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EP5
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目当ての場所はすぐに見つかった。赤いビール瓶のケースはよく目立つ。その後ろにブルーシートを簡易的な屋根にした小屋があった。
佐藤は腰の銃に手を伸ばそうと思ったが、すぐに辞めた。ここで発砲はしたくない。いくらゴム弾と言えども、ここの住人に、先ほどの老人に銃声を聞かれたくなかった。
別に相手がプロな訳ではない。最初から銃を構える必要などないだろう。弾みで人を殺しただけの、一般人だ。経歴を見る限り、格闘技をやっていたわけでもない。
佐藤はブルーシートの隙間に目をやる。モバイル充電器に接続された扇風機が首を動かしている。こんなもので、この酷暑を乗り切れるとは思わないが、ないよりはマシだろう。
佐藤は中に向かって声をかけた。
「多田か?」
中から応答はない。ホームレスの人間が貴重な電力を無駄にするとは思えない。十中八九居留守だろう。佐藤は耳を澄ます。扇風機の音の中に、衣擦れの音が微かに聞こえた。
佐藤はブルーシートに手をかけて、一気にそれを跳ね除けた。それと同時に、痩せた男が体勢を低くして突っ込んできた。単調で勢いのないタックルを、佐藤は軽く右に動いてかわし、左足を軽く蹴るようにして、男の足首に引っ掛けた。男はものの見事に転倒した。慌てて立ち上がり逃げようとした男の腰を、佐藤はかがみ込んで手で押さえつけた。
男はもがいているが、逃げられない。
「殺さないでくれ!」男は逃げるのを諦め、後頭部を守るように両手で押さえた。
「殺さねえよ。多田マイケルか?」
男は頭を押さえたままゆっくりと頷いた。
「よし、俺は佐藤だ。相手にだけ名乗らせるのはフェアじゃないからな」佐藤は周りを見回した。ホームレスたちが、横目でこちらを見ている。
「ここで話すのもなんだ。場所を変えよう」佐藤は多田のベルトをつかむように上に引き上げた。痩せている多田は簡単に引き上がった。
佐藤は男の顔を確認した。髭が生え、少し痩せてはいるが、手配書の顔と一緒だ。佐藤は耳につけているイヤホンを二度タップした。
「捕まえましたか?」ビーコンの声が聞こえる。
「ああ、オートパイロット可能な車を一台こっちに送ってくれ」
「承知しました。五分ほどでそちらに着くと思います」
「ありがとう。帰ったらパーティーを開こう。盛大なやつを」
「極上の液体食物を用意しておきます」
「趣味の悪い冗談はやめてくれ」佐藤は笑ってそう言い、通話を切った。
佐藤は腰の銃に手を伸ばそうと思ったが、すぐに辞めた。ここで発砲はしたくない。いくらゴム弾と言えども、ここの住人に、先ほどの老人に銃声を聞かれたくなかった。
別に相手がプロな訳ではない。最初から銃を構える必要などないだろう。弾みで人を殺しただけの、一般人だ。経歴を見る限り、格闘技をやっていたわけでもない。
佐藤はブルーシートの隙間に目をやる。モバイル充電器に接続された扇風機が首を動かしている。こんなもので、この酷暑を乗り切れるとは思わないが、ないよりはマシだろう。
佐藤は中に向かって声をかけた。
「多田か?」
中から応答はない。ホームレスの人間が貴重な電力を無駄にするとは思えない。十中八九居留守だろう。佐藤は耳を澄ます。扇風機の音の中に、衣擦れの音が微かに聞こえた。
佐藤はブルーシートに手をかけて、一気にそれを跳ね除けた。それと同時に、痩せた男が体勢を低くして突っ込んできた。単調で勢いのないタックルを、佐藤は軽く右に動いてかわし、左足を軽く蹴るようにして、男の足首に引っ掛けた。男はものの見事に転倒した。慌てて立ち上がり逃げようとした男の腰を、佐藤はかがみ込んで手で押さえつけた。
男はもがいているが、逃げられない。
「殺さないでくれ!」男は逃げるのを諦め、後頭部を守るように両手で押さえた。
「殺さねえよ。多田マイケルか?」
男は頭を押さえたままゆっくりと頷いた。
「よし、俺は佐藤だ。相手にだけ名乗らせるのはフェアじゃないからな」佐藤は周りを見回した。ホームレスたちが、横目でこちらを見ている。
「ここで話すのもなんだ。場所を変えよう」佐藤は多田のベルトをつかむように上に引き上げた。痩せている多田は簡単に引き上がった。
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