KAKERU 世界を震撼させろ

駆の章

アルゼンチン戦 勝負

《空山隆之介》
空気が重くなったと感じた。
当然だ。
開始そうそうに容易く得点されたんだから。
そんな状況の中で城戸が笑っている。
「ひゃっひゃっひゃ。流石、アルゼンチンじゃ。なあ、そうは思わんか。空山よ」
「そうですね」
「こんな事は想定していたじゃろ。何、一人前に落ち込んどる」
「まだ、始まった分で」
「そうじゃ。だから、見とけ。これから、点取り合戦じゃ」
意気揚々とセンターサークルに向かって行った。
城戸の背中に駆が見えた。
「駆？」
(俺について来い)

ホイッスルが鳴り、大海信吾が城戸へパスした。
城戸はゆっくりとドリブルをして、進む。
メッシーは城戸を無視して上がった。
メッシーは守らないんだ。
アルゼンチンのミッドフィルダーが城戸に迫る。
すると、簡単に柴咲にバックパスした。
柴咲はワントラップして顔を上げる。
「おい、空山よ。城戸の言った事を聞いていなかったか？」
「え？」
「点取り合戦だ。上がれ！」
柴咲はボールを前線の大海へ大きく蹴りだして、パスを通した。
本田も一気に駆け上がる。
大海はボールをキープして、後ろから追い越してくる城戸に渡した。
そのまま、ドリブルで突進して、右サイドへ向かった。
駆の幻が俺の方を見る。
(さあ、来るぞ。走り込め)
「おおおおー」
俺は一気にトップギアに入れてゴール前に向かう。
城戸が中心に折り返して来た。
ボールは手前の柴咲に入ると思ったが、ヘッドで俺の前方へ柔らかく上げた。
周りが静かになると同時にゆっくりした時間の中に自分だけがいる。
良く見える。
味方や敵がどこにいるかが手にとるようにわかる。
ゴールの左角へボールを押し込もうとしたが、キーパーが動き出しているのがわかった。
裏から誰か来るぞ。
たぶん、南だ。
胸トラップで方向を変えてすぐ後ろにボールを流した。
ノントラップで南は足を振り抜く。
流石、点取り屋だ。
ボールがゴールネットを揺らした。