身代わりで処刑された執事を救うため、悪女になります!

七海ななな

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仰せのままに、ロザリア様。

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「……お姉様!探しましたわ。」

​エミリアだ。
「探した」などと言っているが、私が一人になるのを見計らっていただけだろう。
周囲に人気がないことを確認した彼女は、急き立てるような足取りで近づいてくる。

「お姉様!まあ、なんて素敵な装い……!あまりの美しさに、私、一瞬誰か分からなかったわ」

天使のような微笑み。桃色の可愛らしいドレス。その手には、可愛らしくラッピングされた小さな缶が握られている。
一週目の私は、この笑顔に騙されて、彼女を心の底から信じてしまっていた。

これまでの私なら、ここで「そうでしょう?当然よ」と傲慢に返していただろう。

​けれど、今はもう違う。

「ありがとう、エミリア。貴女もとても可愛らしいわよ。」
​私が優雅に微笑み、さらりと褒め返すと、エミリアは一瞬だけ、不思議そうに瞬きをした。

予想外の余裕ある態度に、彼女の計算がわずかに狂ったのが分かる。けれど、彼女はすぐに営業用の笑みに戻り、例の「毒」を差し出してきた。

「お姉様。最高級の茶葉を手に入れたのですが、よろしければヴィルヘルム殿下にお出しください。」

出た。
これはヴィルヘルム殿下にとって猛毒である〈銀雪花〉の含まれた紅茶だ。
全く。こんな危険なものを満面の笑みで差し出すなんて、白々しいにも程があるわ。
エミリアは優しく笑いながら、私に茶葉を差し出す。

「ありがとう、エミリア。でもいいの?貴女が直接、ヴィルヘルム殿下にお出しすればいいのに。」

エミリアは、獲物を待つ蜘蛛のような不気味な光を瞳の奥に宿し、さらに言葉を重ねる。

「いいのですか? 私のような分不相応な者が直接お出しするなんて、そんな差し出がましいこと……。やはり、婚約者であるお姉様の手から差し上げるのが、一番喜ばれると思いますわ」

(……全く、一言一句、記憶通りね)

ここで私が受け取り殿下にお出しすれば、彼女はすかさず「お姉様が選ばれた、特別なお茶ですの」と周囲に吹聴し、逃げ場を塞ぐつもりなのだ。

​私はエミリアから茶葉の缶を受け取ると、あえてその場では開けず、彼女の耳元に顔を寄せた。

​「ええ、ありがとう。……でもエミリア、中身の確認はもう済んでいるの? 殿下にお出しする以上、もし万が一、何か『間違い』でもあったら大変でしょう?」

エミリアの頬が微かに引きつる。

​「え……? な、何を仰っているの、お姉様。冗談が過ぎますわ」

私は彼女の動揺を愉しむように、優しくその手を握った。

​「そう、冗談よ。……あ、ユリウスが戻ってきたみたい」

​廊下の向こうから、正確なリズムの足音が聞こえてくる。
私はパッと手を離し、ユリウスに駆け寄った。
エミリアは気味が悪そうに、足速にその場を立ち去った。

「……ロザリア様。お待たせいたしました。お忘れ物の扇です」

ユリウスが私に扇を差し出しながら、不意にその視線を廊下の奥――先ほどまでエミリアが立っていた影へと向けた。
その瞳は、主を心配する執事のそれにしては、あまりにも鋭く、無機質だ。

「エミリア様と何を話されていたのですか。……少し、お顔が強張っているようですが」」

私は受け取ったばかりの扇を、パチンと小気味よい音を立てて開いた。
そして、エミリアから渡されたばかりの「茶葉の缶」の包装を剥ぎ、ユリウスの胸元に無造作に押し付ける。

「エミリアからプレゼントを預かったの。これ、今日の祝杯で使うわ。―――『完璧』な状態でね」

ユリウスは無言で缶を受け取った。

「開けてみて」

私の指示通り、ユリウスは音もなく蓋を開けた。
彼は中の香りを一度深く吸い込み、それから指先で茶葉を少しだけ掬い上げる。

​「……ほう」

​彼の動きが止まった。
指先にある茶葉を、光に透かすようにして凝視する。その瞳には、検品する鑑識官のような鋭利な光が宿っていた。

​「……ロザリア様。この茶葉、どこか『不自然』です」
​「不自然?どういうことかしら」
​「香りは最高級のものですが、奥に微かな、金属のような……あるいは雪解けの泥のような、不純な甘みがあります。……そしてこの乾燥した花弁の端。……これはおそらく、〈銀雪花〉です」

​彼は声を潜め、私を射抜くような眼差しで言った。

​「かつて、とある王族の暗殺に使われた禁忌の草です。……これを、エミリア様が?」
​「ええ。彼女は『殿下にお出しして』と、私にこれを託したわ。」

​私は彼の耳元に顔を寄せた。
さっきエミリアに向けた偽りの優しさとは違う、冷たく、確信に満ちた声。

「ユリウス。……貴方の腕を見込んで、お願いがあるの」
「……何なりと、仰せのままに」

私は淡々と、彼に短い指示を伝えた。
一週目の記憶、エミリアの罠、そして誕生会に参加する全員の思惑を、一気にひっくり返すための計画。

それを聞いたユリウスは、暫くなにか思案するような仕草をしていた。
やがて、彼は感情の抜け落ちた、いつもの完璧な執事の顔で小さく頷いた。

​「……承知いたしました。貴女様が望まれるのであれば、この身を尽くしてお応えいたします。」

ユリウスは深く、恭しく一礼した。
その仕草は完璧な執事そのものだったけれど、今の私にはひどく頼もしいものに思える。

「期待しているわよ、ユリウス。……さあ、主役の登場を待たせちゃいけないわ」

ユリウスは心得たように一歩下がり、影のように私の斜め後ろに控える。
​私は扇を閉じ、背筋をすっと伸ばすと、今度こそ大広間の大きな扉へと、真っ直ぐに歩き出した。
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