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16.
(見られてしまった・・・)
抄介と別れた後、玲は動揺しながら慌ててマネージャーの桜川に連絡を入れた。
何度目かのコールで相手が電話に出る。
「お疲れ様です。どうかした?」
女性の声が携帯から聞こえてきた。
「お疲れ様です・・・俺、またやってしまいました」
「は?どういうこと?」
きつめな声が玲の耳につんざくように入ってくる。
少し携帯から離れるが、そのままあったことを全て話した。
暫くして、桜川の大きな溜息が携帯越しから聞こえる。
「とりあえず事務所に来なさい。いいわね」
「・・・はい」
言って玲は携帯を切り、小走りで一階のスタッフルームへと走って行った。
電車で乗り継ぎ、玲が所属している事務所へ着いた。
桜川の口調で怒られるのはわかってはいるが、今後、抄介とどうなってしまうのかそちらが気になり、混乱しながら事務所へと入っていた。
事務所はある雑居ビル内の二階と三階にあり、二階分を所有していた。
事務所自体はそんなに大きくはない。所属しているタレントは十人程度の規模だった。
二階に事務室がありそこへ向かった。
室内に入ると既にライトグレーのパンツスーツ姿のマネージャーが客人を通す時に使用している、長椅子と机があるスペースで座って待っていた。
桜川は玲のマネージャーで35歳。キリっとした顔立ちをした美人で、タレントのマネージメント力は高く、玲をスカウトしたのは彼女だった。
「玲」
「桜川さん、あのう・・・」
話しかける玲に桜川は遮ってある部屋に向かって指を示した。
「会議室に入りましょう」
「わかりました」
玲は言われるまま会議室に入り、桜川がドアを閉めた。
会議室に入るや否や桜川に怒りの目を向けられ、玲は話すことを躊躇っていた。しかし、その空気を読んだ桜川は彼女から口を開いた。
「もう一度確認なんだけどあなた、男性と付き合っていたの?」
「・・・はい」
「それはドラマのために?」
思わぬ発言に玲は面食らってしまった。
「え、まさか!」
「違うの?私は役の為に一時的に付き合ったと思ったのよ」
「え・・・」
唖然としながら桜川を見つめる玲に、彼女は更に驚いた。
「本気で好きだったの?」
その問いかけに玲は静かに頷いた。
「嘘でしょ?」
桜川は信じられず思わず本音が出てしまった。その言葉を聞いた玲の目は、怒りが含んだように見えた。
「ダメですか?ただ好きになっただけなんです」
「ダメって言ってないわ。ただ驚いただけ。でもおかげで今回のようなことが起きたんでしょ?」
「・・・・」
それを言われてしまえば玲は何も言えなかった。
自分が気持ちのまま行動したこと結果、大切な抄介を窮地に追い込んでしまった。
抄介は仕事を続けられなくなるかもしれない。
黙り込んでいる玲に桜川は、携帯を出すよう言った。
「携帯を出しなさい」
「え、なんでですか?」
「いいから。もちろん事務所が渡した方よ」
「・・・・」
黙り込む玲は渋々カバンから携帯を出した。
「その男性とは当然事務所から貸した携帯でやり取りしたわよね?」
「・・・はい」
言ってゆっくりと玲は桜川に携帯を渡した。
桜川は携帯の内容を見て、操作しながら話を続けた。
「あなたは感情に任せて行動したことで、一度俳優業を中止させられていた。私はあなたが役者向きだと思っていたから、それをコントロールさえできればいい俳優になるって思ってたの。だから暫くはあなたにもっと大人になってもらいたくて、申し訳ないけどプライベートもこちらで管理することにしたわ。だから携帯も事務所の物を使うよう言った。三ヶ月に一度の携帯チェックは玲にとっては面倒で息苦しかったかもしれないけど」
そう話す桜川に玲は静かに頷いた。
「わかってます。俺が役を引きずってあの時共演した、人気があった女優とデートに出かけて、たまたま出くわしたマスコミに撮られた」
「そうね。あの時私はあたなを推していたし、社長も賛同してくれた。これからだって時に撮られてね」
過去のことを思い出したのか、大きな溜息を吐いた。
「それからあなたは暫く俳優業を禁止されて、雑誌のモデルとか芝居の練習、事務所の雑務とかをやらされて、かなりフラストレーションを溜め込んだと思う」
「・・・・」
「ようやく社長からの役者復帰のOKをもらって、やっと深夜枠だけど、今話題のBLドラマで役者復帰作が決定して出演している矢先に・・・あなたはまた・・・」
「・・・・」
玲から出て来る言葉はなかった。
再び自分が起こした行動でこうなっているからだ。反省しているという言葉で済む話じゃない。
話しながら桜川は携帯の内容を再度確認しながら操作すると作業を終えた。
「これでいいわ」
言って携帯を玲に渡す。
「そのお相手の人と通じていたLINEアカウントは消したから」
「え・・・」
驚き、玲は慌ててLINEを立ち上げようすると使っていたアカウントは消えていた。
「言っておいたわよね?同業者の人用のアカウントと、一般人の人用のアカウントを使い分けろって」
「はい・・・使い分けてました。けど・・・!」
「仕方ないでしょ?あなたは俳優なのよ?これ以上のスキャンダルはダメよ!」
はっきりと言われ、玲は黙り込んでしまった。
「これ以上、問題を起こすようであれば解雇になるわよ、あなた」
「・・・・」
ダメ出しを言われてしまい、玲は成すすべはなかった。
「これ以上彼に近づかないこと。いいわね」
「・・・わかりました。ただ」
「何?」
厳しい顔で問われ、玲は少し怯みそうになるが、気持ちを込めて言った。
「彼が・・・倉沢抄介さんが会社でどうなったか教えて下さい」
「・・・それを知ってどうするの?」
「心配なんです。それを知るぐらいダメですか?」
必死な面持ちですがる玲に、桜川はふっと視線を逸らす。
「・・・わかったわ。社長の知り合いがビルを管理しているから聞いてみるわ。その相手の人、何階で働いていた人なの?」
「三階です」
「わかったわ。今日は帰りなさい。明日またドラマの収録があるでしょ?」
「・・・はい、わかりました」
静かに玲は桜川に頭を下げ、彼女の横を抜けて会議室を出た。
出て行く姿を桜川は、玲の後ろ姿を見守り、再び大きく溜息を吐いていた。
自室へ戻っても玲は食欲も沸かず、風呂に入いりベッドに潜り込んでも、一向に眠ることができなかった。
(俺はなんでまたやってしまったんだろう・・・)
そう思うと涙が止まらなかった。
自分がした行動が大切な人を傷つけた。
もう二度と会うことは出来ない。大切な人を自分は失ったのだ。
あれから抄介はどうなったのだろう。あの同僚に噂を流されたのだろうか?
嫌な思いはしてないだろうか。
仕事での地位は大丈夫なのだろうか?
悩みがどんどん頭の中で生まれて来る。
抄介からアドバイスを貰ったのに、今日はそんなことを忘れて行動してしまった。
(俺は調子に乗っていたんだ)
再び涙が零れ落ち、枕を濡らしていく。
後悔だけが玲の心を占めていき、自分をひたすら責めることしかできなかった。
あれから二ヶ月が経っていた。
何度もマネージャーの桜川に抄介の状況を玲は尋ねていたが、暫くはまだ聞いていないの一点張りだったが、最近やっと彼の状況がわかった。
抄介は最近、会社を退社していたのだ。
それを知った時、玲はその場で泣き崩れた。
既に玲はあの事件以来、清掃業を辞めていたから全く会社の状況がわからないが、自分との関係が社内で噂され、居た堪れなくなったのだろうと想像したのだ。
自分のせいで大切な人の人生を変えてしまったのだ。
「久しぶりだな。今日はよろしくな」
ふっと声をかけられた玲は慌ててそちらへと顔を向けた。
そこには久しぶりに会った園井がいた。
「おはようございます。お久しぶりです。ドラマの撮影以来ですね」
頭を下げた玲を見た園井は、一瞬にして表情が曇った。
「玲、お前大丈夫か?」
「え?」
「え?じゃないよ。随分痩せた気がする」
心配そうに言う園井に、玲は乾いた笑いをした。
「大丈夫です。ちょっと最近食欲がなくて、あまり食べてなかったんです」
「ただでさえ痩せてたのに、更に痩せるなんて」
「本当に大丈夫です。俺のことは・・・」
言ってすっと玲は暗い表情になった。
今日彼らがする仕事は、ドラマのPRをする為の雑誌インタビューで久しぶりに集まっていたのだ。
撮影自体は既に終わっているので、本当に久しぶりだった。
撮影している最中、玲は楽しそうに撮影に挑んでいて、面倒な奴もいたがそれを上手くかわしながら頑張って一緒に仕事をしていた。
そのイメージがあったから雰囲気が変わっていたし、痩せてもいるが顔色も悪いので更に園井は玲を心配した。
「あまり無理するなよ。俺がサポートするから」
「ありがとうございます。大丈夫です」
口調だけ元気そうに言うが、それは空元気に見える。
スタイリストからも顔色の悪さを心配され、メイクで必死に明るくされている。
後ろから見ていた園井は不安な面持ちで、その姿を見つめていた。
取材が始まり、ドラマの話やお互いの役柄について等ドラマについての取材が始まる。
二人はテンポよく、当時のことを思い出しながら役に付いて話していると、インタビュアーはBLドラマで良くある質問を二人に投げかけた。
「お二人は休憩中、仲良く話をされていたと聞いたのですが、何を話されていたんですか?」
その問いにすぐに答えたのは園井だった。
「え?あ・・・まぁ美味しい店の話とか、体調の話とか・・・ですね」
「そうなんですね、お二人で出かけたりはしないんですか?」
恐らく二人の仲が良いことを記事にしたいらしく、やたらと二人の共通点や二人で何をしていたかを探って来る。
一瞬呆れた園井だが、大人なので普通にその問いに答えようとした時だった。
「園井さんはとても尊敬できる先輩で、色々お芝居のやり方を教えてもらいました。僕はまだ人としても芝居も未熟なので、こんな僕に仲良くしていただけるだけで、それだけで感謝です」
真っ直ぐな目で答える玲に園井は少し面食らってしまい、インタビュアーも驚いた顔をしていた。
「そ、そうなんですね?そんなに園井さんに対して尊敬されているんですか?」
「はい。とても尊敬してます」
緩く笑みを作りながら玲は答えた。
園井はそんな玲を見ながら、それについて口を挟む。
「玲がそう思っていてくれるのは嬉しいけど、俺も全然未熟者だからお互い頑張って行こうな」
「はい」
笑顔で答える玲を見て、園井は少しホッとするが、それでもどこか玲の表情に影があるのが気になって仕方なかった。
「あまり人のプライベートに首を突っ込むのが嫌いだけど」
最初に一言、付け加えて園井は玲に話し始めた。
雑誌のインタビューを終えた後、どうしても気になって園井は着替え終わった玲に思わず声をかけたのだ。
「園井さん」
「ウザイかもしれないけど、いいか?」
玲は少し表情が陰るが、ぎこちなく頷いた。
「大丈夫です」
「ごめんな、どうしても気になって」
玲の待機室で園井は入って、思い切って色々と尋ね始めた。
「細かく言わなくてもいいけど、何かプライベートであったのか?」
「・・・・」
玲は地面に視線を落とし、今にも泣き出しそうな表情に変わっていく。
「園井さんは大切な人を傷つけたら、どうしますか?」
不意に問われ、園井は少し驚いた顔をするが、そうだなと言いながら玲の問いかけに答えた。
「とりあえず傷つけたことを謝ってなぜ傷つけてしまったか理由を言う。それしかないよな」
「・・・そうですよね。でもその人と二度と会えなかったらどうしますか?」
「え?」
想像していた内容と違って再び園井は驚く。しかし玲の表情が今にも崩れてしまいそうになっていたから、慎重に言葉を選びながら言った。
「二度と会えなかった時か。だったらもしいつか会えた時の為に、いつでも謝れる準備はしておく。あとはその人の幸せをずっと祈っているかな」
「祈る・・・」
「会えないのならそれしかできないよな。せめて幸せであっていて欲しいって俺だったら思う」
静かに顔を上げ、泣くことを堪えながら玲は園井に頭を下げた。
「ありがとうございます」
「なぜ大切な人が傷つけてしまったかわからないけど、その人のことをこれからも大事に思うことは大切だと思う。決して直接相手に伝わらなくてもな」
「・・・はい、そうします」
再び頭を下げる玲を見つめ、園井は彼の肩を優しく叩いた。
「それじゃあな」
言って、部屋の扉を開くと再び玲の顔つきを確認してから出て行った。
園井は少しだけでも玲の気持ちが穏やかになって欲しいと心中祈った。
抄介と別れた後、玲は動揺しながら慌ててマネージャーの桜川に連絡を入れた。
何度目かのコールで相手が電話に出る。
「お疲れ様です。どうかした?」
女性の声が携帯から聞こえてきた。
「お疲れ様です・・・俺、またやってしまいました」
「は?どういうこと?」
きつめな声が玲の耳につんざくように入ってくる。
少し携帯から離れるが、そのままあったことを全て話した。
暫くして、桜川の大きな溜息が携帯越しから聞こえる。
「とりあえず事務所に来なさい。いいわね」
「・・・はい」
言って玲は携帯を切り、小走りで一階のスタッフルームへと走って行った。
電車で乗り継ぎ、玲が所属している事務所へ着いた。
桜川の口調で怒られるのはわかってはいるが、今後、抄介とどうなってしまうのかそちらが気になり、混乱しながら事務所へと入っていた。
事務所はある雑居ビル内の二階と三階にあり、二階分を所有していた。
事務所自体はそんなに大きくはない。所属しているタレントは十人程度の規模だった。
二階に事務室がありそこへ向かった。
室内に入ると既にライトグレーのパンツスーツ姿のマネージャーが客人を通す時に使用している、長椅子と机があるスペースで座って待っていた。
桜川は玲のマネージャーで35歳。キリっとした顔立ちをした美人で、タレントのマネージメント力は高く、玲をスカウトしたのは彼女だった。
「玲」
「桜川さん、あのう・・・」
話しかける玲に桜川は遮ってある部屋に向かって指を示した。
「会議室に入りましょう」
「わかりました」
玲は言われるまま会議室に入り、桜川がドアを閉めた。
会議室に入るや否や桜川に怒りの目を向けられ、玲は話すことを躊躇っていた。しかし、その空気を読んだ桜川は彼女から口を開いた。
「もう一度確認なんだけどあなた、男性と付き合っていたの?」
「・・・はい」
「それはドラマのために?」
思わぬ発言に玲は面食らってしまった。
「え、まさか!」
「違うの?私は役の為に一時的に付き合ったと思ったのよ」
「え・・・」
唖然としながら桜川を見つめる玲に、彼女は更に驚いた。
「本気で好きだったの?」
その問いかけに玲は静かに頷いた。
「嘘でしょ?」
桜川は信じられず思わず本音が出てしまった。その言葉を聞いた玲の目は、怒りが含んだように見えた。
「ダメですか?ただ好きになっただけなんです」
「ダメって言ってないわ。ただ驚いただけ。でもおかげで今回のようなことが起きたんでしょ?」
「・・・・」
それを言われてしまえば玲は何も言えなかった。
自分が気持ちのまま行動したこと結果、大切な抄介を窮地に追い込んでしまった。
抄介は仕事を続けられなくなるかもしれない。
黙り込んでいる玲に桜川は、携帯を出すよう言った。
「携帯を出しなさい」
「え、なんでですか?」
「いいから。もちろん事務所が渡した方よ」
「・・・・」
黙り込む玲は渋々カバンから携帯を出した。
「その男性とは当然事務所から貸した携帯でやり取りしたわよね?」
「・・・はい」
言ってゆっくりと玲は桜川に携帯を渡した。
桜川は携帯の内容を見て、操作しながら話を続けた。
「あなたは感情に任せて行動したことで、一度俳優業を中止させられていた。私はあなたが役者向きだと思っていたから、それをコントロールさえできればいい俳優になるって思ってたの。だから暫くはあなたにもっと大人になってもらいたくて、申し訳ないけどプライベートもこちらで管理することにしたわ。だから携帯も事務所の物を使うよう言った。三ヶ月に一度の携帯チェックは玲にとっては面倒で息苦しかったかもしれないけど」
そう話す桜川に玲は静かに頷いた。
「わかってます。俺が役を引きずってあの時共演した、人気があった女優とデートに出かけて、たまたま出くわしたマスコミに撮られた」
「そうね。あの時私はあたなを推していたし、社長も賛同してくれた。これからだって時に撮られてね」
過去のことを思い出したのか、大きな溜息を吐いた。
「それからあなたは暫く俳優業を禁止されて、雑誌のモデルとか芝居の練習、事務所の雑務とかをやらされて、かなりフラストレーションを溜め込んだと思う」
「・・・・」
「ようやく社長からの役者復帰のOKをもらって、やっと深夜枠だけど、今話題のBLドラマで役者復帰作が決定して出演している矢先に・・・あなたはまた・・・」
「・・・・」
玲から出て来る言葉はなかった。
再び自分が起こした行動でこうなっているからだ。反省しているという言葉で済む話じゃない。
話しながら桜川は携帯の内容を再度確認しながら操作すると作業を終えた。
「これでいいわ」
言って携帯を玲に渡す。
「そのお相手の人と通じていたLINEアカウントは消したから」
「え・・・」
驚き、玲は慌ててLINEを立ち上げようすると使っていたアカウントは消えていた。
「言っておいたわよね?同業者の人用のアカウントと、一般人の人用のアカウントを使い分けろって」
「はい・・・使い分けてました。けど・・・!」
「仕方ないでしょ?あなたは俳優なのよ?これ以上のスキャンダルはダメよ!」
はっきりと言われ、玲は黙り込んでしまった。
「これ以上、問題を起こすようであれば解雇になるわよ、あなた」
「・・・・」
ダメ出しを言われてしまい、玲は成すすべはなかった。
「これ以上彼に近づかないこと。いいわね」
「・・・わかりました。ただ」
「何?」
厳しい顔で問われ、玲は少し怯みそうになるが、気持ちを込めて言った。
「彼が・・・倉沢抄介さんが会社でどうなったか教えて下さい」
「・・・それを知ってどうするの?」
「心配なんです。それを知るぐらいダメですか?」
必死な面持ちですがる玲に、桜川はふっと視線を逸らす。
「・・・わかったわ。社長の知り合いがビルを管理しているから聞いてみるわ。その相手の人、何階で働いていた人なの?」
「三階です」
「わかったわ。今日は帰りなさい。明日またドラマの収録があるでしょ?」
「・・・はい、わかりました」
静かに玲は桜川に頭を下げ、彼女の横を抜けて会議室を出た。
出て行く姿を桜川は、玲の後ろ姿を見守り、再び大きく溜息を吐いていた。
自室へ戻っても玲は食欲も沸かず、風呂に入いりベッドに潜り込んでも、一向に眠ることができなかった。
(俺はなんでまたやってしまったんだろう・・・)
そう思うと涙が止まらなかった。
自分がした行動が大切な人を傷つけた。
もう二度と会うことは出来ない。大切な人を自分は失ったのだ。
あれから抄介はどうなったのだろう。あの同僚に噂を流されたのだろうか?
嫌な思いはしてないだろうか。
仕事での地位は大丈夫なのだろうか?
悩みがどんどん頭の中で生まれて来る。
抄介からアドバイスを貰ったのに、今日はそんなことを忘れて行動してしまった。
(俺は調子に乗っていたんだ)
再び涙が零れ落ち、枕を濡らしていく。
後悔だけが玲の心を占めていき、自分をひたすら責めることしかできなかった。
あれから二ヶ月が経っていた。
何度もマネージャーの桜川に抄介の状況を玲は尋ねていたが、暫くはまだ聞いていないの一点張りだったが、最近やっと彼の状況がわかった。
抄介は最近、会社を退社していたのだ。
それを知った時、玲はその場で泣き崩れた。
既に玲はあの事件以来、清掃業を辞めていたから全く会社の状況がわからないが、自分との関係が社内で噂され、居た堪れなくなったのだろうと想像したのだ。
自分のせいで大切な人の人生を変えてしまったのだ。
「久しぶりだな。今日はよろしくな」
ふっと声をかけられた玲は慌ててそちらへと顔を向けた。
そこには久しぶりに会った園井がいた。
「おはようございます。お久しぶりです。ドラマの撮影以来ですね」
頭を下げた玲を見た園井は、一瞬にして表情が曇った。
「玲、お前大丈夫か?」
「え?」
「え?じゃないよ。随分痩せた気がする」
心配そうに言う園井に、玲は乾いた笑いをした。
「大丈夫です。ちょっと最近食欲がなくて、あまり食べてなかったんです」
「ただでさえ痩せてたのに、更に痩せるなんて」
「本当に大丈夫です。俺のことは・・・」
言ってすっと玲は暗い表情になった。
今日彼らがする仕事は、ドラマのPRをする為の雑誌インタビューで久しぶりに集まっていたのだ。
撮影自体は既に終わっているので、本当に久しぶりだった。
撮影している最中、玲は楽しそうに撮影に挑んでいて、面倒な奴もいたがそれを上手くかわしながら頑張って一緒に仕事をしていた。
そのイメージがあったから雰囲気が変わっていたし、痩せてもいるが顔色も悪いので更に園井は玲を心配した。
「あまり無理するなよ。俺がサポートするから」
「ありがとうございます。大丈夫です」
口調だけ元気そうに言うが、それは空元気に見える。
スタイリストからも顔色の悪さを心配され、メイクで必死に明るくされている。
後ろから見ていた園井は不安な面持ちで、その姿を見つめていた。
取材が始まり、ドラマの話やお互いの役柄について等ドラマについての取材が始まる。
二人はテンポよく、当時のことを思い出しながら役に付いて話していると、インタビュアーはBLドラマで良くある質問を二人に投げかけた。
「お二人は休憩中、仲良く話をされていたと聞いたのですが、何を話されていたんですか?」
その問いにすぐに答えたのは園井だった。
「え?あ・・・まぁ美味しい店の話とか、体調の話とか・・・ですね」
「そうなんですね、お二人で出かけたりはしないんですか?」
恐らく二人の仲が良いことを記事にしたいらしく、やたらと二人の共通点や二人で何をしていたかを探って来る。
一瞬呆れた園井だが、大人なので普通にその問いに答えようとした時だった。
「園井さんはとても尊敬できる先輩で、色々お芝居のやり方を教えてもらいました。僕はまだ人としても芝居も未熟なので、こんな僕に仲良くしていただけるだけで、それだけで感謝です」
真っ直ぐな目で答える玲に園井は少し面食らってしまい、インタビュアーも驚いた顔をしていた。
「そ、そうなんですね?そんなに園井さんに対して尊敬されているんですか?」
「はい。とても尊敬してます」
緩く笑みを作りながら玲は答えた。
園井はそんな玲を見ながら、それについて口を挟む。
「玲がそう思っていてくれるのは嬉しいけど、俺も全然未熟者だからお互い頑張って行こうな」
「はい」
笑顔で答える玲を見て、園井は少しホッとするが、それでもどこか玲の表情に影があるのが気になって仕方なかった。
「あまり人のプライベートに首を突っ込むのが嫌いだけど」
最初に一言、付け加えて園井は玲に話し始めた。
雑誌のインタビューを終えた後、どうしても気になって園井は着替え終わった玲に思わず声をかけたのだ。
「園井さん」
「ウザイかもしれないけど、いいか?」
玲は少し表情が陰るが、ぎこちなく頷いた。
「大丈夫です」
「ごめんな、どうしても気になって」
玲の待機室で園井は入って、思い切って色々と尋ね始めた。
「細かく言わなくてもいいけど、何かプライベートであったのか?」
「・・・・」
玲は地面に視線を落とし、今にも泣き出しそうな表情に変わっていく。
「園井さんは大切な人を傷つけたら、どうしますか?」
不意に問われ、園井は少し驚いた顔をするが、そうだなと言いながら玲の問いかけに答えた。
「とりあえず傷つけたことを謝ってなぜ傷つけてしまったか理由を言う。それしかないよな」
「・・・そうですよね。でもその人と二度と会えなかったらどうしますか?」
「え?」
想像していた内容と違って再び園井は驚く。しかし玲の表情が今にも崩れてしまいそうになっていたから、慎重に言葉を選びながら言った。
「二度と会えなかった時か。だったらもしいつか会えた時の為に、いつでも謝れる準備はしておく。あとはその人の幸せをずっと祈っているかな」
「祈る・・・」
「会えないのならそれしかできないよな。せめて幸せであっていて欲しいって俺だったら思う」
静かに顔を上げ、泣くことを堪えながら玲は園井に頭を下げた。
「ありがとうございます」
「なぜ大切な人が傷つけてしまったかわからないけど、その人のことをこれからも大事に思うことは大切だと思う。決して直接相手に伝わらなくてもな」
「・・・はい、そうします」
再び頭を下げる玲を見つめ、園井は彼の肩を優しく叩いた。
「それじゃあな」
言って、部屋の扉を開くと再び玲の顔つきを確認してから出て行った。
園井は少しだけでも玲の気持ちが穏やかになって欲しいと心中祈った。
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