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1052.【ハル視点】出発前夜
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うーん、これは早く何か返事をしないと、有無を言わせずに気絶させられて運ばれてしまいそうな雰囲気だな。既に握りこまれていたウィル兄さんの拳を視界の隅に捕らえながら、俺は慌てて口を開いた。
「あー…ウィル兄の気づかいは、すごくありがたいんだが…気絶は必要ないよ。無理やりにでも眠ってみせるから。大丈夫だよ」
「…えーそう?本当に眠れる?」
拳を持ち上げながらそう聞かないでくれ。
もちろんぐっすり眠るとはいかないだろうが、そもそも眠らないという選択肢は無い。
もし睡眠不足で挑んだ結果、明日の動きに支障が出るのは絶対に許せないからな。
大事なアキトとキースを助けに行くんだから、しっかりと眠って体調を整えておくのも準備のうちだろう。
そう考えているからとまっすぐ目を合わせて伝えれば、ウィル兄はようやく納得した様子で分かったと頷いてくれた。よし、拳からも力が抜けたな。これで強制的に気絶は免れそうだ。
「それじゃあ、おやすみーハル」
「ああ、おやすみ、ウィル兄」
去っていく背中を見送った俺はふうと一つ深々と息を吐いてから、すぐに鍵を開けて部屋の中へと足を踏み入れた。
いつもならようやく帰ってこれたと思える居心地の良い部屋なのに、今日はやけに寒々しく冷たい部屋のように感じてしまう。
そうか。アキトがいないだけで、こんなにも感じ方が違うんだな。
そんな事をぼんやりと考えながら、俺はバサバサと着ていた服を脱ぎ捨てていった。
口の中で呪文を唱えて、きちんと全身に浄化魔法もかけた。以前ならここまで小まめにかけてはいなかったんだがな。アキトが事あることにかけるから、すっかり習慣になってしまった。
大事にしまってあったアキトが贈ってくれたパジャマに着替えて、ごろりとベッドへと寝転がる。
ああ、このベッドも、今日は広すぎて落ち着かないような気持ちになるな。
見慣れた天井をぼんやりと眺めながら、攫われてしまったアキトとキースの事を考える。
数ある盗賊団の中でも、牙蛇盗賊団は手に入れた商品を大切にする珍しい団だと聞いた。
捕らえた人や動物が怪我を負っているならポーションで回復もするし、壊れている魔道具や武器防具などは修理してから販売するそうだ。
また高値で売るために相場を調べたり顧客の希望を募ったりもするらしく、手に入れたものを売りさばくまでにはだいたい十日ほどの時間が掛かるらしい。
他の盗賊団に攫われるよりはまだ良かったのかもしれないなと、絶対にそうは思っていない怒りの表情の父さんが言っていた。
その隣にいたファーガス兄さんは、大事な弟たちを勝手に商品にするなと低い声で呟いていたし、ウィル兄さんはそれだけ頭が回るなら盗賊じゃなくて商人でもやれよと珍しく毒づいていたな。
まあ攫われるなり身の危険や命の危険があるような盗賊団よりは良いのかもしれないが…だからと言って、心配せずにいられるわけじゃない。
二人ともどこも怪我はしていないだろうか。強制的に転移させられたが体調を崩してはいないだろうか。今も空腹でつらい思いをしていないだろうか。
そんな事ばかりが浮かんでは消えていく。
いや、もし空腹だとしたらキースが何かを出しているか。アキトはあの場所に魔導収納鞄を残していったが、キースはいくつかの服のポケットに魔導収納を付与して貰っていた筈だ。
たしか今日着ていた服も、街に遊びに行く時のためにとかなり前から用意されていたものだと、メイド長が言っていたよな。それならきっとあの服にも、魔導収納は付与されているだろう。
しかもその中にしまわれているのは、キースが選んだものにくわえて、過保護な家族が選んだもの、そして使用人たちが厳選したいざという時に役に立つ物だ。
食べ物はもちろん、ポーションや魔道具なども、きっと入っているだろう。ポケットに魔導収納を仕込むのは一般的ではないから、よほどの事がなければ気づかれないだろうしな。
そう考えれば、ほんの少しだけ肩の力が抜けた。
アキトもキースも頭の回転が早いし、二人で協力すればどんな状況であったとしてもきっとなんとか切り抜けてくれる。
そう信じるしかない。大丈夫。明日は二人を助け出せる。
なかば自分に言い聞かせるように何度もそう頭の中で繰り返しながら、俺はそっと目をつむった。まだまだ眠気がやって来る気配は無いが、せめて目をつむって体を休めよう。
今夜はとにかく長い夜になりそうだ。
「あー…ウィル兄の気づかいは、すごくありがたいんだが…気絶は必要ないよ。無理やりにでも眠ってみせるから。大丈夫だよ」
「…えーそう?本当に眠れる?」
拳を持ち上げながらそう聞かないでくれ。
もちろんぐっすり眠るとはいかないだろうが、そもそも眠らないという選択肢は無い。
もし睡眠不足で挑んだ結果、明日の動きに支障が出るのは絶対に許せないからな。
大事なアキトとキースを助けに行くんだから、しっかりと眠って体調を整えておくのも準備のうちだろう。
そう考えているからとまっすぐ目を合わせて伝えれば、ウィル兄はようやく納得した様子で分かったと頷いてくれた。よし、拳からも力が抜けたな。これで強制的に気絶は免れそうだ。
「それじゃあ、おやすみーハル」
「ああ、おやすみ、ウィル兄」
去っていく背中を見送った俺はふうと一つ深々と息を吐いてから、すぐに鍵を開けて部屋の中へと足を踏み入れた。
いつもならようやく帰ってこれたと思える居心地の良い部屋なのに、今日はやけに寒々しく冷たい部屋のように感じてしまう。
そうか。アキトがいないだけで、こんなにも感じ方が違うんだな。
そんな事をぼんやりと考えながら、俺はバサバサと着ていた服を脱ぎ捨てていった。
口の中で呪文を唱えて、きちんと全身に浄化魔法もかけた。以前ならここまで小まめにかけてはいなかったんだがな。アキトが事あることにかけるから、すっかり習慣になってしまった。
大事にしまってあったアキトが贈ってくれたパジャマに着替えて、ごろりとベッドへと寝転がる。
ああ、このベッドも、今日は広すぎて落ち着かないような気持ちになるな。
見慣れた天井をぼんやりと眺めながら、攫われてしまったアキトとキースの事を考える。
数ある盗賊団の中でも、牙蛇盗賊団は手に入れた商品を大切にする珍しい団だと聞いた。
捕らえた人や動物が怪我を負っているならポーションで回復もするし、壊れている魔道具や武器防具などは修理してから販売するそうだ。
また高値で売るために相場を調べたり顧客の希望を募ったりもするらしく、手に入れたものを売りさばくまでにはだいたい十日ほどの時間が掛かるらしい。
他の盗賊団に攫われるよりはまだ良かったのかもしれないなと、絶対にそうは思っていない怒りの表情の父さんが言っていた。
その隣にいたファーガス兄さんは、大事な弟たちを勝手に商品にするなと低い声で呟いていたし、ウィル兄さんはそれだけ頭が回るなら盗賊じゃなくて商人でもやれよと珍しく毒づいていたな。
まあ攫われるなり身の危険や命の危険があるような盗賊団よりは良いのかもしれないが…だからと言って、心配せずにいられるわけじゃない。
二人ともどこも怪我はしていないだろうか。強制的に転移させられたが体調を崩してはいないだろうか。今も空腹でつらい思いをしていないだろうか。
そんな事ばかりが浮かんでは消えていく。
いや、もし空腹だとしたらキースが何かを出しているか。アキトはあの場所に魔導収納鞄を残していったが、キースはいくつかの服のポケットに魔導収納を付与して貰っていた筈だ。
たしか今日着ていた服も、街に遊びに行く時のためにとかなり前から用意されていたものだと、メイド長が言っていたよな。それならきっとあの服にも、魔導収納は付与されているだろう。
しかもその中にしまわれているのは、キースが選んだものにくわえて、過保護な家族が選んだもの、そして使用人たちが厳選したいざという時に役に立つ物だ。
食べ物はもちろん、ポーションや魔道具なども、きっと入っているだろう。ポケットに魔導収納を仕込むのは一般的ではないから、よほどの事がなければ気づかれないだろうしな。
そう考えれば、ほんの少しだけ肩の力が抜けた。
アキトもキースも頭の回転が早いし、二人で協力すればどんな状況であったとしてもきっとなんとか切り抜けてくれる。
そう信じるしかない。大丈夫。明日は二人を助け出せる。
なかば自分に言い聞かせるように何度もそう頭の中で繰り返しながら、俺はそっと目をつむった。まだまだ眠気がやって来る気配は無いが、せめて目をつむって体を休めよう。
今夜はとにかく長い夜になりそうだ。
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