崩れゆく世界

伊原亜紀

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EP2

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 2月。外の気温は三〇度を肥えていた。しばらく雨が降っていないので、砂埃が舞っている。佐藤はポケットから薄手の布を取り出して、鼻と口を覆った。

 通りを歩く人はほとんどおらず、露天商が何人か死んだように座っている。空の色も相舞って終末のような雰囲気が醸し出されていた。いや、実際に終末は近いのかもしれない。地球の温暖化は止まらないし、貧富の差からくる紛争が世界各地で起きている。間違った方向に進みすぎた人類は、もうその方針を信じるしか無くなってしまった。今更誰も引き返せないのだ。貧乏人は今を生きるのに精一杯だし、金持ちはいかにして自分の金を使い切るかに苦心している。

 佐藤は通りに面したクリーニング屋の中に入った。

 古い店内に入るとすぐにカウンターがあり、カウンターの奥には沢山の服が吊るされていた。スチーマーの匂いがする。

「ガストン、俺だ」佐藤は店の奥の暗がりに声をかけた。

 店の奥で人の動く気配がした。

「おお、久しぶりだな。生きてたのか」そう声がすると、奥から大柄の南米系の男が出てきた。頭は丸めてあり、左目には薄く傷がある。プロレスラーのような体型で、白いTシャツははち切れんばかりだ。

「なんだ、質入れか。お前の持っている服じゃたいした額にはなんねえぞ」

「違うよ。仕事だ」佐藤はそう返し、「いつものを頼む、後払いで」と続けた。

「怠け者がとうとう働く気になったか。今度からは先払いできるうちに働き始めるんだな」ガストンはそう言うと、店の奥に消えていった。

 このご時世、クリーニング屋だけで稼げるわけはなく、武器商人がガストンの裏の顔だ。元々、海外で傭兵をやっていたつてで、武器の入手経路を持っている。

 佐藤は店に吊るされた服を見る。スーツが多く並び、奥にはドレスもある。また、結婚式でもあるのだろうか。二ヶ月ほど前、街中でひっそりとした結婚式が開かれていた。カジノ帰りの佐藤は、幸せそうな笑みを浮かべる新郎新婦を横目で見ながら、空っぽのポケットに手を突っ込んで歩いていた。

「結婚式か?」佐藤は店の奥に向かって呼びかけた。

「ああ、来週にあるみたいだ。お陰様でなんとか食って行けてるよ」

「このご時世によくやるな」

「まあ、このご時世だからこそやるのかもな」

「確かにな」

こんな、生きていくのにやっとの世界だから、たまにはそういう幸せが必要なのだろう。それがなければ、生きているだけだ。

「いつものだ」奥からやってきたガストンが、カウンターの上に箱を置いた。

「ありがとうガストン」佐藤は箱の中身を確認せずに、箱を右脇に抱えた。

「仕事が終わったら、金を払いにくるよ」

「しつこい様だが、ゴム銃なんてやめろ。いつか後悔するぞ」

「俺にはこれくらいで充分なんだよ。良いハンデさ」佐藤は肩をすくめた。

「佐藤。俺も国や金持ちたちの方針には嫌気がさすがな、、、現場にいる人間に必要なのは殺傷力のある武器だよ。相手をやらなきゃ、自分がやられる。そんなことはお前もよくわかっているだろ」

「心配してくれるのかい?」

「お前が金をちゃんと払ってくれるかおな」

「俺が死んだら、あの部屋とビーコンをやるよ」

「あの人工知能、お前以外の言うことろくに聞かないだろ」

「ガストンの言うことなら聞くさ」佐藤はそう言って左手を軽く上げると、入口のドアを開けて出ていった。

「ったく、死にたがりが、、、」ガストンはガラスドアの向こうに映る佐藤の背中にそう呟いた。
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