エルフの秘薬

かずら

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フェネリアと名付けられたその少女は、ごく普通のエルフ族だった。ツンと健康的に尖った耳、淡いバターブロンドの長く癖のないまっすぐな髪、丸くて大きなアイスグリーンの瞳。家族や友人に恵まれ、すくすくと育った。
けれど、15歳を迎えた次の日、フェネリアは突然の病に倒れた。熱が下がらず食欲も徐々に落ちていく。ベッドから起き上がれなくなり、水しか受け付けない体になる。両親は嘆き悲しみ、里中の知恵や薬を試したが病状は一向に良くならなかった。

「大丈夫だよ、フェネリア」

そんな中、とある人物がフェネリアの元を訪ねた。続く熱と体力の低下でもうぼんやりとしか人の顔が見えていなかったフェネリアにも、その人がいかに美しいかはよく分かった。
ゆるく編まれた髪が揺れて、神様みたいに整った顔が微笑む。

「よく頑張ったね」

その人は何か呪文を唱えて、きらきらとした輪のような道具をフェネリアの上に翳した。すると、何か熱いものがすうっと体中から抜けていくような感覚がして、あれほど熱く苦しかった体が楽になっていく。涙ながらに見守っていた両親が安堵と喜びにああっと声を上げた。

「あ…」

そして、フェネリアは自分に微笑みかけるその人の顔を初めてしっかりと見る事が出来た。
ホッとしたように微笑むその人こそ、我らがエルフ族の族長エルヴィスだったのだ。

「どうやら君は…類まれなる魔力の持ち主のようだね。過剰な力が君の体に少し悪さをしてしまった事が原因だろう」

エルヴィスは治療に使った輪のような道具を眺めながら難しい顔でそう説明した。そんな事を言われてもフェネリアにはいまいちピンと来ない。魔力とはエルフ族にはあって当然のものであるし、今まで他人と何も変わらない生活を送って来れた事もあり、自分の魔力が多いだとか少ないだとかを気にした事などなかったからだ。

「族長様…!娘は、これからどうなってしまうのですか…?」

エルヴィスに向かい何度も頭を下げ涙を流していた母親が青い顔を上げた。

「心配いらないよ。こうして1度魔力の流れを整えてやればもう体に悪影響はないはずだ」

「本当ですか…!良かった…良かった…!」

「体が元の調子になるまではこの薬を飲むと良い。また何かあったら、いつでも呼んでおくれ」

エルヴィスが背を向ける。その背に向かってフェネリアは声を張り上げた。エルヴィスが驚いたように振り返る。

「エルヴィス様!本当に…ありがとうございました…!このご恩はいつか必ず返します…!」

命を救ってくれた事、大丈夫だよと安心させてくれた事、全てに報います。フェネリアは高鳴る胸を抑えながら、心からそう誓ったのだった。

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