生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1284.【ハル視点】身支度を

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 食事の後片づけを終えた後は、俺たちは自然と最近お気に入りのソファへと移動した。

 部屋でのんびりする時は、このソファに寄り添って座るのが一番心地良いんだよな。ウィル兄にもらったこのソファは、トライプールにも持って帰るつもりでいる。

 アキトと二人で色々な事を話しながらくつろいでいると、あっという間に時間は過ぎ去ってしまう。

 まだまだのんびりしていたい気分なんだが、どうやらそうもいかないようだ。

 目の前のテーブルに出しておいた時間の分かる魔道具をちらりと見た俺は、思わずあっと声をあげてしまった。予想以上に時間が過ぎている。

「もう、こんな時間なのか!」

 そう言いながら、俺はテーブルの上の魔道具をパッと手に取った。

「え、こんな時間って?」

 ぽつりとそう呟いたアキトは、興味深そうにそっと俺の手の中の魔道具を覗き込んだ。

「え…これは…確かにもうこんな時間って言っちゃう時間だね!」

 慌てつつも同意の言葉を口にするアキトに頷きつつ、俺は頭の中でこれからの予定を考える。

 今回の報告会に参加するための服装に、これといった指定は無い。他のメンバーはおそらく騎士団の制服で参加するはずだ。だがウィル兄は、今回は冒険者ギルドの関係者や冒険者も参加すると言っていた。

 わざわざそれを事前に伝えたという事は、領主一家の中にも冒険者として活動しているものがいると、あちらに感じさせたいという意味だ。

 だから服は、今着ている冒険者の衣服のままで何の問題も無い。

 うん。ソファに移動する前に、服だけはしっかり着替えておいて良かったな。素早く着替えるのには慣れてはいるが、これだけ時間が無いと確実に焦るからな。

 慌てつつもパッとソファから立ち上がれば、アキトもさっと立ち上がった。アキトはそのまますぐに魔力を練り出した。

 俺の浄化魔法には汗や見た目を綺麗にする程度の効果しか無いんだが、アキトの浄化魔法は全身が清められるのがよく分かる。アキトの魔法だと食事の残り香も無くなるし、口内の歯やつま先までさっぱりと綺麗になる。

 そんな規格外の浄化魔法を、アキトは普段から身支度に惜しみなく使ってくれている。

 アキトはいつも身だしなみがどうだとか歯磨きや洗顔代わりがどうだとか、色々な事を教えてくれた。だがそのあまりの威力に驚いている間に、毎回よく理解していない間に終わってしまうんだよな。

 いつか魔法をかけながらでは無く、口頭だけでアキトの考え方を教えてもらうべきなのかもしれない。そうしたら俺もこんな精度の浄化魔法を使えるようになるんだろうか。

 俺がそんな事を考えている間に、今日もアキトは慣れた様子で俺に浄化魔法をかけてくれた。

「ありがとう、アキト。助かるよ」
「どういたしまして」

 すごい事をしたのに自慢げにするでもなく、アキトはニコニコと笑いながらそう答えてくれた。

 役に立てて嬉しいと言いたげなこの表情に、弱いんだよな。まあもし浄化魔法をかけてくれなくても、ただアキトが側にいてくれるだけで俺のやる気が変わるんだが。

 そんな事をぼんやりと考えている間に、アキトの視線が俺の全身を下から上へと順番に辿っていく。どうやら身だしなみの確認をしてくれているらしい。

 一番上まで見終わったアキトは、そっと俺の頭に手を伸ばしてきた。何だろうと思いつつも手が届きやすいように少しだけ体を屈めれば、アキトの手が俺の髪を優しく撫でつけていく。

 なるほど、髪の毛が乱れていたのか。ソファで二人くっついていたからその時に乱れたんだろう。

 もう一度今度は上から下へと視線を動かしたアキトは、満足そうにコクリと一つ頷いてくれた。

「これで身だしなみは大丈夫かな?」

 悪戯っぽくそう尋ねれば、アキトは笑顔と共に口を開いた。

「うん、今日も格好良いよ」

 まさかそう返されるとは思ってもみなかった。すこし予想外の返事ではあるが、俺からすれば嬉しい一言だ。

 これで部屋を出る準備は、完全に整った。

 今の時間はと確認してみれば、これは表の廊下を使っての移動では既に間に合わないかもしれない時間だな。

 だがここからなら、一階下の彫像のある部屋から裏の廊下へ入れば、まだ間に合う。

 俺は頭の中で道順を考えて組み立てつつ、アキトに笑顔で声をかける。

「じゃあ、報告会にいってくるね」
「うん、いってらっしゃい」
「終わったらアキトを探しに行くから、好きな場所にいてね」

 領主城と騎士団本部ならどこでも良いからねと声をかければ、アキトはうんとすぐに頷いてくれた。

 ひらひらと手を振って見送ってくれるアキトに手を振り返してから、俺は部屋を後にした。
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