生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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25.黒鷹亭の朝食は

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 商会から宿への帰り道、ハルは何故か珍しく口数が少なかった。ついでに笑顔も少ないから、近寄りがたい雰囲気が漂っている。

 美形すぎて、無表情だとちょっと圧倒されちゃうんだよな。

 それでも律儀に道案内はしてくれるので、俺たちは無事に黒鷹亭までたどり着いた。

 重厚な扉を体全体を使って押しなんとか宿の中に入って行くと、カウンターに座っていたレーブンさんはすぐに鍵を出してくれた。

「おう、おかえり」
「ただいま帰りました」

 すこし照れながら答えれば、レーブンさんも嬉しそうに目を細めてくれた。まだ威圧感はあるけど、この怖い顔に慣れてしまえば、本当に優しい良い人なんだな。

 ハルと二人で室内に入って鍵を閉めると、途端にハルから謝られた。

「アキト、本当にすまなかった」
「え、何が?」
「隠蔽魔法が、高レベルの鑑定魔法使いにはバレることを忘れていただろう」
「いや、ハルは別に悪くないだろ」
「しかし」
「ハルは俺が異世界人な事を隠し通したいって言ったから隠蔽魔法をかけてくれただけだろ?」
「いや、だが…」
「それ以上謝らないで!」

 いつまでも謝り続けそうなハルに、思わず大きな声が出てしまった。驚いた顔をしているハルには悪いことをしたけど、これ以上謝られるのは嫌だったんだ。俺はむしろ、ちゃんと今までのお礼が言いたいくらいなんだよ。

「俺は何も怒ってないし、むしろ感謝してる。ハルのおかげでここまで来れたんだよ、ありがとうな」
「アキト」
「だって俺、たぶんあの森一人で抜けれてないし」

 魔物がいる森の中を、食べ物もろくに無い状態で、一人で歩いて抜けるなんてどう考えても無理だ。

「もし運よく抜けれてたとしても、服の偽装とかも思いつかずにあっさり異世界人バレして今頃どこかで捕まってると思うんだ」

 多分バラーブ村にも寄らずに、速攻で領都を目指してたと思うんだよね。大門にも辿り着かずにどこかで誰かに捕まってたと思う。

「だから、俺はハルに感謝してます!終わり!」

 照れくさくなってきたので、勝手に話題を変えさせてもらうことにした。

「なー明日はまずギルドかな?頼れる同行者さん」

 ハルは仕方ないなと言いたげに微笑んでから、俺の急な話題転換に乗っかってくれた。

「そうだな。アキトさえ良ければ、まずは冒険者ギルドに行こうか」
「了解!今のうちに採取したもの入れ替えとこうかな」

 魔道収納鞄から、一度全部を取り出して並べてみた。

 レックスさんにもらった財布、白い大きな花びら、木の実、薬草、植物の種、そしてリスリーロの花。スマホも服も財布もコーンポタージュ缶も、異世界のものは全部リュックにまとめて、そのまま中に戻すことにした。

 ハルは俺が取り出したリスリーロの花を眺めている。水もあげてないのに、本当に元気なままみたいだ。花びらまでハリのあるリスリーロの花を、俺も一緒になって眺める。

 観賞用になるくらい綺麗な花なんだよな。

「俺の方こそ、アキトのおかげでこの花を届けられるんだ…本当に、ありがとう」

 しみじみと言うハルの言葉を聞きながら、俺はこの花がハルの心残りじゃありませんようにと心から祈った。



 翌朝、疲れていたのか熟睡してしまった俺は、思いっきり寝坊してハルに起こされた。

「おはよう、アキト」
「おはよ、ハル。目覚まし役までさせてごめん」
「疲れてたんだから仕方ないよ。でも、そろそろ起きないと朝食を食べ損ねるから」

 自分は食べれないのに俺の食事の心配までしてくれるって、良い奴すぎるよハル。寝坊して本当にごめんなさい。

 浄化魔法を駆使してすぐに用意を済ませて、宿の階下へと降りていく。カウンターにいたレーブンさんは軽く片手をあげて挨拶してくれたから、俺もぺこりとお辞儀を返しておいた。そのまま昨日のうちに教わっていた食堂へと足を向ける。

 中では少年や、男たちが数人、忙しそうに働いていた。お揃いのエプロンをつけているけど、何だかちぐはぐであまり似合って無いように見える。この違和感はなんだろうと不思議に思いながら見つめていると、納得の答えをハルが囁いてくれた。

「ここは冒険者達を雇ってるんだ。駆け出しはもちろん、怪我してる冒険者とかね」

 なるほど、そういう事か。だから妙に筋肉質だったり、腕に包帯が巻かれてたりするんだな。レーブンさんはそんな活動までしてるんだと感心しながら食堂に入っていくと、店員達から挨拶が飛んでくる。

「「「「おはようございます」」」」
「お、おはようございます」

 ぴったり揃った挨拶に、ちょっと怯んでしまった。

 メニューは一種類だけで日替わりだと聞いていたから、注文もせずに椅子に腰かける。腕に包帯を巻いている一番体格の良い男性が、すぐに料理を運んできてくれた。水にパンとスープ、小さなオレンジ色の果物付きの朝食だ。

「どうぞ」
「ありがとうございます、いただきます」

 お礼を言うと、男性はにこっと笑ってくれた。

 昨日あれだけ食べたのに空腹だった俺は、手を合わせるとさっそく口をつけた。パンはかなり硬いけど、噛み応えがあって俺は好きだ。透明感があってコンソメスープみたいな見た目のスープは、味は何故かミネストローネだったけど。ちょっと混乱してしまったけど、味は文句なしでうまい。

「その果物は皮ごとかぶりついて大丈夫だよ」

 ハルに教えられるままにかぶりついてみると、これはそのままオレンジの味だった。この世界に来てから、見た目と味が一致したのは、水以外では初めてかもしれない。密かに感動してしまった。

 シンプルながらも本当に美味しい朝食だった。これが無料って地味にありがたい。ハルとカルツさんに感謝だな。この宿に泊れて本当に良かった。
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