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エドワードの正体
しおりを挟む「ノアッ!? どういう状況だこれは!!」
「チッ!」
もはやアルフレッド前でも取り繕うことなく舌打ちをするリリス。ノアはアルフレッドに大声で助けを求める。
「アルッ! 見ればわかんだろ! 殺されかけてる! 助けてくれ!!」
「はぁああああ!?」
アルフレッドは意味がわからず、戸惑いながらもノアを手にかけようとする兵士を背中から蹴り飛ばす。
「ノアに何しているこの狼藉者が!」
「ぐふっ…………あれ? 自分は何を……?」
アルフレッドに蹴り飛ばされた後、胸倉を掴まれて恫喝された兵士は、無事に魅了の魔法が解けたようだった。しかし、その直後にアルフレッドに頭を殴られて伸びてしまった。可哀そうである。ノアの身体を拘束していた侍女達も、魔法が解けたらしく困惑した様子で周囲を見回していた。
ノアは、彼女達の拘束から抜け出し、苦々しくアルフレッドを見ているリリスに笑いかける。
「どうやら形勢逆転のようだな、リリス」
「ッ……本当に忌々しい男ね、ノア・チャールストン!」
「リリスどうしたんだ? 怖い顔をして……ハッ、またノアにいじめられていたのか!?」
(アルフレッド様……どうしてこうも残念なお方なんだ……?)
この状況をみて、ノアがリリスをいじめていたと、どうして思えるんだろうか。さすがにぽんこつ過ぎてリリスでさえも、ドン引きした顔を隠せずにいる。
「ノア! お前、俺の事が好きな気持ちはわかるが、だからといってリリスに嫌がらせをするのはやめろ。大体在学中からお前は……」
「ちょっと空気を読めないポンコツは黙っていてもらえますか?」
「はぁああ!? ちょ、今お前俺の事をポンコツって言ったか?」
「言いました。前から残念な人だと思っていましたけど、本当に可哀そうなオツムしてますよね? とりあえず空気ぐらいは読みましょ? 今それどころじゃないんで」
アルフレッドが来たことで、余裕を取り戻したノアは彼に辛辣な言葉を吐きながら、倒れているアイリーンの傍に駆け寄る。
(良かった……本当に寝ているだけだ。でも、俺のせいで巻き込まれて辛い思いをさせてしまった……本当にごめんなさいアイリーン様。そして、助けてくれてありがとう)
アイリーンが必死にリリスの命令に抵抗しなければ、今頃ノアは窒息死していただろう。本当に彼女には感謝してもしたりない。
「お母様はどうしたんだノア? 具合でも悪いのか?」
「大丈夫です。眠っているだけ……恐らく疲れていたんでしょう。寝室に運んでいただけますか?」
「は、はい。お任せください」
ノアはアイリーンの目元に残る涙を指でふき取り、母親の容態を心配するアルフレッドにとりあえずそう答えて、未だ困惑している侍女達に託した。侍女達は魔法が切れて間もなく、訳がわからないなりに、本来の己の主人の身を守ろうと、三人で抱きかかえて部屋の外へと走っていく。
「さて。これでお前のお人形はいなくなった訳だが……改めて聞こうか。なんで俺の命を狙った?」
ノアはリリスに話しかけたのだが、その言葉に反応したのはアルフレッドだった。
「は? リリスがお前を? それは被害妄想が激しいだろ」
「いや、妄想も何も、今さっきそこで伸びている兵士に俺が殺されそうになっていたのを、ご自分で助けたばっかりでしょう?」
「いやそれはこの男が…………まさか、リリスがお前を殺すように命じたと?」
察しの悪い男でも、ようやく状況がわかってきたようだ。
「まさか……お母様も、リリスお前が……?」
「そうよ。アイリーン様にこの男を殺すように命令したわ。尤も抵抗されて、出来なかったけれど」
「なぜ、そんなことを……っ、俺の心が未だノアに囚われていると思っているのか?」
どこまでも頭がお花畑な男は頓珍漢なことを宣いながら、リリスに近づく。
「安心しろ。俺が一番好きなのは、リリスお前……」
「触らないでくれる?」
リリスに触れようとしたアルフレッドの手をリリスが払いのける。
「リリス……?」
「まだ気づかないの? ほんと哀れな男ね……貴方を好きだったことなんて一瞬、一秒たりともないわ。全てはエドワード様のため。それなのに、私の偽りの言葉に、偽物の態度に、まんまと騙されて……ほんと馬鹿な男」
リリスは未だに呆然としているアルフレッドを嘲笑いながら罵倒する。リリスから発せられる言葉の刃に打ちのめされながらも、アルフレッドはとある名前が彼女の口から出たことを聞き逃さなかったようだ。
「『エドワード様』……?」
「ッ……!」
アルフレッドが戸惑いながら、自分の兄の名前を呟く。自分の失態に気づいたリリスが息を呑むが、もう言い逃れは出来なかった。
「ここまでくれば、アルフレッド殿下だってわかるでしょう? リリスは、エドワード王子が放った刺客です」
「なんだと?」
「俺とアルフレッド殿下の婚約を破棄させて、殿下の評判を下げる……全てはエドワード様が王太子になるために計画されたことです」
「エドワード兄上が、王太子の地位を狙っている……?」
『そんなバカな……』とアルフレッドは呟き、忌々しく自分を睨みつけるリリスと、そのリリスと対峙するノアの真剣な表情を見て、ごくりと唾を呑みこんだ。
「本当なのか? ノア、リリス……兄上がそんなことを……」
「本当だよ、哀れな弟、アルフレッド」
「ッ!?」
「エドワード様!」
突如として、その場に現れた男性をみて、アルフレッドは驚愕し、そしてリリスもまた驚きながらも彼の名前を呼んだ。
そして、ノアは……その男性の姿を見て衝撃を受ける。
「うそ……なんで……」
「やぁ、御機嫌よう。ここ最近は会いに来てくれなくて寂しかったんですよ、ノア様」
「エディ……さん……」
そこに立っていたのは、王立図書館の司書であるエディだった。
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