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しおりを挟む自宅に戻った洋逸は夕食を食べる前に、PCも含め検索を始めた。
様々なブログやSNSを見てみるが、本当に詳しい情報は得られなかった。
(不思議だな。調べても実際行った話もあのアカウント主以上の情報が得られないのはある意味不気味かもしれない)
洋逸以外の他の人も疑問に思って調べたり、現地に行こうと思う人がいてもおかしくはないが、しかしその記録等が全く出て来ないのもおかしなことだと思った。
おまけにアカウント主のブログもだが、よくよく見るとSNSも二年前で止まっていた。
(噂と言われているけど、マジなやつなのかな?)
一瞬寒気が走ったが、やはり知りたいという欲求の方が先立つ。
念の為と思い、更に調べてみるがやはりどれだけの時間をかけても、それ以上のことは見つけられなかった。
次の日、早速洋逸は修次にメッセージを送るとすぐ返信が来た。
洋逸は“昨日時間の限り検索したけど村の新しい情報はなかった”といった内容を送ったのだが、修次は“一度会おう”と来たのだ。
そして今日の午後、お互い予定がなかったので彼の家で会うことになった。
修次の家は洋逸の家から歩いて10分ほどの場所にあり、築二十年ほどの二階建の住宅に住んでいた。
修次の自宅に着きインターフォンを押すと、はい、と声が聞こえて来た。
「すみません、北村と言います。修次君いますか?」
「あ、はい。修次にね。ちょっと待っててね」
声の主は恐らく修次の母親で、穏やかで優しさを感じる女性の声だった。
暫くしてガチャンと木製のドアが開くと、そこから修次が現れた。
「よく来たな」
「よお」
そう言う洋逸を修次は自宅に招き入れる。玄関に入るなりそのまま二階へ移動し修次の部屋へと案内された。
修次の部屋は小綺麗で青と白で統一されたシンプルな室内だった。
洋逸は勉強机と共に置かれている椅子に座り、修次は自分のベッドへと腰掛ける。
「さて、どうするんだ?」
座るなり早々尋ねられ洋逸は静かに頷く。
「その村に行きたい」
「・・・考えは変わらないってことか」
大きく深い溜息を洩らした修次は、仕方ないねと言った。
「そこまでして行きたいのなら行くか。でもなんで俺を誘ったんだ?他の奴でもよかっただろう?」
「それは・・・こんなことに付き合ってくれるのはお前しかいないって思ってさ」
「え?」
きょとんとした顔で修次は洋逸を見つめた。
「他の奴らは馬鹿にするばかりで話もまともに聞いてくれないけど、修次はまぁ幼馴染だし俺の趣味を理解してくれてるからな」
ニンマリと笑う洋逸に修次は再度呆れた表情しながら、僅かに笑みを浮かべていた。
「・・・そう言って信頼してくれることは嬉しいよ」
「だろう?」
「そうだったな。お前はいつも信頼してくれて、というか俺に甘え切ってるってことだろうけど」
「いやいやいいじゃねぇか!」
ポンポンと修次の膝を叩く洋逸は、とても高校三年生とは見えないほど幼く見えた。
「・・・わかった。お前がそれほどにまでも行きたいなら付き合うよ」
「ありがとな!修次」
「・・・後悔するなよ?」
「え?ああ、まぁ」
後悔するなよと言われ驚いたが、確かに村に着けるかわからないので、徒労に終わらなければいいと思った。
そう話していると扉をノックする音が聞こえてきた。修次の母親がお菓子とジュースを持って来てくれたのだ。
修次はそれをドア越しで受け取ると、母親はちらりと洋逸を見つめ頭を下げてきた。
「お久しぶりね、洋逸君」
「こんにちは、おばさん」
「これからも修次と仲良くしてね」
穏やかな笑みを零しながら洋逸に向かって言う。彼はこちらこそと言いながら頭を下げた。
「それじゃあゆっくりしていってね」
言って母親は修次の部屋から出て行った。
「おばさん、変わらず綺麗だな」
ニヤニヤしながら言う洋逸に修次は恥ずかしそうに返す。
「もういい年なんだ、綺麗とかなんだよ」
それ以上突っ込んでほしくなさそうに、気まずそうな表情をしている。
修次は母親に似ていると密かに思う。
修次はどこか優男風で色白の肌で穏やかな雰囲気に見えるが、超現実主義で鋭い言葉で指摘をしてくるので、その時初めて修次と対峙する人の中で戸惑う人は多数いた。おまけに修次の見た目と性格の違いに苦手意識を持ち敬遠する者いる。
修次は洋逸が5歳くらいにここへ引っ越してきた。元々祖父母のいる田舎で生まれ育ったらしいが、父親の仕事の都合でこちらに来て、子供たちの集まりで仲良くなったのだ。
幼い頃から修次は落ち着いていて、女子からは人気があり内心羨ましくも思っていた。
「あなたたちは正反対の性格ね」
洋逸の母親もよく二人を見て言っていた。
確かにそうだと洋逸も納得している。
陽の洋逸と陰の修次とよく例えられていたことを思い出した。
「さて、その村まで行くルートはどうやって行くつもりなんだ?」
腕を組みながら淡々とした口調で修次は洋逸に尋ねた。
「近くまで電車で行って、そこから“噂の村”の近くにある田舎町までバスがあるんだ」
「その田舎町まで行って、“噂の村”まで行くのにどうやって行くんだ?道もわからないのに?」
「そ、それは・・・田舎町で聞いてみないと何とも」
「だよな」
言って大きな溜息を吐いた。完全に修次は呆れていた。
「なんだよ!調べてみても本当にそれしかわからないんだよ!」
少し怒り口調で言い返す洋逸に修次は再び冷めた表情で返答をしてきた。
「そうなると一日でその村に行ける確証があるわけじゃないんだよな?」
「仕方ないだろう!?」
「・・・まぁそうだよな」
わかってて答える修次はかなり意地悪だと思い、洋逸はムッとした表情になる。
修次はポケットからスマホを取り出し田舎町の住所を検索すると、そこから電車でどれだけ時間がかかるか料金等を調べ、それをスクリーンショットした。
「料金もなんとか行ける金額だな。益々そこへ行ける理由が出来てくるな」
「おい、必死に行かない理由を見つけてんのかよ?」
「・・・・」
黙る修次に洋逸は更に腹を立てる。
「一緒に行ってくれるって約束しただろう?」
「・・・したけど無駄だと思うことはしたくないんだよ」
冷静な目で言われ洋逸は戸惑うしかなかった。
確かにちゃんとしたルートがわからない以上、無駄足になる可能性もある。
でも行動してみないとわからないのだから無駄足も必要になってくる。
だったら自分一人で行ってみればいいのだろが、やはり不安になるのだ。
「一人で行けって思ってるだろう?」
「そんなこと一度も言ってないよ」
「でも思ってる。だってさ、その村を見てみたいけどやっぱりヤバそうだから一人で行くのは怖いんだよな。もし自分がその、生贄になったら嫌だし」
「・・・・」
再び呆れた表情をしながら修次は一口ジュースを飲む。そして口を開いた。
「五年置きにしてるんだろう?今年はその五年目なのか?」
「さ、さあ」
「・・・それすらもわからないのか」
「・・・・」
答えられない洋逸は気まずそうに下を俯き、スマホを見だした。
しかし仕方ないのだと思う。全く情報がなくただ噂話だけが一人歩きしているのだ。
・・・そう、ただの噂話なのだ。
そう考えると、急に洋逸は虚しさが胸の中に廻り始めた。
面白半分でその噂に自分はただ踊らされているのだ。本当に行くべきなのか?
沈黙のままスマホを見続ける洋逸に修次は怪訝そうに声をかけた。
「どうした?洋逸?」
「確かにただの噂なんだよな」
「今更なんだよ」
思ってもいなかった洋逸の発言に修次は驚いた表情になった。
少し落ち込んでいる洋逸は続けて言った。
「お前に突っ込まれなかったら本当に何も知らないんだなって思ってさ」
「・・・ようやく俺の言葉が頭に響いたか?」
苦笑する修次に対し洋逸は怒りの感情はなかった。事実を言っているのだ。
「何も知らないから村に行って知りたかったんだけど、でもその村が本当にあるかどうかもはっきりしてないのに、俺、何夢中になってんのかなって」
「なんだよそれ」
溜息を吐くだけではすまないほど、修次は呆れた言葉が出る。
彼は洋逸にただ振り回されてるのだから、そう言われてしまっても仕方なかった。
洋逸はようやく夢から醒めたような気分になった。
「ごめん修次、やっぱもういいや」
「そうか」
一言そう呟きすくっと洋逸は立ち上がり、その姿を修次は見つめた。
「俺、帰るわ」
「わかった。高校生最後の夏休みなんだ。また会おう」
ポンっと軽く修次は洋逸の背中を叩く。
「そういえば今年はおじさんの爺さんとこに行くって言ってなかったか?」
「あ?ああ、そうだった」
「いつ行くんだ?」
「えっと・・・お盆頃かな」
壁に掛けられているカレンダーを確認し、修次は答えた。
「じゃあお盆前くらいに一度会おうぜ!」
「わかった」
修次の自宅から出ようとしている幼馴染を修次は後から付いて行く。
玄関まで来るとくるりとこちらを見て洋逸はじゃあなと言う。
手を振る修次を見ると、玄関の扉を閉めた。
修次は再び大きな溜息を吐いた。
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