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13、君の思いが届く日は
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夢のようなバースデー祝いから一日が明け、彩花荘の朝食はいつもの様相を呈していた。
「うまい! うまい!」
「美味しい! 美味しい!」
「お前らホントいつも勢いでメシを乗り切るよな……」
といっても、食卓は変わった。前のナスときゅうりとしその浅漬け以外にも、きんぴらごぼうもあるし塩もみももやしのナムル風もある。目玉焼きだって作ったもんね。
朝食を終えると今日は秀男さんが片づけ当番。
蓮人くんが脇道の小さな菜園に向かったので私もお供する。
「うーん、参った……」
「どうしたの、蓮人くん?」
「ナスもしそもミニトマトも、この時期になっても大量に出来てるんだ。あーあオレの栽培のうまさも考えものだぜ」
「なんで? たくさん出来るのはいいことじゃん」
そういうと蓮人くんは首を左右に振った。
「これじゃオレたちだけじゃ消費しきれねぇよ、せっかく作ったのを捨てるのもなぁ」
そこで私はピンと閃いた。
「それなら、おすそ分けに行こうよ! 都子さんや灯里さんに! 蓮人くんの作るナスは美味しいし、きっと喜んでくれるよ」
「おすそ分け……ひとに押し付けるか。まぁその手も悪くないな」
「そうしよそうしよ! 私、今から取れたてのやつ持っていくよ!」
昨日のお礼という気持ちもあり、何か送れるのは私も嬉しい。
さっそくキレイに出来ているナスやミニトマト、しそを選別していく。
それをふたつの袋に分けて、都子さん用と灯里さん用にする。
「お前、灯里の家知ってるのか?」
「お神輿を担いだときに窓から手を振ってる灯里さんを見かけたの。大丈夫!」
「なるほど、それじゃオレはネトゲがあるんでよろしく頼むわ」
そう言って蓮人くんは部屋に戻っていった。
私はふたつのビニール袋を持って、さっそく増宮米店に向かった。
「失礼します、都子さん」
「あらぁ、響子ちゃん。今日はアルバイトお休みでしょ、どしたん?」
「はい、あの、これ……うちの庭で取れた野菜です。蓮人くん、こういうの作るのとっても上手で美味しいんです。ぜひ食べてください!」
私がビニール袋のひとつを渡すと、都子さんが笑顔になった。
「あらあら、こんなにいいの? アタシ、ナス大好物なのよ。ありがとうねぇ」
「そんな! いつもお世話になってますから、ほんの気持ちです」
都子さんに野菜を渡して、見送られながら増宮米店をあとにする。
灯里さんの家は中央公園の北口からちょっと行ったところにあるはずだ。
私は九月になってもまだ暑い日差しを浴びながら、灯里さんの家に向かった。
表札に『月詠灯里』と書いてある家を見つけた私はインターフォンを鳴らす。
だけど、反応がない。何度か鳴らすが、やはり家から何の音も聞こえない。
「灯里さんもネットゲームをしているっていうし、ヘッドフォンをつけてるのかな? それとも買い物に行っているとか……」
野菜は新鮮なうちが一番だ。どうにかコンタクトを取れないかな、と思った私は開け放たれた窓を見つけた。ちょっと悪いなと思いつつ中に入り、窓の方に向かう。
窓は開け放たれ、網戸にしてあった。いくら暑いといっても、一人暮らしの女性が外出の際にこんな目立つ場所の窓は開けっ放しにしておかないだろう。
やっぱり灯里さんは家にいるみたいだ。
「灯里さーん! 響子です、野菜持ってきましたー!」
私は窓の方に回り、家の中をのぞき込んだ。すると、家の奥、廊下あたりで誰かが倒れているのが見えた。灯里さんは心臓が弱いと言っていた――もしかして……。
嫌な予感を感じた私は「失礼します!」と行って網戸を開けて家にあがる。
廊下で、灯里さんがぐったりと倒れていた。
「灯里さん! 灯里さんしっかりしてください! 聞こえますか!?」
「う……ん……。響子、さん……?」
「どうしたんですか灯里さん! 動けますか?」
「心臓が、急にバクバクし始めて……。ちょっと休むつもりが倒れこんじゃって……」
灯里さんの額に触れる。すごい汗をかいているのに、体温はとっても冷たい。
灯里さんは以前、心臓の病気で入院していたと言っていた。この町に来て薬で良くなっていると言ってたけど、まさか、心臓の機能が弱まっているんじゃ……。
「灯里さん、これは救急車呼ばなきゃですよ! いいですね!?」
「そんな、大げさな、ことじゃ……」
しゃべるたびに、灯里さんはハッ、ハッ、と短く苦しそうな呼吸を繰り返す。
顔色も蒼白だ。素人目に見たってこれはぜったいに良くない。
「ダメです! すぐかけますから!」
「きょ、こ……さん、ごめ、んね……」
私はスマートフォンを取り出して、一一九番に電話した。
数回のコールで、電話は繋がった。
『こちら救急センターです。火事ですか? 救急ですか?』
通話口の向こうから、男性の冷静な声が聞こえた。
「救急です! 心臓に持病のある友達が倒れてしまって!」
『そちらの番地などはわかりますか?』
番地……どうしよう。灯里さんの家の住所なんてわからない。
「灯里さん、なんとか受話器に向かって住所を言って!」
私はそういって、スマートフォンの通話口を灯里さんの口元に向ける。
灯里さんは息も絶え絶えに答えた。
「裏御神楽町の、三、丁目……五の、四番です……」
『わかりました。すぐに向かいます。通報者さまのお名前とご連絡先をお教えください』
私は通話口を灯里さんから離して、自分の口に当てた。
「名前は三島響子です。連絡先は〇八〇の……」
私は早口に自分の電話番号を告げる。
救急センターのひとは了解した旨を告げると、電話を切った。
救急車が来るまでどれくらいだろう。裏御神楽町はそこまで大きな町じゃないし、蓮人くんの地図によれば病院もそんなに遠くないはずだ。
「灯里さん、呼吸しやすい姿勢とかないですか? 何か私に出来ることありますか!?」
「きょ、こ、さん……だいじょうぶ……あ、せなか、さすって……くれたら……」
「背中ですね、わかりました!」
灯里さんの背中は小刻みに揺れていた。それを抑えて安静になるように、押すように背中をさすっていく。ひどい汗で、服の上までぐっしょりだ。
そうしているうちに、サイレンの音が迫ってきた。
私はいったん灯里さんから離れて、玄関のカギを開ける。
すぐに救急隊員のひとが入ってきた。
「呼吸不安定! 脈拍に乱れ! 担架を!」
救急隊員のひとはテキパキと灯里さんの様子を確認すると、彼女を担架に乗せて運んでいく。「キミも一緒に来て!」と言われたので、灯里さんの乗る救急車に同乗する。
サイレンを鳴らしながら走る救急車は、すぐに病院に到着した。
私は初めて裏御神楽町の病院に来たけど、しっかりした大きな総合病院のようだ。
緊急搬送口から入ると、すぐに担架が運び出された。私もついていく。
病院の中を進んでいくと、貴女はここで待っていて、と待合室で待たされた。
少しして、鼻に酸素吸引の機械をつけられた灯里さんがベッドに乗せられて出てくる。
機械はつけているけど、まだ灯里さんは苦しそうだ。
「病状の説明をしますので、こちらまで来てもらえますか?」
そう言われて、私は医師と思しきひとに診察室に案内された。本来ならば灯里さんのご家族が説明を受けるのだろうが、彼女は独り暮らし。おそらく裏御神楽町にもひとりで来ているのだろう。
とりあえずでも、私が説明を聞くよりほかなかった。
診察室のイスに座ると、先生が対面に座り話し始めた。
「月詠灯里さんは急性の不安定狭心症を発症しております」
「急性、不安定、狭心症……」
急性とか不安定とか、嫌な予感がする言葉ばかりの羅列にツバを飲み込んだ。
「灯里さんはもともと心臓が弱かったことに加え、夏の暑さは体温の上昇や、脱水症状といった負担を体にかけてしまいます。最近は残暑も厳しく、過度の体温上昇により全身の各臓器に負担がかかり、その結果、血液循環の要である心臓にも負担がかかってしまったのでしょう。また心拍数が上昇することによって病状が悪化しております」
私にとっては難しすぎる話が続くが、出来るだけしっかりと記憶していく。
「心臓に負担がかかってしまったということはわかりました。それで、灯里さんの容態は……これからすぐに元の生活に戻れるのでしょうか?」
私の問いかけに、先生は静かに首を横に振った。
「今、酸素吸引と外付けのペースメーカーで応急処置しておりますが、月詠灯里さんはすぐにでも手術を受けなくてはならない状況です。心臓のバイパス手術というものですが、かなり難しく時間もかかるものです。必ず成功する、とも言い切れません」
「そんな!? 成功するかわからない手術を受けなきゃいけないんですか!?」
「残念ながら……今の状態ではそういうことになります」
すぐにでも、成功するかわからない手術を受ける――。
私は混乱する頭をなんとか落ち着かせようと、数度息を大きく吐いた。
「それで、今灯里さんは?」
「月詠灯里さんには個室のひとつを使って横になって貰っております。臨時、一〇二号室になります。本来は今すぐにでも手術を始めたいのですが、とても難しい手術ですから、当院としても万全を期して臨みたいのです。そのため、本日非番である心臓医療を専門としている医療スタッフなどにもすぐに来るように伝えてあります」
病院をあげての手術ということか……。
なんにしても、灯里さんの状態はあまりにも思わしくない。
せめて、手術前に灯里さんを少しでも安心させたい。
「あの、それでスタッフの方が集まって手術が始まるまでどれくらいかかるのでしょうか?」
「およそ一時間ほど見て頂ければ。その間に必要な書類などにもサインをして頂きたいのですが、ご本人様があの様子では……なにせここは特殊な町ですからね。そのあたりは柔軟に対応させて頂きます」
「かしこまりました。灯里さんをどうぞよろしくお願いいたします」
「スタッフが集まり次第手術を開始します。それまではどうか患者様のそばで励ましてあげてください」
そう言って先生が腰をあげた。
私は一礼して、部屋を後にする。
「臨時、一〇二号室……ここだ!」
駆け込むようにして病室に入る。ベッドの上に、酸素吸引機以外にも様々な機械につながれている灯里さんの姿が目に入った。
「灯里さん!」
「響子さん……大げさなことに、巻き込んじゃって、ごめんね……」
「そんなことないです。それより……これからスタッフのひとを集めて、手術を受けるって先生が言っていました」
「うん、手術が必要とは、言われたけど……私の心臓、弱いから……困っちゃうね……」
弱弱しく微笑む灯里さん。その姿を見ていると、胸が締め付けられるように苦しい。
「スタッフの方々が集まるまで、一時間くらいって聞きました! 私、今すぐ彩花荘に戻って蓮人くんを連れてきます!」
「詩人さん、は……ネットゲームで、忙しい、から……」
「ネットゲームなんていつでも出来ます! そんなことより今はもっと大切なことがあるじゃないですか! 私、ぜったい蓮人くんを連れて来ますから、待っててください!」
灯里さんが微かにうなずいたのを見て、私は走り出した。
途中「病院の中は走らないでください」という看護師さんの声がしたけれど、申し訳ないけれど今は無視した。緊急搬送口から来ているので、ほかの患者さんもいないのだ。
病院を出る。初めてきた場所だけど、地図に描かれていたので位置は迷わなかった。
ただ、どれくらいの距離があるのかはわからない。
「何があっても、手術が始まる前に蓮人くんを連れてこなくっちゃ!」
彩花荘まで走る。途中で息が切れてきたけど、そんなこと構っていられない。
彩花荘に着くと、私はバタバタと廊下を走り蓮人くんの部屋のドアをノックした。
「蓮人くん! いる? 蓮人くん!」
「なんだよ響子、騒がしいぞ。オレは今ネトゲでいそがし――」
返事が終わる前に、私は蓮人くんの部屋のドアを開け中に入った。
蓮人くんの部屋はいかにも彼が好みそうなシンプルな造りだ。家具もほとんどない。
私はパソコンに向かって椅子に座っていた蓮人くんのすぐそばに立つ。
「おいおい、勝手にあがりこんでくるなよ。そんな慌ててなんだってんだ?」
「灯里さんが倒れたの! 今すぐ病院まで来て!」
「灯里が、倒れた? 病院って……ひどいのか?」
私が息を切らせているのを、蓮人くんが表情を曇らせる。
「急性の不安定狭心症って言うんだって! 病院の先生が言うには、すぐに手術が必要だって。今、手術が出来るだけの医療スタッフを集めてる、難しい手術らしくて……」
「難しい、手術……。灯里は心臓が弱いからな。そうか、病院で……」
「手術が始まる前に、蓮人くんが灯里さんを励ましてあげて! お願い、今すぐいっしょに病院まで来て!」
数秒の沈黙のあと、蓮人くんはうつむくようにして言った。
「オレは、行かない」
「どうして!?」
「ここでネトゲ仲間とともに灯里の無事を祈る。そのほうが、オレらしいやり方だ」
「蓮人くんらしいとか今は関係ないでしょ!? 大変な手術なんだよ!? 倒れている灯里さんを放っておくの? 蓮人くんホントにそれでいいの!?」
蓮人くんが下を向いたまま、パソコンに向き直った。
「オレが灯里に何か言おうが言うまいが、手術の結果が変わるワケじゃない」
「そんなことない! 蓮人くんが励ましてくれるだけで、手術を受ける灯里さんの気持ちがぜんぜん違うよ!」
「オレはそんな大層な人間じゃない。それに……この町に来てまでそんな光景見たくない」
私は下を向いたままパソコンに向かおうとした蓮人くんの肩をつかんだ。
「ネットゲームに逃げないで! ちゃんと現実を見てよ! それが辛いことでも、今起きている事実なんだよ! きちんと向き合ってよ!」
「オレは、オレたちの関係は、ネトゲ繋がりの……」
「いい加減にして! 灯里さんが今、一番誰に会いたいと思っているかわかる!?」
私の言葉に、蓮人くんがわずかに顔をあげる。
「勘の良い蓮人くんなら、わかってるでしょ! 灯里さんの気持ち! 普段なら好きにはぐらかせばいいけど、こんな時に大事なことから逃げないで!」
「オレは……」
「灯里さんが会いたいのは、蓮人くんなんだよ! ほかの誰でもない、あなたなの! 蓮人くんにしか出来ないことが今、目の前にあるの! いっしょに来て!」
「だけどオレは……くっ! なんで灯里がそんな目に!」
蓮人くんが悔しそうに机を叩いた。右手が小刻みに震えている。
「蓮人! さっさと行ってこい!」
いつの間にか、部屋の前に秀男さんが立っていた。
「だけど、オレ……何も出来ない……」
「出来る! いや、お前にしか出来ないことがあるだろうが! なぁ、おい! オレたちは絶望ってやつを抱えてここに来たんだろ! もう散々世の中に愛想つかせて来たんだろ! 蓮人、お前はここでただ座り込んで、この町に来てまで絶望を抱え込む気か!?」
「秀男さん……。ねぇ蓮人くん、行こう! もう絶望なんか味わいたくない気持ちは私もいっしょ! そのためにも、蓮人くんのことを待っているひとの心に、応えてあげて!」
一瞬の沈黙。
大きく息を吸った蓮人くんが、素早く何かタイピングして立ち上がった。
「病院に行ってくる。響子、病室まで案内してくれ」
「蓮人くん! うん、行こう! 秀男さん、行ってきます!」
「おう! 急いで行ってこい!」
秀男さんの声を背に、私と蓮人くんは走り出した。
病院に着くと、私が前に立って病室まで駆けた。灯里さんは、まだ病室の中で横になっている。良かった、間に合った。
私は入り口からちょっと入った場所まで行くと、蓮人くんを灯里さんのところへ促した。
「灯里、おい灯里。聞こえるか?」
「あ……詩人、さん……。来て、くれたんだね……。来ないと思ってた……」
「これから手術なんだってな。ギルドの皆にも話しておいた。皆きっと心配してる、祈ってくれてる。だから手術なんて楽勝だ。ぜったい無事に終わるから」
「皆に、心配かけちゃったな……でも、皆が祈っててくれてるなら……詩人さんが来てくれたから……私、きっとだいじょうぶだね……」
蓮人くんが、ベッドに置かれていた灯里さんの左手を両手で握った。
「当たり前だ! だいじょうぶに決まってるだろ。灯里はだいじょうぶだ、オレの言葉を信じろ。ぜったい手術は成功する!」
「うん……詩人さん、ありがとう……」
病院のひとたちがやってきて、灯里さんのベッドの周りで作業を始めた。
どうやらいよいよ手術が始まるらしい。ベッドがゆっくり動き出す。蓮人くんはそれに寄り添うように灯里さんの横を歩いた。
「ねぇ……詩人さん」
「なんだ、灯里?」
「今度から、詩人さんのこと……ネットゲームで呼ぶみたいに、レンレンって呼んでいい?」
「……お前、ズルいな。この状況でそれを断れるワケないだろ。……好きに呼べよ」
手術室の近くで、私たちはスタッフのひとに止められた。
「ありがとう……じゃあ、行ってくるね。レンレン……」
「ああ、オレはここでずっと待ってるからな! すぐそばにいるからな、灯里!」
手術室のドアが閉まり、手術中と書かれたランプに赤い光が灯る。
看護師さんに、手術は八時間から九時間はかかるだろうと告げられたあと、私たちは待合室で無言のまま座っていた。
下を向いたまま両手を組んでいた蓮人くんが、少しだけ顔をあげる。
「響子、ありがとうな。お前や秀男さんが背中を押してくれなかったら、オレは灯里の手術の前にあいつと話すことは出来なかった。絶望から逃れてきたこの町でいきなり絶望を突き付けられて、きっとオレは動揺してたんだと思う」
「ううん。蓮人くんが来てくれてよかった。灯里さんも、きっと蓮人くんとお話が出来て心強かったんじゃないかな」
「だといいけどな……。あとは待つだけか。倒れている灯里を見つけてくれたのも、響子なのか?」
「うん、差し入れに行ったら玄関は閉まってるのに窓は開いてて、変だなって思って中を見たら倒れていたの。急に心臓が悪くなっちゃったみたいで」
「そうか。倒れた灯里を見つけてくれたことにも、感謝しなきゃな」
「ううん……。私がもっと早く灯里さんをたずねていれば……」
私の言葉に、蓮人くんは大きく首を左右に振った。
「そんなこと言わないでくれ。それを言ったら、オレなんて何もせずにネトゲをしていただけなんだから。お前がいてくれて、ホントに良かったよ」
「わかった。……手術、長いね。灯里さん、ずっと頑張っているんだね」
「そうだな。オレには待つことしか出来ないけど……せめて灯里を待ち続けようと思う」
「うん、私も今日はアルバイトお休みだから、ここで灯里さんを待つ」
重い無言の時間が流れる。
蓮人くんはまるで彫刻のように動かない。時折、微かに身じろぎするか瞬きをするくらいだ。私は落ち着かなくて、何度も座る姿勢を変えたり窓の外に目をやったりしていた。
時間が流れるのが、とても遅い感じ。
私は秀男さんに何も伝えていないことを思い出して、手術が長くなることと蓮人くんがきちんと灯里さんと話せたことを電話で連絡した。
電話が終わると、また待合室に沈黙がおとずれる。
ベッドで誰かが移動していくたびに、それが灯里さんじゃないかと見てしまう。
だけどもちろんそんなことはなくて、手術中のランプは点いたままだ。
朝ごはんを食べ終えて差し入れに行ったときはまだ斜めだった日差しが、やがて中天に差し掛かりお昼の時間が過ぎていく。
蓮人くんと何か話したい気もしたが、言葉は出てこなかった。
(灯里さんの手術が、無事に成功しますように……)
心の中で何度となく、それだけを願った。きっととなりに座る蓮人くんもそうだろう。
ゆっくり、ゆっくりと流れていく時間。
やがて待合室の窓に夕日が差し掛かるころ、ビニール袋を持った秀男さんが病院の待合室にやってきた。待合室のテーブルにビニール袋を置く。
「話は聞いた。手術、長いんだってな。お前らここで待つつもりなんだろ? それなら今のうちに食えるもん食っとけ」
ビニール袋の中にはパンとおにぎり、それにスポーツドリンクが入っていた。
「秀男さん……ありがたいけど、とてもそんな気分じゃないよ」
「私も。ずっとご飯も食べてないしお腹空いてもおかしくないのに、ぜんぜん……それに、今も灯里さんが大変な思いをしていると考えると……」
「いいか、蓮人。響子。待っているお前たちまでダウンしたら、どうしようもねぇだろうが。暑い中走ってきて、水分もとらない飯も食わないでぶっ倒れてみろ。手術を成功させたあと、倒れてるお前たちを見たら灯里ちゃんはどう思う?」
秀男さんがそう言って、私たちにもう一度食事と水分補給を勧めてくる。
「誰かが弱ってるときってのはなぁ、周りの人間がしっかりしなきゃいけないんだ! だからこそ、きちんと灯里ちゃんを体調万全で待てるようにしろ。待ってるほうが無理して倒れましたじゃ話にならねぇぞ。ほら、食え!」
確かに言われてみると、私も病院と彩花荘を走って往復して喉はカラカラだった。
万が一、脱水症状を起こしてしまっては元も子もない。
灯里さんのことしか頭になくて、自分のことなどどこかに置き忘れていた。
「わかったよ。食う。……ありがとう、秀男さん」
「私も、汗かいてきちんと水分補給してなかったし……これ、ありがたくいただきます」
幸い待合室では飲食が禁止されていない。
私たちはこの場を離れることなく食事と水分補給をすることが出来た。
食べ物も飲み物もほとんど味なんて感じなかったけど、スポーツドリンクを飲むと頭が少しスッキリしたような気がする。待っている方もしっかりしないといけないという秀男さんの言葉を胸に、残りの飲料を飲み干した。
私たちが食事をとったのを確認すると、秀男さんが頷いて言う。
「オレまでここに居ても仕方ない。オレは戻る、何かあったら連絡をくれ」
「秀男さん、ありがとうございました。私、頭の中混乱してて自分のことなんかまるで考えていなくって」
「お前らはそれでいい。ふたりはふたりが出来ることをしろ。オレはオレの出来ることをしたまでだ。じゃあ、灯里ちゃんのことよろしくな」
秀男さんの言葉に、蓮人くんがうなずいた。秀男さんはそれを見届けてから、ゴミをつめたビニール袋を持って待合室を去っていった。
少しすると、蓮人くんが口を開いた。
「響子、お前心の色が見えるんだよな。オレの心の色を見てみてくれないか?」
「蓮人くんの心の色を? どうして?」
「どうしてもだ。頼む」
私に向けて蓮人くんが頭を下げた。
「う、うん。わかった」
意外な申し出に戸惑ったけど、私は了承して蓮人くんの胸の辺りをじっと見つめる。
いつもうつむいて話す、と指摘されてからあまり見ないようにしていた場所。
そこに、蓮人くんの心の色が浮かび上がる。
いつも通りの、よく磨かれた石のようなグレー。ただ、いつもはモヤのような霧がかかっているその心の中から、今は霧が消え去っていた。
「蓮人くんの心の色はいつも通りだよ。ただ、今までは蓮人くんの心を覆っていた霧みたいなものが、今は消えている。キレイに澄み渡っているの」
「そうか……。こんなオレでも、灯里の無事はなんの邪念もなく祈れるのかな。無理な頼みをして悪かったな」
「ううん、いいの。それで少しでも蓮人くんの気持ちが楽になるなら」
いつもは何かにつけてはぐらかしたり、ごまかしたりと物事をうまく回避する蓮人くん。
だけど、回避不能な事態に陥ったとき、蓮人くんは不安になったのかもしれない。純粋な心で灯里さんの無事を願えているのかどうか。
(だいじょうぶだよ蓮人くん。蓮人くんは、今心の底から灯里さんの無事を願えているよ)
心の中でそう語りかけて、私は目をつむった。
病院は静かだ。待合室の時計の秒針だけが慌ただしい音を立てている。
長い時間が過ぎ、夕日も地平線に沈みかけていた。もうすぐ夜がやってくる。
私は何度も待合室の時計を確認した。もうすぐ、灯里さんが手術室に運び込まれて八時間になろうとしているのだ。
「もうすぐだね……」
「ああ。もうすぐだな」
さすがに蓮人くんも焦れたのか、ずっと座っていた椅子から立ちあがっている。
私も落ち着かなくなって、立ったり座ったりを繰り返していた。
長くても、あと一時間。
息が詰まる。私はいつの間にか自分の呼吸が浅くなっていることに気が付いた。
待っている方がしっかりしなくっちゃいけない。
秀男さんの言葉を思い出して、深呼吸をする。
ありったけの願いを込めて、手術室のランプを見つめ続けた。
そして――。
待合室に入ってから八時間半が経過したころ、手術中のランプの明かりが消えた。
「蓮人くん! 手術室の明かりが消えた!」
「ああ! 行こう」
私たちは手術室のすぐ横にある廊下まで早足に移動した。
すぐに手術室のドアが開き、人工呼吸器を取りつけられた灯里さんが運ばれてくる。
ベッドを運びながら出てきた医師たちのひとりが、私たちの前で立ち止まった。
「先生、灯里さんの手術は成功したんですよね!?」
「灯里は、だいじょうぶなんでしょうか!?」
ふたりで畳み掛けるように聞くと、マスクを外した医師が頷いた。
「ご安心ください、手術は無事成功しました」
「本当ですか!? 成功だって、蓮人くん!」
「ああ、聞いた! よかった……灯里」
思わずふたりで手を取り合って喜んでいると、先生が咳払いをした。
「今後のことですが……」
「あ、すいません。嬉しくてつい……」
「申し訳ございません、続けてください」
私と蓮人くんが居ずまいを正す。
「月詠灯里さんはこれから三日ほど集中治療室に入っていただきます。手術は成功しておりますが、今後の経過を見るために必要な措置だとお考えください。その後、順調に回復していけば三日後に一般病棟に移します。そこでも問題が見られない場合、十日ほどで退院となるでしょう」
合わせても二週間に満たない入院期間なのか。
命に関わる手術をしたのだから、もっと長い入院生活が待っているのだと思っていた。
「今後の事はわかりました。先生、このたびは本当にありがとうございました」
蓮人くんが深々と頭を下げる。私もそれに倣った。
「我々だけの成果ではありません。この手術のために手術のスケジュールをずらしてくれた患者様や休日に集まってくれたスタッフ、それに手術を受けた灯里さんの頑張りがあればこその成功でした。灯里さんが一般病棟に移ったら、褒めてあげてください」
静かな声でそう言って、先生が病院の奥へと去っていった。
私たちは顔を見合わせて笑い合う。
「ああ、良かった! 本当に良かった!」
「うん、良かった。集中治療室を出るまでは心配だけど……まずは何よりだ」
私と蓮人くんは、集中治療室で眠る灯里さんをガラス越しに確認してから、病院を後にした。秀男さんに電話をして手術は成功したことを伝えると「よかったな、お疲れさん」と落ち着いた声が返ってくる。
しかし、これからの灯里さんの予後の予定を伝えるころには「よかったなぁ……!」と涙声に変わっていた。秀男さんも、彩花荘でひとりずっと心配をしていたのだろう。
蓮人くんが、前を向きながら口を開いた。
「今日は一日座りっぱなしで身体がなまったな。いつもより多くトレーニングやるか」
「えっ、今日もやってくれるの? ありがとう。でも蓮人くんはいつもネットゲームで座りっぱなしじゃないの?」
「まぁ、な。それを言われるとつらいが……やっぱり座ってても気分が違うからな。今は思い切り身体を動かしたい気持ちだ。本当に良かった」
暗くなった空を見上げて、蓮人くんが呟くような声で言う。
うん、ホントに良かった――。
私も暮れた空を見上げて、頷いた。
その日、彩花荘に帰り夕飯を済ませた後、私たちは運動公園でいつもより長い時間ボクシング流のパンチの避け方のトレーニングをした。
灯里さん、本当に良かった。
これからは灯里さんの退院まで毎日病院に通おうと、私は心に決めたのであった。
「うまい! うまい!」
「美味しい! 美味しい!」
「お前らホントいつも勢いでメシを乗り切るよな……」
といっても、食卓は変わった。前のナスときゅうりとしその浅漬け以外にも、きんぴらごぼうもあるし塩もみももやしのナムル風もある。目玉焼きだって作ったもんね。
朝食を終えると今日は秀男さんが片づけ当番。
蓮人くんが脇道の小さな菜園に向かったので私もお供する。
「うーん、参った……」
「どうしたの、蓮人くん?」
「ナスもしそもミニトマトも、この時期になっても大量に出来てるんだ。あーあオレの栽培のうまさも考えものだぜ」
「なんで? たくさん出来るのはいいことじゃん」
そういうと蓮人くんは首を左右に振った。
「これじゃオレたちだけじゃ消費しきれねぇよ、せっかく作ったのを捨てるのもなぁ」
そこで私はピンと閃いた。
「それなら、おすそ分けに行こうよ! 都子さんや灯里さんに! 蓮人くんの作るナスは美味しいし、きっと喜んでくれるよ」
「おすそ分け……ひとに押し付けるか。まぁその手も悪くないな」
「そうしよそうしよ! 私、今から取れたてのやつ持っていくよ!」
昨日のお礼という気持ちもあり、何か送れるのは私も嬉しい。
さっそくキレイに出来ているナスやミニトマト、しそを選別していく。
それをふたつの袋に分けて、都子さん用と灯里さん用にする。
「お前、灯里の家知ってるのか?」
「お神輿を担いだときに窓から手を振ってる灯里さんを見かけたの。大丈夫!」
「なるほど、それじゃオレはネトゲがあるんでよろしく頼むわ」
そう言って蓮人くんは部屋に戻っていった。
私はふたつのビニール袋を持って、さっそく増宮米店に向かった。
「失礼します、都子さん」
「あらぁ、響子ちゃん。今日はアルバイトお休みでしょ、どしたん?」
「はい、あの、これ……うちの庭で取れた野菜です。蓮人くん、こういうの作るのとっても上手で美味しいんです。ぜひ食べてください!」
私がビニール袋のひとつを渡すと、都子さんが笑顔になった。
「あらあら、こんなにいいの? アタシ、ナス大好物なのよ。ありがとうねぇ」
「そんな! いつもお世話になってますから、ほんの気持ちです」
都子さんに野菜を渡して、見送られながら増宮米店をあとにする。
灯里さんの家は中央公園の北口からちょっと行ったところにあるはずだ。
私は九月になってもまだ暑い日差しを浴びながら、灯里さんの家に向かった。
表札に『月詠灯里』と書いてある家を見つけた私はインターフォンを鳴らす。
だけど、反応がない。何度か鳴らすが、やはり家から何の音も聞こえない。
「灯里さんもネットゲームをしているっていうし、ヘッドフォンをつけてるのかな? それとも買い物に行っているとか……」
野菜は新鮮なうちが一番だ。どうにかコンタクトを取れないかな、と思った私は開け放たれた窓を見つけた。ちょっと悪いなと思いつつ中に入り、窓の方に向かう。
窓は開け放たれ、網戸にしてあった。いくら暑いといっても、一人暮らしの女性が外出の際にこんな目立つ場所の窓は開けっ放しにしておかないだろう。
やっぱり灯里さんは家にいるみたいだ。
「灯里さーん! 響子です、野菜持ってきましたー!」
私は窓の方に回り、家の中をのぞき込んだ。すると、家の奥、廊下あたりで誰かが倒れているのが見えた。灯里さんは心臓が弱いと言っていた――もしかして……。
嫌な予感を感じた私は「失礼します!」と行って網戸を開けて家にあがる。
廊下で、灯里さんがぐったりと倒れていた。
「灯里さん! 灯里さんしっかりしてください! 聞こえますか!?」
「う……ん……。響子、さん……?」
「どうしたんですか灯里さん! 動けますか?」
「心臓が、急にバクバクし始めて……。ちょっと休むつもりが倒れこんじゃって……」
灯里さんの額に触れる。すごい汗をかいているのに、体温はとっても冷たい。
灯里さんは以前、心臓の病気で入院していたと言っていた。この町に来て薬で良くなっていると言ってたけど、まさか、心臓の機能が弱まっているんじゃ……。
「灯里さん、これは救急車呼ばなきゃですよ! いいですね!?」
「そんな、大げさな、ことじゃ……」
しゃべるたびに、灯里さんはハッ、ハッ、と短く苦しそうな呼吸を繰り返す。
顔色も蒼白だ。素人目に見たってこれはぜったいに良くない。
「ダメです! すぐかけますから!」
「きょ、こ……さん、ごめ、んね……」
私はスマートフォンを取り出して、一一九番に電話した。
数回のコールで、電話は繋がった。
『こちら救急センターです。火事ですか? 救急ですか?』
通話口の向こうから、男性の冷静な声が聞こえた。
「救急です! 心臓に持病のある友達が倒れてしまって!」
『そちらの番地などはわかりますか?』
番地……どうしよう。灯里さんの家の住所なんてわからない。
「灯里さん、なんとか受話器に向かって住所を言って!」
私はそういって、スマートフォンの通話口を灯里さんの口元に向ける。
灯里さんは息も絶え絶えに答えた。
「裏御神楽町の、三、丁目……五の、四番です……」
『わかりました。すぐに向かいます。通報者さまのお名前とご連絡先をお教えください』
私は通話口を灯里さんから離して、自分の口に当てた。
「名前は三島響子です。連絡先は〇八〇の……」
私は早口に自分の電話番号を告げる。
救急センターのひとは了解した旨を告げると、電話を切った。
救急車が来るまでどれくらいだろう。裏御神楽町はそこまで大きな町じゃないし、蓮人くんの地図によれば病院もそんなに遠くないはずだ。
「灯里さん、呼吸しやすい姿勢とかないですか? 何か私に出来ることありますか!?」
「きょ、こ、さん……だいじょうぶ……あ、せなか、さすって……くれたら……」
「背中ですね、わかりました!」
灯里さんの背中は小刻みに揺れていた。それを抑えて安静になるように、押すように背中をさすっていく。ひどい汗で、服の上までぐっしょりだ。
そうしているうちに、サイレンの音が迫ってきた。
私はいったん灯里さんから離れて、玄関のカギを開ける。
すぐに救急隊員のひとが入ってきた。
「呼吸不安定! 脈拍に乱れ! 担架を!」
救急隊員のひとはテキパキと灯里さんの様子を確認すると、彼女を担架に乗せて運んでいく。「キミも一緒に来て!」と言われたので、灯里さんの乗る救急車に同乗する。
サイレンを鳴らしながら走る救急車は、すぐに病院に到着した。
私は初めて裏御神楽町の病院に来たけど、しっかりした大きな総合病院のようだ。
緊急搬送口から入ると、すぐに担架が運び出された。私もついていく。
病院の中を進んでいくと、貴女はここで待っていて、と待合室で待たされた。
少しして、鼻に酸素吸引の機械をつけられた灯里さんがベッドに乗せられて出てくる。
機械はつけているけど、まだ灯里さんは苦しそうだ。
「病状の説明をしますので、こちらまで来てもらえますか?」
そう言われて、私は医師と思しきひとに診察室に案内された。本来ならば灯里さんのご家族が説明を受けるのだろうが、彼女は独り暮らし。おそらく裏御神楽町にもひとりで来ているのだろう。
とりあえずでも、私が説明を聞くよりほかなかった。
診察室のイスに座ると、先生が対面に座り話し始めた。
「月詠灯里さんは急性の不安定狭心症を発症しております」
「急性、不安定、狭心症……」
急性とか不安定とか、嫌な予感がする言葉ばかりの羅列にツバを飲み込んだ。
「灯里さんはもともと心臓が弱かったことに加え、夏の暑さは体温の上昇や、脱水症状といった負担を体にかけてしまいます。最近は残暑も厳しく、過度の体温上昇により全身の各臓器に負担がかかり、その結果、血液循環の要である心臓にも負担がかかってしまったのでしょう。また心拍数が上昇することによって病状が悪化しております」
私にとっては難しすぎる話が続くが、出来るだけしっかりと記憶していく。
「心臓に負担がかかってしまったということはわかりました。それで、灯里さんの容態は……これからすぐに元の生活に戻れるのでしょうか?」
私の問いかけに、先生は静かに首を横に振った。
「今、酸素吸引と外付けのペースメーカーで応急処置しておりますが、月詠灯里さんはすぐにでも手術を受けなくてはならない状況です。心臓のバイパス手術というものですが、かなり難しく時間もかかるものです。必ず成功する、とも言い切れません」
「そんな!? 成功するかわからない手術を受けなきゃいけないんですか!?」
「残念ながら……今の状態ではそういうことになります」
すぐにでも、成功するかわからない手術を受ける――。
私は混乱する頭をなんとか落ち着かせようと、数度息を大きく吐いた。
「それで、今灯里さんは?」
「月詠灯里さんには個室のひとつを使って横になって貰っております。臨時、一〇二号室になります。本来は今すぐにでも手術を始めたいのですが、とても難しい手術ですから、当院としても万全を期して臨みたいのです。そのため、本日非番である心臓医療を専門としている医療スタッフなどにもすぐに来るように伝えてあります」
病院をあげての手術ということか……。
なんにしても、灯里さんの状態はあまりにも思わしくない。
せめて、手術前に灯里さんを少しでも安心させたい。
「あの、それでスタッフの方が集まって手術が始まるまでどれくらいかかるのでしょうか?」
「およそ一時間ほど見て頂ければ。その間に必要な書類などにもサインをして頂きたいのですが、ご本人様があの様子では……なにせここは特殊な町ですからね。そのあたりは柔軟に対応させて頂きます」
「かしこまりました。灯里さんをどうぞよろしくお願いいたします」
「スタッフが集まり次第手術を開始します。それまではどうか患者様のそばで励ましてあげてください」
そう言って先生が腰をあげた。
私は一礼して、部屋を後にする。
「臨時、一〇二号室……ここだ!」
駆け込むようにして病室に入る。ベッドの上に、酸素吸引機以外にも様々な機械につながれている灯里さんの姿が目に入った。
「灯里さん!」
「響子さん……大げさなことに、巻き込んじゃって、ごめんね……」
「そんなことないです。それより……これからスタッフのひとを集めて、手術を受けるって先生が言っていました」
「うん、手術が必要とは、言われたけど……私の心臓、弱いから……困っちゃうね……」
弱弱しく微笑む灯里さん。その姿を見ていると、胸が締め付けられるように苦しい。
「スタッフの方々が集まるまで、一時間くらいって聞きました! 私、今すぐ彩花荘に戻って蓮人くんを連れてきます!」
「詩人さん、は……ネットゲームで、忙しい、から……」
「ネットゲームなんていつでも出来ます! そんなことより今はもっと大切なことがあるじゃないですか! 私、ぜったい蓮人くんを連れて来ますから、待っててください!」
灯里さんが微かにうなずいたのを見て、私は走り出した。
途中「病院の中は走らないでください」という看護師さんの声がしたけれど、申し訳ないけれど今は無視した。緊急搬送口から来ているので、ほかの患者さんもいないのだ。
病院を出る。初めてきた場所だけど、地図に描かれていたので位置は迷わなかった。
ただ、どれくらいの距離があるのかはわからない。
「何があっても、手術が始まる前に蓮人くんを連れてこなくっちゃ!」
彩花荘まで走る。途中で息が切れてきたけど、そんなこと構っていられない。
彩花荘に着くと、私はバタバタと廊下を走り蓮人くんの部屋のドアをノックした。
「蓮人くん! いる? 蓮人くん!」
「なんだよ響子、騒がしいぞ。オレは今ネトゲでいそがし――」
返事が終わる前に、私は蓮人くんの部屋のドアを開け中に入った。
蓮人くんの部屋はいかにも彼が好みそうなシンプルな造りだ。家具もほとんどない。
私はパソコンに向かって椅子に座っていた蓮人くんのすぐそばに立つ。
「おいおい、勝手にあがりこんでくるなよ。そんな慌ててなんだってんだ?」
「灯里さんが倒れたの! 今すぐ病院まで来て!」
「灯里が、倒れた? 病院って……ひどいのか?」
私が息を切らせているのを、蓮人くんが表情を曇らせる。
「急性の不安定狭心症って言うんだって! 病院の先生が言うには、すぐに手術が必要だって。今、手術が出来るだけの医療スタッフを集めてる、難しい手術らしくて……」
「難しい、手術……。灯里は心臓が弱いからな。そうか、病院で……」
「手術が始まる前に、蓮人くんが灯里さんを励ましてあげて! お願い、今すぐいっしょに病院まで来て!」
数秒の沈黙のあと、蓮人くんはうつむくようにして言った。
「オレは、行かない」
「どうして!?」
「ここでネトゲ仲間とともに灯里の無事を祈る。そのほうが、オレらしいやり方だ」
「蓮人くんらしいとか今は関係ないでしょ!? 大変な手術なんだよ!? 倒れている灯里さんを放っておくの? 蓮人くんホントにそれでいいの!?」
蓮人くんが下を向いたまま、パソコンに向き直った。
「オレが灯里に何か言おうが言うまいが、手術の結果が変わるワケじゃない」
「そんなことない! 蓮人くんが励ましてくれるだけで、手術を受ける灯里さんの気持ちがぜんぜん違うよ!」
「オレはそんな大層な人間じゃない。それに……この町に来てまでそんな光景見たくない」
私は下を向いたままパソコンに向かおうとした蓮人くんの肩をつかんだ。
「ネットゲームに逃げないで! ちゃんと現実を見てよ! それが辛いことでも、今起きている事実なんだよ! きちんと向き合ってよ!」
「オレは、オレたちの関係は、ネトゲ繋がりの……」
「いい加減にして! 灯里さんが今、一番誰に会いたいと思っているかわかる!?」
私の言葉に、蓮人くんがわずかに顔をあげる。
「勘の良い蓮人くんなら、わかってるでしょ! 灯里さんの気持ち! 普段なら好きにはぐらかせばいいけど、こんな時に大事なことから逃げないで!」
「オレは……」
「灯里さんが会いたいのは、蓮人くんなんだよ! ほかの誰でもない、あなたなの! 蓮人くんにしか出来ないことが今、目の前にあるの! いっしょに来て!」
「だけどオレは……くっ! なんで灯里がそんな目に!」
蓮人くんが悔しそうに机を叩いた。右手が小刻みに震えている。
「蓮人! さっさと行ってこい!」
いつの間にか、部屋の前に秀男さんが立っていた。
「だけど、オレ……何も出来ない……」
「出来る! いや、お前にしか出来ないことがあるだろうが! なぁ、おい! オレたちは絶望ってやつを抱えてここに来たんだろ! もう散々世の中に愛想つかせて来たんだろ! 蓮人、お前はここでただ座り込んで、この町に来てまで絶望を抱え込む気か!?」
「秀男さん……。ねぇ蓮人くん、行こう! もう絶望なんか味わいたくない気持ちは私もいっしょ! そのためにも、蓮人くんのことを待っているひとの心に、応えてあげて!」
一瞬の沈黙。
大きく息を吸った蓮人くんが、素早く何かタイピングして立ち上がった。
「病院に行ってくる。響子、病室まで案内してくれ」
「蓮人くん! うん、行こう! 秀男さん、行ってきます!」
「おう! 急いで行ってこい!」
秀男さんの声を背に、私と蓮人くんは走り出した。
病院に着くと、私が前に立って病室まで駆けた。灯里さんは、まだ病室の中で横になっている。良かった、間に合った。
私は入り口からちょっと入った場所まで行くと、蓮人くんを灯里さんのところへ促した。
「灯里、おい灯里。聞こえるか?」
「あ……詩人、さん……。来て、くれたんだね……。来ないと思ってた……」
「これから手術なんだってな。ギルドの皆にも話しておいた。皆きっと心配してる、祈ってくれてる。だから手術なんて楽勝だ。ぜったい無事に終わるから」
「皆に、心配かけちゃったな……でも、皆が祈っててくれてるなら……詩人さんが来てくれたから……私、きっとだいじょうぶだね……」
蓮人くんが、ベッドに置かれていた灯里さんの左手を両手で握った。
「当たり前だ! だいじょうぶに決まってるだろ。灯里はだいじょうぶだ、オレの言葉を信じろ。ぜったい手術は成功する!」
「うん……詩人さん、ありがとう……」
病院のひとたちがやってきて、灯里さんのベッドの周りで作業を始めた。
どうやらいよいよ手術が始まるらしい。ベッドがゆっくり動き出す。蓮人くんはそれに寄り添うように灯里さんの横を歩いた。
「ねぇ……詩人さん」
「なんだ、灯里?」
「今度から、詩人さんのこと……ネットゲームで呼ぶみたいに、レンレンって呼んでいい?」
「……お前、ズルいな。この状況でそれを断れるワケないだろ。……好きに呼べよ」
手術室の近くで、私たちはスタッフのひとに止められた。
「ありがとう……じゃあ、行ってくるね。レンレン……」
「ああ、オレはここでずっと待ってるからな! すぐそばにいるからな、灯里!」
手術室のドアが閉まり、手術中と書かれたランプに赤い光が灯る。
看護師さんに、手術は八時間から九時間はかかるだろうと告げられたあと、私たちは待合室で無言のまま座っていた。
下を向いたまま両手を組んでいた蓮人くんが、少しだけ顔をあげる。
「響子、ありがとうな。お前や秀男さんが背中を押してくれなかったら、オレは灯里の手術の前にあいつと話すことは出来なかった。絶望から逃れてきたこの町でいきなり絶望を突き付けられて、きっとオレは動揺してたんだと思う」
「ううん。蓮人くんが来てくれてよかった。灯里さんも、きっと蓮人くんとお話が出来て心強かったんじゃないかな」
「だといいけどな……。あとは待つだけか。倒れている灯里を見つけてくれたのも、響子なのか?」
「うん、差し入れに行ったら玄関は閉まってるのに窓は開いてて、変だなって思って中を見たら倒れていたの。急に心臓が悪くなっちゃったみたいで」
「そうか。倒れた灯里を見つけてくれたことにも、感謝しなきゃな」
「ううん……。私がもっと早く灯里さんをたずねていれば……」
私の言葉に、蓮人くんは大きく首を左右に振った。
「そんなこと言わないでくれ。それを言ったら、オレなんて何もせずにネトゲをしていただけなんだから。お前がいてくれて、ホントに良かったよ」
「わかった。……手術、長いね。灯里さん、ずっと頑張っているんだね」
「そうだな。オレには待つことしか出来ないけど……せめて灯里を待ち続けようと思う」
「うん、私も今日はアルバイトお休みだから、ここで灯里さんを待つ」
重い無言の時間が流れる。
蓮人くんはまるで彫刻のように動かない。時折、微かに身じろぎするか瞬きをするくらいだ。私は落ち着かなくて、何度も座る姿勢を変えたり窓の外に目をやったりしていた。
時間が流れるのが、とても遅い感じ。
私は秀男さんに何も伝えていないことを思い出して、手術が長くなることと蓮人くんがきちんと灯里さんと話せたことを電話で連絡した。
電話が終わると、また待合室に沈黙がおとずれる。
ベッドで誰かが移動していくたびに、それが灯里さんじゃないかと見てしまう。
だけどもちろんそんなことはなくて、手術中のランプは点いたままだ。
朝ごはんを食べ終えて差し入れに行ったときはまだ斜めだった日差しが、やがて中天に差し掛かりお昼の時間が過ぎていく。
蓮人くんと何か話したい気もしたが、言葉は出てこなかった。
(灯里さんの手術が、無事に成功しますように……)
心の中で何度となく、それだけを願った。きっととなりに座る蓮人くんもそうだろう。
ゆっくり、ゆっくりと流れていく時間。
やがて待合室の窓に夕日が差し掛かるころ、ビニール袋を持った秀男さんが病院の待合室にやってきた。待合室のテーブルにビニール袋を置く。
「話は聞いた。手術、長いんだってな。お前らここで待つつもりなんだろ? それなら今のうちに食えるもん食っとけ」
ビニール袋の中にはパンとおにぎり、それにスポーツドリンクが入っていた。
「秀男さん……ありがたいけど、とてもそんな気分じゃないよ」
「私も。ずっとご飯も食べてないしお腹空いてもおかしくないのに、ぜんぜん……それに、今も灯里さんが大変な思いをしていると考えると……」
「いいか、蓮人。響子。待っているお前たちまでダウンしたら、どうしようもねぇだろうが。暑い中走ってきて、水分もとらない飯も食わないでぶっ倒れてみろ。手術を成功させたあと、倒れてるお前たちを見たら灯里ちゃんはどう思う?」
秀男さんがそう言って、私たちにもう一度食事と水分補給を勧めてくる。
「誰かが弱ってるときってのはなぁ、周りの人間がしっかりしなきゃいけないんだ! だからこそ、きちんと灯里ちゃんを体調万全で待てるようにしろ。待ってるほうが無理して倒れましたじゃ話にならねぇぞ。ほら、食え!」
確かに言われてみると、私も病院と彩花荘を走って往復して喉はカラカラだった。
万が一、脱水症状を起こしてしまっては元も子もない。
灯里さんのことしか頭になくて、自分のことなどどこかに置き忘れていた。
「わかったよ。食う。……ありがとう、秀男さん」
「私も、汗かいてきちんと水分補給してなかったし……これ、ありがたくいただきます」
幸い待合室では飲食が禁止されていない。
私たちはこの場を離れることなく食事と水分補給をすることが出来た。
食べ物も飲み物もほとんど味なんて感じなかったけど、スポーツドリンクを飲むと頭が少しスッキリしたような気がする。待っている方もしっかりしないといけないという秀男さんの言葉を胸に、残りの飲料を飲み干した。
私たちが食事をとったのを確認すると、秀男さんが頷いて言う。
「オレまでここに居ても仕方ない。オレは戻る、何かあったら連絡をくれ」
「秀男さん、ありがとうございました。私、頭の中混乱してて自分のことなんかまるで考えていなくって」
「お前らはそれでいい。ふたりはふたりが出来ることをしろ。オレはオレの出来ることをしたまでだ。じゃあ、灯里ちゃんのことよろしくな」
秀男さんの言葉に、蓮人くんがうなずいた。秀男さんはそれを見届けてから、ゴミをつめたビニール袋を持って待合室を去っていった。
少しすると、蓮人くんが口を開いた。
「響子、お前心の色が見えるんだよな。オレの心の色を見てみてくれないか?」
「蓮人くんの心の色を? どうして?」
「どうしてもだ。頼む」
私に向けて蓮人くんが頭を下げた。
「う、うん。わかった」
意外な申し出に戸惑ったけど、私は了承して蓮人くんの胸の辺りをじっと見つめる。
いつもうつむいて話す、と指摘されてからあまり見ないようにしていた場所。
そこに、蓮人くんの心の色が浮かび上がる。
いつも通りの、よく磨かれた石のようなグレー。ただ、いつもはモヤのような霧がかかっているその心の中から、今は霧が消え去っていた。
「蓮人くんの心の色はいつも通りだよ。ただ、今までは蓮人くんの心を覆っていた霧みたいなものが、今は消えている。キレイに澄み渡っているの」
「そうか……。こんなオレでも、灯里の無事はなんの邪念もなく祈れるのかな。無理な頼みをして悪かったな」
「ううん、いいの。それで少しでも蓮人くんの気持ちが楽になるなら」
いつもは何かにつけてはぐらかしたり、ごまかしたりと物事をうまく回避する蓮人くん。
だけど、回避不能な事態に陥ったとき、蓮人くんは不安になったのかもしれない。純粋な心で灯里さんの無事を願えているのかどうか。
(だいじょうぶだよ蓮人くん。蓮人くんは、今心の底から灯里さんの無事を願えているよ)
心の中でそう語りかけて、私は目をつむった。
病院は静かだ。待合室の時計の秒針だけが慌ただしい音を立てている。
長い時間が過ぎ、夕日も地平線に沈みかけていた。もうすぐ夜がやってくる。
私は何度も待合室の時計を確認した。もうすぐ、灯里さんが手術室に運び込まれて八時間になろうとしているのだ。
「もうすぐだね……」
「ああ。もうすぐだな」
さすがに蓮人くんも焦れたのか、ずっと座っていた椅子から立ちあがっている。
私も落ち着かなくなって、立ったり座ったりを繰り返していた。
長くても、あと一時間。
息が詰まる。私はいつの間にか自分の呼吸が浅くなっていることに気が付いた。
待っている方がしっかりしなくっちゃいけない。
秀男さんの言葉を思い出して、深呼吸をする。
ありったけの願いを込めて、手術室のランプを見つめ続けた。
そして――。
待合室に入ってから八時間半が経過したころ、手術中のランプの明かりが消えた。
「蓮人くん! 手術室の明かりが消えた!」
「ああ! 行こう」
私たちは手術室のすぐ横にある廊下まで早足に移動した。
すぐに手術室のドアが開き、人工呼吸器を取りつけられた灯里さんが運ばれてくる。
ベッドを運びながら出てきた医師たちのひとりが、私たちの前で立ち止まった。
「先生、灯里さんの手術は成功したんですよね!?」
「灯里は、だいじょうぶなんでしょうか!?」
ふたりで畳み掛けるように聞くと、マスクを外した医師が頷いた。
「ご安心ください、手術は無事成功しました」
「本当ですか!? 成功だって、蓮人くん!」
「ああ、聞いた! よかった……灯里」
思わずふたりで手を取り合って喜んでいると、先生が咳払いをした。
「今後のことですが……」
「あ、すいません。嬉しくてつい……」
「申し訳ございません、続けてください」
私と蓮人くんが居ずまいを正す。
「月詠灯里さんはこれから三日ほど集中治療室に入っていただきます。手術は成功しておりますが、今後の経過を見るために必要な措置だとお考えください。その後、順調に回復していけば三日後に一般病棟に移します。そこでも問題が見られない場合、十日ほどで退院となるでしょう」
合わせても二週間に満たない入院期間なのか。
命に関わる手術をしたのだから、もっと長い入院生活が待っているのだと思っていた。
「今後の事はわかりました。先生、このたびは本当にありがとうございました」
蓮人くんが深々と頭を下げる。私もそれに倣った。
「我々だけの成果ではありません。この手術のために手術のスケジュールをずらしてくれた患者様や休日に集まってくれたスタッフ、それに手術を受けた灯里さんの頑張りがあればこその成功でした。灯里さんが一般病棟に移ったら、褒めてあげてください」
静かな声でそう言って、先生が病院の奥へと去っていった。
私たちは顔を見合わせて笑い合う。
「ああ、良かった! 本当に良かった!」
「うん、良かった。集中治療室を出るまでは心配だけど……まずは何よりだ」
私と蓮人くんは、集中治療室で眠る灯里さんをガラス越しに確認してから、病院を後にした。秀男さんに電話をして手術は成功したことを伝えると「よかったな、お疲れさん」と落ち着いた声が返ってくる。
しかし、これからの灯里さんの予後の予定を伝えるころには「よかったなぁ……!」と涙声に変わっていた。秀男さんも、彩花荘でひとりずっと心配をしていたのだろう。
蓮人くんが、前を向きながら口を開いた。
「今日は一日座りっぱなしで身体がなまったな。いつもより多くトレーニングやるか」
「えっ、今日もやってくれるの? ありがとう。でも蓮人くんはいつもネットゲームで座りっぱなしじゃないの?」
「まぁ、な。それを言われるとつらいが……やっぱり座ってても気分が違うからな。今は思い切り身体を動かしたい気持ちだ。本当に良かった」
暗くなった空を見上げて、蓮人くんが呟くような声で言う。
うん、ホントに良かった――。
私も暮れた空を見上げて、頷いた。
その日、彩花荘に帰り夕飯を済ませた後、私たちは運動公園でいつもより長い時間ボクシング流のパンチの避け方のトレーニングをした。
灯里さん、本当に良かった。
これからは灯里さんの退院まで毎日病院に通おうと、私は心に決めたのであった。
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