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堕ちるならば、共に
しおりを挟む「……という訳で、ノアからの危険信号を感知した鳩のゴーレムが、ここまで案内してくれたんだ」
『オレノ、オカゲ! オレ、テンサイ!』
鳩のゴーレムはオルランドの肩にとまってドヤ顔をしている。
「……そうか。ローランには話したんだな。魔法のこと」
アルフレッドがそうぼそりと呟いた時、部屋の外が騒がしくなってきた。城の衛兵達がブクブク泡を噴いて倒れているエドワードを見て一瞬驚いたように騒めいたが、すぐに気持ちを切り替えてエドワードを拘束した。そして、放心状態で床に座り込んでいたリリスにも衛兵達の手が伸びる。
「気を付けてください。彼女は、『魅了の魔眼』の持ち主です。目を見ないように……最悪、操られますよ」
「魅了……」
「……しないわよ。今更そんなこと」
ノアの指摘に、オルランドが意味深に彼女を見つめ、リリスはノアにそう断言して立ち上がった。その体が心労のためかよろめき、アルフレッドがその体を支えようとしたが、リリスはその助けを睨みつけてはねのけた。
「……リリス」
「あなたの助けは不要よ」
リリスは差し出そうとしたアルフレッドの手を取らなかった。衛兵の目を見ないように下を向きながら、両手をあげて衛兵に投降する。
「こうなってしまったら、私は全てを自白するわ。愛してくれないのなら、せめて一緒に地獄に堕ちたいもの」
リリスは未だに気を失ったままのエドワードの横顔を見つめながらそう言った。己の欲望の為に、自分を殺そうとした姿を見て、想いは冷めたかと思ったが、恐らくここに至るまでに費やしたであろう時が、リリスを未だに深く縛り付けているようだ。それは愛なのか憎しみゆえなのか。外側で見ているだけのノアにはわからなかった。
リリスとエドワードが連行されるのを見守っている者がノア達の他にもいた。廊下の奥からちらりと見えたのは陛下だった。衛兵がエドワードを捕えたという事は、彼の悪事は既にオルランドかジルか、あるいはオスカーから聞かされた後だろう。
陛下がエドワードを庇わなかったのは、重要な証拠を握っているであろうジョン・デンバーが捕えられた為か、あるいはエドワードがしでかした犯罪の規模が多すぎて庇いきれなかったか……もしくは、彼の企てを知って己の認識を改めたのかも知れない……彼に国を任せるのはあまりにも危険すぎる、と。
いずれにせよ、陛下が衛兵を動かしたということは、エドワードとリリスは何かしらの裁きを受けることになるだろう。普通に考えたら死罪だが……まぁ、この先の事はもうノアには関係のないことだった。
「……この国ももう犯罪を見て見ぬフリは出来なくなった。間もなく関係者は全員捕らえられるだろう」
「そうなったら、お前の任務は終わりだな」
「そうだね」
オルランドは連行されていくエドワード達の背中を見つめながらそう呟いた。その短い言葉の裏にはきっと一年分の色々な思いがあるのだろう。
「……ノア」
廊下の奥へ消えていくリリス達を呆然と見つめていたアルフレッドがぼそりと名前を呼ぶ。視線だけそちらに向ければいつになく真剣な顔つきのアルフレッドがいた。
「お前と話がしたい。二人きりで」
「……いいですよ」
ノアがそう返事をすると、オルランドが一瞬傷ついた顔をした。無理矢理作ったとわかる笑みを浮かべて言う。
「じゃあ、俺は用があるから」
オルランドがそう言って去っていくのを眺めながら、ノアはアルフレッドに問う。
「ここで話します?」
「いや、中庭で」
アルフレッドがそういうので、ノア達は外に出た。庭に出ると日暮れが近くなっており、外はオレンジ色に染まっていた。
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