異の中は深く無になる

リツキ

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「なあ修次!夏休みにちょっと俺とある場所まで付き合ってくれねえか?」

 7月中旬、ようやく本格的に夏が始まりうだる暑さの中、一学期の終業式を終えた後、帰りに突然北村洋逸きたむらよういちが幼馴染の染谷修次そめたにしゅうじに声をかけていた。
 教室内は明日から夏休みということで周りは嬉々として、早々と帰宅するクラスメートたちのざわめきが大きくて、聞こえづらかった修次は少し声を大きめにして答えた。

「付き合うってどこに?」
「ある村なんだよ」
「村?」

 修次は教室を出て歩きながら目を見開き、洋逸に更に尋ねる。

「実はさ、SNSで色々検索してたらある噂を聞いたんだ」
「噂って何を検索したんだ?」
「俺が検索するって言ったらアレしかないだろう?」

 洋逸はニヤつきながらスマホを出し、検索した履歴を修次に見せた。
 そこには“ある村についての噂”と書かれていた。

「またオカルトか?俺たち最後の高校生活だっていうのに」

 見た目も内面も冷静な修次は呆れ、洋逸は機嫌良くスマホを自分の元へ戻しその投稿を見ていた。

「わかってるよ、大事な時期だって。でもさ、俺と言ったらオカルトだろう?何となくオカルト関係を検索してたんだよ。そうしたらこの投稿を見つけたんだ」

 スクロールしながらそのアカウントの主について語り始めた。

「“ある村にはこの21世紀現代で未だに生贄を捧げる文化がある!”って。なぜ今も尚行っているのかって考察とアカウント主の主観で文章を書かれてたんだ」

 言って少しだけ笑みを作った洋逸は、そのままスマホを読みながら修次に説明をした。

「その村にそのアカウント主は人からの取材とネットで色々調べた上で、その生贄の儀式をしているとわかったらしい」
「なんでそのアカウント主はその村を調べようと思ったんだろう?」

 修次の素朴な疑問に洋逸は、確かにと頷く。

「どこでその主は知ったかだよな。確かこの人、ブログもやってて・・・」

 話しながら歩いていたのでいつの間にか二人は校門を出ようとしていた。
 洋逸と修次は校門を出ると、暑さを遮る為に門扉の陰が落ちる所まで行き、止まってスマホで調べ始めた。

 SNSのプロフィール欄からブログのサイトに飛べるようアドレスが記載してあり、そこをタップするとブログが出て来た。
 洋逸はそのブログをいくつか確認し、あるタイトルのページで止まった。

「『噂の村について』って書いてあるページがある」

 そう言って洋逸はそのブログを読み始めた。

「『あるオカルト仲間から“今も生贄を捧げ神の怒りを鎮めている村がある”と聞いた。私は興味が沸きそれについて仲間に尋ねたが、彼も又聞きらしく詳しいことは教えてもらった友人に聞いてくれとのこと。だから早速その友人に取材をすることにした』
 
 洋逸は喉を鳴らして話を始めた。

「『聞いたところその友人の友人が昔住んでいた田舎町の近くにその村があったらしく、親から近づくことを禁じられていたようだ。つまりその村が噂の村らしい。名前を尋ねたが村の名前は憶えていないようだ。ただ、その田舎町の住所は知ることができたので自分で調べてみることにした』」

 ちらりと修次の方へと一瞥する洋逸を不思議そうに見つめた。

「なに?」
「いやさ、ちょっと長くなりそうだけどいい?」
「いいよ、興味あるし」

 肩を少しすくめて修次は言うと、洋逸は更に続けた。

「『ネットから田舎町まで行くルートはわかったが、その近くにある村については詳しいことは載っていない。自分と同じように気になった人が調べたHPを見つけたがそれも噂レベルでしかなかった』」

 通り過ぎる生徒たちがチラチラと自分たちを覗いていく。
 確かにこんな場所で座り込んでいるのだから、怪訝に思われても仕方ないのかもしれない。

「『そこは関東にある某県の山奥。五年置きに生贄を捧げているらしい。そしてようやく村の名前を知り調べてみるがあまり詳しい情報がなかったため、この際実際に現場へ行ってみようと決意した。詳しいことがわかり次第、ブログを更新したいと思う。それではまた。』で終わってる」
「え?それだけ?」

 驚いた修次は目を見開き洋逸に尋ねる。

「続きは?」
「続きは・・・」

 言いながら洋逸はブログの次のページを探してみるが、

「・・・続きがない。二年前で止まってる」
「え?二年前?」

 スマホを修次に渡した洋逸は、少し思考しながら見つめている。
 ブログをまじまじと読む修次は、訝し気に言った。

「これって調べに行ったのかそれとも行くのを止めたのか、どっちなんだろう」
「だよな」

 頷き洋逸にスマホを返した。

「・・・ここに行くのか?」
「行ってみたいとは思ってる。オカルト好きとしてはね」
「それって心霊スポットに行くような感じ?」
「心霊スポットとは違うだろ?村を見に行くだけだからちょっとした日帰り旅行だよ」
「・・・日帰り旅行ねぇ」

 苦笑いをしつつ修次は洋逸を見つめた。

「行ったところで見つからない可能性もあるんだよな?それって無駄じゃないか?」
「いいじゃねぇか!行くことに意義があるんだよ」
「意義って」

 完全に呆れた表情で言う修次を、洋逸は必死になって口説き落とそうとした。

「なぁ頼むよ!誰もこの村について書いてる人がいないんだ!俺、その一番になってみたい!」
「嘘だろう?そんなしょうもないことに一番になっても仕方ないだろ?」

 しかし洋逸は、一度振り上げた拳を下げることはしなかった。

「行きたい!頼む!!」

 校門の前で頭を下げる洋逸とそれを見守る修次たちの姿は、脇を通り過ぎる生徒たちの奇妙な視線に晒されていく。
 しかし修次は淡々と行きたいとしか言わない洋逸を諭し始めた。

「おまけにさ、このブログ自体が二年前のものなんだろう?この二年間の中で誰か新しく情報を投稿してるんじゃないのか?」

 そう言う修次に洋逸は答え辛そうに口籠った。

「そ、それは・・・」
「ちゃんと探していないのにそんなところへ行くべきじゃないよ。無駄だよ」

 冷めた口調で言う修次を見て、洋逸はふと思い出したことがあった。

 修次は本当に現実的で、常に冷静に物事を語る男だ。当の自分はオカルト好きで不思議な世界や超常現象に興味があり本当に正反対な二人だった。
 だからこそ思うのだ。
 その村を見つけたらきっと修次の世界が変わるかもしれないと。
 変わる姿を洋逸は見てみたいと、密かに思ってしまった。
 常に冷静で現実的な修次の顔が崩れる瞬間を・・・。

「わかった。一度家に戻って調べてみるよ。それ次第でもう一度考えてくれるか?」

 意志の強い目で訴えてくる洋逸に、修次は一つ溜息を洩らす。

「諦めが悪いな」

 やや睨むように言う修次は酷く冷たく見えた。でもそれは洋逸の為に言ってくれてるのだとわかるので、本当はそれが優しさだ。
 わかってはいるが止められない洋逸は、修次の気持ちを無下にする覚悟の上で頼み込んだ。

「頼むな」
「ところで水本は一緒に行かないのか?」
「水本は、今回はちょっと・・・」
 
 言って洋逸は修次に説明をした。
 水本とは洋逸、修次と仲良くしている友達だが、今回は呼ばないことにしていた。
 場所が場所なので、あまり多い人数で賑やかしくして行きたくなかったのだ。
 その旨を説明すると修次は、わかったと了解した。

「だから・・・よろしくな」

 笑顔で洋逸に肩を軽く叩かれた修次は、ややウンザリとした表情になるがそのまま二人は自分たちの自宅へと向かった。
 幼馴染の二人は家も近く、高校まで同じというほど仲が良かった。
 修次の自宅に着くと、手を上げ洋逸は修次に向かって手を振りその場を去る。それをじっと見守るように見つめ同じく手を振って返した。


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