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流行作家の死
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「本当にずっと仲間と一緒だったのか?」
「ええ……あ、そういえば、攫われる三日前の夜は、芝居仲間ではない友人と会っていたわ」
オルランドの質問にミラはそう答えた。
「友人ですか?」
「ええ。とはいっても芝居と全く関りがない人物っていう訳でもないの。彼女は演劇作家をやっていてね。今度やる予定だった演劇も彼女が脚本を書いたのよ」
「その演劇作家とは一対一で会ったのか。どこで、どんな会話を?」
「そうね。二人だけだったけど……えっと場所は確か大通りのフライドチキンが有名なお店だったわ。会話も別に普通の会話よ? お互いの近況について。主に彼女の仕事に対する愚痴を私が聞いていただけだったけど」
「愚痴ってどんな?」
「そうねぇ……最近、ずっと似たような話ばかり書かされるって嘆いてたわ。それに今の売れ方は彼女の本意じゃないとも言っていた。彼女は今とっても売れっ子なんだけど、とある貴族の方がいたく彼女の作品を気に入ってね。大量に買っては周囲に配って宣伝しているらしいの。流行作家だって持て囃されているけれど、それは作られた流行だから不満だって……わりとよくある話だし、贅沢な悩みだと本人も言っていたけれど」
(作られた流行……)
「はぁ……どうやら、事件は関係なさそうだな」
ジルがそう結論を出そうとする中、オルランドがノアの異変に気付いた。
「どうしたノア?」
「……ねぇ。その友人の作家さんの家ってどこだかわかる?」
「わかるわよ。酔い潰れた彼女を何度か送ったことがあるから……ここから数分じゃないかしら」
「じゃあ、案内してくれる? いますぐに」
ミラの案内で、演劇作家の家に向かったノア達は、家の前に着いてすぐにその異変に気付いた。
「この臭い……」
「ああ」
ジルとオルランドが、ドアを開ける前にミラとノアを振り返る。
「二人はここで待っててくれないか」
「え?」
「……わかった」
戸惑うミラに対して、ここに来るまでにある程度察していたノアは彼女を肩を抱いて家から少し距離を取る。家の中に入ったオルランドとジルはそれからしばらく出てこなかった。そして、ノア達の前に再び姿を現した時には青い顔をして隠さずに事実を告げた。
「……家の中に遺体があった。亡くなってから数日は経っている。恐らくこの家に住んでいた作家本人だろう」
「そんな!」
(やっぱりそうか……)
「家の中は荒らされていて、金目の物が盗られていた。強盗の仕業かあるいは……」
「ミラさんと同じ『口封じ』のために殺された」
ジルがノアの目を見て頷く。2人の見解は同じだった。
(……恐らく、彼女はある目的の為にずっと利用されていた。けれど、もうその目的は達成済みで、彼女は用済みだったんだ。そして、外部に余計なことを喋ってしまったのがバレて、口封じの為に殺害した。そして、ミラ嬢の命も狙った。彼女はΩだから人攫いに攫われたことにして、作家の方は、強盗の犯行に見せかけて殺害した……なんて酷い連中なんだ)
「ジルさん……ミラさんがまた狙われる可能性があります。彼女を守らないと」
「安心しな。せっかく助けた命だ。ミラ嬢のことはギルドで責任を持って守り通す」
「ありがとうございます」
ギルドの冒険者達が護衛してくれるなら彼女の身は安全だろう。
(一刻も早く犯人達を見つけたいところだけど、焦っては駄目だ。まずは一つずつ可能性を潰していかないと。そのためにも……)
「ねぇ、オルランド。今度付き合って欲しい場所があるんだけど……」
そこまで言いかけてノアはオルランドの異変に気付いた。彼は、家から出た後も、ジルとノアの会話には参加せず、上の空だった。てっきり、考え事でもしているのかと思っていたが……。
「……オルランド?」
「っ、どうした? ノア」
そう訊ねたオルランドの顔にはいつものように笑みを浮かんでいたが、無理をしているのがノアにはすぐにわかった。
「……ジルさん」
「ああ。わかってるよ。後の事は任せな」
オルランドの様子がおかしいことに気づいたのはノアだけじゃなかったようだ。ジルはそう言ってノア達を送り出してくれた。ノアはジルの気遣いに感謝しながら黙礼してオルランドの手を引いて歩きだす。
「ノア……? どこに行くんだ。通報がまだ……」
「それは、ジルさんに任せよう。とりあえず、俺についてきて」
「ええ……あ、そういえば、攫われる三日前の夜は、芝居仲間ではない友人と会っていたわ」
オルランドの質問にミラはそう答えた。
「友人ですか?」
「ええ。とはいっても芝居と全く関りがない人物っていう訳でもないの。彼女は演劇作家をやっていてね。今度やる予定だった演劇も彼女が脚本を書いたのよ」
「その演劇作家とは一対一で会ったのか。どこで、どんな会話を?」
「そうね。二人だけだったけど……えっと場所は確か大通りのフライドチキンが有名なお店だったわ。会話も別に普通の会話よ? お互いの近況について。主に彼女の仕事に対する愚痴を私が聞いていただけだったけど」
「愚痴ってどんな?」
「そうねぇ……最近、ずっと似たような話ばかり書かされるって嘆いてたわ。それに今の売れ方は彼女の本意じゃないとも言っていた。彼女は今とっても売れっ子なんだけど、とある貴族の方がいたく彼女の作品を気に入ってね。大量に買っては周囲に配って宣伝しているらしいの。流行作家だって持て囃されているけれど、それは作られた流行だから不満だって……わりとよくある話だし、贅沢な悩みだと本人も言っていたけれど」
(作られた流行……)
「はぁ……どうやら、事件は関係なさそうだな」
ジルがそう結論を出そうとする中、オルランドがノアの異変に気付いた。
「どうしたノア?」
「……ねぇ。その友人の作家さんの家ってどこだかわかる?」
「わかるわよ。酔い潰れた彼女を何度か送ったことがあるから……ここから数分じゃないかしら」
「じゃあ、案内してくれる? いますぐに」
ミラの案内で、演劇作家の家に向かったノア達は、家の前に着いてすぐにその異変に気付いた。
「この臭い……」
「ああ」
ジルとオルランドが、ドアを開ける前にミラとノアを振り返る。
「二人はここで待っててくれないか」
「え?」
「……わかった」
戸惑うミラに対して、ここに来るまでにある程度察していたノアは彼女を肩を抱いて家から少し距離を取る。家の中に入ったオルランドとジルはそれからしばらく出てこなかった。そして、ノア達の前に再び姿を現した時には青い顔をして隠さずに事実を告げた。
「……家の中に遺体があった。亡くなってから数日は経っている。恐らくこの家に住んでいた作家本人だろう」
「そんな!」
(やっぱりそうか……)
「家の中は荒らされていて、金目の物が盗られていた。強盗の仕業かあるいは……」
「ミラさんと同じ『口封じ』のために殺された」
ジルがノアの目を見て頷く。2人の見解は同じだった。
(……恐らく、彼女はある目的の為にずっと利用されていた。けれど、もうその目的は達成済みで、彼女は用済みだったんだ。そして、外部に余計なことを喋ってしまったのがバレて、口封じの為に殺害した。そして、ミラ嬢の命も狙った。彼女はΩだから人攫いに攫われたことにして、作家の方は、強盗の犯行に見せかけて殺害した……なんて酷い連中なんだ)
「ジルさん……ミラさんがまた狙われる可能性があります。彼女を守らないと」
「安心しな。せっかく助けた命だ。ミラ嬢のことはギルドで責任を持って守り通す」
「ありがとうございます」
ギルドの冒険者達が護衛してくれるなら彼女の身は安全だろう。
(一刻も早く犯人達を見つけたいところだけど、焦っては駄目だ。まずは一つずつ可能性を潰していかないと。そのためにも……)
「ねぇ、オルランド。今度付き合って欲しい場所があるんだけど……」
そこまで言いかけてノアはオルランドの異変に気付いた。彼は、家から出た後も、ジルとノアの会話には参加せず、上の空だった。てっきり、考え事でもしているのかと思っていたが……。
「……オルランド?」
「っ、どうした? ノア」
そう訊ねたオルランドの顔にはいつものように笑みを浮かんでいたが、無理をしているのがノアにはすぐにわかった。
「……ジルさん」
「ああ。わかってるよ。後の事は任せな」
オルランドの様子がおかしいことに気づいたのはノアだけじゃなかったようだ。ジルはそう言ってノア達を送り出してくれた。ノアはジルの気遣いに感謝しながら黙礼してオルランドの手を引いて歩きだす。
「ノア……? どこに行くんだ。通報がまだ……」
「それは、ジルさんに任せよう。とりあえず、俺についてきて」
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