狩人たちの生活

yamakawa0419

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「……おい、新人!しっかりしなさい……、トラノスケ」

怒声にも似たハンターの叫びに、俺の意識は無理やり呼び戻された。頭を貫く痛みに顔をしかめながら上体を起こす。

「……!」

見渡すと、そこは先ほどの森の入り口であった。まだ地面には生暖かい赤い液体が流れている。意識を失ってまだ数分しか経っていないようだ。
目の前に、しゃがんで俺の顔を覗き込んでいる師匠がいた。いつもの端正な顔を少し歪ませ、唇を噛みしめている。

「バカ者が……!無茶して……!」

叫ぶと同時にすごい勢いで口に小さな瓶を突っ込まれた。俺は何が起きたのかまったく忘れて、目を白黒にさせて咳き込んだ。流れ込んでくる、レモンジュースに砂糖を大量に混ぜ込んだような味の液体は回復用のハイ・ポーションである。これであと十分もすれば傷口は塞がり、肉体的にはフル回復するが、全身の倦怠感は当分消えないだろう。
師匠のグランさんは俺が瓶の中身を飲み干したのを確認すると、ほっとしたようにいつもの冷静な表情に戻る。
周りのハンターたちの足音に顔を上げると、同期で親友のリュウが遠慮がちに声を掛けてきた。

「街のハンターたちの被害はほとんどありませんが、グレートウルフはうまく逃げたようで……」

「そうですか。こんな小さい森でレベル三十以上のモンスターが出るのは、数年ぶりですね……」

「こんなことありますか?安全だと思っている場所で、狩りができなくなるなんて……」

吐き出すようなリュウのセリフ。初心者のハンターたちが縄張りにしているところですら、高レベルのモンスターが出るようになっては、毎日の食糧探しですら命懸けの行為になってしまう。頭を左右に振ると太いため息をつき、気分を切り替えるように俺に訊いてきた。

「そりゃそうと、オメエ何だよさっきのは!?」

「……何のことだ?」

「とぼけるなよ。見たことねえぞあんなの!」

気付くと、グランを除いた、周りにいる全員が沈黙して俺の言葉を待っている。だが俺にはまったく何のことかわからない。その様子を察した師匠が

「新人のハンターが、高レベルの魔獣の攻撃をあそこまで捌くことは通常できない。……トラノスケ、キミはエキストラスキルを持っているのではないのか?」と口を挟んだ。

おお……というどよめきが、リュウをはじめ周りのハンターたちのあいだに流れた。
通常、様々な新人類の特殊スキルというのは系統だった修行によって段階的に習得することができる。例えば炎使いなら基本の“原子運動”というスキルをある程度まで成長して条件を満たすと新たな選択可能スキルとして『発火』や『爆発』などが出現する。
当然の興味を顔に浮かべ、リュウが急き込むように言った。

「グ、グランさん、トラノスケのスキルは?」

「解かっていれば、キミにも教えていたよ。どうやらトラノスケは自分でも気づかない能力を身に着けていたようだ」と呆れた声で師匠は呟く。

呆然とした様子の俺に、まだスキルと呼べるものをまったく身に付けていない親友はまあそうだろうなあと唸る。
出現の条件がはっきり判明していない身体スキル、ランダム条件ではとさえ言われている、それがエキストラスキルと呼ばれるものだ。身近なところでは身体強化の極致『剛腕』も含まれている。もっとも身体を鋼鉄のような鋼にする剛腕スキルは、それほどレアなものではなく筋力トレーニングの修行をしていれば出現する場合が多い。
このように、十数種類以上知られているエクストラスキルの殆どは最低でも百人以上が習得に成功しているのだが、俺が持つ『イビル・アイ』などはその限りでなかった。
このスキルは、おそらく習得者がほとんどいない、天から授かった能力『タレントスキル』というべきものだろう。
グレートウルフと戦うまで俺は自分にその能力があると知らなかったが、今日から俺の名が貴重なタレントスキル使いとして巷間に流れるだろう。これだけの人数の前で披露してしまっては、隠しおおせるものでもない。
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