銀色の誓い ~再誕の王女と忘れられた王子~

小世 真矢

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第二章

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第二章:森の残響

レオンとハルトは、壊れた馬車の周囲を慎重に調べ始めた。周囲の景色はどこか不穏で、風が木々を揺らし、その音が深い森に吸い込まれていくようだった。馬車は明らかに事故に遭ったようで、側面には深い傷がついており、車輪の一部は壊れていた。荷物が散乱していたが、レオンが一つ一つを確認するものの、金目のものはほとんど見当たらなかった。袋や箱、食料の類が多く、ただの盗賊による襲撃とは思えない。金銭目的ではなく、もっと別の目的があったのではないかという疑念が、レオンの胸に膨らんでいった。

「レオン、この紋章、どこかで見たことない?」
突然、ハルトが声を上げ、馬車の破片に刻まれた紋章を指さした。レオンは一瞬立ち止まり、目を凝らしてその紋章を見つめた。確かに、何かに似ているが、それが何だったのか思い出せない。記憶の中に引っかかるものがあったが、はっきりと思い出せなかった。
「いや、初めて見るな。どこの国のものだろうか……」

その時、レオンは地面に落ちていた小さな革製の袋に気づいた。袋は何度も泥に擦れて汚れていたが、それでも中身が気になった。彼はそれを拾い上げ、開けてみると、数枚の銀貨と一枚の羊皮紙が入っていた。銀貨の表面には、古びた彫刻が施されており、その古さが不安を呼び起こす。羊皮紙には、走り書きのような文字で何かが記されていた。

「『黒曜の森、夜明けに合流』……黒曜の森、か。」
レオンは小声で呟いた。黒曜の森は、この辺りでも有名な、深く鬱蒼とした森だ。その名を聞いたことがあったが、そこに何か関わる者がいたのか? それにしても、どうしてこのメッセージがここに残されていたのか。何かを急いで伝える必要があったのだろうか?

その時、ハルトが興奮した様子で叫んだ。
「レオン、あそこに何か落ちてる!」
二人はすぐに声の方向へ走り、そこで一際目立つものを見つけた。地面に美しい装飾が施された短剣が落ちていた。刃は鏡のように磨かれ、柄の部分には小さな宝石が埋め込まれており、一般的な盗賊が使うような粗野なものではないことが一目で分かる。レオンは慎重にそれを拾い上げ、手に取った。

「これは……」
レオンはその短剣を手にし、じっくりと調べた。柄には、あの紋章とは異なる小さな刻印が施されていた。羽根のようにも見える、それは非常に繊細な模様で、まるで植物の葉のようだった。
「この短剣の持ち主は、馬車に乗っていた人物かもしれない。」
レオンは推測した。その人物が盗賊団の一員ではないとすれば、彼は別の目的を持っていた可能性が高い。

その日の午後、二人は黒曜の森へと向かった。森は日差しを遮るように高い木々が密集しており、昼間でも薄暗い。湿った空気が肌にまとわりつき、足元には泥と落ち葉が重なり、歩くたびに静かな音を立てて沈み込んでいった。風の音さえも不安を呼ぶかのように、時折響き、木々の間を通り抜ける。

しばらく歩いた後、レオンは地面に微かな足跡を発見した。それは複数人のものと思われ、しっかりとした足取りが残っていた。中には馬の蹄跡もあり、さらに警戒すべきだと感じた。
「やはり、盗賊団は森の中にいるようだ。」
レオンは、ハルトに注意を促し、さらに深く進んでいった。

やがて、二人は開けた場所に出た。そこには数台の馬車が停められており、十数人の男たちが焚き火を囲んでいた。その男たちもまた、腕にあの歪んだ剣と蛇の紋章を刻んでいた。レオンは物陰に身を隠し、男たちの様子を静かに伺った。彼らは何かを待っている様子で、時折低い声で話し合っている。その言葉を盗み聞きすることに成功した。

「彼らは、『積み荷』と呼ばれる何かを待っている。」
その言葉を聞いた瞬間、レオンの中に強い興味が湧いた。「積み荷」とは一体何なのか? それが何を意味しているのか、明確に理解するためには、この先も追い続ける必要があるだろう。

「その積み荷は、今夜の夜明けに到着する予定だ。」
男たちの話は続き、レオンはさらに耳を傾けた。「リーダーは、『鴉』という男だ。」
その名前に、レオンは覚えがあった。盗賊団を指導するリーダーとして、その名はすでに耳にしていた。だが、姿は見たことがない。

その時、森の奥から、再び馬の嘶きが聞こえた。それは、ただの馬の鳴き声ではなく、どこか不穏なものを感じさせる響きだった。やがて、姿を現したのは、一台の黒塗りの豪華な馬車だった。馬車を引く馬は、漆黒の毛並みを持ち、赤い瞳を輝かせている。異様な存在感を放っており、その姿が一層、周囲の緊張を高めていた。

馬車から降りてきたのは、黒い外套を身につけた痩せた男だった。その男の顔は影に隠れており、よく見えなかったが、レオンの目はその鋭い眼光を捉えた。暗闇の中で一際光るその瞳は、まるで獲物を狙う猛禽のようだった。その男こそが、「鴉」と呼ばれる盗賊団のリーダーであり、その威圧感は他の男たちを一目で従わせていた。

「鴉」は低い声で何かを指示していた。その声は静かだったが、周囲の空気を震わせるような強い威圧感を帯びており、男たちはすぐにその指示に従った。レオンはその様子を隠れた場所から見つめ続けた。あの黒塗りの馬車が運んできたものこそ、盗賊団が待ち望んでいた「積み荷」なのだろう。そして、その積み荷には、恐らくハルトの運命を大きく左右する何かが隠されているに違いない。

その夜、レオンはハルトと共に森の中で静かに夜を明かした。焚き火の炎が揺れる中、レオンはただ静かに考えていた。盗賊団の動きをただ見守るだけではなく、この状況をどう切り抜けるか、どう進んでいくべきかを。心の中で、無数の選択肢が浮かび上がっていた。だが、何よりも大切なのは、どんな危険が待ち受けていようとも、ハルトを守り抜くことだった。

ハルトは、レオンの隣で無邪気に寝息を立てている。その寝顔を見つめていると、どんな困難も乗り越えられる気がしてくる。しかし、その先に待っている試練がどれほど大きなものであろうとも、レオンは決して引き下がるつもりはなかった。

夜が明けようとしたその時、レオンは静かに立ち上がった。彼の瞳には、強い決意が宿っていた。次に取るべき行動を、今、決めたのだ。
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