銀色の誓い ~再誕の王女と忘れられた王子~

小世 真矢

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第三章

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第三章:夜明けの取引

夜明け前、黒曜の森は深い藍色に包まれ、空気はひんやりと冷たく、静けさに包まれていた。焚き火の燃え残りがパチパチと音を立てるだけが、深い沈黙の中で唯一、夜を破る音だった。周囲はほとんど見渡すことができないほどに暗く、ただ、木々が重なり合う陰影の中でレオンだけが静かに動いていた。

レオンは、物音を立てないように慎重に身を起こした。ハルトは、まだ寝息を立てて眠っている。レオンはその姿を一瞬見つめ、無言で手を伸ばして彼の額に触れると、軽く毛布をかけ直してやった。ハルトは微かに動いたが、すぐに再び深い眠りに落ちていった。

「少し、様子を見てくる。ここで待っていてくれ。」

レオンは、小さな声でハルトに言い聞かせると、静かに森の中へと足を踏み入れた。寒さと湿気が肌を刺すようだが、彼は一歩一歩、確実に目的地へと進んでいった。盗賊団が集まっている開けた場所に向かうためだ。途中、気配を消すようにして木々の陰に身を隠し、じっと周囲の動向をうかがった。

その場所にはすでに、黒塗りの馬車を取り囲むようにして、盗賊団が集まっていた。鴉の姿も見え、その顔には苛立ちと不満がにじんでいた。腕を組みながら、彼は周囲の状況に目を光らせているようだった。レオンはその様子をじっと観察し、注意深くその場に迫った。

しばらくして、遠くから馬の蹄の音が響いてきた。盗賊団の男たちは、一斉にそちらに視線を注ぐ。姿を現したのは、規律正しく隊列を組んだ騎馬隊だった。彼らは堂々とした歩みで、開けた場所に向かって進んでくる。

騎馬隊を率いているのは、堂々とした体躯の男だった。その鎧には、レオンが以前見たことのある紋章が刻まれていた。あの短剣に施されていた、羽根のような植物の葉の模様だ。レオンの胸の中で、何かがひっかかった。

「やはり……!」

レオンは息を呑んだ。あの紋章を見たことがある。この騎馬隊と、盗賊団が関わり合うことなど、考えたこともなかった。だが、これらが何らかの関係を持つ勢力であることは間違いないと感じた。

騎士と呼ばれた男は、馬から降りると、鴉に向かって低い声で言った。

「鴉、約束の品はどこだ?」

その声には、強い自信と威厳が感じられた。まるで、これから交渉を始めるかのような静けさと緊張感が漂っていた。鴉はニヤリと笑みを浮かべ、黒塗りの馬車を指さした。

「そこにございます、騎士殿。約束通り、無傷で。」

騎士は、部下に指示を出し、馬車の中を確認させた。その間、空気はますます緊張を高めていった。部下が戻り、しばらくして、騎士に軽く頷いた。確認が済んだのだろう。

「確かに、約束の品は受け取った。しかし、お前らの狼藉は許さん。」

騎士の言葉に、盗賊団の顔色が一瞬で変わった。それと同時に、騎馬隊の兵士たちが武器を構え、戦闘態勢を整える。

その瞬間、周囲の空気が一変し、戦闘の気配が漂った。盗賊団のメンバーも慌てて武器を抜き、反撃の構えを取った。数では盗賊団が勝っているはずだが、騎馬隊の兵士たちは、見た目からして訓練されており、戦闘の場においては圧倒的に有利だった。

レオンは状況をじっと見守っていた。この争いに自分が介入する理由はない。しかし、あの黒塗りの馬車が運んできた「積み荷」が何なのか、そして騎士たちがそれを求める理由が明確にならない限り、ここにとどまる意味が見いだせなかった。

戦闘が始まった。剣と剣がぶつかり合う音、怒声、そして馬の嘶きが交錯し、混沌とした光景が広がる。レオンはその隙間を縫って、馬車へと近づこうとしたが、その瞬間、鴉が突然、鋭い声で叫んだ。

「そこにいるのは、誰だ!」

鴉の鋭い視線がレオンを捕え、その瞬間、数人の盗賊が彼に向かって突進してきた。レオンは、反射的に大剣を抜き、迎撃の態勢を取った。無駄な力を使わず、精確に一撃を放つ。熟練した戦士の動きで、襲い来る盗賊たちを次々と薙ぎ倒していった。

だが、その間に、騎士たちはすでに「積み荷」を馬車から運び出し、戦闘の場を離れようとしていた。レオンはその様子を見逃さず、心の中で焦りを感じた。

「待て!」

レオンは叫びながら、騎士たちを追いかけた。しかし、騎士たちはすでに馬に乗り、騎馬隊と共に森の中へと走り去っていった。

鴉は、レオンに向かって低く唸るように言った。

「邪魔をするな、下郎が!」

レオンは残りの盗賊たちを一蹴し、騎士たちが去っていった方向を見つめた。その先には、何が待っているのか。その「積み荷」が何なのか、一体どんな秘密が隠されているのか、全ては謎のままだった。

その時、突然、レオンは微かな声が森の奥から聞こえるのに気づいた。それはハルトの声だった。

急いで戻ると、ハルトは目を覚まし、不安そうに周囲を見回していた。

「レオン、一体何が……?」

レオンは優しく彼の手を取り、静かに言った。

「少し、厄介なことになった。でも、心配するな。俺が必ず、お前を守る。」

レオンの瞳には、強い決意の色が宿っていた。盗賊団と騎士の争い、そして「積み荷」の謎。それらはすべて、ハルトの運命と何かしら関わっているような気がしてならなかった。

レオンはハルトの手を引き、再び森の中へと歩みを進めた。彼らの旅は、まだ終わらない。むしろ、これからが本当の試練の始まりなのかもしれなかった。
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