過去の思い出が彩る瞬間

リツキ

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5.



 土曜日。

 晴天が上空に広がっていて五月らしい爽やかさが結希の体を包んだ。
 待ち合わせ場所は会社に近い最寄り駅の改札口前に十一時集合だった。
 早めに行こうと思った結希だったが、既に先にリデルが周りに注目されながら待っているのが見えた。
 いつもとは違う普段着のリデルに結希は暫し見とれてしまう。
 白のTシャツの上に薄い水色のジャケットを羽織り、濃い青色のジーパンという小洒落た格好で折り畳みの携帯を弄っていた。

「よ、よお」

 少し緊張し声を掛けるのを気後れした結希だったが、それに気づいたリデルは一瞬にして破顔した。

「やあ、結希!」

 小走りにリデルは結希の元へとやってくる。身長差はいくつなのだろうと思いながら結希はリデルを見上げた。

「そういえばさ、リデルって身長いくつなんだ?」
「昔は身長差なかったよね?」

 少しニヤつきながら言う彼に結希は少しムッとした表情になった。

「身長はいくつなんだよ!」
「186cmかな」
「マジかよ……俺、168……」
「そうなんだ!僕が勝ったね」

 笑っているリデルに結希は悔しさを感じる。まさかここまで差が出るとは信じられなかったのだ。
 微笑むリデルは少し落ち込んでいる結希に話し掛けた。

「さて、どこか行きたいところとかある?」
「行きたいところかぁ~あるけどまだもうちょっと先に行きたいかも。映画とかはどうだ?」
「映画か……」

 少し思考していたリデルだったが、頭を横に振った。

「いつもならそれでもいいんだけど、今日は映画だとちょっとな……」
「え?ダメなのか」

 怪訝そうに見つめる結希にリデルは笑みを作って言った。

「だって二時間近くも結希と会話できないなんて嫌でしょ?」
「え……」

 そう返され結希は顔がじわじわと熱くなっていった。

「あ、あのさ……」
「僕は明日アメリカに帰らないといけないから、結希との会話を楽しみたいんだ」
「……リデル」

 そう言われてしまえば確かにそうだと納得する。今日のデートは今のリデルを知る為に出かけているのだ。
 
「なら…とりあえず早めの昼食に行くか?」
「そうだね。ご飯食べながらだと色々話せるね」

 二人は笑顔で頷くと、近くにあるレストランへと向かって歩き出した。





 昼食を終え暫くブラブラと歩きながらウインドーショッピングを始めた。
 高校時代に過ごした時間を思い出すかのように、二人は笑顔で楽しんでいた。
 時間は午後三時頃に差し掛かっている。

「あのさ、俺行きたい所があるんだけど」

 横に並ぶリデルに結希は声を掛けた。

「そういえば会ってすぐにそれを言っていたね」
「うん。リデルもそこへ行けば懐かしく感じるんじゃないかなって思ってさ」
「え?」

 不思議そうに見つめるが、行こうぜと結希に言われるままリデルはついて行った。

 電車に乗車し十分程揺られているとある駅に下車した。するとリデルは見慣れた駅だと気づき始めた。
 そこから徒歩で歩き、しばらく上り坂が続き周りは住宅が立ち並んでいた。
 少し息を切らしながら二人はどんどん上に上がって行くと、次第にリデルは結希が自分を連れて行きたい場所に察しがついてきた。

「ここだよ」

 言って結希はリデルを促すとそこは高校時代、帰り際に寄って話をよくしていた高台にある公園だった。

「懐かしいね!」

 嬉しくなったリデルは思わず声が漏れた。

「だろう?昨日リデルとどこに行きたいかなって考えた時、ここを思い出したんだ。ここだったらゆっくり高校時代のことを話せるかなって思ってさ」

 そう話しながら結希とリデルは近くにあるベンチに座った。
 200㎡ほどの広さしかない公園には、滑り台と砂場、そして二つのブランコがあり親子一組が滑り台で遊んでいるのが見えた。

「ここから学校が見えたよね」

 ポツリと呟くリデルに結希は頷いた。

「ああ、学校見ながら色々話したよな」
「うん、あの時は本当に楽しかったな」

 座った場所から視線を遠くへ向けると、少しだけ夕焼けがかった色が町中を包み出し、その中から高校の建物が見えていた。
 思わず結希はリデルに目をやると、彼の目がどこか寂しさも感じられた。

「今は楽しくないのか?」
「あ……いや、そういうわけじゃないけど」

 言葉を濁すリデルに結希は怪訝に思った。

「今は常に頭を回転させている状態だからちょっと疲れてるのかなって。仕事の事で覚えないといけないこともあるし、結希の会社と新しく提携を組んだからそれについても色々考えないといけないしね」

 弱く笑むリデルに結希は少し心配になった。

「でも仕事を頑張ったおかげでいいこともあったし」
「え?」

 キョトンとした表情でリデルを見つめる結希を笑顔で返事をした。

「結希と再会できたから」
「あ……」

 思わず顔が薄く赤く染まり、そして静かに頷いた。

「そうだな」
「そういえばさ僕“折原君”と出会って会話した時に、すごく馴染んだんだよね」
「馴染む?」
「そう」

 少し遠くを見つめながらリデルは頷く。

「話をしていて不思議と懐かしさを感じたんだ。波長が合うというか。本人だったんだから当たり前なんだけど、でもあの時は“折原君”だと思っていたから不思議だったんだ」
「なるほど……」
「だから思ったんだ。結希だってわかった時、僕はずっと結希の傍に居たいって」
「……リデル」

 真剣な表情で見つめられ結希はリデルの顔を見つめ返すしかできなかった。

「留学から戻った後、何人か女の子と付き合うこともあったけど、やっぱりどこか違和感があって、後は僕のバックで一緒になりたがる子もいたりして正直、女性を信じることができなかったんだ」
「バックって…家のこと?」
「そう、次期社長になるってことを知っていたから。きっと社長夫人でもなりたかったんじゃなかったのかな?」

 皮肉を込めて口にするリデルの表情は少し悔しそうに見えた。

「そうか…リデルも色々あったんだな」
「……結希」

 リデルの視線が結希をジッと見つめる。

「もう一度言うよ。僕の恋人になってくれないか?」
「リデル……」

 言葉が出て来ず迷っていると、更にリデルは話を続けた。

「僕のこと信じられない?」
「え……いや、そういうことじゃないんだ。俺とリデルの今の関係って取引先の関係だろう?それってどうなんだろうって思って……」

 そう言い掛ける結希の手の甲にスッとリデルは自分の手を重ねながら遮った。

「本当にその理由?それはただの言い訳じゃないの?」
「そ、それは……」

 言われ結希は図星を突かれたような痛みが胸に走り、それ以上言葉を続けられなかった。

「僕との関係が不安なんじゃない?一時的に盛り上がってるだけじゃないかって」
「…………」

 正直、それが本音かもしれなかった。
 過去好きで苦い思い出のある人が急に現れ、それが誤解だとわかると突然気持ちを告げられるという、怒涛のような展開が起きているこの現実に戸惑っているのは確かだ。
 おまけにそれ以上に、リデルは久しぶりに会った相手に舞い上がっているだけにも見えたのだ。
 だから怖かったのだ。リデルの一時の感情で振り回されているんじゃないかと。

「どうして今すぐ俺と恋人同士になりたいって思うんだ?」
「ずっと僕は結希に会いたかった。誤解を解いて友人でもいいから関係を続けたいって思っていたからだよ」
「リデル……」

 リデルの青く涼やかで綺麗な瞳が今は熱く情熱が宿しているのが見える。
 今まで見たことがない程の真剣さだった。

「勢いで言っているんじゃない。本当に結希が好きで、付き合いたいって思っているんだ……」

 真っ直ぐな気持ちが結希の心に刺さり思わず視線を逸らすが、それでもリデルは視線を外そうとはしなかった。
 結希の一言を聞き逃さないようにしているように見える。

 少し躊躇っていた結希だったが、顔を下に俯き暫し思考していた。
 さっきから握られたままの手の温かさを酷く意識してしまう。結希が意識したせいか、更に握られた掌の力が籠った気がした。
 結希としてはリデルに対しまだ好意があるのは確かだった。それでもどこかまだ自信がなく不安が胸の中で渦巻いたままだった。
 
「僕は高校の時のような後悔だけでは絶対にもうしたくないんだ」

 そう言うと更にはっきりとリデルは言った。

「単純な質問をしたい。結希は僕のことが恋愛感情で好き?」
「………」

 リデルのストレートな質問に結希の心は震えた。
 泣き出したい気持ちを必死に抑えながら、結希は震える声で言った。

「俺は……リデルが好きだ」


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