生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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87.馬車の旅スタート!

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 馬車が出発する時間ギリギリに乗ってきたのは、品の良さそうなおばさんとその娘らしき二人連れだった。農業をしていると言ってた二人の知り合いみたいだから、きっとロズア村の人なんだろうな。

 一気ににぎやかになった車内に、御者さんの声がかかった。

「そろそろ出発するよ」

 その声に、俺は隣に座ったハルをちらりと見た。

「念願の馬車の旅、開始だね」

 楽しそうなハルに小さく頷いてから、俺は窓の外をじっと見つめる。

 馬車がゆっくりと動き出す。すぐに駆け足程の速さまで上がると、そのままどんどん速度が上がっていく。体感では自動車ぐらいの速度に感じるんだけど、馬ってこんなに早く走れないよな。あ、馬って名前だけど馬じゃないんだっけ。ややこしい。どうしても名前に感覚が引っ張られるんだよな。

 そんなことを考えていた俺は、この馬車の違和感に気づいた。

 どうしても馬車には乗りたかった俺だけど、実は一つだけ心配だった事があるんだ。アスファルトで舗装されてない道を馬車に乗って走る。想像しただけでも、かなり衝撃がすごそうだなって思ってたんだ。お尻とか腰とかの心配もこっそりしてたんだけど、この馬車は不自然な程に揺れが少ない。

 一番後ろに腰かけている俺は、そっと前に座る人達の背中を盗み見る。うん、誰もこっちを見てないな。こっそりとハルに頭を寄せて、できるだけ小さな声で尋ねる。

「何でこんなに揺れないの?」
「この馬車は魔道具をたくさん使ってるからね」

 ハルによると、この馬車には振動吸収とか衝撃吸収の効果までついてるんだって。なんだそれ、異世界ってすごい。この馬車が開発されるまでは、馬車での移動は苦痛だらけのものだったそうだ。

 お尻とか腰の心配をしなくて良いってのは、本当にありがたい。開発してくれた人、本当にありがとう。おかげで俺は、景色だけに集中できる。

 変わっていく景色を見ているだけでも楽しいんだけど、ハルがあれこれと見えるものについて教えてくれるから退屈する暇も無かった。やっぱりハルと一緒に旅するのは楽しいな。しみじみとそう感じながら、俺は景色を眺め続けた。



 快調に走ってきた馬車は徐々に速度を落とし、やがて完全に停車した。もう着いたのかなと思った俺に、ハルはゆっくりと首を振ってみせる。まだ到着したわけじゃないんだ。

「よし、ここで休憩にするぞ」

 御者さんの声に、乗客たちはぞろぞろと馬車から降りていく。全員荷物を持って降りたみたいだから、俺も収納鞄を背負ってから後を追った。

 外に出た乗客たちは、伸びをしたり、軽食を食べたりと自由に過ごしているみたいだ。

「馬の食事休憩が必要なんだ」

 ハルの言葉に視線を向ければ、御者さんはヨウの前に水の入った桶と生の肉が入った桶を並べていた。うわー異世界の馬って肉食なんだ。うん、これは確かに俺の世界とは違う生き物だな。

 俺は鞄から水の入った入れ物を取り出すと、馬が見える所に座り込んだ。違う生き物でも、やっぱり綺麗だと思うんだよな。じっと馬を見つめる俺を、ハルは楽しそうに見つめてくる。俺じゃなくて馬を見て欲しい、照れるから。

「じゃあ俺はここで降りるから」
「はいよ、じゃあ乗車券だけもらっとくわ」
「おう!じゃあな」

 冒険者のおじさんは、さっと手を振るとそのまま去っていった。途中下車も出来るってそういえば言ってたな。水を飲みながらおじさんを見送っていると、御者さんが近づいてきた。

「あんたはロズア村まで行くのかい?この先は休憩無しの予定なんだが大丈夫かい?」
「あ、はい。ロズア村の依頼を受けてるので」

 心配そうにそう聞いてくれる御者さんに答えると、近くに立っていた親子がバッと俺を振り返った。

「依頼って…もしかして…」
「あの、もしよろしければ、その依頼内容を聞いても良いですか?」
「え、ええと…」

 これって、普通に教えても良いものなのかな。

「守秘義務がついてない依頼は、第三者に依頼内容を話しても問題は無いよ」

 戸惑っている俺に気づいたハルがすぐにそう言ってくれたから、俺は鞄の中に手を入れると依頼票を取り出した。

「ウインの討伐と、ルマイス草の採取の依頼です」
「もう受けてくれたんですね!」
「助かります!」
「えーと」
「依頼を出したのは私たちなんです」

 なんと、俺は依頼主と一緒の馬車に乗ってたらしいよ。
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