銀色の誓い ~再誕の王女と忘れられた王子~

小世 真矢

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第一章

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第一章:街道の異変

辺境の村、リーヴェルト。小さな村でありながら、古びた石畳の道が緩やかに曲がりくねり、時折車輪の跡が残る。それらは過去の往来を物語るかのように、苔むし、風雨に晒され、今や寂しげに静まり返っている。家々の壁は色褪せ、屋根は茅葺きのものもあれば、木材で補強されたものもあった。誰もが予期せぬ日常の中で生きているという雰囲気を漂わせている。

「バルトルド様、道中お気をつけて。」

レオンは静かな声でそう告げた。背後で風が音を立てる中、彼は相棒のハルトと共に老商人バルトルドの見送りをしていた。レオンの目は冷徹に、だがどこか優しさを感じさせる鋭さを持っている。身に着けているのは、数々の戦いを乗り越えてきた大剣。その大剣は、レオンの生き様そのものを象徴するかのように、静かにその存在を主張していた。

「ああ、レオン殿、ハルト坊や。本当に助かったよ。お二人のおかげで、無事に街までたどり着けた。」
バルトルドは、脂ぎった顔に深い皺を刻み、何度も頭を下げながら感謝の言葉を述べた。年老いてはいるが、商売一筋で生きてきた証が顔に刻まれている。その手には、年季の入った革の鞄が握られていた。

ハルトは、バルトルドを見上げ、にこりと笑って応じた。「おじいさん、街で美味しいものいっぱい買ってね!」
その言葉には、無邪気な子供の純真さが滲んでいる。バルトルドは目を細め、優しげに笑った。

「それじゃ、またな。君たちのおかげで、少しだけ安心して帰れるよ。」
バルトルドは、背を丸めながらも、力強く歩き出し、二人に手を振った。レオンとハルトは、その姿を見守りながら、次なる目的地である商業都市エルドへと向かうべく歩き出した。エルドまでは数日の距離があり、長旅となるだろう。

道中、レオンは周囲の気配に常に注意を払いながら歩く。背後から聞こえるハルトの足音を確認し、時折、彼の顔をちらりと見る。子供ながらに、ハルトの成長を感じることができるようになった。しかし、まだ子供だ。いざという時には、守らなければならない。

その日の夕暮れ、二人は街道沿いの小さな森で野営をすることに決めた。周囲には山の気配と木々の葉音が響き、夜の帳が降りる前の静けさを感じさせる。レオンは素早く火を起こし、ハルトが食材を手伝いながら、小さな焚き火の周りで手際よく料理を始めた。

「レオン、見て!きれいな石!」
ハルトの声が、静かな森に響いた。彼は手に、何か光を反射する不思議な形の石を持って駆け寄ってきた。石は磨かれたような光沢を持ち、まるで精緻に作られた小道具のように見える。

レオンはその石を一瞥し、すぐに答える。「ああ、そうか。」
だが、彼の注意はすでに別のところに向けられていた。普段なら、あまり気に留めることもないだろう。だが、この日は、いつもとは違っていた。微かな不安を感じさせるものが、どこかに隠れているような気がしてならなかった。

その瞬間、森の奥から突如としてけたたましい馬の嘶きと金属がぶつかり合う音が聞こえてきた。レオンは瞬時に警戒態勢を取り、ハルトを自分の背に庇うように守った。「ハルト、動くな。」

音が徐々に近づいてくる中、レオンは一歩一歩静かに音を立てずに進み、気配を感じながらその源を辿った。目の前に現れたのは、荒れ果てた馬車だった。車輪は外れ、荷物が散乱し、馬車を引いていたはずの馬が、首を斬り落とされて倒れている。血痕が地面に点々と続き、空気は不穏な気配に満ちていた。

「この紋章は……」

レオンは馬車の側面に刻まれた紋章を見つけ、思わず息を呑んだ。それは、歪んだ剣とそれを囲む蛇のような紋様だった。宿場町で耳にした盗賊団の噂を思い出す。彼らが探しているという、特定の荷物や人物。その盗賊団が使っているという紋章が、まさしくここにあった。

「レオン、あれは何?」

ハルトが背中から顔を出し、無邪気に尋ねる。だが、その眼差しには恐怖の色が見え隠れしていた。レオンは少しだけ眉をひそめてから、冷静に答えた。

「少し、厄介なことに巻き込まれたかもしれないな。」
その言葉をかけた後、レオンは周囲を警戒しながら慎重に調査を続ける。あまりにも異常だ。血痕の流れ、散らばる武器、そして何よりもあの紋章。すべてが一つの事件に繋がっているように感じる。

その夜、二人はいつも以上に警戒を強め、交代で夜番を行うことにした。風が冷たく、焚き火の炎が静かに揺れ動く中、レオンはあの紋章と盗賊団のことを考え続けていた。単なる盗賊団ならば、すでに警戒していたはずだ。それでも、この馬車に残された痕跡には、何かもっと大きな力が絡んでいるような気がしてならない。

翌朝、決心を固めたレオンは、エルドへ向かうのを一旦やめ、昨日の現場をもう少し詳しく調べることにした。何か、手がかりとなるものが残されているはずだ。そしてその先に、まだ見ぬ真実が待っていることを感じ取った。

「レオン、何か分かる?」
ハルトが心配そうに尋ねるが、レオンは一度、静かに目を閉じてから答える。「まだ分からない。ただ、確かに何かがある。それを突き止めなければ。」

二人は馬車からさらに足を進め、手がかりを探すことに決めた。彼らがまだ知らないこと、それはこの先、ハルトの運命を大きく変える出来事が待っているということだ。物語の幕は、今、静かに上がりつつあった。
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