生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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24.収納袋と収納鞄

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 結論から言うと、ポリッチェの料理は領都で一、二を争うとカルツさんが熱く語るだけの事はあった。
 
 サラダに、小さなパン、鶏肉のグリル、野菜のチーズ焼きどれも美味しかったけれど、やっぱり一番はビーフシチューだ。トロトロになるまで煮込まれた肉はスプーンでも切れるくらいの柔らかさで、他の野菜の風味も溶けだしたシチューは絶品だった。俺が今まで食べてきたどのシチューよりもうまいと断言できる味だ。

 素直にそう伝えると、マリーナさんもネオルさんも、そしてカルツさんも本当に嬉しそうに笑ってくれた。似た者家族ですね。見た人をほっこりさせる笑顔が、本当にそっくりなんだよな。

 幸せそうに二人を見守るカルツさんを見つめつつ食べ進めていくと、楽しい食事の時間はあっという間に過ぎていった。
 
「ご馳走様でした、本当に美味しかったです。では俺はこれで」
「あ、すこしだけお待ちください」

 マリーナさんはそう言いおいて、店の裏へと消えていった。

「長い間、おじゃましました」
「いいえ、肌の回復薬は必要なくても、またお立ち寄りくださいね」

 すっかり打ち解けたネオルさんは、カルツさんそっくりな穏やかな声で笑いながらそう言ってくれた。たしかに俺に肌の回復薬は必要ないと思うと二人で笑っていると、席を外していたマリーナさんが帰ってきた。

「アキトさん」

 マリーナさんが差し出したのは、布でできた濃茶色の背負い鞄だった。

「8倍収納の魔道収納鞄です。これを今日のお礼に、あなたにもらって頂きたいんです」
「……え?もう食事を頂きましたしそれで十分ですよ」
「いえ、あの程度ではお返しした事には入りません」

 マリーナさんは絶対に譲らないと言いたげな笑顔だ。

「あの…魔道収納袋は高価だって聞きました。受け取れません」

 戸惑いながらも素直にそう伝えたが、それでもマリーナさんは引き下がらなかった。

「おそらくアキトさんは勘違いしています」
「勘違いですか?」
「ええ、高いのは袋の方で、鞄はそうでもないんですよ」

 突然の予想外の言葉に思わずハルの顔をちらりと見ると、頷いて答えてくれる。だからってあっさり受け取らないけど、え、そういうものなの。普通に考えて鞄の方が便利だし高くなるんじゃないのか。

 ネオルさんはマリーナさんの持つ鞄をちらりと見てから口を開いた。

「本当ですよ。袋は隠して持ち運べるので、いざと言う時の備えにも有効です。貴族や商人、一般の旅人でも欲しいと言うでしょう。容量も重要ですが一定の容量さえ超えれば、見ためは小さければ小さい程値段は高くなります」

 マリーナさんも大きく頷いて、説明を付け足す。

「さきほどアキトさんが持ってきてくれた魔道収納袋は、最上級のものになります」
「一方、魔道収納鞄は容量はまちまちですが、迷宮から出ることが多いんです」

 迷宮ってダンジョンの事かな。あるんだ、ダンジョン。
 
「容量にさえこだわらなければ、かけだしの冒険者や行商人でも頑張れば手がでる程度の値段なんですよ」

 二人がかりでされた説明によると、魔道収納鞄は当然だが容量によって値段が変わる。2倍~8倍程度の容量が一番よく出回っているので、一番安価に手に入るのがその容量だと説明された。ハルが頷いていたので、この説明は間違ってはいないんだとは思う。

 思うけど、この話が本当だとしても、俺が鞄を貰う理由にはならないよね。

「アキトさん、私はただあなたの鞄よりも…この鞄を使ってほしいだけなんです」

 言い難そうに口ごもったマリーナさんは、突然そう言い出した。

「どういう意味ですか?」
「擬態魔法のかかった鞄よりも面倒な疑いを向けられる事は無くなると、そう思ったからです」

 わお、擬態魔法、早速バレてる。つまりマリーナさんはハルが言ってた魔力が強い何人かに入るってことなのか?

「アキト、魔力量じゃない。彼女はきっと鑑定スキルが最高レベルなんだ」

 困った顔をしたハルは、申し訳なさそうに説明をしてくれた。

「そうそう最高レベルの人がいるものじゃないから、その可能性は考えてなかったよ、すまない」

 別にハルが謝る事じゃないと思う。マリーナさんの突然の言葉に驚いているってことは、ネオルさんは気づいてなかったんだな。

「ごめんなさい。いつもの癖であなたの持ち物の鑑定をしてしまったのよ」

 本当に申し訳なさそうに、店に来た客の持ち物を鑑定してレベルあげをしていた頃の癖なのだと説明してくれた。鑑定した事はもちろん、鑑定して知った事も誰にも告げずにいたけれど、恩人の俺が使っている鞄の隠蔽魔法にはどうしても黙っていられなかった。だからあんなに必死になって鞄をくれようとしていたのか。

「アキトさん、どうかマリーナの気持ちを受け取ってやってください」

 静観していたカルツさんにまでそう言われてしまえば、拒否も出来なくなってしまう。

「あの、ありがとうございます。俺のために言ってくれてたんですね」
「では、もらっていただけますか?」
「はい、ありがたくいただきます」

 俺の手にそっと乗せられた鞄はすごく軽かった。スマホとかビニール袋があるから、鞄の中身はここで入れ替えるわけにはいかない。ちらりと見えただけで異世界人バレだ。このお二人ならもしバレても大丈夫だとは思うけど、俺はもらった鞄に自分の鞄をそのまま全部押し込んでみた。

「おお、すごい」

 するりと入ってしまって、重さも感じなくなるとか不思議だ。

「ふふ、喜んでもらえてよかったです」
「また必ず、遊びに来てくださいね」

 二人に見送られて店から出ると、カルツさんが店の前までついてきてくれた。

「ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ美味しいごはんに鞄まで頂いてしまって」
「まだしばらくは妻と息子を見守っていますから、また会いに来てくださいね」

 穏やかな声でそう言ってくれるカルツさんは、それはもう幸せそうに笑ってくれた。

「はい、ではまた」

 また会えると思えば、笑顔で別れられる。手を振る俺たちに、カルツさんもずっと手を振り続けてくれた。
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