生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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471.【ハル視点】我儘ぼっちゃん

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「私の両親は雑貨を主に扱う商人なんです」

 クリスは唐突にそう切り出した。

「ああ、クリスの実家の話か」

 カーディさんは俺達の方をちらりと見ると、今はクリスの弟さんが継いでるんだと笑って教えてくれた。

「両親は私を大事に育ててくれましたが…どうしても幼い子供連れでは行けない、そんな場所もあるでしょう?」
「ああ、連れていく方が危険だと判断する事は多いだろうな」

 俺はすぐに納得できたけど、アキトは少し不思議そうな顔をしていた。

「子連れで移動する事が無ければ知らないかな」

 アキトが知らないのも無理は無いと思わせるために、俺はそう前置きをしてから話し出した。

 大人にとってはなんてことのない距離でも、こどもにとっては過酷すぎる事。そもそもの体力が無いから、ただの移動でも体調を崩す可能性がある事。そんな不安定な状態に加えて魔物にも警戒が必要になる事。

 さらりと説明した俺の言葉に、アキトはありがとうと言いたげに目だけで笑いかけてくれた。

「ある日、どうしても両親が一緒に行く必要がある仕事が舞い込んだんですよ」

 置いていくしかないけれど、まだ幼いこどもを一人で家に置いていくのも怖すぎる。そう悩んだご両親が頼ったのが、当時はまだトリィさんに出会う前だったマティウスさんだったそうだ。近所に住んでいたから、頼りやすかったんだと思うとクリスは続けた。

「それでぼっちゃん呼びに繋がるのか?」

 不思議そうに首を傾げたカーディさんの言葉に、クリスはうーと小さく呻いた。

「言いたくないんですけど…」
「俺は聞きたいな?」
「う、カーディが上目遣いでおねだりするなら叶えるに決まってるでしょう」

 言い淀んでいたクリスは、あっさりとカーディさんに懐柔された。

「大人になってから考えたら、ただの友人のこどもを預かる事がどれだけ大変か分かったんですが…当時まだこどもだった私にはかけらも理解できなかったんですよ」
「それは仕方ないだろう」
「ありがとう、カーディ。むしろ両親から引き離した悪人ぐらいの気持ちでいたんですよね」
「それでどうしたんだ?」
「ううー…当時の私は我儘を言いまくったんですよ」
「我儘?」
「ええ、朝はウカの乳を温めたものが無いと嫌だーとか、夕食にはスープが無いと嫌だーとかですね」

 クリスは本当に恥ずかしそうに、うつむいたままそう続けた。

 当時のクリスが何歳だったのか、どんな言い方だったのかまでは分からないけれど、それは我儘と言うほどひどいものには思えなかった。

「それで、マティウスさんの反応は?」
「それが…完璧に私の我儘をこなした上で、我儘ぼっちゃんって呼び出したんですよ」
「「「我儘ぼっちゃん」」」

 思わず言葉にして繰り返したのは、俺だけでは無かった。

「三人で口を揃えてそう呼ぶのはやめてください!我儘を言わなくなったらぼっちゃんだけが残ってしまったんですよ!」
「おや、自分で話してしまったんですか?」

 嘆くクリスの後ろからひょこっと顔を出したマティウスさんの表情は、どことなく残念そうだ。

「ええ、私が自分で話しておかないと!どうせ私の目の前であの頃の話をするつもりだったんでしょう?」
「ああ、バレてましたか」

 楽し気に笑ったマティウスさんは、両手に持っていた料理をずらりとテーブルの上に並べ始めた。その後ろではトリィさんも料理を持って待機中だ。

「おまかせと言われましたので、まずは日替わりのウカの乳を使用した冷製スープと葉物野菜と豆のサラダです」
「メインはもう少しおまちくださいね」
「トリィさん、おかわりお願いしまーす!」
「はーい!」

 トリィさんはすぐに注文を受けて去ってしまったけれど、マティウスさんはその場に残ってまっすぐにカーディさんを見つめた。

「カーディさん。当時のクリスぼっちゃんの話、聞きたいですか?」
「聞きたいです!」
「ちょっ…」
「あの頃のクリスぼっちゃんは、見た目も中身もとっても可愛かったんですよ」
「は?か、可愛い!?あんなにいっぱい我儘ばかり言ってたのに?」

 動揺してか珍しく敬語を忘れたクリスに、マティウスさんは柔らかい笑みを返した。

「でも、ぼっちゃんは絶対に叶えられないような我儘は一つも言わなかったですよね。しかも我儘を口にする度に、それはもう申し訳なさそうな顔をしていたんですよ」
「あー想像はつきますね」
「カーディ!」
「何より私の出した料理をあんなに美味しそうに食べられたら…あれで料理人になろうって決めたようなものですから」

 ふふと笑ったマティウスさんを、クリスは呆然と見つめていた。あまりに予想外の言葉過ぎて理解できないと言いたげな表情だった。

「…そんなの初めて聞きました」
「初めて言いましたからね、でも本当の話ですよ。ではごゆっくりどうぞ」

 マティウスさんは言いたい事だけを一方的に言うと、すぐに厨房の方へと戻っていってしまった。

「可愛い…?」

 首を傾げてそう呟いたクリスにとっては、その頃の自分は我儘ばかり言っていた面倒なこどもという認識だったんだろうな。マティウスさんにとってはただの可愛い子どもだったみたいだけど。

「クリス、良かったな。我儘言ったの実は気にしてたんだろ?」

 穏やかなカーディさんの言葉に、クリスはまるで子どものようにこくりと小さく頷いた。
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