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奥さまはモンバス姉さん編

61 熱血教師は報われない その3

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 もう少しでアパートに着こうかという時、後ろに人の気配を感じ、気付くと後頭部に強烈な痛みを感じた後、気を失ってしまった。
 くそ!高校の時ならこんな不覚を覚えることはなかったのに…。


 しばらくして、俺は後頭部のひどい痛みに目を覚ました。
 後頭部だけでなく、体のあちこちが痛い。
 さらに両手両足もロープできつく縛られ多状態で冷たい床に横たわっている。

 「ようやく目を覚ましてくれたね。」
 見覚えのある若い男…如月高校の理事長の息子の柳信介が俺を残酷な笑みで嬉しそうにみつめている。
 そのまわりには暴走族のような男たちが特攻服を着て、木刀やチェーンなどを持って、立っている。人数は三〇人くらいだろうか。
 どこかの会社の倉庫の中のようで、天井がずいぶんと高いようだ。

 「一体どういうつもりだ。やんちゃ坊主。」
 これから起こることを想像すると吐き気がしそうだったが、それでも死んでも弱みなんぞみせられない。上品ぶった一見イケメンのこの『ゲスな高校生』に頭をさげるなんぞあり得ない。

 「あなたのおかげで、僕は結局退学になりましたよ。そのお返しを少々と思いまして。」
 形だけは整った顔をゆがませながら柳が言い放つ。

 「おいおい、お前さんが暴走族とつるんで、カツアゲやさまざまな悪質な活動をしていたから、それを『ちょっとある筋に報告』しただけだろ?必ず誰かがやる当然のことをやっただけなのに、そんなに逆恨みされても困るな。」
 俺がわざとらしくため息をつくと、柳の顔が怒りに大きくゆがむ。

 「ふん、いつまでそんな強がりが続くかな。おい、こいつを少々痛めつけてやれ!」
 柳が傍にいたリーダーらしき男に告げる。

 「柳君、悪いがそれはお断りだ。彼は心身ともに大きく見どころがある。それをわざわざ傷つけるなど、もったいない。
 ぜひ、我ら『秘密結社死夜車ショッカー団』の改造人間として活躍していただく。
 さあ、同志たちよ!この男を『手術台』に運ぶのだ!!」
 なに、このトンデモな展開?!!
 リーダーの宣言に柳は驚きのあまり、顎が大きく外れ、俺の元に何人もの『特攻服の男たち』が歩み寄ってくる。
 やめろーー!!さっきは死んでもいいと言ったが、『怪人になってヒーローに殺される』とかまっぴらだ!!

 俺の元に男たちが到着しようとしたその時、爆発音とともに扉の開く音がした。

 「悪人ども、貴様らの悪事はそこまでだ!!」
 どこかで聞いたことのあるような男の声が響き、白い影が俺たちの前に現れた。
 …俺はもとより、特攻服の男たちも男の姿を見て固まった。

 真っ白なタイツにを全身に着込み、黒いサングラスの下は白いマスクをかぶり、、額には赤く光る丸い飾りを付けている。腰のベルトから抜いた二丁拳銃を構えている。
 格好も大きな問題だが、どう見ても中年太りの上、少し見える髪は明らかに真っ白だ…。
 「日輪の使者!烈光仮面れっこうかめん見参!!

 …そして最大の問題は男の声がどう聞いてもさっきまで一緒にいた風流院高校の校長の声にしか聞こえないことだ!!
 おっさん!一体何をやってんだ!!!
 俺の生まれていない頃、烈光仮面というヒーローがいたことは知っているが、そのコスプレをして遊んでいる場合じゃないだろ!!
 そう思った次の瞬間、校長の放った弾丸は次々と特攻隊の持っている武器を弾き飛ばし始めた。
 ええええ?!!見た目はともかく、射撃は本格的だよ!!

 「お、おのれ!敵はたった一人だ!!死夜車ショッカー団の名にかけてやつを仕留めろ!」
 特攻服たちが動こうとした時、さらに爆音が起き、何人かの男が倒れた。

 「にゃはははははは!!お前さんがたの悪行もこれまでなのにゃ!!」
 「まったくや!スーパーヒーローを甘く見んほうがええで!」
 ……ええと、声は微妙に違うんだが、『猫語』と『関西弁』?
 なんとか身を起こして声の方を見ると、そこには先日テレビの『スーパーヒーローオリンピック』で見た『ミラクルキャット』と『電脳マジシャン』がそれぞれ銃を持って、倉庫の上の方に立っていた。

 呆然としていると、俺の拘束が不意に解け、さらに女性の声がかかった。
 「さあ、ロープを切ったから、今のうちに脱出しましょう!…え?!東山田先生?!」
 石川の驚いた声が聞こえる。
 えええ?!なんでお前さんがこんなところに?

 呆然として固まっている俺を見て、石川は一瞬気まずそうな顔になるが、すぐに表情を戻した。
 「まあ、それはいいわ。とりあえず脱出しましょう。」
 「い、石川!あの、校長とか、ミラクルキャットとか…。」
 「ええ、それは脱出したら説明しますから、まずは安全な場所に。」

 俺がなんとか石川に着いていこうとした時、戦闘で混乱中ではあったものの、俺たちの動きに気付いた特攻服の二人が石川の前に立ちはだかる。
 「邪魔よ!どきなさい!」
 石川が左腕を一閃すると、男たちは吹っ飛んで倉庫の壁にめり込んでしまった…。
 ええええ?!!!

 「さあ、今のうちに脱出…。」
 「待って?!石川、おかしいよ?!!なんで左手を振っただけで特攻服が壁にめり込むの?!」
 「ええ??!『戦闘員』はパンチ一発で吹っ飛ぶのが常道でしょ?!!」
 石川がなんてことはない…と言う風に言う。
 いやいや!!問題が完全にすり替わってるから!!

 「待てい!そこの女、貴様何者だ!怪人二人を壁にめり込ませるとはただものではないな!」
 「一体何を言っているのかしら、あなたはあの程度をザコを怪人だと主張するのかしら?」
 先ほどのリーダーが石川のセリフに表情をこわばらせている。

 「く、こうなれば……怪人モヒカンガー!まずはその娘を何とかするのだ!
 「ひゃっはーー!!お任せください!!」

 モヒカン頭の顔にペイントの入った特攻服が石川に向かってくると、石川は、少し跳躍して、モヒカンの頭に上から右足を叩きこんだ。
 石川のかかと落しを喰らったモヒカンは床にめり込むと、ぴくぴくと痙攣している。
 流れるような見事な動きもすごいけれど、地面に怪人をめり込ませるかかと落しの威力も桁が違い過ぎるんだけど…。

 リーダーらしき男がそれを見て、じりじり下がった時に、さらに別の扉が大きな音を立てて開いた。

 「悪人ども!貴様らの悪行はこれでおしまいだ!」
 男たちの怒号が聞こえ、そこには二人の男が立っていた。
 一人目の男は鋼のような肉体にフィットする青と黄色のボディスーツを着、口だけ見える銀色のマスクをしており、全身から凄まじい『闘気』を溢れさせながら口を開いた。
 「奇跡の超人・ミラクルファイター!! 悪あるところに即参上!!」

 もう一人は赤を基調とした王家の人達が着るような豪奢な衣装に「金糸銀糸の織り込まれた」上等なマントを着こなしており、口元と目元の見えるマスクを被っていた。男は『謎の光線銃』を構えて歯をキラッと光らせながら叫んだ。
 「あくまでも、華麗にそして軽やかに! キャプテンゴージャス見参!!」
 …スーパーヒーローオリンピックで解説をしていた二人のヒーローだよ!!

 「…あらあ、呼んでないのに二人とも来ちゃったのね…。」
 石川が二人のヒーローをやや疲れた表情で見ながらつぶやいている。
 どう見ても『知り合い』だよな…ということは?!!

 そのことに気付いた俺はつい叫んでしまった。
 「石川!もしお前に頼んだら『シードラゴンマスクたん♪』のサインをもらえたりするのか?!」
 は?しまった!俺は何ということを言ってしまったのだ!?

 案の定、石川は俺の叫びを聞いた後、しばし表情が固まり、ややあって口を開いた。
 「東山田先生?私の聞き間違いでなければシードラゴンマスクの後に『たん♪』を付けられていたようなんですが、それは一体どういうことなんでしょうか?」
 明らかに俺を見る目が『微妙なものを見る目』になっているよ?!!ヤバイ!どうしよう?!

 「はっはっは!それはわしが解説しよう!」
 いつの間にか近くに来ていた『烈光仮面』のコスプレの校長が笑っている。

 「校長…さすがに『現役時代の衣装』を今着られるのは無理ですよ。」
 俺を見た時以上に生暖かい視線で校長を見ながら石川がつぶやく。

 「何を言う!未だに射撃は百発二百中じゃし、百メートルを9秒5で走れるぞ!」
 「いえ、身体能力は現役の時と比べるとさすがに落ちますが、そこまでキープされていることは正直スゴイと思います。
 ただ、体型は維持できていないので、『その衣装』では違和感でまくりですよ。
 さらに『ボイスチェンジャー』も忘れられてますし…。」
 「ええ?そうじゃった?いやあ、わしとしたことが…。」
 石川の指摘に校長はてへぺろ♪みたいに笑っている。
 まあ、『猫語』だったり、『関西弁』よりはましかもしれないが…。

 こんな時にのんきに話していていいのか?と思われるかもしれないが、倉庫内は四人のヒーローたちの活躍であらかた騒動は終わっていた。
 それを踏まえて校長も石川も俺とゆったり話をしていたのだろう。

 「おおっと、肝心なことを言うのを忘れそうになっていた。
 数日前、わしは都内の某アニメショップに行っておったのじゃが、そこで、三〇前の男が熱心に『シードラゴンマスクちゃま』のメタルフィギュアを実に真剣そうに見ておっての。
 同志発見ということでわしはその男のデータ収集を始めたのだよ。」
 校長が実にうれしそうに『素敵な笑顔』で話している。
 まさか、『あの現場』を見られているとはうかつだった。
 そして、石川の俺たちを見る目がさらに生暖かくなっている。
 ヤバい!ヤバすぎる!これではせっかく新しい職場が見つかったというの、早くも転職を考えないといけないのか?!

 「なんや、東山田せんせも同志やったんか♪校長もはよ言うてくれたらええやん!」
 ええええ??!いつに間にか電脳マジシャンこと、錦織教師まで来てるよ?!

 「瀬利亜先輩!表の制圧は終了しました!…ところで…。」
 石川の傍にいつの間にか『マジカルコンバットガール』が来て、何やら報告している。
 セミロングの髪の髪を後ろにポニーテールにまとめた、石川より少し低いくらいの精悍な美少女だ。青、銀色と白を基調にした軍人風の衣装で、ややメカニカルなイメージがあるスーツを着ている。

 「光一さんは『旦那様特典』で置いておいて、校長と東山田先生は放置しておいても大丈夫でしょうか?もし、必要とあらば、いつでも『殲滅』いたしますが?」
 マジカルコンバットガールが俺と校長を厳しめの視線で見ている。
 待ってくれ!俺はシードラゴンマスクたん♪の大ファンなだけで、悪意とかは一切…。

 「望海ちゃん、大丈夫だから。二人ともとても善良だし、変な事なんかしないから。」
 「そうや、全然大丈夫や。むしろ、わてや望海はんの『同志』と言っていい存在や♪貴重な仲間やからむしろ『大事にしてあげて』欲しいくらいや♪」
 石川と錦織教師がカバーする発言をしてくれる。
 …望海?そうか?!マジカルコンバットガールは『三年雪組に飛び級で入った北川望海』か?!

 …ということはもしかして石川の正体は…。
 俺が石川の正体に気付いて愕然となると、校長が嬉しそうに笑った。

 「ほーら、そのために『裏事情を明らかにしなかった』のだよ。
 例の理事長のバカ息子が『嵌められて悪の秘密結社』を使って東山田先生に復讐しようとしているという情報が入ってきておってな。
 その救出を『君のあこがれのシードラゴンマスクちゃま♪』がしてくれたらさぞかし、すごいものが見られると思ってな♪はっはっはっは!!」
 校長の話を聞いて、周りの校長を見る視線が一気に生暖かいものに変わった。



 翌日からの学校生活はまさしく『バラ色』になった。
 シードラゴンマスクたん♪と同じ校舎にいるというだけで、俺の気分は常にウキウキだった。
 さらに『同志たち』との素晴らしい交流はまさに至福の時間であった。

 よかった!学校を替わってよかった!!!教師生活サイコー!!!!! 
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