったくて、私は身をよじる。  
 はるかの舌が首筋を這い、顎の先に口付け、鎖骨をなぞる。  
「ぁ、」  
「皮膚、……も。なんていうか、邪魔です、もう……どうしていいのか」  
 物騒なことを言う。  
「これ……は、ぬ、脱ぎたく…ない……」  
 一瞬動きをとめて、ぶっとはるかが吹き出した。  
「可愛いこと言ってるし……!」  
 可愛い? オモシロイじゃないのか? はるかは私に触れ始めると、いつも語彙が同じようになってくる。  
「児嶋さん日記に書いておきたいです。語録として」  
 はるかはヒーヒーと苦しそうにして、本当に腹をかかえていた。  
「なにそれ。そんな日記あるの」  
「目の裏側あたりに。あるような感じがするんです。あー、苦しい」  
 はるかは悪戯そうに眉をはねあげて、私をじっと見つめ、明るく笑った。  
「児嶋さんの寝てるときの顔とか、声とか、仕事中のパソコンの音とか、お菓子食べてうっかり指舐めたときの表情とか、記録されてるんですよ」  
「やめて……」  
 思わず笑ってしまう。  
「イッたときの顔も、声も、ぜんぶ」   
 カッと頬が火を噴くように熱くなった。急にそんな風になったから、自分が怒りを感じたのかと一瞬間違えた。はるかの目が、私を映して、ほんのひととき止まった。私の目を覗き込んで、彼女は目だけでにやっとした。ふっと変なスイッチでも入ったかのように。
「……え?」 
 はるかが顔を隠そうとする手を捕まえた。
「児嶋さん、またこうすること、想像しました?」  
 目を逸らそうとした私の手首を取ったままそのまま開いて、はるかは私をベッドに組み敷いた。含みのある目つきで私の目を覗き込む。  
「教えて。わたしにされたこと、何回、思い出しました?」  
 私は黙り込んだ。  
 自分の耳が熱くなっているのがわかる。何回思い出しただろう? というか、思い出さないように頭を切り替えようとしたのは何回だろう、頭がくらくらしてしまって、正直に答えられそうもない。  
 突然、同じベッドで、同じ体勢で、見つめられていることに気がついて、私の体をなぞるあの日のはるかの指がまざまざと肌に蘇った。  
「ほんと、いじりがいありますよね、児嶋さん」  
 ――可愛い子ぶって首を傾げて笑って言うセリフなの!?  
 はるかは私を見下ろして、手の平全体で胸を撫でるようにした。ころころと先端を転がされて、私は急にそのやり方に羞恥を覚える。  
 はるかに見られていることをあまり意識しないですむように、ぎゅっと目を閉じて我慢する。 
「はるかだって、何回思い出したの?」
 私は反撃を始める。
「何回だと思います?」
 何回かぐらいは、思い出したんじゃないかな……、あまり多めに言っても意識過剰と思われそうだし、少なく言っても嫌がらせにならないので、私は適当に答えた。
「三回ぐらいは?」
 はるかはちょっと呆れたように私を見た。
「その答えでいいですか?」
「なにそれ」
「あんまり大幅に外れたら苛めちゃいます」
 じゃあ多すぎる方向で言って笑い飛ばしてやる。
「じゃ、十五回!」
 髪を梳きながら、
「大幅に外れてますね」
 ゆっくりと小さな声で耳元ではるかがささやく。
「……だいぶひどい外し方です」
「ま……」
「児嶋さんが隣でDVD見てる時も、小松菜のお浸し食べてるときも、仕事中も」
 耳元で低い声で言って、耳たぶをかすかに噛んだ。
「んっ!」
「耳に触るだけで声が出ちゃう児嶋さんを。乱れる児嶋さんを。フツーにしてる児嶋さんを目の前にして、まざまざと思い出して、見てました。毎日毎日」
「ま、……まいに、ち?」
 ぎょっとする私の指に、はるかは指を絡めてぎゅっと握った。私を見つめる目が、本当に距離が近くて、捕まったら逃れられないような気分になる。
「あんなことしないからって約束した舌の根も乾かないうちに、表情から何から全部思い出して。児嶋さんは、下着もびしょびしょで、アッアッアッてちっちゃい声で泣いて、」
「わ……わかった。ごめん、わかった、もういい!」
 ――――きくんじゃなかった。
 恥ずかしがらせるつもりが、逆手に取られている。
「残念でしたね。いっぱい苛めてあげますね?」  
「あっ、」  
 つつ、と指が体の線をなぞり、腰のあたりでツクッと刺した。思わず腰がはねる。そのまま、はるかは左手で私の胸の先を弾き、そこに唇をつけた。  
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

身体だけの関係です‐原田巴について‐

みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子) 彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。 ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。 その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。 毎日19時ごろ更新予定 「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。 良ければそちらもお読みください。 身体だけの関係です‐三崎早月について‐ https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

身体だけの関係です‐三崎早月について‐

みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」 三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。 クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。 中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。 ※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。 12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。 身体だけの関係です 原田巴について https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789 作者ツイッター: twitter/minori_sui

処理中です...