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1 婚約破棄は突然に
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私は婚約者の物理教師、錦織 光一からの呼び出しメールに従って、校舎裏に中庭に向かっていた。
放課後の掃除終了後にメールを開けて読んだときあれ?と違和感を覚えた。
いつものメールと違い、非常に簡潔で事務的なメールで、指定時間に校舎裏に来るように…というだけのものだった。
首を捻ったものの理由が思いつかず、とりあえず鞄だけ持って移動することにする。
校舎裏には光ちゃ…もとい、錦織先生と、なぜか生徒会の面々とが一緒に立っている。
成績優秀、真面目で長身のイケメンと評判の生徒会長・如月 隼人。
勉強もでき、可愛くて愛想のいい美少女副会長・春日 更紗。
小柄な美少年で、一年で成績トップの書記の小森真一。
男子陸上部エースで、風紀委員長の精悍な長身の細マッチョ・二階堂武士。
一八〇近い、錦織先生と少し低い如月会長が前に、その後ろに隠れるように小柄な春日さんが立つ。
さらにその両脇を錦織先生よりさらに長身の二階堂君と、春日さんと同じくらいの身長の小森君が固める形になっている。
全員私を見る目が厳しいのはどういうことだろうか?
生徒会メンバーや錦織先生と揉めるようなことをした覚えは一切ないのだが…。
ちなみに私の名は石川 瀬利亜 。
『ただの一般生徒』です。銀髪のハーフで身長が一七〇あるので、普通…とまでは言えないかもしれませんが。
美少女系…でありたいところですが、幼馴染の友人に言わせると中身も含めて『男前系』だそうです。そこは喜ぶべきところなのだろうか?
「よう来はったな。瀬利亜はん。」
錦織先生が口を開く。怪しい関西弁を操る軽いノリのイケメン物理教師として生徒たちの人気は高いです。
「早速で悪いんやけんど、婚約破棄や!!」
はーーー??!!なんだってー??!!!
「まあ、今からの『容疑が本当やったら』いう話になるんやけどね。」
光ちゃ…もとい、錦織先生は厳しい顔で言う。
他のメンバーたちも同様に厳しい顔だ。とくに如月会長の目は私を糾弾するかのように鋭い目つきをしている。
錦織先生も条件付きとはいえ、婚約破棄を口に出すくらいだ。
相当思うところがあるのだろう…なるほど、彼の表情の変化から少しずつ状況が読めてきた。
「石川さん、君には心当たりがあるだろうが、副会長の春日さんに対する数々の嫌がらせについての件だ!」
え?!会長のおっしゃっておられることがさっぱり理解できません。春日さんに嫌がらせどころか、辛うじて副会長さんということと、顔と名前が一致する…くらいの関係でしかないのですが…。
「鞄や机の中から様々なものがなくなったり、切り刻まれることが続いた揚句、トドメが昨日、階段から春日さんを突き落したことだ!幸いにもかすり傷一つなかったようだが。」
「如月会長。全然身に覚えがないですし、そもそも春日さんをどうこうしたいという動機が全くないのですが…。」
私が丁寧に説明すると、如月会長だけでなく、錦織先生以外のメンバーの顔がさらに怒りに染まる。
光ちゃ…錦織先生は私とまわりのメンバーの顔をそれとなく見て、非常に難しい顔をしたままだ。
「まだ、しらを切るのか!鞄から筆箱などを盗んだ件に関しては目撃者がいるんだぞ!
そして、昨日の階段から突き落とした件でも他ならぬ春日さんが突き飛ばされた時、『銀色の髪の人』を見たと証言している。その後すぐに気絶したそうだが…。」
うーむ、これは困りました。私としては一切心当たりはないのだが、生徒会のメンバー全てが本気で私が犯人と信じているように見えるのだよね…。
この学校で銀色の髪の生徒は…留学生とかがかなりいるにしても私を入れて数名なのだよね。
「…瀬利亜はんは納得されてへんようやから、『明白な証拠』があれば、それを示された方がいいんやないでっか?例の『証人の子』を連れてきはるとか…。」
確かに『証人の証言』次第で、事実関係はもう少し明らかになりそうなのだが…。
「…そうですね。確かに証人の子に詳細が聞ければ容疑もはっきりするでしょうね!」
如月会長がそう言った時、私の目に一人の人影が飛び込んできた。
「瀬利亜さん、見っけ!一緒に帰りましょう♪」
私より、一回り小さな日本人形のような可愛らしい女の子が私に飛びついてきた。
同じクラスで、しかも私の家に下宿しているちーちゃんこと、神那岐 千早だ。
飛び級で三つ年下なのに我々と同じ高校二年生で、しかも成績がトップクラスだという反則な存在だ。素朴でふわふわの性格もあって、我がクラス二年雪組のマスコットみたいに主に女子にかわいがられている。
「神那岐さん、悪いけど先に帰ってもらえないか?」
如月会長が困った顔でちーちゃん…千早さんを見つめている。
「ええ?どうしてですか?」
「石川さんには生徒会副会長の春日さんにいろいろと嫌がらせをしてきたという嫌疑がかかっているのだよ。現在そのことを証明しようとしているところなんだ。」
「ええええ??!!それ、なにかの間違いですよ!!瀬利亜さん、絶対にそんなことされません!」
ちーちゃんは自信たっぷりに言い切っている。
「…いや、だから、石川さんが春日さんに嫌がらせをしたという証人もいるのだが…。」
「えええ??!!その証人の人はだれかと見間違えたのですよ!!間違いありません!!」
一二〇%の確信を持って断言するちーちゃんにさすがの如月会長も唖然としてしまう。
「あれ、ちーちゃん。瀬利亜さんまだ見つからないの?……みなさんどうされたんです?」
ちーちゃんの剣幕に固まっていた我々の前にさらに一人の美少女が姿を現した。
雪組のクラスメートで、可愛らしい系のお嬢様の綾小路 遥ちゃんだ。
おっとりした優等生なのだが、ものすごく芯がしっかりしており、いざという時は頼りになるのだ。
「あ、遥さん!もう、如月会長は酷いんですよ!瀬利亜さんが副会長さんに嫌がらせをされたとか『誤解されている』んです!!遥さんも何とか言ってあげてくださいよ!!」
「ちーちゃん、それ本当なの?!
如月会長!困りますよ!瀬利亜さんが人に嫌がらせなんてするはずがないじゃないですか!!ちゃんと調べてもらわないと困ります!!」
うわー、二人ともすごく気持ちは有難いです。
…とはいえ、話をまともに聞かないうちからそこまで断言してしまうのは…さすがにやりすぎでは?
「……いや、だから…石川さんが春日さんに嫌がらせをするのを見たという証人が…。」
「いえ、そこがそもそもおかしいんです!瀬利亜さんが春日副会長に嫌がらせをする動機が一切ないじゃないですか!」
遥ちゃんがきっぱり断言する。
うん、嫌がらせをすること自体好きでないもの確かだけど、それ以前に春日さんのことを『生徒会の副会長として認識している』…それ以上に私が関心が一切ないんだよね…。
「…動機ならある!」
如月会長の言葉に私、ちーちゃん、遥ちゃんが会長の顔をじっと見る。
「ここしばらく、錦織先生は春日副会長に色々な相談を持ちかけることが多かったという。それを石川さん、あなたは嫉妬して彼女に嫌がらせをしたのだ!」
きっぱりと言い切る如月会長に私は完全に固まった。えーと…それ…会長の単なる思い込みだよね?と思ったら、生徒会の面々は全員うなずいている。
ええええ??!みんな、そういう認識だったの??!!
「如月会長。瀬利亜さんの動機面での決定的な目撃証言があります。聞いてもらえますか?」
ちーちゃんが前にもまして力いっぱい言い切る
「わかった。神那岐さん、言ってもらえるかな?」
すごく嫌な予感がしている私をしり目に如月会長の言葉にちーちゃんはしっかりとした口調で説明を始めた。
(※以下は視点を変えながら基本客観的な視点で描写します。)
それは昨日のことだった。
夕方千早が私用の買い物から帰ると、玄関に一足先に錦織が着いたところであった。
(私は光一さんより遅くなったのだな…)
千早が光一に声を掛けようとした時、扉が開き瀬利亜が姿を現した。
そして、錦織ににっこりとほほ笑みかけた。
「おかえりなさい。あ・な・た♪」
「待て!!ちょっと待て!!なんで錦織先生が石川の家に帰ってきて、しかもお帰りなさいを言われているのだ?!!」
「如月会長、慌てないでください。細かい説明は後でしますから、まずは話を聞いて下さい。」
「せ、瀬利亜はん、ただいま♪」
錦織はそわそわしながらとても嬉しそうに笑い返す。
「疲れたでしょう?いつでも夕食もお風呂も大丈夫ですよ♪
ご飯にされますか、お風呂にされますか?そ・れ・と・も♪」
完全に舞い上がった錦織はそれはそれは嬉しそうに叫ぶ。
「ぜひぜひ『それとも』の方でお願いします!!」
そこで、ブーーというブザー音が鳴る。
「ええ?!お風呂にも入らないで汚いですよ?ゲームオーバーです。」
瀬利亜が淡々とゲームオーバーを告げる。
「待て!!ちょっと待て!!なんでそこでゲームオーバーになるわけ??!!それ、王道の展開でしょ?!」
「如月会長、だから、慌てないでください。説明は後でしますから。」
…如月会長、突っ込むポイントが変わってますがな…。しかし、これは私にとっては非常にまずい展開だ。
「じゃあ、光ちゃん、セーブしたところからやり直しだから、いったん玄関を出てね。」
瀬利亜はそう言って、一度玄関を閉める。
再び錦織が玄関を開けると、瀬利亜が前にも増してにっこり笑って錦織を見る。
「お帰りなさい、あなた♪。ご飯にする?お風呂にする?そ・れ・と・も・♪」
「…お、お風呂でお願いや!!」
「じゃあ、お風呂にしますね♪一人で入られますか?それとも『二人で』入られますか?」
瀬利亜の言葉に錦織は満面の笑みを浮かべて叫ぶ。
「ぜひぜひ『二人で』お願いや!!!」
「そうですか。では、二人でお風呂にしますね。それとも『お風呂で』しますか?」
その言葉に錦織は本当に嬉しそうに心から叫びそうになる。
「それはもう、ぜひぜひ…。」
「光一さん、瀬利亜さん!!こんな時間から何をしようとされてるんですか??!!!」
……こうして、『至福のお風呂タイム』は未遂で終わった。
「この状況で瀬利亜さんが春日さんに嫉妬するとかありそうには…。」
ちーちゃんが情景描写を終え、再び説明に入ろうとした時、如月会長がいち早く正気に戻った。他のメンバーは私や光ちゃんを含めて、完全に固まってしまっている。
「錦織先生!!あなたは教え子に何をしようとされているんですか!!」
…うん、如月会長。完全に趣旨が変わってしまっているよね…。
「如月会長。二人は二カ月もしないうちに結婚・入籍されることが決まっているんですよ。それで、新居として今の瀬利亜さんの家に二人が一緒に住まれるんですが、錦織先生は現在のアパートを引き上げられるんです。
結婚の準備を進められるのにバラバラでは効率が悪いからとどんどん荷物も瀬利亜さん家に移動させているんです。結婚の準備のこともあって、現在は錦織先生もほぼ瀬利亜さん家から学校に通われていて、周りの人も黙認されている状態ですね。
もう、『実質ご結婚されている』ようなものですから、一緒にお風呂に入られようがなんだろうが構いませんが、『人前で見せる』のはやめてほしいです。」
ちーちゃんにジト目で見られて私はうつむく。
はい、『変なものを目撃させて』申し訳ありません。
…ところで、春日副会長が『そんな馬鹿な』とか『婚約者とは形だけのはず』とか『乙女ゲー』がどうこうとか小さな声でぶつぶつつぶやかれているようなのは…どういうことなのでしょうか?
「あれ?みんなこんなところでどうしたの?」
またもや新たな闖入者が…我らが雪組の副担任で、石川家に同じく下宿されている化学のアルテア先生でした。
一八二センチの長身に、長い金髪でゆるーい優しい美女は男女を問わず絶大な人気がある。
「アルテアさん!如月会長が酷いんですよ!!瀬利亜さんが光一さんが取られそうだと春日副会長に嫉妬して嫌がらせをした…という重大な誤解をされているんです!!」
ちーちゃん、適切な説明をありがとうございます…。
「あらあ、本当よねえ。瀬利亜ちゃんかしこいから、嫌がらせなんてバカなことしないわよね。同じするんだったら光一君に徹底的にアプローチするはずよ。
たとえば、『エプロンだけ』を着用して、料理を出しながら『私も一緒に召し上がれ♪』みたいに行動するよね♪」
「いやいや、アルさん!生徒の前で何をダメ発言されてるんですか?!!」
「えええ??!でも、巧さんに『実演』したらものすごく効果があったよ?」
アルさん!旦那様に実演されたんですか??!!いや、男性陣全員鼻血を吹いているよ!!
一〇八センチの凶悪な桃がエプロンに隠れているのを想像したでしょ??!!
「光ちゃん!あなたまで何を想像されているんですか??!!」
鼻血を吹いている光ちゃ…錦織先生…いや、もう光ちゃんでいいや!に私が思わず叫ぶ。
「瀬利亜はん、誤解や!裸エプ◎ンと聞いて一週間前のことを思いだしてもうただけや…。ところで、『今度は』こんなデザインのエプロンはどうやろか?」
「いやいや!!こんな『メイド風エプロン』は恥ずかしすぎるからね!!というか、いつの間にそんなフィギュアを作ったわけ??!それから、なんで持ち歩いているの??」
「あのう、瀬利亜さん?」
ようやく正気に戻った遥ちゃんが口を開く。
「もしかして…一週間前に『エプロンだけの扮装をされた』わけですか?」
…バレました…。バレてはいけないことが発覚しました…。
「いやあ、出来心でついついやってもらってもうたんや♪で、今日は最新鋭の三Dプリンターでいろいろ実験しとったら、つい、一週間前のことを思いだしたんや。そして、気付いたら、こんな傑作が完成しとった言うわけや!!」
光ちゃん、やっちゃった、テヘペロ♪みたいに告白するのやめようね…。最初のうちは『嫌がらせ事件の真相を知るために演技してるんや!』と私にアイコンタクトして知らせてくれた上での演技モードだったけど、今は完全に『素に戻って』しまっているよね…。
さらに言えば歯をキラッと光らせて、鼻血を出しながらドヤ顔するのはやめよう…。
そう思いながら光ちゃんの鼻血を拭いてあげている私がいました。
「光一さん、ずるいです!そのフィギュア、私にも作ってください♪」
「あ、私も欲しいです!!」
「私にもぜひお願いね♪」
ちーちゃん、遥ちゃん、アルさん、なんで私の『裸エプ◎ン』のフィギュア何ぞ欲しがるんですか?!意味がわかりません!!
「錦織先生!!」
半分我を失っていた春日副会長が光ちゃんに歩み寄る。
「石川さんとは『形だけの婚約』じゃあなかったんですか?!」
「数年前に一緒の武術道場に入門して以来の友人付き合いやったんやけど、少し前にいろいろあって、わてが正式にプロポーズしたんや。
せやから、形だけやのうて『ラブラブ婚約』やね♪」
「瀬利亜さんのスペックの高さをずいぶん気にしておられる錦織先生に私が放課後いろいろ話をしましたよね?!
『人間、学歴とか社会地位とかのスペックが大切なわけではない、その人らしく生きることが大切だ』とお伝えしたら、すごく喜んでおられましたよね?!」
「瀬利亜はんは表面上のスペックも確かにすごいねんけんど、内面の男前のスペックの高さのカッコよさと、天然で、優しくて、ほわほわした『めっさ可愛い面のギャップ萌え』が最高なんや!カッコいいのに面白お姉はんやねん♪
わてのスペックがどうこうとか全く気にされることもあらへんから、一緒にいてものすごく楽やねん。」
「…じゃあ、一生懸命私の話を聞いてくれていたのは…。」
「春日はん、カウンセラーやコンサルの仕事を志しておられるんやろ?いい意味でわてを実験台にして練習されてはったんと違うん?」
光ちゃんといろいろ話をして春日さんの顔色がさらに悪くなる。
春日さんが『今までは逆ハーレムがうまくいったのに』とか『石川さんが悪役令嬢ぽくない』とか『ゲームでは錦織先生はもっと簡単に…』とか意味不明の言葉をさらにつぶやかれているのですが…。
「みなさん、すごく脱線されているようなのですが、昨日春日さんが階段から突き落とされた件を検証すれば全ての謎が解けるのでは?」
一人残らず当初の目的を見失ってしまったようなので、私が恐る恐るといった感じで、みんなに声を掛ける。
「はっ?そうでしたね…。ところで、どうやって検証しましょうか?」
如月会長が完全に毒気を抜かれた感じで淡々と話をする。
「あら、だったら現場を録画した動画を確認すれば一発だわ。ここの学校はお忍びでVIPが登校していたりするので、犯罪対策にいろんなところに『謎のカメラ』が仕掛けてあったりするのよ。」
アルさんが涼しい顔で提案する。ちなみに一番のVIPは世界クラスの『魔法使い』である、アルさんなのですが、ご本人にそのご自覚はおありなのでしょうか?
みんなで視聴覚室に行って、スクリーンに階段の踊り場が映される。生徒の声もして、その場にいるような錯覚に陥りそうになる。、
みんなは録画をアルさんが確認して映してくれていると思っているようだが、私の見る限り『過去の映像を映す魔法』で再生しているのですが…。まあ、映像を検索するだけですごく大変なので、その方が時間の節約になっていいよね。
みんな食らいつくように映像を見ている。特に春日さんの目が血走っている。
『これで、石川さんの本質が暴かれれば、錦織先生も…。』とかヤバそうなことを口走っておられるのですが…。
いえ、くどいようですが、私には人を突き落したような覚えはないんですけど…。
まもなく、春日さんが一人で階段を降りようとしているが目に入ってきた。
そして、その後ろから一人の走る女生徒が…え?この人女子陸上の人だよね?!
ああっ!!その子が誤って春日さんにぶつかって、春日さんがバランスを崩して、階段に結果的にダイビングしている!!
おおっ!!通りがかった女の子が抜群の運動神経と、細心の注意を払って、うまく春日さんを受け止めたぞ!!
よく怪我しなかったよね。…て、その子銀色の髪をしてますがな…て私じゃん!!
…はい、思い出しました。そんなこともあったよね…。
ええと、周りのみんなが説明を求める視線を私に向けてきたのですが…。
「なるほど、ぶつかった女の子が『推薦入学の件』で非常に急いでおり、後始末も瀬利亜さんが全てされたわけですね。
で、誰もいない保健室に運び込まれた後、瀬利亜さんがすごく急がれていたので、助けた女の子の素性をまともに確認されていなかった…とそういうことですね。その話をしてくれていれば全然こじれなかったわけですよね」
遥ちゃんがため息をつきながら私を見る。
「はい、申し訳ないです。しっかりと説明責任を果たさなかった私にも大きく問題がありました。」
「瀬利亜さん、その場でされたことはカッコいいんですけど、急がれていた理由は『夕食とお風呂の準備』ですよね?それって、『そ・れ・と・も・私?』をされるためにそこまで必死になられていた…そういうわけですよね。」
「…ナ、ナンノ話デショウカ…。」
「そんな瀬利亜さんに『罰ゲーム』です。今度みんなで温泉に行ったときにお風呂から上がられてから『エプロンだけモード』をお願いします♪」
「遥ちゃん!そんなことを言っていたら『みんなの分も用意』してきちゃうぞ!!」
「「ええっ??!!それはまずいです!!」」
遥ちゃんとちーちゃんの声がハモる。
「まあ、みんなうれしそうね♪じゃあ、私もみんなの分を用意するから、みんなで着せ替えしましょうか♪」
アルさん、なんでそんなに嬉しそうに言うわけ?!それからそんな着せ替えは嫌ですから!!あっ!また、男性陣が全員鼻血を出して、今度はぶっ倒れた!!
こうして事件は解決し、私は生徒会の皆様から正式に謝罪を受けたのでした。
春日さんにぶつかった推薦入試の女生徒さんは翌日春日さんに謝罪に来られたそうだ。
なお、春日さんに地味に嫌がらせをしていた犯人はなんと、『私が嫌がらせをしたと証言した女の子』であった。如月会長に恋していた彼女は会長が春日さんにメロメロなので、嫉妬して嫌がらせをしていた挙句、罪を『悪役令嬢で推定犯人』の私になすりつけていたそうだ。…ヤンデレ怖いよね…。
事件から三日後、学校中をバレンタインのチョコが飛び交った。
なぜか女の私のところには学校で飛びぬけてたくさんのチョコが舞い込んできた。
『婚約者のいる女性』にチョコを贈るとか…みなさま、なにか間違っておられると思うんですよ…。お気持ちは嬉しいですけど…。
ところで、なぜか春日さんからも手作りのチョコが届いたのは…気のせいにならないでしょうか?
放課後の掃除終了後にメールを開けて読んだときあれ?と違和感を覚えた。
いつものメールと違い、非常に簡潔で事務的なメールで、指定時間に校舎裏に来るように…というだけのものだった。
首を捻ったものの理由が思いつかず、とりあえず鞄だけ持って移動することにする。
校舎裏には光ちゃ…もとい、錦織先生と、なぜか生徒会の面々とが一緒に立っている。
成績優秀、真面目で長身のイケメンと評判の生徒会長・如月 隼人。
勉強もでき、可愛くて愛想のいい美少女副会長・春日 更紗。
小柄な美少年で、一年で成績トップの書記の小森真一。
男子陸上部エースで、風紀委員長の精悍な長身の細マッチョ・二階堂武士。
一八〇近い、錦織先生と少し低い如月会長が前に、その後ろに隠れるように小柄な春日さんが立つ。
さらにその両脇を錦織先生よりさらに長身の二階堂君と、春日さんと同じくらいの身長の小森君が固める形になっている。
全員私を見る目が厳しいのはどういうことだろうか?
生徒会メンバーや錦織先生と揉めるようなことをした覚えは一切ないのだが…。
ちなみに私の名は石川 瀬利亜 。
『ただの一般生徒』です。銀髪のハーフで身長が一七〇あるので、普通…とまでは言えないかもしれませんが。
美少女系…でありたいところですが、幼馴染の友人に言わせると中身も含めて『男前系』だそうです。そこは喜ぶべきところなのだろうか?
「よう来はったな。瀬利亜はん。」
錦織先生が口を開く。怪しい関西弁を操る軽いノリのイケメン物理教師として生徒たちの人気は高いです。
「早速で悪いんやけんど、婚約破棄や!!」
はーーー??!!なんだってー??!!!
「まあ、今からの『容疑が本当やったら』いう話になるんやけどね。」
光ちゃ…もとい、錦織先生は厳しい顔で言う。
他のメンバーたちも同様に厳しい顔だ。とくに如月会長の目は私を糾弾するかのように鋭い目つきをしている。
錦織先生も条件付きとはいえ、婚約破棄を口に出すくらいだ。
相当思うところがあるのだろう…なるほど、彼の表情の変化から少しずつ状況が読めてきた。
「石川さん、君には心当たりがあるだろうが、副会長の春日さんに対する数々の嫌がらせについての件だ!」
え?!会長のおっしゃっておられることがさっぱり理解できません。春日さんに嫌がらせどころか、辛うじて副会長さんということと、顔と名前が一致する…くらいの関係でしかないのですが…。
「鞄や机の中から様々なものがなくなったり、切り刻まれることが続いた揚句、トドメが昨日、階段から春日さんを突き落したことだ!幸いにもかすり傷一つなかったようだが。」
「如月会長。全然身に覚えがないですし、そもそも春日さんをどうこうしたいという動機が全くないのですが…。」
私が丁寧に説明すると、如月会長だけでなく、錦織先生以外のメンバーの顔がさらに怒りに染まる。
光ちゃ…錦織先生は私とまわりのメンバーの顔をそれとなく見て、非常に難しい顔をしたままだ。
「まだ、しらを切るのか!鞄から筆箱などを盗んだ件に関しては目撃者がいるんだぞ!
そして、昨日の階段から突き落とした件でも他ならぬ春日さんが突き飛ばされた時、『銀色の髪の人』を見たと証言している。その後すぐに気絶したそうだが…。」
うーむ、これは困りました。私としては一切心当たりはないのだが、生徒会のメンバー全てが本気で私が犯人と信じているように見えるのだよね…。
この学校で銀色の髪の生徒は…留学生とかがかなりいるにしても私を入れて数名なのだよね。
「…瀬利亜はんは納得されてへんようやから、『明白な証拠』があれば、それを示された方がいいんやないでっか?例の『証人の子』を連れてきはるとか…。」
確かに『証人の証言』次第で、事実関係はもう少し明らかになりそうなのだが…。
「…そうですね。確かに証人の子に詳細が聞ければ容疑もはっきりするでしょうね!」
如月会長がそう言った時、私の目に一人の人影が飛び込んできた。
「瀬利亜さん、見っけ!一緒に帰りましょう♪」
私より、一回り小さな日本人形のような可愛らしい女の子が私に飛びついてきた。
同じクラスで、しかも私の家に下宿しているちーちゃんこと、神那岐 千早だ。
飛び級で三つ年下なのに我々と同じ高校二年生で、しかも成績がトップクラスだという反則な存在だ。素朴でふわふわの性格もあって、我がクラス二年雪組のマスコットみたいに主に女子にかわいがられている。
「神那岐さん、悪いけど先に帰ってもらえないか?」
如月会長が困った顔でちーちゃん…千早さんを見つめている。
「ええ?どうしてですか?」
「石川さんには生徒会副会長の春日さんにいろいろと嫌がらせをしてきたという嫌疑がかかっているのだよ。現在そのことを証明しようとしているところなんだ。」
「ええええ??!!それ、なにかの間違いですよ!!瀬利亜さん、絶対にそんなことされません!」
ちーちゃんは自信たっぷりに言い切っている。
「…いや、だから、石川さんが春日さんに嫌がらせをしたという証人もいるのだが…。」
「えええ??!!その証人の人はだれかと見間違えたのですよ!!間違いありません!!」
一二〇%の確信を持って断言するちーちゃんにさすがの如月会長も唖然としてしまう。
「あれ、ちーちゃん。瀬利亜さんまだ見つからないの?……みなさんどうされたんです?」
ちーちゃんの剣幕に固まっていた我々の前にさらに一人の美少女が姿を現した。
雪組のクラスメートで、可愛らしい系のお嬢様の綾小路 遥ちゃんだ。
おっとりした優等生なのだが、ものすごく芯がしっかりしており、いざという時は頼りになるのだ。
「あ、遥さん!もう、如月会長は酷いんですよ!瀬利亜さんが副会長さんに嫌がらせをされたとか『誤解されている』んです!!遥さんも何とか言ってあげてくださいよ!!」
「ちーちゃん、それ本当なの?!
如月会長!困りますよ!瀬利亜さんが人に嫌がらせなんてするはずがないじゃないですか!!ちゃんと調べてもらわないと困ります!!」
うわー、二人ともすごく気持ちは有難いです。
…とはいえ、話をまともに聞かないうちからそこまで断言してしまうのは…さすがにやりすぎでは?
「……いや、だから…石川さんが春日さんに嫌がらせをするのを見たという証人が…。」
「いえ、そこがそもそもおかしいんです!瀬利亜さんが春日副会長に嫌がらせをする動機が一切ないじゃないですか!」
遥ちゃんがきっぱり断言する。
うん、嫌がらせをすること自体好きでないもの確かだけど、それ以前に春日さんのことを『生徒会の副会長として認識している』…それ以上に私が関心が一切ないんだよね…。
「…動機ならある!」
如月会長の言葉に私、ちーちゃん、遥ちゃんが会長の顔をじっと見る。
「ここしばらく、錦織先生は春日副会長に色々な相談を持ちかけることが多かったという。それを石川さん、あなたは嫉妬して彼女に嫌がらせをしたのだ!」
きっぱりと言い切る如月会長に私は完全に固まった。えーと…それ…会長の単なる思い込みだよね?と思ったら、生徒会の面々は全員うなずいている。
ええええ??!みんな、そういう認識だったの??!!
「如月会長。瀬利亜さんの動機面での決定的な目撃証言があります。聞いてもらえますか?」
ちーちゃんが前にもまして力いっぱい言い切る
「わかった。神那岐さん、言ってもらえるかな?」
すごく嫌な予感がしている私をしり目に如月会長の言葉にちーちゃんはしっかりとした口調で説明を始めた。
(※以下は視点を変えながら基本客観的な視点で描写します。)
それは昨日のことだった。
夕方千早が私用の買い物から帰ると、玄関に一足先に錦織が着いたところであった。
(私は光一さんより遅くなったのだな…)
千早が光一に声を掛けようとした時、扉が開き瀬利亜が姿を現した。
そして、錦織ににっこりとほほ笑みかけた。
「おかえりなさい。あ・な・た♪」
「待て!!ちょっと待て!!なんで錦織先生が石川の家に帰ってきて、しかもお帰りなさいを言われているのだ?!!」
「如月会長、慌てないでください。細かい説明は後でしますから、まずは話を聞いて下さい。」
「せ、瀬利亜はん、ただいま♪」
錦織はそわそわしながらとても嬉しそうに笑い返す。
「疲れたでしょう?いつでも夕食もお風呂も大丈夫ですよ♪
ご飯にされますか、お風呂にされますか?そ・れ・と・も♪」
完全に舞い上がった錦織はそれはそれは嬉しそうに叫ぶ。
「ぜひぜひ『それとも』の方でお願いします!!」
そこで、ブーーというブザー音が鳴る。
「ええ?!お風呂にも入らないで汚いですよ?ゲームオーバーです。」
瀬利亜が淡々とゲームオーバーを告げる。
「待て!!ちょっと待て!!なんでそこでゲームオーバーになるわけ??!!それ、王道の展開でしょ?!」
「如月会長、だから、慌てないでください。説明は後でしますから。」
…如月会長、突っ込むポイントが変わってますがな…。しかし、これは私にとっては非常にまずい展開だ。
「じゃあ、光ちゃん、セーブしたところからやり直しだから、いったん玄関を出てね。」
瀬利亜はそう言って、一度玄関を閉める。
再び錦織が玄関を開けると、瀬利亜が前にも増してにっこり笑って錦織を見る。
「お帰りなさい、あなた♪。ご飯にする?お風呂にする?そ・れ・と・も・♪」
「…お、お風呂でお願いや!!」
「じゃあ、お風呂にしますね♪一人で入られますか?それとも『二人で』入られますか?」
瀬利亜の言葉に錦織は満面の笑みを浮かべて叫ぶ。
「ぜひぜひ『二人で』お願いや!!!」
「そうですか。では、二人でお風呂にしますね。それとも『お風呂で』しますか?」
その言葉に錦織は本当に嬉しそうに心から叫びそうになる。
「それはもう、ぜひぜひ…。」
「光一さん、瀬利亜さん!!こんな時間から何をしようとされてるんですか??!!!」
……こうして、『至福のお風呂タイム』は未遂で終わった。
「この状況で瀬利亜さんが春日さんに嫉妬するとかありそうには…。」
ちーちゃんが情景描写を終え、再び説明に入ろうとした時、如月会長がいち早く正気に戻った。他のメンバーは私や光ちゃんを含めて、完全に固まってしまっている。
「錦織先生!!あなたは教え子に何をしようとされているんですか!!」
…うん、如月会長。完全に趣旨が変わってしまっているよね…。
「如月会長。二人は二カ月もしないうちに結婚・入籍されることが決まっているんですよ。それで、新居として今の瀬利亜さんの家に二人が一緒に住まれるんですが、錦織先生は現在のアパートを引き上げられるんです。
結婚の準備を進められるのにバラバラでは効率が悪いからとどんどん荷物も瀬利亜さん家に移動させているんです。結婚の準備のこともあって、現在は錦織先生もほぼ瀬利亜さん家から学校に通われていて、周りの人も黙認されている状態ですね。
もう、『実質ご結婚されている』ようなものですから、一緒にお風呂に入られようがなんだろうが構いませんが、『人前で見せる』のはやめてほしいです。」
ちーちゃんにジト目で見られて私はうつむく。
はい、『変なものを目撃させて』申し訳ありません。
…ところで、春日副会長が『そんな馬鹿な』とか『婚約者とは形だけのはず』とか『乙女ゲー』がどうこうとか小さな声でぶつぶつつぶやかれているようなのは…どういうことなのでしょうか?
「あれ?みんなこんなところでどうしたの?」
またもや新たな闖入者が…我らが雪組の副担任で、石川家に同じく下宿されている化学のアルテア先生でした。
一八二センチの長身に、長い金髪でゆるーい優しい美女は男女を問わず絶大な人気がある。
「アルテアさん!如月会長が酷いんですよ!!瀬利亜さんが光一さんが取られそうだと春日副会長に嫉妬して嫌がらせをした…という重大な誤解をされているんです!!」
ちーちゃん、適切な説明をありがとうございます…。
「あらあ、本当よねえ。瀬利亜ちゃんかしこいから、嫌がらせなんてバカなことしないわよね。同じするんだったら光一君に徹底的にアプローチするはずよ。
たとえば、『エプロンだけ』を着用して、料理を出しながら『私も一緒に召し上がれ♪』みたいに行動するよね♪」
「いやいや、アルさん!生徒の前で何をダメ発言されてるんですか?!!」
「えええ??!でも、巧さんに『実演』したらものすごく効果があったよ?」
アルさん!旦那様に実演されたんですか??!!いや、男性陣全員鼻血を吹いているよ!!
一〇八センチの凶悪な桃がエプロンに隠れているのを想像したでしょ??!!
「光ちゃん!あなたまで何を想像されているんですか??!!」
鼻血を吹いている光ちゃ…錦織先生…いや、もう光ちゃんでいいや!に私が思わず叫ぶ。
「瀬利亜はん、誤解や!裸エプ◎ンと聞いて一週間前のことを思いだしてもうただけや…。ところで、『今度は』こんなデザインのエプロンはどうやろか?」
「いやいや!!こんな『メイド風エプロン』は恥ずかしすぎるからね!!というか、いつの間にそんなフィギュアを作ったわけ??!それから、なんで持ち歩いているの??」
「あのう、瀬利亜さん?」
ようやく正気に戻った遥ちゃんが口を開く。
「もしかして…一週間前に『エプロンだけの扮装をされた』わけですか?」
…バレました…。バレてはいけないことが発覚しました…。
「いやあ、出来心でついついやってもらってもうたんや♪で、今日は最新鋭の三Dプリンターでいろいろ実験しとったら、つい、一週間前のことを思いだしたんや。そして、気付いたら、こんな傑作が完成しとった言うわけや!!」
光ちゃん、やっちゃった、テヘペロ♪みたいに告白するのやめようね…。最初のうちは『嫌がらせ事件の真相を知るために演技してるんや!』と私にアイコンタクトして知らせてくれた上での演技モードだったけど、今は完全に『素に戻って』しまっているよね…。
さらに言えば歯をキラッと光らせて、鼻血を出しながらドヤ顔するのはやめよう…。
そう思いながら光ちゃんの鼻血を拭いてあげている私がいました。
「光一さん、ずるいです!そのフィギュア、私にも作ってください♪」
「あ、私も欲しいです!!」
「私にもぜひお願いね♪」
ちーちゃん、遥ちゃん、アルさん、なんで私の『裸エプ◎ン』のフィギュア何ぞ欲しがるんですか?!意味がわかりません!!
「錦織先生!!」
半分我を失っていた春日副会長が光ちゃんに歩み寄る。
「石川さんとは『形だけの婚約』じゃあなかったんですか?!」
「数年前に一緒の武術道場に入門して以来の友人付き合いやったんやけど、少し前にいろいろあって、わてが正式にプロポーズしたんや。
せやから、形だけやのうて『ラブラブ婚約』やね♪」
「瀬利亜さんのスペックの高さをずいぶん気にしておられる錦織先生に私が放課後いろいろ話をしましたよね?!
『人間、学歴とか社会地位とかのスペックが大切なわけではない、その人らしく生きることが大切だ』とお伝えしたら、すごく喜んでおられましたよね?!」
「瀬利亜はんは表面上のスペックも確かにすごいねんけんど、内面の男前のスペックの高さのカッコよさと、天然で、優しくて、ほわほわした『めっさ可愛い面のギャップ萌え』が最高なんや!カッコいいのに面白お姉はんやねん♪
わてのスペックがどうこうとか全く気にされることもあらへんから、一緒にいてものすごく楽やねん。」
「…じゃあ、一生懸命私の話を聞いてくれていたのは…。」
「春日はん、カウンセラーやコンサルの仕事を志しておられるんやろ?いい意味でわてを実験台にして練習されてはったんと違うん?」
光ちゃんといろいろ話をして春日さんの顔色がさらに悪くなる。
春日さんが『今までは逆ハーレムがうまくいったのに』とか『石川さんが悪役令嬢ぽくない』とか『ゲームでは錦織先生はもっと簡単に…』とか意味不明の言葉をさらにつぶやかれているのですが…。
「みなさん、すごく脱線されているようなのですが、昨日春日さんが階段から突き落とされた件を検証すれば全ての謎が解けるのでは?」
一人残らず当初の目的を見失ってしまったようなので、私が恐る恐るといった感じで、みんなに声を掛ける。
「はっ?そうでしたね…。ところで、どうやって検証しましょうか?」
如月会長が完全に毒気を抜かれた感じで淡々と話をする。
「あら、だったら現場を録画した動画を確認すれば一発だわ。ここの学校はお忍びでVIPが登校していたりするので、犯罪対策にいろんなところに『謎のカメラ』が仕掛けてあったりするのよ。」
アルさんが涼しい顔で提案する。ちなみに一番のVIPは世界クラスの『魔法使い』である、アルさんなのですが、ご本人にそのご自覚はおありなのでしょうか?
みんなで視聴覚室に行って、スクリーンに階段の踊り場が映される。生徒の声もして、その場にいるような錯覚に陥りそうになる。、
みんなは録画をアルさんが確認して映してくれていると思っているようだが、私の見る限り『過去の映像を映す魔法』で再生しているのですが…。まあ、映像を検索するだけですごく大変なので、その方が時間の節約になっていいよね。
みんな食らいつくように映像を見ている。特に春日さんの目が血走っている。
『これで、石川さんの本質が暴かれれば、錦織先生も…。』とかヤバそうなことを口走っておられるのですが…。
いえ、くどいようですが、私には人を突き落したような覚えはないんですけど…。
まもなく、春日さんが一人で階段を降りようとしているが目に入ってきた。
そして、その後ろから一人の走る女生徒が…え?この人女子陸上の人だよね?!
ああっ!!その子が誤って春日さんにぶつかって、春日さんがバランスを崩して、階段に結果的にダイビングしている!!
おおっ!!通りがかった女の子が抜群の運動神経と、細心の注意を払って、うまく春日さんを受け止めたぞ!!
よく怪我しなかったよね。…て、その子銀色の髪をしてますがな…て私じゃん!!
…はい、思い出しました。そんなこともあったよね…。
ええと、周りのみんなが説明を求める視線を私に向けてきたのですが…。
「なるほど、ぶつかった女の子が『推薦入学の件』で非常に急いでおり、後始末も瀬利亜さんが全てされたわけですね。
で、誰もいない保健室に運び込まれた後、瀬利亜さんがすごく急がれていたので、助けた女の子の素性をまともに確認されていなかった…とそういうことですね。その話をしてくれていれば全然こじれなかったわけですよね」
遥ちゃんがため息をつきながら私を見る。
「はい、申し訳ないです。しっかりと説明責任を果たさなかった私にも大きく問題がありました。」
「瀬利亜さん、その場でされたことはカッコいいんですけど、急がれていた理由は『夕食とお風呂の準備』ですよね?それって、『そ・れ・と・も・私?』をされるためにそこまで必死になられていた…そういうわけですよね。」
「…ナ、ナンノ話デショウカ…。」
「そんな瀬利亜さんに『罰ゲーム』です。今度みんなで温泉に行ったときにお風呂から上がられてから『エプロンだけモード』をお願いします♪」
「遥ちゃん!そんなことを言っていたら『みんなの分も用意』してきちゃうぞ!!」
「「ええっ??!!それはまずいです!!」」
遥ちゃんとちーちゃんの声がハモる。
「まあ、みんなうれしそうね♪じゃあ、私もみんなの分を用意するから、みんなで着せ替えしましょうか♪」
アルさん、なんでそんなに嬉しそうに言うわけ?!それからそんな着せ替えは嫌ですから!!あっ!また、男性陣が全員鼻血を出して、今度はぶっ倒れた!!
こうして事件は解決し、私は生徒会の皆様から正式に謝罪を受けたのでした。
春日さんにぶつかった推薦入試の女生徒さんは翌日春日さんに謝罪に来られたそうだ。
なお、春日さんに地味に嫌がらせをしていた犯人はなんと、『私が嫌がらせをしたと証言した女の子』であった。如月会長に恋していた彼女は会長が春日さんにメロメロなので、嫉妬して嫌がらせをしていた挙句、罪を『悪役令嬢で推定犯人』の私になすりつけていたそうだ。…ヤンデレ怖いよね…。
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