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草餅よもぎ

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授与

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私は、誰も居ない教室にポツンと立っていた。

掃除のために教室の後ろに積み重ねられた机と椅子。窓の外はまだ早朝らしく青白い空が広がっている。本来ならばそこから少しの森と町並みが見えるのに、窓からは空しか見えない。

私、何してたんだっけ。何かをしに学校に来たような。

意識がはっきりしない。思考が進まない。

と、不意にどこからか声が聞こえた。


─こんにちは─


どこから聞こえるのかわからない。

後ろから聞こえるようにも、横からにも、遠くからにも。

世界の全てから聞こえるようにも。


─秋野 紫 様─

─あきのむらさき さま─

─アキノ ムラサキ サマ─


発音を確認するかのように繰り返す声。


─お間違えありませんか─


間違えていない。


─ご案内をはじめませていただきます─


なんて機械的な声だろう。


─間もなく、この世界は崩壊するでしょう─

─そこで、人類を絶やさない為に【楽園】へと招待することに致しました─

─【楽園】へは【チケット】をお持ちの方のみご案内致します─


何のこと言っているのかわからない。

崩壊?間もなく世界崩壊?

どういうこと?

声は出ない。ぼやけた頭で必死に思考する。


─間もなくと申し上げましたが、今日明日ではございません。少しずつ異変が起こり、崩壊を実感できるかと思います─


─チケットは選ばれた方お1人に3枚の配布となっております─

─ご本人含めて3名楽園へと招待することが可能です─

─ただし、肉親の招待は不可となります─

─また、このチケットを使用してこちらに願いの申請を行うことができます─


坦々と説明文を読み上げる声。


─詳しくは、説明書をお読みください─


説明書?どこに?

辺りを見るが、それらしいものは見付からない。


─目を閉じ、少し念じてください─


目を閉じて。

念じる?念じるって何だ。想像すればいいのか、わからない、説明書だから手のひらサイズの冊子のようなもの?


それは本当に、頭に浮かんだ。

とても鮮明な記憶のように。隅から隅まで何度も見たように。

書いてある、解る、チケットについて。


─ご案内を進めさせて頂きます─

─チケットの説明書と同時に、エレベーターの初期配置図も配布しております─

─楽園へはこちらのエレベーターでのみ行くことが出来ます─

─こちらのエレベーターについても説明書をご覧ください─


言われて、チケットについてと同様に想像すると鮮明に頭に浮かぶ。


─ご案内は以上となります─

─楽園でお待ちしております─





─チケットを授与しました─





これは、夢だ。


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