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997.注文は難しい
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「説明はこんなもんかな」
屋台の店員のおじさんはそう言うと、にっこりと笑ってそれじゃあ改めて、ご注文は?と尋ねてくれた。
キースくんが先に言ってと手で譲ってくれたのに、ありがとうと答えてから俺は口を開いた。
「しょっぱい方の具材のお肉にはマルックスを使って欲しいです」
「はいよ、マルックスね。野菜はどうする?」
「えっと…」
俺は慌ててうろうろと野菜の上に視線を彷徨わせた。だってさ、説明してもらってる間に、俺達の後ろにも既に数人のお客さんが並んでるんだよ。これ以上のんびり選んでるわけには行かないだろう。
「ああ、兄さん、慌てなくてもうちはいつも時間がかかるって、お客さんはみんな分かってるから大丈夫だぞ?」
「え…」
「特に今並んでる人たちは常連の人ばっかりだし、ゆっくり選んでも問題ないさ」
さらりとそう言いきったおじさんは、屋台から身を乗り出すようにして俺達の後ろに並んでいる人たちに声をかけた。
「なあ、列に並んでるみんな、選んでる間の待ち時間気にするか?」
「いやいや、しないよ」
「俺も気にしないなーそもそも、ここは時間がある日しかこねぇし」
「そうそう、俺なんてここから既に野菜を選んでるからさー、むしろもうちょっと時間欲しいぐらいだって」
「でも気持ちは分かるわー、私もいざそこに立つと何にするかすっごく悩むのよ」
常連だと言うお客さんたちは、口々にそんな事を言ってくれた。だからってのんびりして良いってわけじゃないけど、ちょっとだけ肩の荷が下りた気がする。
「ありがとうございます」
「「「「どういたしまして」」」」
綺麗に重なった常連さん達の答えに、おじさんは満足そうに笑っている。
すこし落ち着いた気分になれた俺は、順番に野菜を見ていった。
「あ、ハーレがある」
ハーレは真っ黒で見た目も地味なんだけど、味は俺の好きな茄子みたいな野菜なんだよね。焼くと中がトロッとするんだけど、それがまた美味しいんだよね。
「お、兄さんはハーレが好きなのかい?」
「はい、焼くとトロッとして、美味しいですよね」
「ああ、ハーレは生では食えないから、絶対に火は通さないと駄目なんだが…色んな調理方法の中でも焼いたのが一番うまいな」
へぇ、今まで一度も生で食べた事はなかったけど、ハーレって生食できないのか。知らなかったから、うっかり生で使わないようにちゃんと覚えておかないと。
うーん、とりあえず最初に頼んだマルックスに、茄子みたいなハーレを入れてもらうのは決定だな。
折角だしもう少しぐらい野菜を足したいんだけど、見た事もない野菜が多い中で一体どれが良いのかが分からない。
「えっと…店員さんにハーレとマルックスと相性の良い野菜、選んでもらっても良いですか?」
「お、俺にまかせてくれんのかい?それならまずはこのリクイマだな」
ビタミンカラーの目にも鮮やかなオレンジ色をしたその野菜は、まるでウニのようなツンツンした皮に囲まれている。
うん、なかなかすごい野菜が来たな。これはこの皮まで食べるんだろうかとまじまじと見つめていると、おじさんからさすがにこの皮は食えないぞ?と声をかけられてしまった。
へぇ、このウニみたいな皮はさすがに食べられないのか。
「こいつはな、この硬い皮を剥けば柔らかい実が出てくるんだよ。ハーレとはかなり相性が良いと思うぞ」
俺の知ってる中じゃあ一番だと断言されれば、それはもう使ってもらうしかないよね。
「じゃあそれでお願いします」
「おお、兄さん即決だねぇ」
「はい、キースくんのお勧めですからね」
そう言ってちらりとキースくんに視線を向ければ、キースくんは誇らしそうに胸を張っていた。
うん、可愛い。後ろに並んでいる人達からも可愛いとコソコソと言っているのが聞こえてきたけど、キースくんは可愛いから仕方ない。
「それじゃあマルックスとハーレに、リクイマ、後はそうだな…野菜を足すよりも香草をいくつか足しても良いか?」
「はい!」
「苦手な香草はあるかい?」
「いえ、何も無いです」
「じゃあこれで作るな」
うんうんと満足そうに頷いてくれたおじさんは、すかさずそれじゃあ今度は甘いやつの具材を決めてくれるかと聞いてきた。
果物の方は特にこだわりも無いし、ここから選ぶの大変そうだな。俺はうんと一つ頷いてから、おじさんに視線を向けた。
「甘いやつの方は、具材から全部お任せにするとかは…できますか?」
「おう、もちろん大丈夫だぞ。嫌いな果物はあるか?」
「いえ、今の所は無いです」
「分かった。それじゃあ今度はそっちの少年だな。待たせたな」
「ううん。僕はねー」
キースくんはさすが常連というべきか、俺よりもよほどスマートに注文を済ませていた。
屋台の店員のおじさんはそう言うと、にっこりと笑ってそれじゃあ改めて、ご注文は?と尋ねてくれた。
キースくんが先に言ってと手で譲ってくれたのに、ありがとうと答えてから俺は口を開いた。
「しょっぱい方の具材のお肉にはマルックスを使って欲しいです」
「はいよ、マルックスね。野菜はどうする?」
「えっと…」
俺は慌ててうろうろと野菜の上に視線を彷徨わせた。だってさ、説明してもらってる間に、俺達の後ろにも既に数人のお客さんが並んでるんだよ。これ以上のんびり選んでるわけには行かないだろう。
「ああ、兄さん、慌てなくてもうちはいつも時間がかかるって、お客さんはみんな分かってるから大丈夫だぞ?」
「え…」
「特に今並んでる人たちは常連の人ばっかりだし、ゆっくり選んでも問題ないさ」
さらりとそう言いきったおじさんは、屋台から身を乗り出すようにして俺達の後ろに並んでいる人たちに声をかけた。
「なあ、列に並んでるみんな、選んでる間の待ち時間気にするか?」
「いやいや、しないよ」
「俺も気にしないなーそもそも、ここは時間がある日しかこねぇし」
「そうそう、俺なんてここから既に野菜を選んでるからさー、むしろもうちょっと時間欲しいぐらいだって」
「でも気持ちは分かるわー、私もいざそこに立つと何にするかすっごく悩むのよ」
常連だと言うお客さんたちは、口々にそんな事を言ってくれた。だからってのんびりして良いってわけじゃないけど、ちょっとだけ肩の荷が下りた気がする。
「ありがとうございます」
「「「「どういたしまして」」」」
綺麗に重なった常連さん達の答えに、おじさんは満足そうに笑っている。
すこし落ち着いた気分になれた俺は、順番に野菜を見ていった。
「あ、ハーレがある」
ハーレは真っ黒で見た目も地味なんだけど、味は俺の好きな茄子みたいな野菜なんだよね。焼くと中がトロッとするんだけど、それがまた美味しいんだよね。
「お、兄さんはハーレが好きなのかい?」
「はい、焼くとトロッとして、美味しいですよね」
「ああ、ハーレは生では食えないから、絶対に火は通さないと駄目なんだが…色んな調理方法の中でも焼いたのが一番うまいな」
へぇ、今まで一度も生で食べた事はなかったけど、ハーレって生食できないのか。知らなかったから、うっかり生で使わないようにちゃんと覚えておかないと。
うーん、とりあえず最初に頼んだマルックスに、茄子みたいなハーレを入れてもらうのは決定だな。
折角だしもう少しぐらい野菜を足したいんだけど、見た事もない野菜が多い中で一体どれが良いのかが分からない。
「えっと…店員さんにハーレとマルックスと相性の良い野菜、選んでもらっても良いですか?」
「お、俺にまかせてくれんのかい?それならまずはこのリクイマだな」
ビタミンカラーの目にも鮮やかなオレンジ色をしたその野菜は、まるでウニのようなツンツンした皮に囲まれている。
うん、なかなかすごい野菜が来たな。これはこの皮まで食べるんだろうかとまじまじと見つめていると、おじさんからさすがにこの皮は食えないぞ?と声をかけられてしまった。
へぇ、このウニみたいな皮はさすがに食べられないのか。
「こいつはな、この硬い皮を剥けば柔らかい実が出てくるんだよ。ハーレとはかなり相性が良いと思うぞ」
俺の知ってる中じゃあ一番だと断言されれば、それはもう使ってもらうしかないよね。
「じゃあそれでお願いします」
「おお、兄さん即決だねぇ」
「はい、キースくんのお勧めですからね」
そう言ってちらりとキースくんに視線を向ければ、キースくんは誇らしそうに胸を張っていた。
うん、可愛い。後ろに並んでいる人達からも可愛いとコソコソと言っているのが聞こえてきたけど、キースくんは可愛いから仕方ない。
「それじゃあマルックスとハーレに、リクイマ、後はそうだな…野菜を足すよりも香草をいくつか足しても良いか?」
「はい!」
「苦手な香草はあるかい?」
「いえ、何も無いです」
「じゃあこれで作るな」
うんうんと満足そうに頷いてくれたおじさんは、すかさずそれじゃあ今度は甘いやつの具材を決めてくれるかと聞いてきた。
果物の方は特にこだわりも無いし、ここから選ぶの大変そうだな。俺はうんと一つ頷いてから、おじさんに視線を向けた。
「甘いやつの方は、具材から全部お任せにするとかは…できますか?」
「おう、もちろん大丈夫だぞ。嫌いな果物はあるか?」
「いえ、今の所は無いです」
「分かった。それじゃあ今度はそっちの少年だな。待たせたな」
「ううん。僕はねー」
キースくんはさすが常連というべきか、俺よりもよほどスマートに注文を済ませていた。
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