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【マシューside】調査対象
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とりあえずエミリーの前を通りすがってみてくださいと宰相に言われた俺は、その通りにしてみた。そんなことでと思ったが、エミリーはあっさりとひっかかった。
「あの、あなた…誰ですか?」
「マシューハワード伯爵令息だが、そちらは?」
伯爵を強調しろと言うのは、トリンさんの案だ。
「エミリーです!生徒じゃないですよねー?」
「第一騎士団員で、剣の指導に来ている」
上目遣いでじっと見つめられながら、これがリナだったらと思いながら少しだけ笑ってみせる。これは宰相からの指示だった。たったこれだけで、この女は俺が魅了にかかったと思ったらしい。
それからがもう、苦行でしかなかった。
どこに行ってもエミリーが湧いてくるのだ。リナに会いに行く暇も、手紙を渡しに行く暇も無い。逃げ場を求めて中庭のベンチに座っていたのに、気づいたら隣に座っている。この女のスキルは本当に魅了だけなんだろうか。これだけ居場所を見つけられるのは、何か他にもスキルがあるのかもしれないと思う程の遭遇率だった。
「ねえ、私のこと可愛いと思う?」
可愛いなど思うわけが無いが、問いかけには否定をするなと指導が入っている。そうしないと魅了にかかっていないことに気づかれるからだ。
「ああ、可愛い(脳みそだ)な」
思ったことの一部だけ隠して答えれば、エミリーは嬉しそうに喜んでみせる。
「キャッ、マシュー様ったら!エミリー嬉しい!」
「本当に(馬鹿すぎて)可愛いよ」
「ありがとう!」
ああ、なんで俺はこんな所でリナじゃない女にこんなことを言わされているんだろう。騎士の任務ってもっと戦いとかじゃないのか。ぐるぐる考えていた俺は、この時のやりとりをリナが見ていたなんて思ってもみなかった。
ようやくリナに会えた時には、思わず抱きしめたくなったが必死で我慢して、任務でひと月ほど忙しくなることだけを伝えた。
証拠はどんどん集まって来た。エミリーが俺に的をしぼったおかげで少しずつ正気に戻る生徒が増えて来たんだ。正気になった生徒たちからは、新しい保険医のふりをして赴任したトリンさんが話を聞いてまとめていった。
俺の方もどんどんエミリーの話す内容がひどくなっている気がする。
「婚約者がいるなんてエミリーつらいです」
なんて言っていたのは最初だけだ。
「あんな可愛げのない婚約者なんて捨てて、可愛いエミリーと結婚して」
「エミリーなら婚約者の人より立派な伯爵夫人になれると思う」
そんな言葉まで飛び出してきた。
いよいよ卒業パーティーの日に捕縛することが決まったため、警備からの捕縛予定を立てるために隊員達に会いに行った。レックスにそんなことを言うんだと洩らしたら、よくそんなことを言われて怒らなかったなと言われた。
いや、怒っている。深く深く怒っているとも。お前ごときがリナの何を知っていると思うし、リナが可愛げがないなんて事はかけらも無い。
クラーク伯爵令嬢は、卒業パーティーで婚約破棄されるらしい。
卒業パーティーの1週間前にそんな噂が広まりだした時は、捕縛はせずに処刑しようかと心の底から思った。絶対に噂の出所は目のまえにいるこの女だ。
こんな噂を聞いて、リナがどれだけ傷ついたか。俺の事を信じてくれるだろうか。婚約破棄だなんて例えリナから頼まれても絶対にしない。そう手紙を送りたかった。
けれど、ここまで来て本人にバレるのは最悪の事態だからと、今は手紙を出すことすら禁止されている。全てを無視してリナに謝りに行こうと決めたその日、学園内にまでわざわざやってきたレックスに止められてしまった。
「もう無理だ、リナを苦しませたくない」
「やっぱりあの噂で限界じゃないかと思ったんだ」
「もう証拠は集まっただろう?」
「集まったけどさ、いっそここで婚約者に接触してバレるより、逆手にとったら?」
「逆手とは?」
レックスの計画はこうだった。俺が婚約破棄を言い出すと周りの誰もが思っているなか、熱烈な告白をする。周りは当然騒然とするし、きっとあの女も騒ぎ出すだろうと。そこでエミリーの罪状を明らかにするというものだった。
「しかし、全員に罪状を説明して良いのか?」
「許可なら、ほら」
言いながらレックスが取り出したのは、王家の印章付きの手紙だった。国王の署名入りで、全ての情報の開示の許可が書いてある。
「どうしたんだ、これは」
「将軍と宰相とトリンさんの直談判の結果だよ」
「あの、あなた…誰ですか?」
「マシューハワード伯爵令息だが、そちらは?」
伯爵を強調しろと言うのは、トリンさんの案だ。
「エミリーです!生徒じゃないですよねー?」
「第一騎士団員で、剣の指導に来ている」
上目遣いでじっと見つめられながら、これがリナだったらと思いながら少しだけ笑ってみせる。これは宰相からの指示だった。たったこれだけで、この女は俺が魅了にかかったと思ったらしい。
それからがもう、苦行でしかなかった。
どこに行ってもエミリーが湧いてくるのだ。リナに会いに行く暇も、手紙を渡しに行く暇も無い。逃げ場を求めて中庭のベンチに座っていたのに、気づいたら隣に座っている。この女のスキルは本当に魅了だけなんだろうか。これだけ居場所を見つけられるのは、何か他にもスキルがあるのかもしれないと思う程の遭遇率だった。
「ねえ、私のこと可愛いと思う?」
可愛いなど思うわけが無いが、問いかけには否定をするなと指導が入っている。そうしないと魅了にかかっていないことに気づかれるからだ。
「ああ、可愛い(脳みそだ)な」
思ったことの一部だけ隠して答えれば、エミリーは嬉しそうに喜んでみせる。
「キャッ、マシュー様ったら!エミリー嬉しい!」
「本当に(馬鹿すぎて)可愛いよ」
「ありがとう!」
ああ、なんで俺はこんな所でリナじゃない女にこんなことを言わされているんだろう。騎士の任務ってもっと戦いとかじゃないのか。ぐるぐる考えていた俺は、この時のやりとりをリナが見ていたなんて思ってもみなかった。
ようやくリナに会えた時には、思わず抱きしめたくなったが必死で我慢して、任務でひと月ほど忙しくなることだけを伝えた。
証拠はどんどん集まって来た。エミリーが俺に的をしぼったおかげで少しずつ正気に戻る生徒が増えて来たんだ。正気になった生徒たちからは、新しい保険医のふりをして赴任したトリンさんが話を聞いてまとめていった。
俺の方もどんどんエミリーの話す内容がひどくなっている気がする。
「婚約者がいるなんてエミリーつらいです」
なんて言っていたのは最初だけだ。
「あんな可愛げのない婚約者なんて捨てて、可愛いエミリーと結婚して」
「エミリーなら婚約者の人より立派な伯爵夫人になれると思う」
そんな言葉まで飛び出してきた。
いよいよ卒業パーティーの日に捕縛することが決まったため、警備からの捕縛予定を立てるために隊員達に会いに行った。レックスにそんなことを言うんだと洩らしたら、よくそんなことを言われて怒らなかったなと言われた。
いや、怒っている。深く深く怒っているとも。お前ごときがリナの何を知っていると思うし、リナが可愛げがないなんて事はかけらも無い。
クラーク伯爵令嬢は、卒業パーティーで婚約破棄されるらしい。
卒業パーティーの1週間前にそんな噂が広まりだした時は、捕縛はせずに処刑しようかと心の底から思った。絶対に噂の出所は目のまえにいるこの女だ。
こんな噂を聞いて、リナがどれだけ傷ついたか。俺の事を信じてくれるだろうか。婚約破棄だなんて例えリナから頼まれても絶対にしない。そう手紙を送りたかった。
けれど、ここまで来て本人にバレるのは最悪の事態だからと、今は手紙を出すことすら禁止されている。全てを無視してリナに謝りに行こうと決めたその日、学園内にまでわざわざやってきたレックスに止められてしまった。
「もう無理だ、リナを苦しませたくない」
「やっぱりあの噂で限界じゃないかと思ったんだ」
「もう証拠は集まっただろう?」
「集まったけどさ、いっそここで婚約者に接触してバレるより、逆手にとったら?」
「逆手とは?」
レックスの計画はこうだった。俺が婚約破棄を言い出すと周りの誰もが思っているなか、熱烈な告白をする。周りは当然騒然とするし、きっとあの女も騒ぎ出すだろうと。そこでエミリーの罪状を明らかにするというものだった。
「しかし、全員に罪状を説明して良いのか?」
「許可なら、ほら」
言いながらレックスが取り出したのは、王家の印章付きの手紙だった。国王の署名入りで、全ての情報の開示の許可が書いてある。
「どうしたんだ、これは」
「将軍と宰相とトリンさんの直談判の結果だよ」
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