生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
25 / 1,561

24.収納袋と収納鞄

 結論から言うと、ポリッチェの料理は領都で一、二を争うとカルツさんが熱く語るだけの事はあった。
 
 サラダに、小さなパン、鶏肉のグリル、野菜のチーズ焼きどれも美味しかったけれど、やっぱり一番はビーフシチューだ。トロトロになるまで煮込まれた肉はスプーンでも切れるくらいの柔らかさで、他の野菜の風味も溶けだしたシチューは絶品だった。俺が今まで食べてきたどのシチューよりもうまいと断言できる味だ。

 素直にそう伝えると、マリーナさんもネオルさんも、そしてカルツさんも本当に嬉しそうに笑ってくれた。似た者家族ですね。見た人をほっこりさせる笑顔が、本当にそっくりなんだよな。

 幸せそうに二人を見守るカルツさんを見つめつつ食べ進めていくと、楽しい食事の時間はあっという間に過ぎていった。
 
「ご馳走様でした、本当に美味しかったです。では俺はこれで」
「あ、すこしだけお待ちください」

 マリーナさんはそう言いおいて、店の裏へと消えていった。

「長い間、おじゃましました」
「いいえ、肌の回復薬は必要なくても、またお立ち寄りくださいね」

 すっかり打ち解けたネオルさんは、カルツさんそっくりな穏やかな声で笑いながらそう言ってくれた。たしかに俺に肌の回復薬は必要ないと思うと二人で笑っていると、席を外していたマリーナさんが帰ってきた。

「アキトさん」

 マリーナさんが差し出したのは、布でできた濃茶色の背負い鞄だった。

「8倍収納の魔道収納鞄です。これを今日のお礼に、あなたにもらって頂きたいんです」
「……え?もう食事を頂きましたしそれで十分ですよ」
「いえ、あの程度ではお返しした事には入りません」

 マリーナさんは絶対に譲らないと言いたげな笑顔だ。

「あの…魔道収納袋は高価だって聞きました。受け取れません」

 戸惑いながらも素直にそう伝えたが、それでもマリーナさんは引き下がらなかった。

「おそらくアキトさんは勘違いしています」
「勘違いですか?」
「ええ、高いのは袋の方で、鞄はそうでもないんですよ」

 突然の予想外の言葉に思わずハルの顔をちらりと見ると、頷いて答えてくれる。だからってあっさり受け取らないけど、え、そういうものなの。普通に考えて鞄の方が便利だし高くなるんじゃないのか。

 ネオルさんはマリーナさんの持つ鞄をちらりと見てから口を開いた。

「本当ですよ。袋は隠して持ち運べるので、いざと言う時の備えにも有効です。貴族や商人、一般の旅人でも欲しいと言うでしょう。容量も重要ですが一定の容量さえ超えれば、見ためは小さければ小さい程値段は高くなります」

 マリーナさんも大きく頷いて、説明を付け足す。

「さきほどアキトさんが持ってきてくれた魔道収納袋は、最上級のものになります」
「一方、魔道収納鞄は容量はまちまちですが、迷宮から出ることが多いんです」

 迷宮ってダンジョンの事かな。あるんだ、ダンジョン。
 
「容量にさえこだわらなければ、かけだしの冒険者や行商人でも頑張れば手がでる程度の値段なんですよ」

 二人がかりでされた説明によると、魔道収納鞄は当然だが容量によって値段が変わる。2倍~8倍程度の容量が一番よく出回っているので、一番安価に手に入るのがその容量だと説明された。ハルが頷いていたので、この説明は間違ってはいないんだとは思う。

 思うけど、この話が本当だとしても、俺が鞄を貰う理由にはならないよね。

「アキトさん、私はただあなたの鞄よりも…この鞄を使ってほしいだけなんです」

 言い難そうに口ごもったマリーナさんは、突然そう言い出した。

「どういう意味ですか?」
「擬態魔法のかかった鞄よりも面倒な疑いを向けられる事は無くなると、そう思ったからです」

 わお、擬態魔法、早速バレてる。つまりマリーナさんはハルが言ってた魔力が強い何人かに入るってことなのか?

「アキト、魔力量じゃない。彼女はきっと鑑定スキルが最高レベルなんだ」

 困った顔をしたハルは、申し訳なさそうに説明をしてくれた。

「そうそう最高レベルの人がいるものじゃないから、その可能性は考えてなかったよ、すまない」

 別にハルが謝る事じゃないと思う。マリーナさんの突然の言葉に驚いているってことは、ネオルさんは気づいてなかったんだな。

「ごめんなさい。いつもの癖であなたの持ち物の鑑定をしてしまったのよ」

 本当に申し訳なさそうに、店に来た客の持ち物を鑑定してレベルあげをしていた頃の癖なのだと説明してくれた。鑑定した事はもちろん、鑑定して知った事も誰にも告げずにいたけれど、恩人の俺が使っている鞄の隠蔽魔法にはどうしても黙っていられなかった。だからあんなに必死になって鞄をくれようとしていたのか。

「アキトさん、どうかマリーナの気持ちを受け取ってやってください」

 静観していたカルツさんにまでそう言われてしまえば、拒否も出来なくなってしまう。

「あの、ありがとうございます。俺のために言ってくれてたんですね」
「では、もらっていただけますか?」
「はい、ありがたくいただきます」

 俺の手にそっと乗せられた鞄はすごく軽かった。スマホとかビニール袋があるから、鞄の中身はここで入れ替えるわけにはいかない。ちらりと見えただけで異世界人バレだ。このお二人ならもしバレても大丈夫だとは思うけど、俺はもらった鞄に自分の鞄をそのまま全部押し込んでみた。

「おお、すごい」

 するりと入ってしまって、重さも感じなくなるとか不思議だ。

「ふふ、喜んでもらえてよかったです」
「また必ず、遊びに来てくださいね」

 二人に見送られて店から出ると、カルツさんが店の前までついてきてくれた。

「ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ美味しいごはんに鞄まで頂いてしまって」
「まだしばらくは妻と息子を見守っていますから、また会いに来てくださいね」

 穏やかな声でそう言ってくれるカルツさんは、それはもう幸せそうに笑ってくれた。

「はい、ではまた」

 また会えると思えば、笑顔で別れられる。手を振る俺たちに、カルツさんもずっと手を振り続けてくれた。
感想 377

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜

ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。 真面目に生きてきた魔法使いモーネ。 ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。 しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。 回復魔法を使えば何かが増え、 補助魔法を使えば騎士団が浮き、 気づけば庭はプリンになります。 ——本人はちゃんとやっています。 巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。 さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。 これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。