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EP4
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「ここか」
佐藤は土手の上から川辺に目をやった。お世辞にも綺麗とは言えない川が流れていて、岸にはテントやブルーシートで作られた家々が並んでいる。
ビーコンが監視カメラの映像を漁って、多田が一週間前からこの付近に潜伏していることは分かっていた。そして、居場所のない男は大概にしてホームレスの溜まり場にいる。
「さて、どうやって探すかな」ざっと見ただけでも、五十人は超えてそうだ。ホームレスを捕まえて話を聞きたいところだが、彼らは身内に対しては口が堅い。特に同じコミュニティ内であるとなれば尚更だろう。
土手を降りている最中に何人かが佐藤の方を見たが、すぐに目を逸らした。関わり合いたくないのだ。
佐藤は周りに目をやった。ざっと見た感じでは、多田らしき人物は見当たらなかった。麻雀やチェス、将棋、あと見たことのないボードゲーム。それらを楽しんでいる集団があり、小さな商店の様なものを出している男もいる。おそらく、物々交換をおこなっているのだろう。
こういう場所にいる人間は、案外楽しそうにやっていることが多い。佐藤も仕事上、こう言った場所に来るのは初めてではないが、最初に来た時は住人の明るさに驚いたものだ。彼らをそうさせているのは、競争からの完全な脱落なのか、はたまた人生に対する開き直りなのかは分からない。けれど、表の淵にしがみついている人々より、彼らの方が良い表情をしているように見えるのは確かだ。
佐藤はそこらを歩き回ってみるが、各々が楽しんでいる姿を見るだけで、多田らしき人物は見当たらなかった。
そんな佐藤に住民は目をやるが、話しかけてくることはない。まるで、いないもののように扱っていた。けれど、視線だけは、佐藤の背中に油断なく送っていた。
埒が開かないので、佐藤はトタンの日除けの下で団扇を仰いでいる老人に近づいて声をかけた。
「なあ、爺さん。ここ最近、中東系と日本のハーフの男がここに合流してないか?」
老人は団扇を扇ぐのをやめ、覗き見るように佐藤の顔を見た。
「ここには毎日人が出たり入ったりしてんだよ。そんなやついちいち覚えていねえよ」
「そう言わず、顔だけでも見てくれよ。ほらこいつなんだけど」佐藤はそう言って、デバイスに表示した多田の顔を見せた。
「お前さん、賞金稼ぎだろ。カタギの人間じゃねえな」老人は多田の顔をちらりと見た後に、そう言った。
「賞金稼ぎはカタギの仕事だよ。国が認めてる」
「いかれた国さ。人殺しを職として認め、報酬を払うなんて」
「俺も同意見だよ。間違いなくイカれてる」佐藤は肩をすくめた。
「賞金稼ぎには協力できねえよ。ここまで落ちたって、俺には人間としてのプライドがあるんだ」
日に焼け、皺が刻まれた顔の中にあるその目は、老人の強い意志を表していた。
「仲間を売りたくない気持ちは分かるが、こいつは人を殺してる」佐藤の言葉を聞いて、老人の目が一瞬大きく開いた。
「そんなこと、よくある世の中だろうよ。殺しの理由が分からない以上、いくら人殺しでも、殺させる訳にはいかねえんだよ。そんなことをしたら、後味が悪い」
佐藤は小さくため息をついた。一般的に、賞金稼ぎに対して抱くイメージは人殺しだ。それを良いと捉えるか悪いと捉えるかは人によって異なるが。
「爺さん、信じてもらえないかもしれないが、俺は賞金首を殺さない。ポリシーなんだ」
「信じてやれると思うか。腰にそんな物騒なものぶら下げてるじゃねえか」老人は顎で佐藤の腰を差した。
「確かに、信じてもらえるとはと思得ないな」佐藤はそう言うと、腰の銃を老人に差し出した。
老人は怪訝な表情を浮かべた。
「弾を見てみな」
老人は慣れた手つきでマガジンを開けて中を見た。人生のどこかで、銃を扱ったことがあるのだろう。
「なんだこれは?」
「ゴムだよ」
「見ればわかる。なんでこんなもの持ってるんだ」
「さっきも言ったけど、ポリシーだよ。人を殺したくないんだ」
老人は佐藤に銃を返した。
「じゃあ、なんで賞金稼ぎなんてやってるんだ」
「生きていく糧が他にないだけだよ」佐藤は銃を腰に戻した。
老人は佐藤の目を数秒見ると口を開いた。
「ここをまっすぐ橋の下まで行ったところに、赤いビールケースがある。そこのすぐ後ろにこいつの住んでる家がある」
「ありがとう。いつか礼をしに来るよ」
「ホームレスととしてならいつでも歓迎してやる」
「それなら、そんなに時間は掛からなそうだ」佐藤はそう言って少し笑った。老人も顔に少し皺を作った。
佐藤は土手の上から川辺に目をやった。お世辞にも綺麗とは言えない川が流れていて、岸にはテントやブルーシートで作られた家々が並んでいる。
ビーコンが監視カメラの映像を漁って、多田が一週間前からこの付近に潜伏していることは分かっていた。そして、居場所のない男は大概にしてホームレスの溜まり場にいる。
「さて、どうやって探すかな」ざっと見ただけでも、五十人は超えてそうだ。ホームレスを捕まえて話を聞きたいところだが、彼らは身内に対しては口が堅い。特に同じコミュニティ内であるとなれば尚更だろう。
土手を降りている最中に何人かが佐藤の方を見たが、すぐに目を逸らした。関わり合いたくないのだ。
佐藤は周りに目をやった。ざっと見た感じでは、多田らしき人物は見当たらなかった。麻雀やチェス、将棋、あと見たことのないボードゲーム。それらを楽しんでいる集団があり、小さな商店の様なものを出している男もいる。おそらく、物々交換をおこなっているのだろう。
こういう場所にいる人間は、案外楽しそうにやっていることが多い。佐藤も仕事上、こう言った場所に来るのは初めてではないが、最初に来た時は住人の明るさに驚いたものだ。彼らをそうさせているのは、競争からの完全な脱落なのか、はたまた人生に対する開き直りなのかは分からない。けれど、表の淵にしがみついている人々より、彼らの方が良い表情をしているように見えるのは確かだ。
佐藤はそこらを歩き回ってみるが、各々が楽しんでいる姿を見るだけで、多田らしき人物は見当たらなかった。
そんな佐藤に住民は目をやるが、話しかけてくることはない。まるで、いないもののように扱っていた。けれど、視線だけは、佐藤の背中に油断なく送っていた。
埒が開かないので、佐藤はトタンの日除けの下で団扇を仰いでいる老人に近づいて声をかけた。
「なあ、爺さん。ここ最近、中東系と日本のハーフの男がここに合流してないか?」
老人は団扇を扇ぐのをやめ、覗き見るように佐藤の顔を見た。
「ここには毎日人が出たり入ったりしてんだよ。そんなやついちいち覚えていねえよ」
「そう言わず、顔だけでも見てくれよ。ほらこいつなんだけど」佐藤はそう言って、デバイスに表示した多田の顔を見せた。
「お前さん、賞金稼ぎだろ。カタギの人間じゃねえな」老人は多田の顔をちらりと見た後に、そう言った。
「賞金稼ぎはカタギの仕事だよ。国が認めてる」
「いかれた国さ。人殺しを職として認め、報酬を払うなんて」
「俺も同意見だよ。間違いなくイカれてる」佐藤は肩をすくめた。
「賞金稼ぎには協力できねえよ。ここまで落ちたって、俺には人間としてのプライドがあるんだ」
日に焼け、皺が刻まれた顔の中にあるその目は、老人の強い意志を表していた。
「仲間を売りたくない気持ちは分かるが、こいつは人を殺してる」佐藤の言葉を聞いて、老人の目が一瞬大きく開いた。
「そんなこと、よくある世の中だろうよ。殺しの理由が分からない以上、いくら人殺しでも、殺させる訳にはいかねえんだよ。そんなことをしたら、後味が悪い」
佐藤は小さくため息をついた。一般的に、賞金稼ぎに対して抱くイメージは人殺しだ。それを良いと捉えるか悪いと捉えるかは人によって異なるが。
「爺さん、信じてもらえないかもしれないが、俺は賞金首を殺さない。ポリシーなんだ」
「信じてやれると思うか。腰にそんな物騒なものぶら下げてるじゃねえか」老人は顎で佐藤の腰を差した。
「確かに、信じてもらえるとはと思得ないな」佐藤はそう言うと、腰の銃を老人に差し出した。
老人は怪訝な表情を浮かべた。
「弾を見てみな」
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「なんだこれは?」
「ゴムだよ」
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