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その後…とは限らない番外編
番外編5 魔王さまと最初のズットモ その3
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(SIDE 健人)
アイーダ大陸最大の国、ギガンテック帝国がこともあろうにまおちゃんに正面からケンカを売ったという話を聞き、俺は自分の耳を疑った。
先月、リヴァイアサンの集団が帝国の沿岸で暴れまわっているという情報が入って来次第、瀬利亜の奴が『俺が退治に行くべきだ』と強く強く主張してきた。
『勇者・健人はドラゴンスレイヤーならぬ、リヴァイアサンスレイヤーだ』と世界中に印象付けをするためにもこういう機会は積極的に活用すべきだと。
先日のスーパーヒーローオリンピックからの流れで、エイムスの故国・フラムス王国のもてなし料理が『リヴァイアサン尽くしコース』になったあおりで、『勇者が仕留めたリヴァイアサンの素材』がいくらあってもかまわない…という状況になってしまったのだ。
『リヴァイアサンスレイヤーの勇者・健人のいるフラムス王国』というのがブランドになりつつあることと、次以降のスーパーヒーローオリンピックで、『リヴァイアサンスレイヤーのうさぎさんブレイブ』として常連になるのだという…。
次回も『うさぎさんブレイブ』で出場確定なの?!
…それはともかく、俺、エイムス、そして『陽だまり国元帥』のシルバさんの三人でリヴァイアサン退治に帝国まで出向いたのだった。
え?どうして、まおちゃんの国が『陽だまり国』になっているか?だって?
瀬利亜やアルテアさんたちといろいろ話し合った結果、
「妾は種族とか関係なしに、みんなが安心して暮らせる国を作るのじゃ!」とまおちゃんが国の名前を正式に『陽だまり国』にしたのだそうだ。
『陽だまり国の魔王』……うん、魔王という称号がまるで合わないよね…。
これからは『陽だまり国の女王様』とか呼んだ方がよさそうだね。
…話は戻って、俺、エイムス、シルバさんの3人はトラミちゃんの運転する猫娘バスの上からリヴァイアサンの集団に攻撃を仕掛けていった。
一体一体が超級モンスターであるリヴァイアサンが三十体以上も群れていたのだから、陽だまり国を除けば最強の帝国軍でも手の出しようがなかったのも仕方ないし、俺もその集団の圧力を感じただけで、さすがに背筋に寒いものが走った。
しかし、3人でうまく連携して攻撃すると、思った以上にさくさくとリヴァイアサンの集団を蹴散らすことができた。
倒すことが困難だったというより、半分以上を壊滅させた後、逃げ出すリザイアさんたちを確実に仕留める方が手間だったくらいだ。
だが、一番戦慄させられたのは掃討が終わった後の運転手のトラミちゃんの次の言葉だった。
「みんにゃ、よくがんばったのにゃ♪3人そろえば、『大鉄人ニャンセブン』なみに活躍することができるのにゃね♪」
トラミちゃんの操縦するニャンセブンは俺たち3人並みの戦闘力なのか?!
そんな感じでリヴァイアサンの集団退治をした俺たちを帝国の軍部や政府は曲がりなりにも感謝してくれ、好意的な雰囲気で彼らとは別れたのだった。
彼らは陽だまり国元帥シルバさんの卓越した戦闘能力を目の当たりに、さらにシルバさんに近いくらい強い『魔王六天王』がいるという話も聞いているわけなので、それだけでもわざわざケンカを売りに行くとは思えなかったのだ。
「ギガンテック帝国単独だと、確かに健人さんのおっしゃる通りでしょう。
だから、陽だまり国を敵に回しても大丈夫なくらいの『後ろ盾』を得たのかもしれませんね。」
帝国に乗り込む前の作戦会議の時に、『情報収集・分析のプロ』でもある『世界最強の忍者』にして地球防衛軍日本支部隊長の風魔児雷也さんが俺の疑問に答えてくれた。
「あのう…本職の方はだいじょうぶなんでしょうか?」
「はっはっは、安心したまえ、健人君。
やはり実戦が最大の訓練でもあるのだよ。『地球防衛のため』にも瀬利亜くんに無理を言って、今回の任務をねじ込んでもらったのさ♪
私が来たからには帝国の裏の裏まで丸裸にしてあげよう♪」
嬉しそうに高笑いする児雷也さんを見て、我々は別の意味で不安に駆られたのだが…。
帝国にはまおちゃんの友達の冒険者3人を伴い、リヴァイアサン退治の時の俺たち3人、さらにまおちゃん本人とエルフの男性のラムダ外相、そして望海ちゃんと兜鋼児さん(モンスターバスター12星最強の肉体を誇る超人マルク)の2人で来ている。
まおちゃん、ラムダ外相、俺たち3人は帝国に直接抗議する役割だ。
本来なら口先が立ち、頭の回転も速く度胸もある瀬利亜がこの役割なのだが、今回は児雷也さんと一緒に情報収集に動いているのだ。
だから代わりに頭がよく、交渉力のあるラムダ外相とまおちゃんがタッグを組んでメインになるそうだ。
望海ちゃんと鋼児さんは、なぜか襲われた冒険者3人の護衛の役割だ。
ラムダ外相はシルバさんの幼馴染で、『力こそパワー』だった魔国においては最近まで冷遇されていたそうだ。
しかし、誠実で頭がよかったラムダさんをまおちゃん政権が抜擢したところ、非常に高い実務能力を発揮し、外相兼宰相に登用された……ええ?!政治の最高責任者じゃん!!
それはともかく、見た目は30代前半の細身のイケメンエルフと俺たちは帝国につくまでの間いろいろ打ち合わせをしていた。
「ねえ、健人。ラムダさんてシルバさんに気があるんじゃない?」
打ち合わせがひと段落し、二人になったときにエイムスが爆弾発言をしてきた。
そして、あとで俺がそれを踏まえてラムダさんに注目していたところ……しばしばラムダさんはシルバさんにいかにも意味ありげに視線を向けているではないか?!!
ちなみに瀬利亜に確認したところ、
「そうなのよねえ。ラムダさんは子供のころからシルバさんのことが大好きだったようなの。だけど、エリートコースまっしぐらのシルバさんと、全く目の出ない自分を見比べてあきらめていたみたいね。
それが、最近大抜擢されたから、また意識しだしたみたいよ。
残念ながらシルバさんはまおちゃんのことしか目に入っていないから、ラムダさんのことは信頼できる『ただの幼馴染』なんだよね。
え?帝国突入の時にやたら張り切っていた?
好きな人にいいところを見せたかったのでしょうね。
実務能力は高いけど、基本はそういう素朴な人だから、気持ちさえ通じたらお似合いなんだけどね。ハードルはかなり高そうだけど…。
というか、今のあなたはエイムスちゃんに対して『シルバさんと同じ立場』なのだから、他人ごとではないんだけどね。」
と釘をさされてしまった。
俺が墓穴を掘った事件は置いておいて、とりあえず、俺たちはついに帝国に外交的な殴り込みをかけたのであった。
「帝国の工作員が妾の大切な友人を攻撃したうえに、妾が心を込めて作った貴重な魔道具の数々を壊した件は一体どういったわけなのじゃ?」
さすがはまおちゃんだ。
普段は瀬利亜の前で嬉しそうにニコニコしている素朴でかわいらしい姿が目に付くまおちゃんだが、魔族の中で最大のポテンシャルを持ち、着実に戦闘能力・実務能力を伸ばしている自身に満ち溢れた姿は帝国の首脳部を完全に委縮させている。
これで帝国の人たちは比較的簡単に犯行を自白するのではと思ったのだが…。
おかしい!明らかに変だ。
皇帝を含めて、帝国首脳部は完全にまおちゃんに気圧されているのだが、全員何を言われているのかわからないという困窮した雰囲気に包まれている。
同じことを感じたのか、エイムスとラムダ外相も戸惑っている。
俺とエイムス、そしてデフォルドは魔王軍に与した人間側の勢力との対面交渉も何度もやったことがある。
だから、『痛いところを突かれて狼狽している』のか、そうでないかは大体わかるのだが、全員後ろめたいというより、困惑が先に立っているのだ。
だから、
「我々は凶悪犯を追っていたはずが、こともあろうに人違いでマオ陛下のご友人を襲ってしまったようです!!
我々の重大な過失がマオ陛下のご友人に危害を加えそうになったばかりか、マオ陛下のおつくりになられた魔道具までも破壊してしまうとは?!!
まことに申し訳ありません!!手違いとはいえ、必ず相応の償いをさせていただきます!」
という宰相の言葉はすごく説得力があった。
皇帝の謝罪には若干違和感があったものの、まおちゃんの友達が危険にさらされることもないならこれでいいのか…と俺は思ったのだが…。
「残念だったわね!あなたたちの悪事はこいつが全て吐いてくれたわ!」
その後『それ』を引きずって表れた瀬利亜の姿に、会議室にいた俺やまおちゃんを含めた全員が驚愕に固まった。
瀬利亜!!一体何を引きずってきてるの?!
ぼろぼろになったそいつは先日の魔神バズズと同じような、およそ人間とは思えないすさまじい瘴気をまとっているんだけど?!!!!
「どうやら、心当たりがありすぎて何も言えないようね!」
違うよ!瀬利亜!!
そいつがあまりにもとんでもない存在過ぎて、帝国どころか陽だまり国側の人間も全員固まってしまっているよ!!
「証拠を見せてあげるわ!
さあ、まおちゃんの大事な大事な魔道具を帝国をそそのかして壊させたのはあなたの指図よね!」
「ハイ…ソノ通リデス…。」
「ほら、魔神ディアマットの片腕のこいつがきりきり白状してくれたわよ。これで言い逃れはできないわよね!」
いやいや!!瀬利亜はどや顔で言い切っているけど、言われた帝国の人たちはまおちゃんに言われた時以上の困惑と恐慌状態になっているんだけど?!!
「一体これはどういうことなのじゃ?」
困惑していたまおちゃんが瀬利亜に声をかける。
「それは私からも補足説明した方がよさそうだね。」
いつの間にか会場に姿を現していた児雷也さんが、これまたどや顔で答えている。
なんとなく嫌な予感がするが、瀬利亜と児雷也さん以外が固まっている状況では聞くしかないよね。
「瀬利亜どのが、『正義の直感』で帝国内の怪しいところをサーチしていたところ、魔神ディアマットの眷属が暗躍しているのを発見したのさ。
下っ端は詳細は知らされていなかったので、芋づる式に上までたどっていき、親玉の魔神まで行ったのだが、それでも
『詳細はわしの右腕のラーフラに任せてあったので、そいつに聞いてくれ、細かいことはわしにはわからん!だから、これ以上勘弁して!!』
とか言い出したので、そこのラーフラに『お話』したというわけさ♪」
さらっととんでもないことを言い出したよ?!!
そして、そのセリフを聞いた帝国の人たちは完全に真っ白になっている。
自白内容以前に魔神そのものや目の前の魔神の右腕がボコられている事実に戦慄しているよね?!!
「…待ってください!!!
その魔神の眷属と接触したことはありますが、魔国…陽だまり国に危害どうこうなんて話は考えたことも話したこともありません!!」
顔面蒼白の宰相が必死に言葉をひねり出している。
それを聞いていた皇帝の顔に明らかに動揺が見られたが、口を挟める状態ではないようだ。
しかし、帝国側のこの反応は…?
「あの、瀬利亜さん。
その魔神の右腕に明らかに間違いだとわかる質問をしてみていただけますか?」
エイムスがおずおずと口をはさむ。
しばし、きょとんとしていた瀬利亜だが…。
「さて、ラーフラさん、あなたは女ですか?」
「ハイ…ソノ通リデス…。」
「「「………。」」」
明らかにごつい男にしか見えない魔神の右腕は感情のない声で先ほどと同じ言葉を繰り返した。
「なるほど!瀬利亜さんにボコられ過ぎて、まともな判断力がなくなっているようだね。
これでは質問しても仕方ないね…。困った困った。」
児雷也さんが帝国の人たちの顔を涼しい表情で眺めまわすと…。
あっという間に事件の真相は明らかになった。
(SIDE 瀬利亜)
なんと、まおちゃんと友達になった冒険者3人組の中の女神官のエルザさんは先代皇帝の皇帝の孫娘で、先代皇帝の血族の中のただ一人の生き残りだったのです。
クーデターを起こした現在の皇帝マーベラスは、エルザさんの生存を最近になって知り、暗殺することで自身の権力が揺るがないように動いたそうなのです。
幸か不幸かまおちゃんが彼らの『ズットモ』だという情報を得ていなかったばっかりに、そのことでかえって墓穴を掘ってしまったわけです。
まおちゃんに対してはそれ以上でもそれ以下でもなかったわけですが、魔神の眷属との関係は…。
魔神の眷属にそそのかされて、魔国改め、陽だまり国以外の国への影響力を伸ばそうとはしていたそうです。そのことは皇帝、宰相他、ほんの少しの人たちしか知らない事実でした。
それらのことを『自動人形のように』宰相と皇帝はしゃべってくれました。
そして、彼らは引退し、穏健派の皇族が新たに帝位につき、同じく穏健派の貴族が新たな宰相になりました。
エルザさんは面倒な地位に就くのを嫌がり、今まで通りただの神官としてダイドーさんたちと一緒に冒険者を続けるそうです。
そして、まおちゃんは…。
「おおっ!!巨大ゴーレム作りもものすごく面白いのじゃ!!」
「そうだろう、そうだろう!まおちゃんには素晴らしい才能があるぞ!!」
「その通りや!!魔法はもちろんのこと、こういう方面にも抜群の才能がありはるんやね!!」
マグナ博士!光ちゃん!まおちゃんをおかしな道に誘わないでください!!
(了)
アイーダ大陸最大の国、ギガンテック帝国がこともあろうにまおちゃんに正面からケンカを売ったという話を聞き、俺は自分の耳を疑った。
先月、リヴァイアサンの集団が帝国の沿岸で暴れまわっているという情報が入って来次第、瀬利亜の奴が『俺が退治に行くべきだ』と強く強く主張してきた。
『勇者・健人はドラゴンスレイヤーならぬ、リヴァイアサンスレイヤーだ』と世界中に印象付けをするためにもこういう機会は積極的に活用すべきだと。
先日のスーパーヒーローオリンピックからの流れで、エイムスの故国・フラムス王国のもてなし料理が『リヴァイアサン尽くしコース』になったあおりで、『勇者が仕留めたリヴァイアサンの素材』がいくらあってもかまわない…という状況になってしまったのだ。
『リヴァイアサンスレイヤーの勇者・健人のいるフラムス王国』というのがブランドになりつつあることと、次以降のスーパーヒーローオリンピックで、『リヴァイアサンスレイヤーのうさぎさんブレイブ』として常連になるのだという…。
次回も『うさぎさんブレイブ』で出場確定なの?!
…それはともかく、俺、エイムス、そして『陽だまり国元帥』のシルバさんの三人でリヴァイアサン退治に帝国まで出向いたのだった。
え?どうして、まおちゃんの国が『陽だまり国』になっているか?だって?
瀬利亜やアルテアさんたちといろいろ話し合った結果、
「妾は種族とか関係なしに、みんなが安心して暮らせる国を作るのじゃ!」とまおちゃんが国の名前を正式に『陽だまり国』にしたのだそうだ。
『陽だまり国の魔王』……うん、魔王という称号がまるで合わないよね…。
これからは『陽だまり国の女王様』とか呼んだ方がよさそうだね。
…話は戻って、俺、エイムス、シルバさんの3人はトラミちゃんの運転する猫娘バスの上からリヴァイアサンの集団に攻撃を仕掛けていった。
一体一体が超級モンスターであるリヴァイアサンが三十体以上も群れていたのだから、陽だまり国を除けば最強の帝国軍でも手の出しようがなかったのも仕方ないし、俺もその集団の圧力を感じただけで、さすがに背筋に寒いものが走った。
しかし、3人でうまく連携して攻撃すると、思った以上にさくさくとリヴァイアサンの集団を蹴散らすことができた。
倒すことが困難だったというより、半分以上を壊滅させた後、逃げ出すリザイアさんたちを確実に仕留める方が手間だったくらいだ。
だが、一番戦慄させられたのは掃討が終わった後の運転手のトラミちゃんの次の言葉だった。
「みんにゃ、よくがんばったのにゃ♪3人そろえば、『大鉄人ニャンセブン』なみに活躍することができるのにゃね♪」
トラミちゃんの操縦するニャンセブンは俺たち3人並みの戦闘力なのか?!
そんな感じでリヴァイアサンの集団退治をした俺たちを帝国の軍部や政府は曲がりなりにも感謝してくれ、好意的な雰囲気で彼らとは別れたのだった。
彼らは陽だまり国元帥シルバさんの卓越した戦闘能力を目の当たりに、さらにシルバさんに近いくらい強い『魔王六天王』がいるという話も聞いているわけなので、それだけでもわざわざケンカを売りに行くとは思えなかったのだ。
「ギガンテック帝国単独だと、確かに健人さんのおっしゃる通りでしょう。
だから、陽だまり国を敵に回しても大丈夫なくらいの『後ろ盾』を得たのかもしれませんね。」
帝国に乗り込む前の作戦会議の時に、『情報収集・分析のプロ』でもある『世界最強の忍者』にして地球防衛軍日本支部隊長の風魔児雷也さんが俺の疑問に答えてくれた。
「あのう…本職の方はだいじょうぶなんでしょうか?」
「はっはっは、安心したまえ、健人君。
やはり実戦が最大の訓練でもあるのだよ。『地球防衛のため』にも瀬利亜くんに無理を言って、今回の任務をねじ込んでもらったのさ♪
私が来たからには帝国の裏の裏まで丸裸にしてあげよう♪」
嬉しそうに高笑いする児雷也さんを見て、我々は別の意味で不安に駆られたのだが…。
帝国にはまおちゃんの友達の冒険者3人を伴い、リヴァイアサン退治の時の俺たち3人、さらにまおちゃん本人とエルフの男性のラムダ外相、そして望海ちゃんと兜鋼児さん(モンスターバスター12星最強の肉体を誇る超人マルク)の2人で来ている。
まおちゃん、ラムダ外相、俺たち3人は帝国に直接抗議する役割だ。
本来なら口先が立ち、頭の回転も速く度胸もある瀬利亜がこの役割なのだが、今回は児雷也さんと一緒に情報収集に動いているのだ。
だから代わりに頭がよく、交渉力のあるラムダ外相とまおちゃんがタッグを組んでメインになるそうだ。
望海ちゃんと鋼児さんは、なぜか襲われた冒険者3人の護衛の役割だ。
ラムダ外相はシルバさんの幼馴染で、『力こそパワー』だった魔国においては最近まで冷遇されていたそうだ。
しかし、誠実で頭がよかったラムダさんをまおちゃん政権が抜擢したところ、非常に高い実務能力を発揮し、外相兼宰相に登用された……ええ?!政治の最高責任者じゃん!!
それはともかく、見た目は30代前半の細身のイケメンエルフと俺たちは帝国につくまでの間いろいろ打ち合わせをしていた。
「ねえ、健人。ラムダさんてシルバさんに気があるんじゃない?」
打ち合わせがひと段落し、二人になったときにエイムスが爆弾発言をしてきた。
そして、あとで俺がそれを踏まえてラムダさんに注目していたところ……しばしばラムダさんはシルバさんにいかにも意味ありげに視線を向けているではないか?!!
ちなみに瀬利亜に確認したところ、
「そうなのよねえ。ラムダさんは子供のころからシルバさんのことが大好きだったようなの。だけど、エリートコースまっしぐらのシルバさんと、全く目の出ない自分を見比べてあきらめていたみたいね。
それが、最近大抜擢されたから、また意識しだしたみたいよ。
残念ながらシルバさんはまおちゃんのことしか目に入っていないから、ラムダさんのことは信頼できる『ただの幼馴染』なんだよね。
え?帝国突入の時にやたら張り切っていた?
好きな人にいいところを見せたかったのでしょうね。
実務能力は高いけど、基本はそういう素朴な人だから、気持ちさえ通じたらお似合いなんだけどね。ハードルはかなり高そうだけど…。
というか、今のあなたはエイムスちゃんに対して『シルバさんと同じ立場』なのだから、他人ごとではないんだけどね。」
と釘をさされてしまった。
俺が墓穴を掘った事件は置いておいて、とりあえず、俺たちはついに帝国に外交的な殴り込みをかけたのであった。
「帝国の工作員が妾の大切な友人を攻撃したうえに、妾が心を込めて作った貴重な魔道具の数々を壊した件は一体どういったわけなのじゃ?」
さすがはまおちゃんだ。
普段は瀬利亜の前で嬉しそうにニコニコしている素朴でかわいらしい姿が目に付くまおちゃんだが、魔族の中で最大のポテンシャルを持ち、着実に戦闘能力・実務能力を伸ばしている自身に満ち溢れた姿は帝国の首脳部を完全に委縮させている。
これで帝国の人たちは比較的簡単に犯行を自白するのではと思ったのだが…。
おかしい!明らかに変だ。
皇帝を含めて、帝国首脳部は完全にまおちゃんに気圧されているのだが、全員何を言われているのかわからないという困窮した雰囲気に包まれている。
同じことを感じたのか、エイムスとラムダ外相も戸惑っている。
俺とエイムス、そしてデフォルドは魔王軍に与した人間側の勢力との対面交渉も何度もやったことがある。
だから、『痛いところを突かれて狼狽している』のか、そうでないかは大体わかるのだが、全員後ろめたいというより、困惑が先に立っているのだ。
だから、
「我々は凶悪犯を追っていたはずが、こともあろうに人違いでマオ陛下のご友人を襲ってしまったようです!!
我々の重大な過失がマオ陛下のご友人に危害を加えそうになったばかりか、マオ陛下のおつくりになられた魔道具までも破壊してしまうとは?!!
まことに申し訳ありません!!手違いとはいえ、必ず相応の償いをさせていただきます!」
という宰相の言葉はすごく説得力があった。
皇帝の謝罪には若干違和感があったものの、まおちゃんの友達が危険にさらされることもないならこれでいいのか…と俺は思ったのだが…。
「残念だったわね!あなたたちの悪事はこいつが全て吐いてくれたわ!」
その後『それ』を引きずって表れた瀬利亜の姿に、会議室にいた俺やまおちゃんを含めた全員が驚愕に固まった。
瀬利亜!!一体何を引きずってきてるの?!
ぼろぼろになったそいつは先日の魔神バズズと同じような、およそ人間とは思えないすさまじい瘴気をまとっているんだけど?!!!!
「どうやら、心当たりがありすぎて何も言えないようね!」
違うよ!瀬利亜!!
そいつがあまりにもとんでもない存在過ぎて、帝国どころか陽だまり国側の人間も全員固まってしまっているよ!!
「証拠を見せてあげるわ!
さあ、まおちゃんの大事な大事な魔道具を帝国をそそのかして壊させたのはあなたの指図よね!」
「ハイ…ソノ通リデス…。」
「ほら、魔神ディアマットの片腕のこいつがきりきり白状してくれたわよ。これで言い逃れはできないわよね!」
いやいや!!瀬利亜はどや顔で言い切っているけど、言われた帝国の人たちはまおちゃんに言われた時以上の困惑と恐慌状態になっているんだけど?!!
「一体これはどういうことなのじゃ?」
困惑していたまおちゃんが瀬利亜に声をかける。
「それは私からも補足説明した方がよさそうだね。」
いつの間にか会場に姿を現していた児雷也さんが、これまたどや顔で答えている。
なんとなく嫌な予感がするが、瀬利亜と児雷也さん以外が固まっている状況では聞くしかないよね。
「瀬利亜どのが、『正義の直感』で帝国内の怪しいところをサーチしていたところ、魔神ディアマットの眷属が暗躍しているのを発見したのさ。
下っ端は詳細は知らされていなかったので、芋づる式に上までたどっていき、親玉の魔神まで行ったのだが、それでも
『詳細はわしの右腕のラーフラに任せてあったので、そいつに聞いてくれ、細かいことはわしにはわからん!だから、これ以上勘弁して!!』
とか言い出したので、そこのラーフラに『お話』したというわけさ♪」
さらっととんでもないことを言い出したよ?!!
そして、そのセリフを聞いた帝国の人たちは完全に真っ白になっている。
自白内容以前に魔神そのものや目の前の魔神の右腕がボコられている事実に戦慄しているよね?!!
「…待ってください!!!
その魔神の眷属と接触したことはありますが、魔国…陽だまり国に危害どうこうなんて話は考えたことも話したこともありません!!」
顔面蒼白の宰相が必死に言葉をひねり出している。
それを聞いていた皇帝の顔に明らかに動揺が見られたが、口を挟める状態ではないようだ。
しかし、帝国側のこの反応は…?
「あの、瀬利亜さん。
その魔神の右腕に明らかに間違いだとわかる質問をしてみていただけますか?」
エイムスがおずおずと口をはさむ。
しばし、きょとんとしていた瀬利亜だが…。
「さて、ラーフラさん、あなたは女ですか?」
「ハイ…ソノ通リデス…。」
「「「………。」」」
明らかにごつい男にしか見えない魔神の右腕は感情のない声で先ほどと同じ言葉を繰り返した。
「なるほど!瀬利亜さんにボコられ過ぎて、まともな判断力がなくなっているようだね。
これでは質問しても仕方ないね…。困った困った。」
児雷也さんが帝国の人たちの顔を涼しい表情で眺めまわすと…。
あっという間に事件の真相は明らかになった。
(SIDE 瀬利亜)
なんと、まおちゃんと友達になった冒険者3人組の中の女神官のエルザさんは先代皇帝の皇帝の孫娘で、先代皇帝の血族の中のただ一人の生き残りだったのです。
クーデターを起こした現在の皇帝マーベラスは、エルザさんの生存を最近になって知り、暗殺することで自身の権力が揺るがないように動いたそうなのです。
幸か不幸かまおちゃんが彼らの『ズットモ』だという情報を得ていなかったばっかりに、そのことでかえって墓穴を掘ってしまったわけです。
まおちゃんに対してはそれ以上でもそれ以下でもなかったわけですが、魔神の眷属との関係は…。
魔神の眷属にそそのかされて、魔国改め、陽だまり国以外の国への影響力を伸ばそうとはしていたそうです。そのことは皇帝、宰相他、ほんの少しの人たちしか知らない事実でした。
それらのことを『自動人形のように』宰相と皇帝はしゃべってくれました。
そして、彼らは引退し、穏健派の皇族が新たに帝位につき、同じく穏健派の貴族が新たな宰相になりました。
エルザさんは面倒な地位に就くのを嫌がり、今まで通りただの神官としてダイドーさんたちと一緒に冒険者を続けるそうです。
そして、まおちゃんは…。
「おおっ!!巨大ゴーレム作りもものすごく面白いのじゃ!!」
「そうだろう、そうだろう!まおちゃんには素晴らしい才能があるぞ!!」
「その通りや!!魔法はもちろんのこと、こういう方面にも抜群の才能がありはるんやね!!」
マグナ博士!光ちゃん!まおちゃんをおかしな道に誘わないでください!!
(了)
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彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
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拾われ子のスイ
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【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
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スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
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清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
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周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
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