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360.【ハル視点】念願の川魚串
店主はここで待っていろと言い置いて去っていったけれど、カーディさんは心配そうに俺達の顔を見比べながら口を開いた。
「なあやっぱり表に回らないか?」
どうせ再開したらすごく混むんだし、わざわざ裏まで持ってくるような手間をかけさせたくないと思ったようだ。
その気持ちはよく分かるけれど、今行ってももう忙しく火の番をしているだろう店主の邪魔になるだけだろう。クリスとふたりがかりで説得して、ようやくカーディさんはそれもそうかと納得してくれた。
座り心地の良い椅子に深く腰かけて、アキトの手をきゅっと握る。そのまま視線を前に向ければ、さっきも感動した絶景が視界に跳びこんでくる。
眩しい程に光を反射する川をぼんやりと眺めていると、不意にアキトが呟いた。
「初めて見る鳥だ…」
気づけば口からこぼれていた感じのその言葉に、俺はそっとアキトの耳元に顔を寄せた。
「どれ?」
「あれだよ、ほら、あそこの川の真ん中あたりにいる鳥」
鳥を驚かせないかこっそりと小さな声で教えてくれたアキトの指先を視線で辿れば、川の中州の辺りに桃色の鳥が一羽いるのが見えた。
「ああ、あれはビレーっていう鳥だよ」
「へー、ビレーっていうんだ」
木の実と果物しか食べない種類の鳥だから、多分水を飲みに下りてきたんじゃないかなと伝えると、アキトは興味深そうにビレーを観察している。餌の関係か雑味の無い美味しい鳥肉として人気だが、この辺りでは滅多に見かけない種類だ。
「あれは普通の鳥?」
「ああ、魔鳥では無いよ」
「そうなんだ」
そう説明していると、不意にふわりとビレーの隣に青い鳥が降り立った。
「横にいる青いのはテルウっていう鳥だよ。あれは魚しか食べない種類」
この川の魚は大きく育つものが多いけれど、そんな魚すらあっさりと狩ってしまえるなかなかに狂暴な種類でもある。テルウは人間に一切危害を与えないから、別にこれは伝えなくても良いか。
伝える情報と伝えない情報を取捨選択しながら解説をしていると、不意に後ろから気配が近づいてくるのが分かった。さっきの店主では無いが、敵意は全く無いな。そう気配を探っている間に、背後のドアが音を立てて開いた。
「こんにちは。焼きたてを持って来たよ」
そう声をかけながら家の裏から出てきたのは、柔らかい笑みを浮かべた優しそうな男性だった。男性は両手に大きなお皿を二つ持って、俺達の方へと歩いてくる。
「あ、こんにちは。お邪魔してます」
「はい、いらっしゃい」
「ありがとうございます、運ばせてすみません」
「いいんだよ、うちの伴侶が待ってろって言ったんでしょう?」
ああ、この人があの店主の伴侶なのか。
「うちの旦那がここに客を入れるなんて滅多にないんだけど、よっぽど気に入られたんだねぇ、お客さん達」
「おかげですごい景色を見させてもらいました。ありがとうございます」
クリスが即座に返した感謝の言葉に、アキトもカーディもうんうんと頷いている。
「ところで、今日のお値段はいくらですか?」
俺が男性に投げかけた質問に、アキトはゆるりと首を傾げた。どういう意味だと言いたげに不思議そうにじっと俺を見上げてくるアキトに、俺はすぐに笑って口を開いた。
「このお店は、毎日仕入れによって値段が変わるんだよ」
「え、そうなんだ?」
驚いた様子だったアキトは、一瞬で心配そうな表情に変わった。一体いくらするんだろうと思ってる顔だな。俺は誤解をさせてしまった事に慌てながらも、説明を続けた。
「あ、ちなみに一番安くて400グル~一番高くて1000グルまでって決まってるからね。ここは漁師が営む店って事でかなり良心的なお店だよ?」
「ずっと1000グルでも良いんじゃないかって、常連は皆言うんだけどなぁ」
カーディさんは、実は俺も言った事があるんだけどなーと明るく笑っている。
「ふふ、気持ちだけ貰っておくよ。今日のは一本600グルだよ」
無事に値段を聞き出した俺は、クリスが財布を取り出そうとするより前に男性に向かってお金を差し出した。
「じゃあこれでお願いします」
「はい、確かに」
「待ってください、ハル!私が払いますから!」
「いや、断る!ここは俺が払う」
俺はそう言いきると、流れるように男性の手からお皿を受け取った。
「メロウの前で交わした契約条件は、宿の支払いのみだろう?それなら食事代ぐらいは出させてくれ」
「う……しかし…」
これなら問題は無い筈だと主張したけれど、クリスはまだ文句を言いたそうな表情だ。いくら儲かっている魔道具屋を経営しているからって、全てを払おうとされるのは俺としても困ってしまう。
もしこれでも駄目なら、どうすれば受け取ってくれるんだろうか。そう頭を悩ませ始めていた俺に、思わぬ所から助け船がやってきた。
「クリス、ここはお礼を言って食べようぜ」
「カーディまで…」
「というかもう我慢できないから!」
あっさりとそう言ってのけたカーディさんは、しぶるクリスを綺麗に無視して俺の手からお皿を受け取ってくれた。ありがとう、カーディさん。
「アキトも、持てる?」
「うん」
差し出したお皿を、アキトはすぐに受け取ってくれた。
この距離から見ても相変わらず素晴らしい焼き加減だ。旨そうな香りを振りまきながらお皿の上に並んでいる川魚串を、アキトはまじまじと見つめている。食べ物に夢中になる姿も可愛いんだから、アキトはすごい。
不意にうなだれていたクリスが、恨めしそうに口を開いた。
「…もう我慢できないとか人前で言わないで下さい」
「えー…ハルとアキトに、店主の伴侶さんしかいないのに?」
カーディさんはクリスの発言をあっさりと笑い飛ばすと、いただきまーすと元気に宣言した。
「はい、どうぞ」
がぶりと豪快に齧りついたカーディさんは、もぐもぐと口を動かすと嬉しそうに叫んだ。
「あーこの味だー!すっごくうまいっ!」
そのあまりに幸せそうな笑顔に、目の前のアキトがごくりとつばを飲み込んだのが分かった。確かに美味そうに食べるな。
「お客さん達も、温かいうちにどうぞ」
「あ、いただきます!」
「なあやっぱり表に回らないか?」
どうせ再開したらすごく混むんだし、わざわざ裏まで持ってくるような手間をかけさせたくないと思ったようだ。
その気持ちはよく分かるけれど、今行ってももう忙しく火の番をしているだろう店主の邪魔になるだけだろう。クリスとふたりがかりで説得して、ようやくカーディさんはそれもそうかと納得してくれた。
座り心地の良い椅子に深く腰かけて、アキトの手をきゅっと握る。そのまま視線を前に向ければ、さっきも感動した絶景が視界に跳びこんでくる。
眩しい程に光を反射する川をぼんやりと眺めていると、不意にアキトが呟いた。
「初めて見る鳥だ…」
気づけば口からこぼれていた感じのその言葉に、俺はそっとアキトの耳元に顔を寄せた。
「どれ?」
「あれだよ、ほら、あそこの川の真ん中あたりにいる鳥」
鳥を驚かせないかこっそりと小さな声で教えてくれたアキトの指先を視線で辿れば、川の中州の辺りに桃色の鳥が一羽いるのが見えた。
「ああ、あれはビレーっていう鳥だよ」
「へー、ビレーっていうんだ」
木の実と果物しか食べない種類の鳥だから、多分水を飲みに下りてきたんじゃないかなと伝えると、アキトは興味深そうにビレーを観察している。餌の関係か雑味の無い美味しい鳥肉として人気だが、この辺りでは滅多に見かけない種類だ。
「あれは普通の鳥?」
「ああ、魔鳥では無いよ」
「そうなんだ」
そう説明していると、不意にふわりとビレーの隣に青い鳥が降り立った。
「横にいる青いのはテルウっていう鳥だよ。あれは魚しか食べない種類」
この川の魚は大きく育つものが多いけれど、そんな魚すらあっさりと狩ってしまえるなかなかに狂暴な種類でもある。テルウは人間に一切危害を与えないから、別にこれは伝えなくても良いか。
伝える情報と伝えない情報を取捨選択しながら解説をしていると、不意に後ろから気配が近づいてくるのが分かった。さっきの店主では無いが、敵意は全く無いな。そう気配を探っている間に、背後のドアが音を立てて開いた。
「こんにちは。焼きたてを持って来たよ」
そう声をかけながら家の裏から出てきたのは、柔らかい笑みを浮かべた優しそうな男性だった。男性は両手に大きなお皿を二つ持って、俺達の方へと歩いてくる。
「あ、こんにちは。お邪魔してます」
「はい、いらっしゃい」
「ありがとうございます、運ばせてすみません」
「いいんだよ、うちの伴侶が待ってろって言ったんでしょう?」
ああ、この人があの店主の伴侶なのか。
「うちの旦那がここに客を入れるなんて滅多にないんだけど、よっぽど気に入られたんだねぇ、お客さん達」
「おかげですごい景色を見させてもらいました。ありがとうございます」
クリスが即座に返した感謝の言葉に、アキトもカーディもうんうんと頷いている。
「ところで、今日のお値段はいくらですか?」
俺が男性に投げかけた質問に、アキトはゆるりと首を傾げた。どういう意味だと言いたげに不思議そうにじっと俺を見上げてくるアキトに、俺はすぐに笑って口を開いた。
「このお店は、毎日仕入れによって値段が変わるんだよ」
「え、そうなんだ?」
驚いた様子だったアキトは、一瞬で心配そうな表情に変わった。一体いくらするんだろうと思ってる顔だな。俺は誤解をさせてしまった事に慌てながらも、説明を続けた。
「あ、ちなみに一番安くて400グル~一番高くて1000グルまでって決まってるからね。ここは漁師が営む店って事でかなり良心的なお店だよ?」
「ずっと1000グルでも良いんじゃないかって、常連は皆言うんだけどなぁ」
カーディさんは、実は俺も言った事があるんだけどなーと明るく笑っている。
「ふふ、気持ちだけ貰っておくよ。今日のは一本600グルだよ」
無事に値段を聞き出した俺は、クリスが財布を取り出そうとするより前に男性に向かってお金を差し出した。
「じゃあこれでお願いします」
「はい、確かに」
「待ってください、ハル!私が払いますから!」
「いや、断る!ここは俺が払う」
俺はそう言いきると、流れるように男性の手からお皿を受け取った。
「メロウの前で交わした契約条件は、宿の支払いのみだろう?それなら食事代ぐらいは出させてくれ」
「う……しかし…」
これなら問題は無い筈だと主張したけれど、クリスはまだ文句を言いたそうな表情だ。いくら儲かっている魔道具屋を経営しているからって、全てを払おうとされるのは俺としても困ってしまう。
もしこれでも駄目なら、どうすれば受け取ってくれるんだろうか。そう頭を悩ませ始めていた俺に、思わぬ所から助け船がやってきた。
「クリス、ここはお礼を言って食べようぜ」
「カーディまで…」
「というかもう我慢できないから!」
あっさりとそう言ってのけたカーディさんは、しぶるクリスを綺麗に無視して俺の手からお皿を受け取ってくれた。ありがとう、カーディさん。
「アキトも、持てる?」
「うん」
差し出したお皿を、アキトはすぐに受け取ってくれた。
この距離から見ても相変わらず素晴らしい焼き加減だ。旨そうな香りを振りまきながらお皿の上に並んでいる川魚串を、アキトはまじまじと見つめている。食べ物に夢中になる姿も可愛いんだから、アキトはすごい。
不意にうなだれていたクリスが、恨めしそうに口を開いた。
「…もう我慢できないとか人前で言わないで下さい」
「えー…ハルとアキトに、店主の伴侶さんしかいないのに?」
カーディさんはクリスの発言をあっさりと笑い飛ばすと、いただきまーすと元気に宣言した。
「はい、どうぞ」
がぶりと豪快に齧りついたカーディさんは、もぐもぐと口を動かすと嬉しそうに叫んだ。
「あーこの味だー!すっごくうまいっ!」
そのあまりに幸せそうな笑顔に、目の前のアキトがごくりとつばを飲み込んだのが分かった。確かに美味そうに食べるな。
「お客さん達も、温かいうちにどうぞ」
「あ、いただきます!」
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