水面の星

白詰えめ

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無自覚

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 最近学校に行くのが憂鬱だ。原因は、あの木崎翔のせいだ。学校で会うたびに声をかけてくる。「今日予定あんの?」とか、「飯食いいこーぜ」とか「カラオケ行かね?」とか。悪質なナンパを受けている気分だ。この押しの強さが、女の子を虜にするのだろうか…よくわからない。僕にはとにかく面倒で仕方がない。学校に行くだけなのに、サングラスを買ってしまった。歩く時もコソコソしているもんだから、友人の悠斗に「なに?スパイごっこ?」と言われる始末。変装のつもりが意味をなしていないらしい。ただ、挙動も格好も不審な人物が出来上がってしまっただけのようだ。悠斗は「大丈夫、それでも似合ってるから」と笑いながら言ってきた。しかし、少しは効果があるのか、翔から声をかけられていない。なんだ、そんなに僕のことを覚えてなかったんだ。なんて思いながら、しばらくサングラス生活を続けた。

 そんなある日、教室で一人座っていると「なあ、いつまでサングラス?」と翔が話しかけてきた。
「え?」
 あすかはビックリして、大きな声を出す。
「なに?そんなにビックリする?」
 翔も驚いたように目を丸くする。
「なんでわかったの?」
 と、かなり間抜けな声で答えると。
「いや、どう見てもあすかってわかるだろ」
 そう当然のように翔は答える。
「じゃあ、なんで話しかけてこなかったの?」
 なんだか、変な聞き方になっていると言葉を発してから自覚した。なんだか、話しかけられなかったのが寂しいなんて感じがする言い方をした。
「んー。なんとなく?てか、振られっぱなしも寂しいし?」
 そういたずらに笑う翔は、そのまま手を伸ばしあすかのサングラスを取った。
「綺麗な目が隠れちゃって、もったいない」
 あすかの目をじっと見てそう言った。いや、じっと見てという表現は正しくない。彼はずっと目を見て話すタイプだ。それが、あすかはサングラスを外した事により、一層翔の目がはっきり見える気がしたのだ。勝手すぎる翔の行動に、思わずため息を吐く。それに、言葉一つ一つが口説き文句みたいで気に入らない。
「うわっ、見えにく」
 翔は勝手にあすかのサングラスをかけると、不満げに顔をしかめる。それから楽しそうに辺りを見渡している。
「返せよ」
 あすかがそう言って、翔にされたようにサングラスを取る。翔が一瞬びっくりしたように動きを止めたので、反射的に「ごめん」と言った。「何が?」と翔はいつもの顔で笑っている。勘違いか。
 その流れで、「今日の昼食はなんだった?」とかくだらない会話を繰り返しているうちに、先生が教壇に立ち授業が始まった。

 授業が終わると、翔はあっさり「じゃーな!」と言って去っていった。大きく振る手に、あすかは小さく振り返した。

 その日から、なんだかサングラスをかけられなくなった。いや、バレていたのだから意味がないだけだ。そう思いながら、サングラスを丁寧にメガネケースにいれ棚の中へしまった。サングラスの日々を思い返すと、ただの変な行動だったのか、と後悔と恥ずかしさを覚えた。

「あすか!」
 翌日学校へ行くと、背後から声をかけられた。この声は悠斗だ。
「おはよ、悠斗」
 振り返りながら笑顔でそう返すと
「あれサングラスは?」
 と不思議そうに顔をじっと見てきた。
「いや、変だったかなって」
 再び恥ずかしくなり、頭を掻きながら答える。
「えーかっこよかったのに、ほら、シュートみたいで」
 シュートとは、悠斗とよく遊ぶオンラインゲームのキャラクターだ。
「そりゃあ、シュートはかっこいいけど」
「お前もかっこいいぞ」
 悠斗は、銃を撃つ素振りをしながらそう言う、セリフも動きもシュートの真似だ。あすかは思わず笑い同じように「いい時間だった」とシュートの真似をし別れた。悠斗とバカみたいに笑い合う時間は、あすかの大学生活の中の大好きな時間の一つだ。その上機嫌のまま教室に入ると、いつもあすかが座る席に翔が座っていた。ぼんやりと外を見つめる姿は、まるで絵のようだ。太陽の光がスポットライトのように翔を照らしている、そんな錯覚をするほどだった。思わず見惚れていると、視線に気がついたのか翔が「お!あすか!」と声をかけてきた。「あっ、うん」と返事をする。突然声をかけられてビックリしたからか、心臓がうるさい。
「隣座れよ」
 その言葉で、我に返る。なぜか無言のまま隣に座ってしまった。違う席に座る予定だったのに。ゆっくりと隣を見ると、嬉しそうに笑う翔の姿があった。
「最近、ちゃんと目合わせてくれるじゃん」
 そう言われ、急に翔の顔が気になり出す。
「授業始まるね」
 と先生も来てないのに、目を逸らすように前を向く。
「そっかぁ。俺もあすかとお喋りしようと思ったのに」
 隣から聞こえる寂しそうな声に、思わず顔をそちらに向けそうになる。気を紛らわすように、ノートと筆箱を鞄から出すと意味もなく、整え始めた。まだ、心臓の鼓動がおさまらない。
「なんで…」
 不意に溢れた言葉は、先生の「それでは授業を始めます」という声にかき消された。
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