5 / 5
5
しおりを挟む
「……おい、新人!しっかりしなさい……、トラノスケ」
怒声にも似たハンターの叫びに、俺の意識は無理やり呼び戻された。頭を貫く痛みに顔をしかめながら上体を起こす。
「……!」
見渡すと、そこは先ほどの森の入り口であった。まだ地面には生暖かい赤い液体が流れている。意識を失ってまだ数分しか経っていないようだ。
目の前に、しゃがんで俺の顔を覗き込んでいる師匠がいた。いつもの端正な顔を少し歪ませ、唇を噛みしめている。
「バカ者が……!無茶して……!」
叫ぶと同時にすごい勢いで口に小さな瓶を突っ込まれた。俺は何が起きたのかまったく忘れて、目を白黒にさせて咳き込んだ。流れ込んでくる、レモンジュースに砂糖を大量に混ぜ込んだような味の液体は回復用のハイ・ポーションである。これであと十分もすれば傷口は塞がり、肉体的にはフル回復するが、全身の倦怠感は当分消えないだろう。
師匠のグランさんは俺が瓶の中身を飲み干したのを確認すると、ほっとしたようにいつもの冷静な表情に戻る。
周りのハンターたちの足音に顔を上げると、同期で親友のリュウが遠慮がちに声を掛けてきた。
「街のハンターたちの被害はほとんどありませんが、グレートウルフはうまく逃げたようで……」
「そうですか。こんな小さい森でレベル三十以上のモンスターが出るのは、数年ぶりですね……」
「こんなことありますか?安全だと思っている場所で、狩りができなくなるなんて……」
吐き出すようなリュウのセリフ。初心者のハンターたちが縄張りにしているところですら、高レベルのモンスターが出るようになっては、毎日の食糧探しですら命懸けの行為になってしまう。頭を左右に振ると太いため息をつき、気分を切り替えるように俺に訊いてきた。
「そりゃそうと、オメエ何だよさっきのは!?」
「……何のことだ?」
「とぼけるなよ。見たことねえぞあんなの!」
気付くと、グランを除いた、周りにいる全員が沈黙して俺の言葉を待っている。だが俺にはまったく何のことかわからない。その様子を察した師匠が
「新人のハンターが、高レベルの魔獣の攻撃をあそこまで捌くことは通常できない。……トラノスケ、キミはエキストラスキルを持っているのではないのか?」と口を挟んだ。
おお……というどよめきが、リュウをはじめ周りのハンターたちのあいだに流れた。
通常、様々な新人類の特殊スキルというのは系統だった修行によって段階的に習得することができる。例えば炎使いなら基本の“原子運動”というスキルをある程度まで成長して条件を満たすと新たな選択可能スキルとして『発火』や『爆発』などが出現する。
当然の興味を顔に浮かべ、リュウが急き込むように言った。
「グ、グランさん、トラノスケのスキルは?」
「解かっていれば、キミにも教えていたよ。どうやらトラノスケは自分でも気づかない能力を身に着けていたようだ」と呆れた声で師匠は呟く。
呆然とした様子の俺に、まだスキルと呼べるものをまったく身に付けていない親友はまあそうだろうなあと唸る。
出現の条件がはっきり判明していない身体スキル、ランダム条件ではとさえ言われている、それがエキストラスキルと呼ばれるものだ。身近なところでは身体強化の極致『剛腕』も含まれている。もっとも身体を鋼鉄のような鋼にする剛腕スキルは、それほどレアなものではなく筋力トレーニングの修行をしていれば出現する場合が多い。
このように、十数種類以上知られているエクストラスキルの殆どは最低でも百人以上が習得に成功しているのだが、俺が持つ『イビル・アイ』などはその限りでなかった。
このスキルは、おそらく習得者がほとんどいない、天から授かった能力『タレントスキル』というべきものだろう。
グレートウルフと戦うまで俺は自分にその能力があると知らなかったが、今日から俺の名が貴重なタレントスキル使いとして巷間に流れるだろう。これだけの人数の前で披露してしまっては、隠しおおせるものでもない。
怒声にも似たハンターの叫びに、俺の意識は無理やり呼び戻された。頭を貫く痛みに顔をしかめながら上体を起こす。
「……!」
見渡すと、そこは先ほどの森の入り口であった。まだ地面には生暖かい赤い液体が流れている。意識を失ってまだ数分しか経っていないようだ。
目の前に、しゃがんで俺の顔を覗き込んでいる師匠がいた。いつもの端正な顔を少し歪ませ、唇を噛みしめている。
「バカ者が……!無茶して……!」
叫ぶと同時にすごい勢いで口に小さな瓶を突っ込まれた。俺は何が起きたのかまったく忘れて、目を白黒にさせて咳き込んだ。流れ込んでくる、レモンジュースに砂糖を大量に混ぜ込んだような味の液体は回復用のハイ・ポーションである。これであと十分もすれば傷口は塞がり、肉体的にはフル回復するが、全身の倦怠感は当分消えないだろう。
師匠のグランさんは俺が瓶の中身を飲み干したのを確認すると、ほっとしたようにいつもの冷静な表情に戻る。
周りのハンターたちの足音に顔を上げると、同期で親友のリュウが遠慮がちに声を掛けてきた。
「街のハンターたちの被害はほとんどありませんが、グレートウルフはうまく逃げたようで……」
「そうですか。こんな小さい森でレベル三十以上のモンスターが出るのは、数年ぶりですね……」
「こんなことありますか?安全だと思っている場所で、狩りができなくなるなんて……」
吐き出すようなリュウのセリフ。初心者のハンターたちが縄張りにしているところですら、高レベルのモンスターが出るようになっては、毎日の食糧探しですら命懸けの行為になってしまう。頭を左右に振ると太いため息をつき、気分を切り替えるように俺に訊いてきた。
「そりゃそうと、オメエ何だよさっきのは!?」
「……何のことだ?」
「とぼけるなよ。見たことねえぞあんなの!」
気付くと、グランを除いた、周りにいる全員が沈黙して俺の言葉を待っている。だが俺にはまったく何のことかわからない。その様子を察した師匠が
「新人のハンターが、高レベルの魔獣の攻撃をあそこまで捌くことは通常できない。……トラノスケ、キミはエキストラスキルを持っているのではないのか?」と口を挟んだ。
おお……というどよめきが、リュウをはじめ周りのハンターたちのあいだに流れた。
通常、様々な新人類の特殊スキルというのは系統だった修行によって段階的に習得することができる。例えば炎使いなら基本の“原子運動”というスキルをある程度まで成長して条件を満たすと新たな選択可能スキルとして『発火』や『爆発』などが出現する。
当然の興味を顔に浮かべ、リュウが急き込むように言った。
「グ、グランさん、トラノスケのスキルは?」
「解かっていれば、キミにも教えていたよ。どうやらトラノスケは自分でも気づかない能力を身に着けていたようだ」と呆れた声で師匠は呟く。
呆然とした様子の俺に、まだスキルと呼べるものをまったく身に付けていない親友はまあそうだろうなあと唸る。
出現の条件がはっきり判明していない身体スキル、ランダム条件ではとさえ言われている、それがエキストラスキルと呼ばれるものだ。身近なところでは身体強化の極致『剛腕』も含まれている。もっとも身体を鋼鉄のような鋼にする剛腕スキルは、それほどレアなものではなく筋力トレーニングの修行をしていれば出現する場合が多い。
このように、十数種類以上知られているエクストラスキルの殆どは最低でも百人以上が習得に成功しているのだが、俺が持つ『イビル・アイ』などはその限りでなかった。
このスキルは、おそらく習得者がほとんどいない、天から授かった能力『タレントスキル』というべきものだろう。
グレートウルフと戦うまで俺は自分にその能力があると知らなかったが、今日から俺の名が貴重なタレントスキル使いとして巷間に流れるだろう。これだけの人数の前で披露してしまっては、隠しおおせるものでもない。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる